ある治療法が病気にちゃんと効果があるかどうかってどうやって調べているの?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い手術、放射線治療を中心に勤務医として働いてきた視点から、主に一般の方に向けて脳の病気や治療についてわかりやすく解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 科学的根拠(エビデンス)に基づいた正しい医療がいかにしておこなわれているかがわかります。
科学的根拠(エビデンス)は正しい医療の絶対条件

このようにすでにその効果が確立された薬や治療があるので私たちは病院で正しい医療を受けることができます。
そこにはちゃんとした根拠があります。
ココがポイント
医療は調査や研究をたくさん行いそこから得られた情報や科学的データ(これを科学的根拠(エビデンス)と言います)をもとに治療が行われています。

それでは、


有名な医学雑誌のBritish Medical JournalではEBMの解説の中で次のように記しています。
EBMとは医師の経験や患者さんの価値観に合わせて利用することができる最も適した根拠とデータを用いることである。
それには以下のものが含まれる。
✔ 患者さんに最も適した診断と検査
✔ 予後(今後の見通し)に関係する資料
✔ 安全かつ有効な治療、機能回復、予防的戦略
✔ 患者さんの価値観や経験を理解すること
医師は臨床経験や知識・技術をすばやく最大限に活用して患者さんに本当に必要なものを見つけ出して、それに対して最も適した資料や研究結果を当てはめて、治療による効果と副作用・合併症を天秤にかけて最終判断をする。
最終的にEBMの目指す世界は、それぞれの患者さんの好き嫌い、心配ごと、期待に応える診断と治療を導き出し、最善のケアをすることである。
EBMは新しい概念ではなく、むしろむかしからの知識や経験の蓄積の結果を受けて、今なお進化し続けるプロセスである。

簡単に言ってしまえば、
エビデンスに基づいた医療(EBM)
エビデンスに基づいた医療(EBM)とは科学的根拠に基づいた治療や診断を用いるのは当たりまえで、そのうえでそれぞれの患者さんの最も合った医療を選んでちゃんと治療しましょうね。
といった感じでしょうか。
ココに注意
医療にはなんとなくであったり個人的な経験などといったあいまいなものはあてにはなりません。

さまざまな情報が錯そうしている現代社会において、特に医療の情報に関しては正しくて再現性のある情報を見極める必要があります。

ほとんどの人に効果がある確実性の高い医療が行われるためにはエビデンスは絶対不可欠です。

そのためたくさんの研究が積み重ねて行われてその結果エビデンスが示されます。
エビデンスはそれぞれの分野で権威のある学術雑誌に論文として掲載されます。
また中には国が管理するデータベースの中に収められているエビデンスも数多く存在します。
これらの論文やデータベースは基本的には閲覧可能ですのでそれらを見てエビデンスを確認してEBMを実践すればよいことになります。
しかしそのような論文は莫大な量があり毎回そのすべてを検索して調べることは不可能です。
診療ガイドライン
医療のそれぞれの分野においてエビデンスをまとめて正しい治療方法の基準を示してくれる便利なものが作製されています。それが「診療ガイドライン」です。

科学的根拠ってどうやって証明するの?

エビデンスはその信頼度から治療をお勧めする度合が設定されています。
お勧め度合の分類は5つに段階付けされています。
エビデンスの推奨度の分類
A 根拠の信頼性がかなり高いので安心して使ってくださいね
B かなり安心とまでは言い切れないけど使ってくださいね
C1 使ってもいいけど根拠はあまりないですよ
C2 根拠がないのでおすすめしません
D 根拠がない上に有害かもしれないので使わないでくださいね
エビデンスがどのお勧め度合の分類に組み込まれるかはエビデンスの信頼性のレベルが設定されていてそれによって振り分けれています。つまり、

であったり、

なんて感じです。
ですからエビデンスは信頼性の高いレベルを証明する必要があります。
このエビデンスレベルは6段階に分類されています。

バイアスが全然ないエビデンスは最高級の評価がされます。
しかしバイアスが取り除けていないエビデンスはとても低い評価になります。

それでは、

バイアスとは
研究を行い正しい結果が出るはずだったのに、研究の途中で邪魔がはいってしまい研究の方向が途中でずれてしまい正しい結果がでずに結果に”ずれ”が生じてしまう…その邪魔なものがバイアスです。

