
このブログでは脳神経外科専門医であるアラフィフおじさんの視点から、主に一般の方に向けて脳の病気や治療について解説していきたいと思っています。
基本的な知識については、ネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉を用いてわかりやすく解説していきいます。
今回の『脳の病気』は、

という方のために、しびれについて探ってみたいと思います。

今回は第3回目で、”体のいろいろな場所がしびれる多発性のしびれ”について解説したいと思います。
この記事を読んでわかることはコレ!
- いろいろなしびれの種類がわかります。
- 体の右側だったり、左側だったり、手だったり、足だったり…いろいろな場所がしびれる「多発性のしびれ」がわかります。
ページ内目次
しびれの種類
『しびれ』は頭痛、めまいとならんで脳神経外科の外来に受診される患者さんの3大あるあるの1つです。

「しびれの原因を探ってみました」の第1回では「しびれってなに?」、第2回では「体のある場所だけがしびれる単発性のしびれ」、と題してしびれとは何かについて解説しました。
今回は実際のしびれの原因を探ってみようと思います。前回しびれの種類には3種類と説明しました。
しびれの種類です!
知覚鈍麻(感覚がにぶっている)
異常知覚(正常ではない異常な感覚がする)
運動麻痺(自分の意志通りに動かない)
この中で運動麻痺は感覚の問題ではなく、動きの問題で手足が動かないことをしびれと感じてしまうので、感覚の神経自体には大きな問題が生じていないことが多いです。そのため今回はちょっと除外して、知覚鈍麻と異常知覚の感覚の障害について考えてみます。
しびれの種類です!
体のしびれる部分がある限定された部分に限られているものを「単発」、体の広い範囲に及んでいるものを「多発」と言います。

多発性のしびれ
体のあちこちがしびれる多発のしびれはその原因の場所、左右のどちらがしびれるかによっていくつかのグループに分けられます。
ココがポイント
片側性・交叉性のしびれ(体の片側だけがしびれる)
左右対称性のしびれ(左右で同じ場所がしびれる)
左右非対象性のしびれ(左右で違う場所がしびれる)

片側性・交叉性のしびれ
片側性のしびれ
これは体の右か左の片側だけがしびれる状態です。


脳出血や脳梗塞になるとこのような特徴的なしびれが見られます。
ココがポイント
脳は感覚の神経の中枢ですので、脳が出血や梗塞によって壊れてしまうと片側のみの感覚に異常が出ます。
交叉性のしびれ
これは顔・頭と手足・体のしびれている側が逆の場合です。たとえば、

といった感じです。

ココがポイント
脳の下方の病気では、病気が発生した側と反対側にしびれが起こります。
感覚のすべての神経がいっせいに交叉するわけではなく、顔・頭と手足・体では交叉する場所がずれています。
脳の下方で病気が発生した場所が、感覚の神経が交差する前か、交叉した後かによってしびれる側が変わってきます。

このような症状になるのは、脳の下の方の脳幹(のうかん)と呼ばれる部分の障害で、

左右対象性のしびれ
手袋靴下型のしびれ
手足の末端部分が左右対称性にしびれます。

ココがポイント
手袋靴下型のしびれの原因としては、薬物や金属などの中毒や糖尿病などの代謝性の病気で起こりやすいとされています。

このように体のある一部分だけに問題がおこるのではなく、中毒症状や糖尿病などのように全身性に問題がおきてくる病気では左右で同じ場所がしびれ始めます。
中毒や糖尿病の時のしびれ方
しびれのスタートは脳から離れた長い神経の末端です。体で脳から一番遠いのは足の先なので、この場合のしびれは足の先から始まります。足の次に遠いのは手の先なので次第に手の先からもしびれが始まります。その後しびれはどんどん体の中心に向かって広がっていくのが特徴です。
両手の左右対称性のしびれ
足は大丈夫なのですが、手だけが左右対称性にしびれる場合です。これにはいろいろな原因が考えられます。
脊髄(背骨の中の太い中枢神経)の病気
背骨の中には脊髄という脳と連続する太い神経が走行しています。脊髄の中はたくさんの神経でぱんぱんにつまった状態です
ココがポイント
脊髄の真ん中に病気ができると両手の左右対称性のしびれがおきます。
真ん中を通る神経は温度を感じる神経と痛みを感じる神経です。そのため左右の手で温度と痛みを感じにくくなります。
触覚は脊髄の外側にあるので触った感触は保たれます。
脊髄の真ん中にできる病気はいくつかあって、腫瘍、多発性硬化症(神経が変化して硬くなってしまう病気)、脊髄空洞症(脊髄の真ん中にあなが開いて水が溜まってしまう病気)などがあります。

