頭を切らずに治すガンマナイフってがんの脳への転移に対してどれくらい効果があるの?
そんな疑問に脳神経外科専門医であるアラフィフおじさんのへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科専門医の視点から、主に一般の方に向けて脳の病気や治療について解説していきたいと思っています。
基本的な知識については、ネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉を用いてわかりやすく解説します。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 頭を切らずに脳の病気を治す放射線治療機器であるガンマナイフは、がんが脳へ転移した転移性脳腫瘍に対してどのくらい効果があるのかがわかります。
頭を切らずに脳の病気を治すガンマナイフ
脳の病気を治療するためだけに開発され、体の他の部分の放射線治療とくらべて圧倒的な効果と安全性を備えた放射線治療機器がガンマナイフです。
今までガンマナイフについて解説をしてきました。
今回はガンマナイフがもっとも活躍している、体中のさまざまながんが脳へ転移した転移性脳腫瘍に対しての治療の効果について解説します。
がんが脳へ転移する!転移性脳腫瘍を知ろう
ガンマナイフで脳の病気と戦って倒して治していくにはまず戦う相手のことをよく知る必要があります。

ココがポイント
日本人の死亡原因は1986年からがんが第1位を続けています。
男性では4人に1人、女性では7人に1人ががんで亡くなります。
また2人に1人、つまり日本人の半分は生涯にがんにかかります。

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がんにより亡くなられる方の絶対数は増加しているものの、人口の高齢化の影響を取り除くための年齢調整を行うと、がんの死亡率は年々低下傾向を示しています。

んんん?
どういうことでしょうか…
ちょっと考えてみましょう。
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がんになる人が増えているのにがんの死亡率が低下する…つまりがんになっても生存している方の割合(生存率)が増えているということです。
この背景にはがん検診、人間ドックなどを始めとするがんの早期発見が増えたこと、がんに対する放射線治療や抗がん剤などの化学療法などの治療が多くの病院で行えるようになったこと、などさまざまなことが関係しています。
これらのデータは国立がん研究センターがん情報サービスの以下の統計結果に基づいています。
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(人口動態統計)
全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2020)
がんの方が増えるとそのがんが脳へ転移する転移性脳腫瘍も増加します。
転移性脳腫瘍を見つけるためのMRIの機器も年々画像の解像度が上がってきており、1mm程度の小さながんでも見つけることが可能となっています。
MRIの画像の進歩は転移性脳腫瘍の早期発見につながり、転移性脳腫瘍が増加する一因となっています。

ココがポイント
脳へ転移するがんでもっとも多いのは肺がんです。
肺がんの方の40%くらいに脳への転移が認められます。
次いで乳がんが20%くらいの方に脳への転移を認めます。
そのほかには胃がん、大腸がんなどの消化器系のがん、腎臓がんなどが続いています。
以上のようにがんの方の増加にともない転移性脳腫瘍の方も増加しているのが現状です。
そこで登場するのがガンマナイフです。

転移性脳腫瘍に対するガンマナイフの効果
ココがポイント
転移性脳腫瘍を治療する最大の目的は、がんが脳へ転移したことによって起こる神経の症状をよくして生活の質を維持していくことにあります。。
手足のまひ、しびれ、言葉がしゃべれない、ろれつが回らないなどなど…さらには意識の状態、認知機能の障害を改善することが目標です。
転移性脳腫瘍に対する治療は頭を切って治す開頭(かいとう)手術が主流でした。

それが当たり前でした。
放射線治療を行うにしても全脳照射(ぜんのうしょうしゃ)といって脳全体に放射線をあてて脳の中の病気を一斉にやっつけようという治療が当たり前でした。
しかし1990年代に入って日本にガンマナイフが導入されるとその様相は変わります。
ココがポイント
脳の病気をピンポイントで治すガンマナイフが破竹の勢いで普及し,現在では転移性脳腫瘍の治療の主流になっています。
ガンマナイフの利点は、
がんの方に極力精神的、肉体的な負担を与えない
短い入院期間で最大の効果を上げる
ことにあります。

転移性脳腫瘍を治療している時間は肺がんや乳がんなどの体のがんの放射線治療や抗がん剤治療がストップしてしまいます。
開頭手術や全脳照射で治療を開始すると数週間の時間が必要です。
しかしガンマナイフは最短で1日、治療がかかっても数日~1週間程度で治療が完結します。
しかも肉体的なダメージが少ないので、すぐに体のがんの治療を再開できることにメリットがあります。