バイアスの具体例
例えばある薬が血圧を下がる効果があるかどうかを調べる研究をするとします。
まったく同じ人が2人いて1人は薬を飲んでもう一人は薬を飲まないで、2人の血圧を比べれば答えはもっとも簡単です。
薬を飲んだ人の血圧が下がって、薬を飲まなかった人の血圧が下がらなければ簡単に薬の効果が証明されます。

ココに注意
違う人がたくさん集まって研究を行うのでそもそもスタートの条件が全員ばらばらです。
共通しているのは血圧が高いということだけです。
男性もいれば女性もいる、高齢者がいれば若者もいる、高血圧の他に糖尿病がある人もいればない人もいる…みんな条件はバラバラです。

性別、年齢、持病などは血圧にとても関わってきます。
例えば高齢者はもともと血圧が高めの人が多いので薬を飲んでも血圧が下がりにくいなどの別の要素が結果に影響してきます。

さらにバイアスにはもっとさまざまな要素もあります。
ココに注意
例えば高血圧なのに薬を飲まないグループに分類されてしまうと不満が高まって血圧が上がってしまいます。
一方薬を飲むグループに分類されたら安心してそれだけで血圧が下がったなんてこともあります。
これを選択バイアスと言います。
このように、
ココに注意
バイアスは研究結果に大きく影響を及ぼして場合によっては期待していた答えと逆の結果が出てしまうこともあります。
そのため、
ココがポイント
研究の対象者を選ぶのにはかなりの慎重さが求められます。
具体的には、対象者を選ぶ最初の段階において多くの人の中から無作為に選ぶ必要があります。
この時選ぶ人の主観が入らないようにくじ引きなどの抽選方式が用いられます。
また選ぶ対象の人数が少ないと偶然起きたことの影響が大きく出てしまいます。
例えば10人しか選ばなかったとします。
薬を飲む人と飲まない人は5人ずつです。
薬を飲んだ人がたまたま全員喫煙者だったとします。
そうすると喫煙のせいで薬を飲んでも血圧がなかなか下がらずに薬の効果なしという結果が出てしまうことが起こります。
しかし1000人選んだとすればどうでしょう。
薬を飲んだグループの500人全員が喫煙者という偶然はなかなか起こらないでしょう。

これも選ぶ人の主観が入らないようにくじ引きなどの抽選方式が用いられます。
血圧を下げる薬を飲まない人には体に害のないビタミン剤などの別の薬を飲んでもらい自分が血圧を下げる薬を飲むグループに選ばれなかったとわからないようにします。

当然血圧を下げる薬を飲むグループに選ばれた人にも自分が選ばれたことは伝えません。
研究に参加する対象者を慎重に選んだ後は血圧を下げる薬を飲んでいる人と飲んでいない人をそれぞれ追跡していきます。

研究に参加していることで血圧を少しでも下げたいという意識が強く働き、禁煙したり、運動してやせたりするとこれらの要素は血圧に関係してきますので結果が変わってきてしまいます。

ですからこのような人は除外する必要があります。
ココがポイント
極力バイアスを取り除いた研究が評価されるのです。
最終的には研究に参加した人のデータを調整する必要があります。

ココがポイント
最高レベルのエビデンスを獲得するにはランダム化比較試験をいくつも行いこれらをまとめた研究をする必要があります。これをメタアナリシスと言います。


多くの研究者は日々たくさんのバイアスと戦いながら信頼性の高いエビデンスレベルの論文を作製することに奮闘しているのです。
その成果が診療ガイドラインとなり、われわれはEBMに基づいた正しい医療をうけることができるのです。
EBMの大切さを認識しよう
ここまでいろいろと書いてきましたが、

このような知識が多少でもあればテレビや雑誌などで騒がれている研究の持つ意味がなんとなくでも分かってくると思います。
正しい科学的根拠を証明することの難しさと同時にその大切さも伝わってくると思います。
まとめ
今回は科学的根拠(エビデンス)に基づいた正しい医療がいかにしておこなわれているかを解説しました。
今回のまとめ
- 多くの研究者が築きあげた高い信頼度のエビデンスに基づいて現在の医療は行われています。
- 世の中を飛び交う多くの情報に惑わされることなく正しい情報をキャッチする選定眼を身につけましょう。
これからも少しでも理解を深めてもらうために脳の情報を提供していきます。

最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も『脳の病気』、『脳の治療』について現場に長年勤めた脳神経外科医の視点で皆さんに情報を提供していきます。
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