
このブログでは脳神経外科専門医であるアラフィフおじさんの視点から、主に一般の方に向けて脳の病気や治療について解説していきたいと思っています。
基本的な知識については、ネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉を用いてわかりやすく解説していきいます。
今回の『脳の病気』は「子供が頭をぶつけた時どうする?」と題して解説しますのでよろしくお願いします。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 子供の頭部打撲にどう対処したらよいかがわかります。
ページ内目次
子供が頭をぶつけることはよくあること
小児頭部打撲の実際
脳神経外科の外来でもっとも多い疾患は皆さんなんだと思いますか?
脳腫瘍、あるいは脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などの脳卒中…などなど、色々脳神経外科に関わる病気はありますが、

すべての病院で決して同じではないと思いますが、たいていの街中の病院、クリニックでは脳神経外科の外来に頭部打撲で来院される患者さんがとても多いです。
時間外(夜間・早朝の病院が閉まっている時間帯)の救急外来、救命救急センターを歩いて受診、あるいは救急車で搬送される患者さんでもよく見られます。
その中でも子供の頭部打撲は大人と比較してとても多く、ほぼ毎日歩いて受診あるいは救急搬送されてきます。

大人の頭部打撲も決して少なくはありませんが、数としては圧倒的に子供が多いです。
日中に頭部を打撲してすぐに受診されるケースもありますが、自宅に帰宅してから夕方や夜になって心配になり病院を受診するケースも見受けられます。



大人よりも体のバランスがとりづらい子供にとって大人のようにうまく頭部打撲を回避することは難しく、転倒や転落、子供同士のけんかなどで受傷する機会がとても多いのです。
もう1つは頭部打撲をした場合、子供の方が病院を受診する機会が多いことが要因と考えられます。

大人は頭部打撲による症状(頭痛、吐き気、場合によっては意識障害など)が出現してから、あるいは頭部打撲による創部の処置が必要とされる場合(縫う必要がある傷がある場合など)に受診するケースが多く、軽症の場合は病院を受診せずとりあえず自己判断で経過をみることが多いのではないでしょうか。
ココがポイント
子供の頭部打撲の場合は、子供は症状の訴えがあいまいであまりはっきりせず、自分の意志で受診するよりも親をはじめとする周囲の大人が、本人の症状や傷の具合に関係なく、心配で念のために受診するケースが多い傾向にあります。
そのため子供の受診が圧倒的に多い結果となっていると想像されます。
また頭部打撲から時間が経過していても様子を見るのは心配だからと時間外に来院されることが多いのです。
子供は正直よく転びますし、ソファーや椅子からの転落、遊んでいて頭をおもちゃで殴られたとかぶつけたなどの大人にはない状況で頭部を打撲することがとても多いのです。

子供は頭をぶつけるものであり仕方ありません。
問題はその後どう対処するかですね。
ココがポイント
頭をぶつけた子供を責めるのではなく、その後周囲の大人の適格な対応が求められていることを理解してください。

何歳までが子供?
先に進む前にこんな質問を考えてみましょう。

難しい問題ですね。明確な基準はありませんが、
もっと詳しく
医学的には子供=小児とは15歳未満とされていることが多いです。
新生児:生後4 週未満、乳児:1歳未満、幼児:6歳未満、小児:15歳未満と考えるのが一般的です。
15歳以上は子供ではないかというと必ずしもそうとは限りませんが、中学生までが医学的には子供と考えられています。
これはあくまでも医学的・生物学的な体の発達の状態からの意見であり、精神的な要素は加味されていませんので、様々な意見があるかと思います。

子供が頭をぶつけた時はどうすればいいの?
子供の頭部打撲は病院を受診した方がいいの?

これは正直とても難しい問題ですね。
でも皆さんが知りたいのはこのポイントですよね!
ココがポイント
子供が頭をぶつけた時の症状としては、激しく頭を痛がる、吐いている、ぐったりしていて元気がない、ぼーっとしていてすぐに目を閉じて眠ってしまう、などなどさまざまありますが、最も大切な兆候は普段と様子が違ってちょっとおかしい場合です。
普段からその子供を見ている、あるいは知っている人、それは親であったり祖父母であったり兄弟姉妹であったり、また先生であったり、近所の方々であったり色々ですが、普段の様子を知っている人の意見がとても重要です。
打撲部位や頭部および顔面から出血している、たんこぶができて皮膚が腫れていて冷やしてもどんどん腫れが大きくなる場合は注意が必要です。
よくこんな質問をされます。


