
このブログでは脳神経外科専門医であるアラフィフおじさんの視点から、主に一般の方に向けて脳の病気や治療について解説していきたいと思っています。
基本的な知識については、ネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉を用いてわかりやすく解説していきいます。
今回の『脳の病気』は「スポーツ中に頭をけがした時はどうするの?」と題して解説しますのでよろしくお願いします。
この記事を読んでわかることはコレ!
- スポーツ中に頭をけがした時どう対処したらよいかがわかります。
- 脳しんとうがどのようなものなのかがわかります。
ページ内目次
スポーツ中の脳しんとう
様々なスポーツを趣味でしていたり、またセミプロやプロとして本格的に競技に参加していたり、いずれの形でもスポーツに関わっている方はとても多いと思います。

スポーツをしているとついつい夢中になってしまい、思わぬけがをしてしまうことは少なからず経験されることと思います。
スポーツ中のけがで多いのは手や足のけがと思いますが、中には頭をぶつけてしまうこともあります。
ココがポイント
接触プレーが多い競技としては、柔道、ボクシング、空手などの格闘技系競技や、サッカー、ラグビー、アメフト、バスケなどのボールを使用した競技が代表的なものかと思いますが、野球、ゴルフ、テニス、スケート、スキー、スノーボードなどの接触プレーが少ないと考えられる競技でも、転倒したり、ボールが頭にあったたり、他人と接触したりすることで頭をぶつけてしまうことはおこりえます。

脳しんとうという言葉は誰しも一度は耳にしたことがあるかと思います。
ココがポイント
スポーツ中の頭のけがでは脳しんとうがとても重要なキーワードになります。

とお思いの方も多いでしょう。

脳しんとうってなに?
ココがポイント
脳しんとうの正確な定義は「生体に対する外力によって発生する一過性の脳機能障害で、複雑な病態を含む神経症候群(意識障害や健忘の有無は問わない)」とされています。

えええ!?
なに言ってるの???
って感じですよね。
もっと詳しく
頭をぶつけた時にCTやMRI検査をして脳の状態を確認しても特に出血や脳の損傷が見当たらなく脳は正常なのに、頭痛、めまい、吐き気などがあり、意識はあっても普段と違う話し方や行動をとったり、今自分のおかれている状況を理解できなかったり、ぶつけた時の状況を思い出せなかったり、なんとなくぼーっとしてしまうような、いわゆる「霧の中にいる」ような感じが脳しんとうです。
もっと意識が悪くなり話せない、動けない、反応が悪いなどの意識障害を伴うこともあります。
ココがポイント
脳しんとうは数時間でなおる人もいれば数日間続く人もいますが、一般的には約80%程度の人は10 日以内に自然消失するとされています。
しかし残りの20%程度の人は数週間から数か月も持続すると言われています。
ココがポイント
脳しんとうは頭を強くぶつけていなくても、激しく頭を揺すぶられても起こります。
そのため周りの人に気づかれにくいこともあります。
脳しんとうを起こすと何が問題なの?
脳しんとうであれば時間の差はあれ最終的にはもとの状態に戻ります。

通常の生活を送っている中で脳しんとうを起こした場合は比較的大きな問題になることは少ないです。しかし、

スポーツをしている最中に脳しんとうをおこして競技が中断されればよいのですが、競技に集中するあまり本人が脳しんとうを起こしたことに気づいていないこともありますし、周りが気づかなければそのまま競技が続行されることもあります。
たとえ競技が中断されても本人が競技の続行を強く望み、周りの人たちがそれを止めなければ競技が再開されてしまうこともあります。
特に試合を行っている場合は、

試合のためにたくさんの練習を積んできたと思うとなおさらです。
特に個人競技であれば本人が競技をやめてしませばそこで試合終了になって負けになってしまいますから、競技を続けたい気持ちは非常に強いと思います。
しかし、
ココに注意

次にその理由を説明しますね。
セカンドインパクト症候群
セカンドインパクト症候群(致命的脳腫脹)という概念があります。
ココがポイント
頭をぶつけたり強く揺すぶられたりして、その後頭痛、めまい、ぼーっとするなどの脳しんとうと考えられる症状が続いているのに競技を続行した場合、ふたたび頭をぶつけたり強く揺すぶられると、脳が急激にむくんできて壊れてしまうことがあります。これをセカンドインパクト(症候群致命的脳腫脹)と言います。
いくら気を付けてスポーツをしていても頭をぶつけることを完全に避けられるものではありません。
防具をつけて頭を守っていても頭を強く揺すぶられるようなことが起こると脳しんとうを再び起こしてしまいます。
また脳しんとう後は多少なりともぼーっとしていたり動きが鈍っていたりと正常な判断と動きが鈍りがちになります。
そうなると再び脳しんとうをおこす可能性が高くなります。

ですから一度でも脳しんとうをおこした場合は、セカンドインパクトの危険性を考えると競技を再開することはとても危険な行為なのです。
急性硬膜下血腫
脳しんとうは基本的に脳の機能の障害であり、出血などの脳の損傷はありません。
しかしスポーツ中に頭をぶつけたり強く揺すぶられたりして、脳しんとうの症状を起こしているからと言って、

