
このブログでは脳神経外科専門医であるアラフィフおじさんの視点から、主に一般の方に向けて脳の病気や治療について解説していきたいと思っています。
基本的な知識については、ネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉を用いてわかりやすく解説していきいます。
今回の脳の病気は「認知症について考えよう~脳トレの効果を考える~」と題して解説ますのでよろしくお願いします。
今回の記事をこの記事を読んでわかることはコレ!
- 脳トレって実際のところ認知症予防に効果があるのかどうかがわかります。
認知症の予防に脳トレは有効?
脳神経外科の外来には認知症が心配で受診される方が非常に増えています。

そんな訴えをよく聞きます。
そのような不安をかき消すために日ごろ脳のトレーニングに励んでいる方も少なくはないでしょう。
家で過ごす時間、仕事の合間などの時間に手軽に本やゲームなどで脳トレを実践できるアイテムが手軽に手に入るようになっています。

そんな疑問について考えてみます。
ブレインフィットネス
体をきたえなければ体はなまってしまいうまく動かなくなってしまいます。
そのために多くの方が筋トレに励んでいます。
それと同じ考えで、
ココがポイント
脳も使わないとなまってしまう、その能力がおとろえてしまう、そのためには脳を活性化して活動させてることで脳の能力を維持しさらには高めることもできる、という考え方が「ブレインフィットネス」です。
さらに、
ココがおすすめ
ブレインフィットネスが認知症を予防することにつながるという考えが脳トレの原点です。
そもそもブレインフィットネスという言葉は正式な医学用語ではなく、おそらく脳トレを普及させるために作られた商業用の言葉です。
ブレインフィットネスを目的とした脳トレが認知症予防に有効なのかを調べた報告はいくつもあります。
しかし、

それでも脳トレは有効
脳トレの基本的な考え方は、
脳トレの効果
脳トレと題して課された課題に取り組むことで脳の認知機能の領域のみならず、その他の認知機能に関係する部分に関しても効果が広がり最終的に認知症予防につながります。
というものです。
これはどういうことかと言えば、
脳トレの効果
ある提示された課題に取り組んでそれを成し遂げることができるようになれば、それとは全然関係ない課題に対しても簡単に成し遂げることができるようになる
ということです。つまり、
脳トレの効果
脳トレのゲームを1つ1つクリアしていくことで、脳が活性化して注意力や脳の問題処置能力や危険回避能力が高まり、安全に車の運転ができるようになったとかパソコンを使うのが早くなったとかそのような効果が出てくる。
というものです。

って感じがしますね。
日本でも脳トレを発売しているメーカーがありますよね。
「毎日数分だけ脳を鍛えなさい」と言うフレーズで、認知機能の改善には努力はほとんどいらないことを売りにしています。
脳科学的なキーワード、たとえば「記憶」、「注意」などを用いたゲームを行うことでそれらの認知機能に効能があることが強調されています。
このような脳トレに関していくつかの研究が報告されていますが、最も質の高い研究とされているのがACTVIE研究というものです。
Simons DJ, et al: Do "Brain-Training" Programs Work? Psychol Sci Public Interest. 17:103-186, 2016


安心してください!
自分は英語が超苦手なのでもあまり理解できていません…
超簡単に要約しますと、この研究は10年以上にわたり脳トレの効果を検証し続けた結果を提示しています。この研究によれば、
ACTIVE研究の結果
脳トレで訓練した能力については改善が認められましたが、訓練していない能力については効果は認められませんでした。またその効果は脳トレの開始から時間がたてばたつほど薄れていきます。
ただしこの研究の中で注目すべきは、目から入った情報を処理する能力と注意力に関わる能力のトレーニングを続けていると自動車事故が50%以上低下したことを示しています。
ですから脳トレによって効果を示す分野もあることが証明されています。
しかしすべての領域に関して脳トレの効果があるかと言うと必ずしもそうではないようです。
その後もさまざまな研究成果が報告されていますが、大方はこの研究と同じ結論です。
ココがポイント
脳トレで鍛えたことはうまくできるようになるが、鍛えたことと関係ないことに関してはその効果は認められない。
というものです。
そして日常の道具を使うような知的機能に関してもその効果は認められていません。
しかしこのことが、”脳トレは認知症の予防に効果がない”ことにつながるかと言うとそれは違います。
そのほかにもさまざまな効果を検証しなければなりません。
認知症は日常生活に支障を来す知的機能の低下です。
ですから日常生活に支障を来さない程度の知的機能をさまざまな観点から検証しないければその効果ははかれないので、

脳トレをすることに意味がある!
ここまでは脳トレのトレーニング効果について考えてきましたが、

脳トレが認知症予防に効果があるかないかを数字的に示すことは難しいでしょう。
0か1かではありません。しかし、
ココがポイント
大切なことは、”認知症が心配だから脳トレをして脳を鍛えておこう”、という気持ちがあれば、そのほかの生活スタイルも認知症予防を考えた「ヘルシー・ブレイン・ライフスタイル」につながっていくのです。
たとえ脳トレが認知症予防に効果があると証明されても、それだけをしていれば認知症にならないかと言うとそんなことはありません。
その他の認知症の危険要素を取り除いて健康的なライフスタイルに変えていくことが大切です。
ココがポイント
脳トレが認知症予防へのひとつのきっかけになればそれだけでも認知症予防に効果があることになります。
高齢化社会がますます進む今日においては、今後も脳トレの領域はますます盛んになっていくでしょう。
その中でますます優れた製品が開発されて世に出回るようになるのではないでしょうか。
まとめ
今回は認知症の予防について解説してみました。


ここで今回の内容をまとめてみました。
今回のまとめ
- 現時点では脳トレの認知症の予防効果は科学的には証明されていません。しかし否定もされていません。
- 脳トレの効果は脳トレをする皆さん自身の”認知症を予防したい”という気持ち次第なのかもしれません。
脳トレが認知症予防に効果があるかないかよりも、認知症の予防をしたい、そのために脳トレをする、というモチベーションが、自分の生活スタイルを変え、最終的には認知機能低下の予防につながっていくのではないでしょうか。
少しでも認知症の知識を身につけておくことが、今後の自分を守り、まわりの方に迷惑をかけない生活を送る手助けになると思います。
今回の記事がみなさんに少しでもお役に立てれば幸いです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も『脳の病気』、『脳の治療』について現場に長年勤めた脳神経外科医の視点で皆さんに情報を提供していきたいと思っています。
引き続きよろしくお願いいたします。
最後にポチっとよろしくお願いします。