もっと詳しく
たんこぶは皮膚の下に出血を起こして血がたまっている状態なので、冷やすことで破綻した血管が収縮して止血効果が期待されます。
たんこぶを温めると血管が拡張して出血が増えてたんこぶが大きくなってしまうことがあるので要注意です。
そのため以下の点について注意が必要です。
ココがポイント
頭部打撲した日は入浴はお勧めしません。シャワーなどで軽く汗を流す程度にしておいたほうが無難でしょう。
外傷部位からの出血はよく見られる症状ですが、危険な出血は耳や鼻からの出血です。耳や鼻のあなから出血を認める場合は骨折を伴っていることが非常に多いとされています。
以上のような場合は病院の受診をお勧めしますが、実際は微妙なケースも多くあります。
迷った場合は自宅で様子を見るよりも病院を受診することをお勧めします。
病院を受診して問題なければ、その後は安心して過ごせます。
不安の中で、自宅で様子を見ることはあまりお勧めしません。

子供の頭部打撲は検査した方がいいの?
病院に受診した場合は医師の診察を受けて、打撲した部位を縫う、消毒するなどの処置が必要な場合はそれぞれに応じた処置がなされます。
ここでよく問題になるのがレントゲンやCTなどの検査を行う必要があるかの判断です。
ココがポイント
頭部打撲の場合は頭蓋骨および顔面骨の骨折や頭蓋内の出血などの可能性が危惧されます。それを調べるにはCTが最も適しています。
脳の状態を正確に検査するのであればやはりMRIが推奨されます。
しかしMRIはその画像特性から骨の描出は苦手であり、また撮像時間がかなりかかるため、頭部打撲の急性期の初回の検査には決して適しているとは言えません。
CTを行った後にMRIでさらに脳の状態を検査する必要がある場合など例外はいくらでもありますが…。
ココがポイント
CTは撮像時間が短く(頭部であれば30秒くらい)、また骨の描出に適しており、脳内の出血などの判断にも適しています。
レントゲンは撮像時間が短く(一瞬です)、極めて簡便に検査できますが、基本的に骨しか描出されず、脳内の出血の有無の判定はできません。
また微細な頭蓋骨の骨折や顔面の骨(目、鼻、口、頬など)の骨折の判定にはむいていません。
こう聞くと、

とお思いでしょうが、実際はそうはうまくはいきません。

子供は検査の時にじっとしていられるの?
1つ目は、子供特有の問題なのですが、

という問題です。
CTはレントゲンの連続撮影です。そのため撮影中に少しでも動くと画像がぶれてしまい正確な画像評価は不可能となってしまい、何度も撮り直しという事態が発生します。
大人の場合はCTを撮影することはそう難しい問題ではありません。1分程度じっと寝ていればいいだけなのですから。
しかし子供、特に自分の経験では、
ココがポイント
5歳未満の子供は検査台の上で動かずにじっと寝た状態でいることは難しいです!
特に頭部打撲後で痛みと不安で泣いていたり、機嫌が悪かったりなどの場合がほとんどです。
お母さんやお父さんなど自分の気の許した大人に抱かれている時は落ち着いていても、いったん抱かれている手から離れて検査台の上に寝かせようとすると、たいていは泣いて暴れて大変な事態になってしまいます。

そのためどうしても画像検査を行うのであれば、とりあえずレントゲン検査を行い明らかな骨折がないかだけを確認します。
レントゲン検査で骨折が認められ脳内に出血などの異常をきたしている可能性があり、どうしてもCTを行う必要がある場合は、子供がたとえ暴れていても医療者が抑え込んでCT撮影を行う場合も少なからずあります。
しかし泣き叫んで暴れるくらい元気な場合はたいてい脳内に出血などの損傷は見られないことが多いです。
ココがポイント
脳内に出血などの損傷が見受けられる場合のほとんどは泣き叫ぶ元気もなくぐったりして意識障害がみられる場合が多いです。
検査をすると放射線に被ばくするけど大丈夫なの?
2つ目は、放射線被ばくの問題です。
これは気にされる方がとても多い問題です。
それだけ放射線に関心を持っていらっしゃる方が多いという証拠にもなります。