ココがポイント
転移性脳腫瘍に対するガンマナイフの治療の効果は、病気の大きさ、病気の数などによって変わってきます。

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病気の大きさに関しては小さければ小さいほど効果があります。
1-2cm程度の病気であれば1回のガンマナイフでの治療で90%近い確率で病気をおさえこむことが可能です。
しかし2-3cmを越えてくると1回の治療ではおさえこむことは難しくなります。
このように大きめの病気に対しては、現在では5回あるいは10回での分割照射をおこなっています。
大きい病気に対しては治療したあとに合併症として脳のむくみがでてくることがあります。

脳のむくみに関しては、「頭を切らずに脳の病気を治すガンマナイフの副作用と合併症を知ろう」を参照してみてください。

ココがポイント
病気の数に関しては現在では10個以下まではガンマナイフの治療の効果が認められています。

がんの転移なので脳の病気は1つとは限りません。
何個も転移する可能性がります。
がんは多くの場合血液に入り込んで脳の中に転移してくるので、たくさん転移してこることも当然あります。
あまり多くの転移を1度に治療するとガンマナイフによるピンポイントの治療でも、脳全体の放射線被ばくが増えてしまいます。そのため、
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あまり数が多い場合には脳全体に放射線をあてる全脳照射を行うこともあります。
また現在がんの化学療法で主流をなしている分子標的薬(ぶんしひょうてきやく)の効果を期待することもあります。
通常がんの治療に用いられる抗がん剤は脳に到達することはなく脳の転移に対してはほぼ無効でした。
脳は体の中でもとても重要な臓器なので、脳には血液脳関門といって血液の関所があり不要なものが脳の中に流れ込むことを防いでいます。

しかし最近がんの遺伝子研究が進み、ある特定の遺伝子変化をもったがんに特異的に効果のある分子標的薬という薬が次々と開発され高い効果を上げています。
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分子標的薬は脳の関門を通過できる薬が非常に多く転移性脳腫瘍にも効果が認められているものも多くあります。
転移性脳腫瘍が10個以上であってもガンマナイフで治療できないということはありません。
この場合にはガンマナイフのみで治療するのか、または他の治療法を組み合わせたほうが良いのか迷うところです。


内容は難しいですが、今までこの記事で書いてきたことを証明する日本が世界に誇るガンマナイフのとても有名な論文で「JLGK0901研究」と呼ばれています。

ココがポイント
がんの種類によって放射線が効きやすいタイプと効きにくいタイプがあります。

ココがポイント
病気の場所では放射線被ばくに弱い組織の近くに病気がある場合は要注意です。
たとえば視神経といって目で見たものを伝える神経は強い放射線が当たると視力が落ちてしまいます、
そのため視神経の近くに病気がある場合には放射線量を少なくする必要があります。

転移性脳腫瘍の治療に対しては、現在ではガンマナイフが主流であり、ガンマナイフでどうしても治療が難しいものに対しては開頭手術や全脳照射を用いて治療を行うというコンセプトになってきています。
まとめ
今回は頭を切らずに脳の病気を治す放射線治療機器であるガンマナイフは、がんが脳へ転移した転移性脳腫瘍に対してどのくらい効果があるのかについて解説しました。
今回のまとめ
- がんが年々増え続けいている現代において、がんが脳へ転移する転移性脳腫瘍も年々増えています。
- 転移性脳腫瘍に対する治療は、ガンマナイフが主流で高い治療効果が認められています。
- 治療の効果にはさまざまな要素が関係していますので、充分な説明をうけてよくご理解されてから治療を受けられることをお勧めします。
がんはとても身近な病気になっています。
それに伴い転移性脳腫瘍も身近な病気になっています。
ガンマナイフは転移性脳腫瘍の治療の主役であり、多くの方を救ってきました。
しかしすべてにおいて万能ということはありません。
脳神経外科専門医とよく相談されて適切な治療法を選択されることをお勧めいたします。

今回の記事がみなさんに少しでもお役に立てれば幸いです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も『脳の病気』、『脳の治療』について現場に長年勤めた脳神経外科医の視点で皆さんに情報を提供していきたいと思っています。
引き続きよろしくお願いいたします。
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