これは脳しんとうだね!
大丈夫、大丈夫!
などと脳しんとうと決めつけてしまってよいのでしょうか。
ココがポイント
脳のCTやMRI検査を行わなければ、脳の中に出血がないかどうかはわかりません。
意識がしっかりしていても脳の中に出血を起こしている場合もあります。
その多くは急性硬膜下血腫(きゅうせいこうまくかけっしゅ)と呼ばれる出血です。
頭をぶつけたり強く揺すぶられることによって、脳の表面の血管が切れて出血を起こしますが、最初は出血の量が少ないので強い症状はでません。
この時期を「意識清明期」と言います。
しかし徐々に出血が増えてきて脳が血のかたまりで押しつぶされるようになると意識がだんだん悪くなり最終的には命にかかわってきます。

手術によって脳の中のたまった血を取り除き、出血している血管をさがし出して血を止める必要があります。
ココがポイント
意識清明期は数分のこともありますし数時間のこともあります。
脳しんとうを起こしているのに競技を続けてしまい、競技の途中で急に意識がなくなって倒れたり、競技が終わった後に急に倒れたりすることもあります。
そのため頭をぶつけたり強く揺すぶられたりして脳しんとうを起こした場合は、

脳の中に出血が認められた場合はただちに入院する必要があります。
出血が認められなかった場合でも時間がたってから出血してそれが徐々に増えてくる場合もあります。ですから、

頭をぶつけた後は必ず誰かがそばについて様子を見てあげましょう!
1人にするのはとても危険です!
急性硬膜下血腫を認めた場合に問題となるのはその後の競技への復帰です。
一度出血をした脳は再度頭をぶつけたり強く揺すぶられたりすると再び出血を起こしやすくなっているという考えのもと、原則として競技復帰は許可すべきではないとの意見が多いです。
しかしこのことに関して明確な指針を示す研究やエビデンスは存在しないので絶対とは言えません。
それぞれの競技のガイドラインにそって対応する必要があります。
しかしすべての競技においてガイドラインが定められているわけではないので実際にはかなり難しい問題です。
慢性外傷性脳症


脳しんとうには「蓄積(たくわえられ続ける)」があると考えられており、脳しんとうを1回起こすと脳しんとうを繰り返し起こす危険性は高くなり、また脳しんとうの症状から回復する時間も長くなります。
それでも競技を続けて脳しんとうを繰り返し起こしていると、徐々に記憶力が低下してきてアルツハイマー型認知症のような痴呆(ちほう)症状がでてくる、精神的に落ち込んだり怒ったり精神状態が安定しなくなる、頭痛、めまいなどの症状がずっと続いてなかなかなおらない、夜眠れないなどの症状ができ来るようになります。
これを慢性外傷性脳症と言います。

「あしたのジョー」で主人公の矢吹丈はボクシングで殴られ続けてパンチドランカーとなり、最終話で白い灰になって燃えつきてしまいます。
脳はとても繊細な臓器ですので何度もダメージを受け続けると壊れていってしまうのです。
脳しんとう後の競技の復帰について
ココがポイント
脳しんとうを起こしたあとは、各スポーツの競技団体において脳しんとう後の復帰プログラムが整理されてきていて、共通の評価方法が使用されるようになってきています。
セミプロやプロスポーツの世界では多くの競技において競技団体からガイドラインが示されていますが、アマチュアの世界や趣味でおこなっているスポーツの場では、正しい知識を持って監視してくれる人がいまだ少なくまだまだ認識が低いのが現状です。
いずれにせよ、

そしてその後は徐々に運動レベルを1日単位で上げていき最終的に競技へ復帰するための段階的復帰プログラムが推奨されていることを競技者も指導者も認識しておく必要があります。

まとめ
今回はスポーツ中に頭をけがした時の対処法について解説してみました。


ここで今回の内容をまとめてみました。
今回のまとめ
- 頭をぶつけた場合や頭をぶつけていなくても強く揺すぶられた場合には、脳しんとうを起こしている可能性が高いです。
- 頭痛、めまい、吐き気、いつもと様子が違うなどの症状がある場合は脳しんとうを起こしていますので、すぐに競技をやめて病院に行きましょう。
- 脳しんとうを起こした日は1人で過ごすのはやめましょう。
- 脳しんとうを起こした場合はすぐに競技に復帰するのではなく、24時間以上は休息して、徐々に復帰するするようにしましょう。
スポーツは楽しいです。
自分もラグビーをしていたのでその楽しみはとてもわかります。
しかし夢中になりすぎてしまい危険なことに目が向かなくなってしまうことも少なくありません。
けがをしたからと言って途中で競技をやめたくない気持ちもわかります。
自分から競技をやめることはなかなか難しいものです。
ですから周りの人達が競技を止めてあげることが何よりも大切なのです。
自分が脳しんとうを起こした人を見た場合には、あなたが脳しんとうの人を止めてあげることが大切なのです。

最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も『脳の病気』、『脳の治療』について現場に長年勤めた脳神経外科医の視点で皆さんに情報を提供していきたいと思っています。
引き続きよろしくお願いいたします。
最後にポチっとよろしくお願いします。