くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤について詳しく知りたい!
そのようなご要望に脳神経外科専門医であるアラフィフおじさんのへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い手術、放射線治療を中心に勤務医として働いてきた視点から、主に一般の方に向けて脳の病気や治療についてわかりやすく解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- どのような脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)が破裂してくも膜下出血になりやすいかがわかります。
ページ内目次
脳動脈瘤はこわい頭痛で始まるくも膜下出血の原因第1位
頭痛でこわい脳の病気の1つにくも膜下出血があります。

なんて人もいると思います。
そんな方はこちらをご参照ください。
ジャニーズ事務所の喜多川社長さん、globeのKEIKOさん、星野源さん、読売巨人軍の木村拓也選手…などなどとても多くの方がくも膜下出血でニュースになっています。

ココがポイント
くも膜下出血の原因の80%くらいは脳動脈瘤です。

脳動脈瘤とは脳の血管の壁が血豆のように膨らんで“こぶ”を作っている状態です。これがある日突然破裂してくも膜下出血を起こします。

ほとんど前触れはありません。
今まで経験したことのないようなバットで頭をなぐられたような激しい頭痛が突然襲ってくる…これがくも膜下出血の典型的な最初の症状です。
そして意識が悪くなって命にかかわってくるようなとても危険な状態になってしまいます。

そう思いますよね。
そんな考えで始まったのが脳ドックです。
人間ドックは皆さん聞いたことあると思いますが、

なんて人も多いかもしれません。
脳ドック
脳動脈瘤を破裂する前に見つけることを目的の1つとして、1988年に世界に先駆けて日本独自の脳ドックが始まりました。

ココがポイント
通常のMRI検査に加えてMRA検査といって血管をきれいに映し出す検査を行うと1mm程度の脳動脈瘤でも90%以上の確率で発見されます。

脳ドックは北海道の脳神経外科の先生が最初に呼び掛けて始まりました。
脳ドック
未破裂脳動脈瘤を脳ドックで見つけて破裂してくも膜下出血になる前に治療して治してしまう…そのようなことを続けていった結果、釧路市でくも膜下出血になる人が大幅に減少したことが報告され世間を驚かせました。
いまや脳ドックは全国に広がり、脳ドック学会に登録されている施設は700近くあります。
ココがポイント
✔ 脳ドックなどで偶然発見された未破裂脳動脈瘤を日本全国規模で調査してその自然歴(特別に治療をしなければどうなるのか)を調べようという試みが提案されました。
✔ 2001年から約3年間日本全国の未破裂脳動脈瘤の追跡調査が行われました。
✔ その研究が日本未破裂脳動脈瘤悉皆(しっかい)調査=”UCAS Japan” (Unruptured Cerebral Aneurysm Study of Japan)です。

悉皆調査とは、すべての例を悉(ことごと)く集めて調査することです。
つまり日本全国の未破裂脳動脈瘤のかたをなるべく

UCAS Japanを学んで脳動脈瘤をよく知ろう

ココがポイント
✔ 今まですでに起きたことを整理して研究する(後ろ向き研究といいます)のと比較して、これから起こることを追跡していって研究する(前向き研究といいます)のは、研究としての信頼度や価値が高く評価されます。
✔ UCAS Japanは日本中で行われた大規模な前向き研究でその研究は世界的に権威が高く影響力が大きい医学雑誌の1つである”The New England Journal of Medicine”に掲載されました。
つまり日本の研究が世界で認められたのです。
ココがポイント
UCAS Japanは世界的にみてもとても素晴らしい研究であり、この研究結果は現在未破裂脳動脈瘤の方の治療方針を決定するのに重要な役割を果たしています。いわば未破裂脳動脈瘤の教科書です。
UCAS Japanでは主に以下のことが結果として示されました。
✔ 日本において治療されていない未破裂脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血になる確率は1年間で0.95%でした。
✔ 脳動脈瘤の破裂は大きな脳動脈瘤ほど破裂しやすい結果でした。
✔ 脳動脈瘤がある場所のよって破裂のしやすさは変わってきて、破裂しやすい場所の脳動脈瘤はその他の場所の脳動脈瘤よりも約2倍高かった。
✔ 脳動脈瘤の形が凸凹しているようなものは破裂しやすく、つるんとしたきれいな形の脳動脈瘤と比較して約1.6倍の破裂しやすい結果でした。
✔ 脳動脈瘤が破裂しやすくなるその他の要素としては女性、高血圧、高齢者が重要という結果でした。