脊椎(背骨)の病気
手のしびれが出る脊椎の病気のほとんどは頚椎(首の骨)の病気です。以下のものが代表的な病気の種類です。
病気の種類
頚椎症(脊髄から骨のすきまを通って細い末梢神経が飛び出してきますが、その骨のすきまで神経が圧迫されてしびれを引き起こします)
後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこつかしょう:背骨を支える後縦靭帯というじん帯が骨のように硬くなってしまいこれが脊髄を圧迫しておこる難病です)
頚椎椎間板ヘルニア(けいついついかんばんへるにあ:骨と骨の間の椎間板と呼ばれる緩衝材がつぶれて飛び出してきて脊髄や末梢神経を圧迫してしびれを引き起こします)

ココがポイント
脊髄の前の方からの圧迫が強いと、神経が障害されるよりも神経に血液を送り込んでいる動脈の血のめぐりが悪くなり、脊髄の内側の機能が障害されます
脊髄の横や後ろの方からの圧迫が強いと、神経が障害されて脊髄の外側の機能が障害されます。

もっと詳しく
脊髄の外側の機能が障害された場合には、前回第2回で説明した単発性のしびれ=手足のある部分だけがしびれます。
脊髄の内側の機能が障害された場合には、その障害された脊髄の部位よりも下方の神経がほとんどすべて障害をうけて広い範囲がしびれます。


左右非対象性のしびれ
左右で違う場所のあちこちがしびれる病気もいくつかありますが、

脳や脊髄の感覚の神経は途中で左右に交叉しますが、だいたい体の決まった場所を支配しています。
ですから病気が発生すると片側あるいは両側でも同じ場所でしびれがおこることが多いのです。



ココがポイント
左右で違う場所のあちこちがしびれる場合には、単発性あるいは多発性のしびれが同時にいろいろな場所で発生しています。


そうなるとますますいろいろな病気を考えていかなくてはならないのでかなり複雑なことになってきます。
ココがポイント
しびればかりに目をとらわれずに、糖尿病があるのか?、なにかの中毒ではないのか?など色々と疑いの目を向けて診察して情報を聞き出す必要があります。
まとめ
今回は「しびれの原因を探ってみました」の第3回として”体のいろいろな場所だけがしびれる多発性のしびれ”について解説してみました。


ここで今回の内容をまとめてみました。
今回のまとめ
- しびれは、しびれている場所によって大きく分けると、体の一部分だけがしびれる「単発性のしびれ」と、体の広い範囲がしびれる「多発性のしびれ」があります。
- しびれの原因は脳や脊髄にあることが多いですが、糖尿病などの全身の病気の可能性も充分に頭に入れておく必要があります。
- 多発性のしびれには、”左右の片側だけがしびれる場合”、”左右で同じ場所がしびれる場合”、”左右で違う場所がしびれる場合”、の3パターンあります。
しびれは日常生活においてよく経験する感覚です。しかし一概にしびれといってもいろいろな感覚があり人それぞれです。またしびれの原因も体の一部分の病気から全身の病気までさまざまあり、しびれの原因を探ることはとても難しい作業です。

しかしそのまま放置しておくとしびれがますます悪くなってしまう病気もありますので、しびれでお困りの場合には、まずは脳神経外科の外来を受診してみてください。
今回の記事が少しでもしびれについての理解が深まり今後の生活にお役に立てれば幸いです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も『脳の病気』、『脳の治療』について現場に長年勤めた脳神経外科医の視点で皆さんに情報を提供していきたいと思っています。
引き続きよろしくお願いいたします。