レントゲンもCTも撮影すると放射線に被ばくします。
これは大人でも当てはまる問題ですが、子供の場合は特に以下のような特徴があるとされています。
もっと詳しく
子供は放射線に対する感受性が成人の数倍高い。
子供は体格が小さいため、成人と同様の撮影条件では臓器あたりの被ばく量は2倍から5倍になる。
そのためCT検査を行う場合においては、その適応を厳密に検討し、その必要性を子供本人(たいていの場合これは無理ですね…)、あるいは家族に充分に説明しご理解いただく必要があります。
CT撮影は、医師が臨床上必要と判断した場合においては特に撮影上の制限はありません。
CTは詳細な画像情報を提供してくれるものの、通常の単純X線撮影の数十倍の放射線量を必要とします。
人体の受ける被ばくの影響を評価するためにはSv(シーベルト)という単位を使います。
この単位を使ってX線検査による被ばくの影響を比較すると、放射線量が少ない胸部レントゲン撮影の0.06〜0.15mSvに比べると、CT検査の方が被ばく量は多くなります。
CT検査の被ばく線量は、撮影部位(頭部・胸部・腹部・全身など)や撮影方法により異なりますが、1回あたり5-30mSv程度とされています。
からだへの影響はレントゲン写真を100枚以上取ってもCT1回分以下です。
また宇宙や地面、空気からも放射線が出ているので、

さらに航空機では、宇宙からの放射線のために被ばくが増えます。例えば東京とニューヨークを往復するだけで0.2mSv程度、つまりほぼ胸部レントゲン写真1枚分の被ばくを受けることになります。

放射線被ばくに関する詳しい情報は、放射線医学総合研究所をご参照ください。
放射線に被ばくすると心配なのは、

という問題です。
計算上は、1万人中数人ががんで死亡するとされています。
しかし検査を受けなくても日本人の3人に1人はがんで亡くなっています。
がん発生にはさまざまな要因が関わっています。
たばこ、食事、ウィルス、環境汚染物質など一般の生活環境における要因が原因でがんになるケースが多いと考えられています。
ココがポイント
CT検査の放射線被ばくによってがんのリスクが増加すると仮定するとしても、その増加分は他の原因によるがんの発生リスクと比べて非常に小さいと考えられます。
また子供の場合は1度ならず何度も頭をぶつけて病院を受診することが多いです。
病院に受診するたびにCT検査を何度も受けると発がんのリスクは理屈としては高くなっている可能性があります。しかし、
ココがポイント
たとえ計算上がんのリスクが高くなるとしても、検査を受け、頭部打撲による脳内の損傷を早期発見することの方が患者さんにとってメリットあると判断するのであれば、CT検査は行われるべきとの考えが一般的には主流です。
小児の頭部外傷時にCTを撮った方が良いとかどうかという判断に関しては、国際的にガイドラインが提示されています。
アメリカのPECARN、カナダのCATCH、イギリスのCHALICE(NICE2014)が有名なガイドラインです。
この中でCHALICE(NICE2014)では以下の項目を提唱し、1つでも当てはまるものがある場合にはCTによる確認が必要とされています。
もっと詳しく
5分以上の意識消失がある
5分間の記憶がない
傾眠傾向(うとうと眠りがち)
連続しない3回以上の嘔吐
虐待の疑い
頭部打撲後のけいれん
意識状態の評価点数が悪い
骨が折れていて脳が腫れている状態
頭蓋骨の底の部分が折れている兆候:鼻からの出血などの液体の流出、目の下や周りに皮下出血がみられるなど
神経学的所見あり(手足の麻痺、しびれなどの症状があるなど)
1歳以下で頭部に5cm以上の打撲のあと、はれ、皮膚の損傷がある
危険な受傷機転:3m以上の転落など激しく頭部をぶつけた場合(高いところから落ちた、勢いよくぶつけた)

小児をよく診察している総合病院やクリニックでは、このようなガイドラインが外来に提示されていて、このガイドラインに沿って検査が行われる場合も数多く見受けられます。
色々な項目がありますが、一番大事なことはやはり、普段と様子が違うこと、いつもと違って元気がない、活気がないことです。
つまり身近な大人の印象がとても大切なのです。

その判断は子供のそばにいる皆さんの判断にゆだねられています。
子供が頭部を打撲した時には子供だけでなく親や祖父母や兄弟姉妹などの家族や周囲の大人たちもとても不安になることと思います。

まとめ
今回は脳神経外科の外来で非常に多い子供の頭部打撲について解説してみました。


ここで今回の内容をまとめてみました。
今回のまとめ
- 子供は頭をぶるけることが多いですが、しかったり責めたりするのではなく注意深く様子を観察してあげましょう。
- 頭痛、吐き気などの症状や出血を認める場合には早めに病院に受診しましょう。
- 病院を受診するか迷った時は様子を見ずに必ず病院を受診しましょう。
- 画像検査は医師の判断に任せましょう。
- 5歳以上の子供の頭部打撲ではCT検査をお勧めします。
家族や近くについている大人たちに難しい判断が求めらることも多いと思いますが、迷ったら病院受診することが一番です。

最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も『脳の病気』、『脳の治療』について現場に長年勤めた脳神経外科医の視点で皆さんに情報を提供していきたいと思っています。
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