
このブログでは脳神経外科専門医であるアラフィフおじさんの視点から、主に一般の方に向けて脳の病気や治療について解説していきたいと思っています。
基本的な知識については、ネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉を用いてわかりやすく解説していきいます。
『脳の病気』と題して脳の様々な病気や病態について解説していきます。
記念すべき第1回は「脳のできもの~脳腫瘍ってなんだろう?」と題して脳腫瘍について解説していきますのでよろしくお願いします。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 脳のできものである脳腫瘍がどのようなものかがわかります。
- 原発性脳腫瘍がどのようなものかがわかります。
脳のできもの~脳腫瘍について知ろう!
まずは脳腫瘍に関にて基本的なことを押さえていきましょう。脳腫瘍と聞くと、

そのような印象をお持ちの方がほとんどではないでしょうか。
脳腫瘍といっても非常に多くの種類があり、今コロナで話題のWHO:World Health Organization(世界保健機関)が2016年に定めた原発性脳腫瘍組織分類では100種類以上に分類されています。

と思う方も多いと思います。
ココがポイント
原発性脳腫瘍とはもともと正常な脳組織であった一部が腫瘍(できもの)に変化したものです。
悪性度で言えば、良性と悪性いずれもあります。
通常体内の内臓にできた悪性腫瘍は『がん』と言われますが、脳腫瘍は悪性であっても『がん』とは言いません。
それとは別に「転移性」の脳腫瘍があります。

ココがポイント
転移性脳腫瘍とは内臓に発生したがんが脳に転移してできた腫瘍です。
がんの種類としては、肺がん、乳がん、消化器がん、腎臓がんからの転移が多いとされています。
基本的に転移性脳腫瘍はがんの転移なのですべて悪性です。
2人に1人ががんに罹るとされている現在において、転移性脳腫瘍にかかる方の数も当然増加傾向にあります。

原発性脳腫瘍の発生頻度について
ココがポイント
原発性脳腫瘍の年間発症率(1年間で脳腫瘍になる人の数)は人口10万人あたりおよそ10~15人程度です。
この数字が高いか低いかはわかりません。
いろいろと意見が分かれるところと思いますが、他の内臓疾患の腫瘍性病変と比較すると、決して高い数字とは言えないのではないかと思います。

男女比はほぼ同数であり差はありません。
脳腫瘍は子供にも発生しますが、大人に発生しやすい腫瘍、子供に発生しやすい腫瘍に分かれるとされています。
原発性脳腫瘍の症状と検査
脳腫瘍の症状はさまざまです。よく患者さんに、

と聞かれます。
ココがポイント
脳腫瘍の症状は脳腫瘍が発生した場所、大きさなどによって様々です。無症状で見つかる人も多くいます。
最終的にはCTやMRIでの画像検査を行わないとわからないことも多々あります。
たまたま撮影したCTやMRIに脳腫瘍がうつっていて、偶然見つかるなんてこともけっして稀ではありません。
画像技術は年々進歩しており数年前にはうつり得なかったような、小さな脳腫瘍も画像解像度の向上にともない描出されるようになっています。

CT誕生の話
今は総合病院でなくとも街中のクリニックでも、CT検査は簡単に撮影可能です。
しかしCTは医学界にとっては革命的な発明とされています。
脳腫瘍もCTが発明される前は通常のレントゲン検査と血管撮影検査のみで診断していたようです。
CTは、1967年にゴッドフリー・ハウンズフィールド博士によって発明され、1979年のノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
彼は今はなき英国のレコード会社EMI(2018年にソニーに売却される)の研究所に勤めていました。
同じくEMIに所属していた、あの有名なビートルズのレコードの売り上げによる莫大な利益によってCTが開発されたといわれています。
これは医者や放射線技師をしている人間の中ではかなり有名な話で、 ビートルズによって医学界は飛躍的な発展を遂げたと伝説になっています。

しかし一方で、実際はEMIが投じた開発費よりもイギリス政府が投じた費用(つまり一般庶民の税金ですね)の方が何倍も高く、この話は出来すぎた神話だとする話もあり実際のところは闇の中かもしれません。

ココがポイント
一般的な脳腫瘍の症状として多いものは、慢性的な頭痛、吐き気、軽度の意識障害(ぼーっとする、すぐに寝てしまう、認知機能障害など)などです。
このような症状がありご心配な方は、早めにCTあるいはMRIでの検査をおすすめいたします。

今の時代、総合病院でなくとも街中のクリニックで、受診したその日にCTあるいはMRIの検査を行ってくれるところがほとんどです。
撮影時間もCTであれば数分、MRIでも30分程度で終了し、すぐに結果がわかります。
ココがポイント
特殊な脳腫瘍の症状としてとしては 、運動麻痺(手足が動かしづらい)、しびれ 、失語症(言葉が出てこない、言葉が理解できない)、目が見づらいなどですがほんと様々です。
脳の機能は部位によって大方は分かれていますが、脳科学的にはそれらの部位が連合線維によって連結されているようで、単純には説明がつかないのが実情です。
ちなみに脳神経外科を専門としている医師は脳科学的な知識には弱い人が多く、自分もその1人です。


