頭を切らずに治すガンマナイフってどんな脳の病気に効果があるの?
そんな疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い手術、放射線治療を中心に勤務医として働いてきた視点から、主に一般の方に向けて脳の病気や治療についてわかりやすく解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 頭を切らずに脳の病気を治す放射線治療機器であるガンマナイフがどのような脳の病気に対して効果があるのかがわかります。
ページ内目次
頭を切らずに脳の病気を治すガンマナイフ
脳の病気を治療するためだけに開発され、体の他の部分の放射線治療とくらべて圧倒的な効果と安全性を備えた放射線治療機器がガンマナイフです。
今までガンマナイフについて解説をしてきました。
今回は実際に脳のどのような病気に対してガンマナイフでの治療が行われているのかを解説します。

しかし、ガンマナイフはどんな病気にも効果があるわけではなく、効果がある病気、効果がない病気がわかっています。

ガンマナイフの適応
ガンマナイフが有効とされている脳の病気は大きく分けると以下の3つになります。
良性・悪性いずれも含めたほとんどの脳腫瘍
脳血管奇形
機能的疾患

ほとんどの方がそう思いますよね…

ガンマナイフは良性・悪性いずれも含めたほとんどの脳腫瘍に効果があります
ココがポイント
ガンマナイフは脳にできたほとんどの腫瘍に対して高い効果を示します。
脳腫瘍ってそもそもなに?という方はまずこちらをご覧ください。
脳腫瘍は脳にできたできもので、正常な脳の細胞に異変がおきて腫瘍細胞におき変わってしまい異常な増殖をする病気です。
脳腫瘍は良性のものもあれば悪性のものもあります。
ココがポイント
ガンマナイフで治療を行っている方の70%くらいは悪性の脳腫瘍の方で、そのほとんどは体のがんが脳へ転移した転移性脳腫瘍です。
脳へ転移するがんでもっとも多いのは肺がんです。
肺がんの方の40%くらいに脳への転移が認められます。
次いで乳がんで乳がんは20%くらいの方に脳への転移を認めます。
そのほかには胃がん、大腸がんなどの消化器系のがん、腎臓がんなどが多いです。

がんに対する抗がん剤の治療、放射線治療は年々進化しています。

2018年にノーベル医学生理学賞を受賞された京都大学の本庶佑(ほんじょたすく)先生が発見された、たんぱく質「PD-1」をもとに開発されたオポジーボはその代表です。がん免疫療法の新たな1ページを開いた「夢の薬」と言われ脚光を浴びました。
またがんの遺伝子分析を行った治療薬の進歩によって、いまやがんの患者さんの生存率は年々飛躍的に伸びています。

そのためガンマナイフで治療をする転移性脳腫瘍も年々増えています。
がんが脳へ転移するとその後の予後はきわめて厳しいと言われた時代は終わりました。
ココがポイント
今はいかにして心と体に負担をかけずにがんを治療をして、後遺症をなるべく残さずよりよい生活を送り続けるかが大切です。

ココがポイント
転移性脳腫瘍以外の悪性の脳腫瘍では神経膠腫(しんけいこうしゅ)と呼ばれる腫瘍に対して治療が行われます。
神経膠腫は脳の細胞が悪性化して増殖する病気で、さまざまな種類があるのですがそれは今後改めて解説します。
ココがポイント
良性の脳腫瘍では、髄膜腫(ずいまくしゅ)、神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)、下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)、頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ)と呼ばれる腫瘍に対して治療が行われます。

そう思われるでしょう。
それぞれの腫瘍に関しても今後改めて解説します。
以上のようにほとんどの脳の腫瘍に対してガンマナイフはその効果を発揮します。
しかし必ずしもすべての脳腫瘍に有効とは限りません。
ココがポイント
ガンマナイフの効果には、脳腫瘍の大きさ、個数、存在する場所、年齢、性別などなどさまざまな要素が影響してきます。

ガンマナイフは脳血管奇形に効果があります
脳血管奇形は脳の血管の病気です。
脳血管奇形
血液は動脈の中を心臓から出発して脳に向かって流れていきます。
脳に到達した血液は脳細胞に酸素や栄養を送った後、静脈の中を流れて心臓に戻ってきます。
脳の動脈と静脈が直接つながってしまい、脳へ血液を遅らすにそのまま心臓に戻ってきてしまう病気が脳血管奇形です。
脳の中に発生した脳血管奇形は「脳動静脈奇形」と呼ばれています。
脳脳血管奇形は脳の中ではなく脳をおおっている硬膜(こうまく)という膜にも発生し、「硬膜動静脈瘻(こうまくどうじょうみゃくろう)」と呼ばれていいます
ココがポイント
ガンマナイフは脳動静脈奇形と硬膜動静脈瘻に対してその効果を発揮します。
脳血管奇形に対しては、以前は開頭(かいとう)手術といって頭にメスを入れて切り取る手術が主流でした。
しかし現在では血管内治療とガンマナイフを組み明かせた治療が主流です。
脳血管奇形に対する治療
カテーテルを用いた血管内治療で動静脈奇形の異常な血管をつめものでつぶしてつまらせてしまう治療
ガンマナイフで放射線をあてて血管をつまらせる治療
ガンマナイフには腫瘍を殺す効果だけではなく、血管をつぶしてつまらせる効果もあるのです。
ココがポイント
ガンマナイフを行っても血管はすぐにはつまりませんが、3~5年で80~90%程度で血管がつまって治すことが可能です。