しかしいずれにしても、通常では起こり得ない現象が生じ、それが改善することなく日々悪化していくことが多いので、やはり早めに画像検査をすることがもっとも大切です。
病院を受診した際には、患者さんから医師に詳細な病状の経過を説明した後に、今度は医師から数多くの質問をされ(問診)、そして体の診察をされ、CTあるいはMRI検査の予約をして帰宅…なんてパターンがよくみられます。
しかし脳神経外科の場合は、手軽にCTやMRIが撮影できるので、まずは画像検査をすることが何よりも大切です。
ココがポイント
診察は医師の診断の手助けにはなりますが、それで脳腫瘍の存在を示すことは不可能です。
症状がなくとも脳腫瘍が存在する場合もありますし、その逆にいろいろな症状の訴えがあっても、画像上脳は正常ということも充分にあり得る話です。
自分もこれまで何千という患者さんを診察してきましたが、CTやMRIを撮影して、

なんて経験は幾度となくあります。
患者さんにとって医師のていねいな診察はありがたく感じるかもしれませんが、脳腫瘍に関しては、とにもかくにも画像検査は極めて重要と言えます。
原発性脳腫瘍の治療
診察や検査によって脳腫瘍と診断された場合は、そのあとに治療を行うことになるわけですが、

なんてケースも稀ではありません。
頭の中に腫瘍がある状態で何年も生活するのは正直気持ち的に落ち着かないので、

なんて訴える方も中にはいらっしゃいます。
しかしどんなに良性の腫瘍でも、脳の中にあるものを早々簡単に切除できるわけではなく、その判断は慎重さを求められます。

悪性ですから時間がたてばたつほど、腫瘍はどんどん大きくなってしまいます。
ココがポイント
少し前まではいわゆる『神の手=ゴッドハンド』などと揶揄されて、なんでも切って治すことができる凄腕の外科医が崇拝される時代もありました。

しかし、今はそのような傾向は徐々に変わりつつあると感じています。
手術の技術はあくまで個人の卓越した匠の技であり、決して一般的とは言えません。
ドラマでも大門先生しかうまく手術できないのですから、実際にはそれでは困ってしまいます…
医師も人間ですから年を取れば技術も体力も徐々に落ちてきますし、若かりし頃の卓越したパフォーマンスを維持し続けることは困難です。
『神の手』にたどり着いて、神がかった匠の手術を受けることができた患者さんは確かに幸せかもしれませんが、それを万人が受けることは不可能です。

病院には 匠の手術をするための最新の機材をそろっているの?
『神の手』をサポートする医師やコメディカル(看護師さん、技師さん、薬剤師さんなど)が人材的に充実しているの?
などの要素も大きく影響してきます。

と思われている方もいるかもしれませんが、現実は決してそうとも言いきれません。
民間の総合病院、脳神経外科単科の病院でも、手術におけるハードおよびソフトの面で、大学病院以上に充実している施設は日本国内にも数多くあります。
また手術の技術に関しては、術者の飛躍的な技術の向上は今後あまり期待できるものではありません。
人間の技術には限界があります。
手術をサポートする最新の機器の発達に伴う手術技術の向上は十分に期待されるものではありますが、それも今後飛躍的に向上することが期待できるとは言い難いのが現状です。

なんてことは決してありません。
一方で放射線治療はその治療機器の進歩はすさまじいものがあり飛躍的に進歩しています。
また放射線治療の方法も数年前と比較して飛躍的に進化しています。
ココがポイント
放射線治療の良い点は、どこの施設でも同じレベルの放射線治療機器を備えていればほぼ同等の治療が受けられることです。
ソフトの影響よりもハードの影響が大きく治療効果に作用するといえます。
ですから大学病院でなくても十分な治療効果が期待されます。
ココがポイント
放射線治療の悪い点は、開頭手術のような体に負担のかかる侵襲的な治療を敬遠して安易に放射線治療を選択することです。
放射線治療は、治療時間も入院期間も開頭手術と比較して短く済みますし、頭に傷もほぼ残りません。
しかし放射線治療も決して万能ではありません。
効果が期待できる脳腫瘍もあればそうでない脳腫瘍もあり、また治療のタイミング、治療方法の選択は、治療効果に影響を及ぼすとても重要な要素です。
ですから治療法としては、

開頭手術がいいの?
放射線治療がいいの?
開頭手術と放射線治療こを組み合わせたいわゆるハイブリッド手術がいいの?
となりますが、 治療法選択の最終判断は、

これがとても重要な点です。
開頭手術に偏りすぎても、放射線治療に偏りすぎても最善な選択とは言えません。
自分の勤務する病院は、幸いにして開頭手術、放射線治療ともに、ハード、ソフトの面で機器、人材ともに充実しており理想の現場と自負しています。
大学病院ではありませんが、民間の病院でもそのような病院は、国内にも数多く存在しています。
まとめ
今回は脳のできもの~脳腫瘍について一般的な解説をしました。


厳しいお言葉をいただいたところで、今回の内容をまとめてみました。
今回のまとめ
- 脳腫瘍には原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍があります。
- 原発性脳腫瘍は1年間に10万人に10人くらい、すなわち1万人に1人くらいの発生率です。
- 原発性脳腫瘍の症状は様々ですが、頭痛、吐き気が続く人は早めに病院に行きましょう。
- 病院を受診したら、なるべくその日のうちにCTあるいはMRIで検査してもらいましょう。
- 原発性脳腫瘍を治療するときは、手術と放射線治療についてよく検討してもらいましょう。
今は情報社会です。
調べればいくらでもいいとされる病院は検索されます。
情報に惑わされすぎてしまうこともあると思いますが、最終的には自分にあった病院で、自分が納得した治療法を選択して受けられることが大切です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も『脳の病気』、『脳の治療』について現場に長年勤めた脳神経外科医の視点で皆さんに情報を提供していきたいと思っています。
引き続きよろしくお願いいたします。
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