ココに注意
ガンマナイフは脳動脈瘤には無効です。
脳血管奇形とならんで脳の血管の病気で多いのは脳動脈瘤です。
脳動脈瘤はくも膜下出血の原因となる血管の病気で、血管に血まめのような”こぶ”ができる病気です。
”こぶ”が破裂するとくも膜下出血となります。
ガンマナイフは血管をつぶしてつまらせる効果はありますが、脳動脈瘤にガンマナイフをおこなっても脳動脈瘤を治すことはできません。
これは多くの研究で実証されています。
脳動脈瘤は開頭手術あるいは血管内治療で治すしかありません。

ガンマナイフは機能的疾患に効果があります

ほとんどの方がそうお思いでしょう。
今まで解説してきました脳腫瘍や脳血管奇形は目に見える病気です。
ですからCTやMRIなどの検査を行うと画像の中に脳の病気がはっきりと映し出されます。しかし、

目に見えない病気もたくさんあります。
その1つが機能的疾患です。
見た目には正常な脳や神経でもその機能、働きに異常があって、その異常のせいで痛みを感じたり、めまいがしたり、歩けなくなったりすることがあります。
ココがポイント
機能的疾患では脳や神経は見た目は正常なのでCTやMRIなどの検査をしてもはっきりとした異常はうつりません。
しかし強い症状がでてきます。
手に怪我をして血を流して手が変な方向に曲がっている人を見たら、「痛そうだなあ」とか「骨が折れてるね」とすぐにわかります。
しかしいくら「手が痛い!」と言っても見た感じ手がはれていたり傷ついていたりしなければ原因はわかりませんよね。
手の痛みを感じる神経に何か問題がおきているのでしょうが見た目にはわかりません。
脳にもそのような病気がいくつもあります。
ココがポイント
機能的疾患の中でガンマナイフが有効とされているのは三叉神経痛です。

歯を磨いたり、ご飯を食べたり、話をしたりなど顔を動かす動作をすると激しく顔面の片方が痛みます。
CTやMRIなどの検査で三叉神経を調べても特に異常は見当たりません。
しかし三叉神経の働きが異常に過敏になっていてちょっとした刺激で激しい痛みを引き起こします。
三叉神経痛に対しては通常飲み薬での治療が行われますが、効果がない場合は開頭(かいとう)手術が行われます。
しかし高齢の方の場合は全身麻酔をして開頭手術を行うにはさまざまな危険が伴います。したがって、
ココがポイント
高齢者で飲み薬で効果が認められない三叉神経痛に限ってガンマナイフは保険適応となっています。
三叉神経痛に対してガンマナイフを行うと治療を行った直後から痛みが取れる人もいますし、数日後、数週間後、数か月後に痛みがとれる人もいてさまざまです。
ココがポイント
三叉神経痛をガンマナイフで治療すると90%以上の人で痛みがとれるかやわらぎます。
日本において機能的疾患でガンマナイフの保険適応がとおっているのが三叉神経痛のみです。
海外ではがんによる痛みに対する治療、てんかん、パーキンソン病などに対してもガンマナイフが行われています。
しかしこれらの病気は日本ではガンマナイフの保険適応がとおっていません。
まとめ
今回は頭を切らずに脳の病気を治す放射線治療機器であるガンマナイフがどのような脳の病気に対して効果があるのかを解説しました。
それぞれの病気に対して実際にガンマナイフはどのくらいの効果があるのか、副作用や合併症はどのくらいあって安全性は大丈夫なのかなどについては今後解説していく予定です。
今回のまとめ
- ガンマナイフが有効な脳の病気
✔ 脳腫瘍
✔ 脳血管奇形
✔ 機能的疾患である三叉神経痛
ガンマナイフはとても多くの病気に効果が認められていて、しかも副作用や合併症の面からもその安全性が示されています。

今回の記事がみなさんに少しでもお役に立てれば幸いです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も『脳の病気』、『脳の治療』について現場に長年勤めた脳神経外科医の視点で皆さんに情報を提供していきます。
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