脳動脈瘤はどれくらいの確率で破裂するの?
ココがポイント
日本人の未破裂脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血になる確率は1年間で0.95%でした。
しかしこれはすべての人に当てはまるわけではありません。
また1年間というのは毎年この確率で破裂しますというもので一生涯での確率ではありません。
破裂しやすい脳動脈瘤、破裂しにくい脳動脈瘤がありそれらをすべて含めてですので、個々の脳動脈瘤に関わる要素でその破裂する確率は変わってきます。

ココがポイント
脳動脈瘤が破裂しやすい要素を持った人で比べてみると日本人は欧米人とくらべて2.8倍破裂しやすいということもわかりました。

脳動脈瘤はどのくらいの大きさになると破裂しやすいの?
脳動脈瘤の大きさは破裂に関係する要素としてはとても重要です。
ココがポイント
脳動脈瘤が大きければ大きいほど破裂率は高くなります。
5mm未満の小さな脳動脈瘤を基準として大きさ別に1年間に破裂する確率を比較します。
✔ 5~6mmでは1.13倍
✔ 7~9mmでは3.35倍
✔ 10~24mmでは9.09倍
✔ 25mm以上では76.26倍

しかしこれは単純に大きさを比較しただけなので一概には何mm以上になると危険とは言えません。
ココに注意
さまざまな要素を加味すると小さな脳動脈瘤でも破裂することはありますので注意が必要です。
ただし、
ココがポイント
7mm未満の脳動脈瘤に関しては破裂する確率はとても低く、治療を行う判断はより慎重にするべきです。
脳動脈瘤はどこの場所にあると破裂しやすいの?

しかし好発部位といって脳動脈瘤ができやすい場所は大方決まっています。
脳動脈瘤の好発部位別で1年間に破裂する確率を比較します。
✔ 前交通動脈 1.31%
✔ 中大脳動脈 0.67%
✔ 内頚動脈 0.31%
✔ 後交通動脈 1.73%
✔ 脳底動脈 1.49%
✔ 椎骨動脈 0.84%
ココがポイント
前交通動脈と後交通動脈の脳動脈瘤は1年間に破裂する確率が1%を越えていて破裂しやすいことがわかります。

ココに注意
脳動脈瘤の発生場所に大きさの要素を加味すると、7mm以下ではすべての場所において破裂する確率は1%以下ですが、前交通動脈は0.85%とやや高く、前交通動脈に関しては小さな脳動脈瘤でも注意が必要です。
脳動脈瘤はどのような形をしていると破裂しやすいの?
脳動脈瘤は血豆のように血管の一部がふくらみますが、ブレブと言って血豆状の脳動脈瘤にさらに小さな血豆状のふくらみがあることがあります。
ココがポイント
脳動脈瘤に血豆の形状に不正がありブレブが認められるタイプの脳動脈瘤はそうでないものと比較して1.64倍破裂しやすいことがわかりました。
ブレブは脳動脈瘤の壁の一部がさらに薄くなってふくらんでいるために破れやすいと言われていましたが、今回の研究ではそれが証明されたことになります。
ブレブがある場合の脳動脈瘤の1年間に破裂する確率は2.33%でブレブがないものは0.73%ですのでブレブがある脳動脈瘤は破裂しやすいことがわかります。
脳動脈瘤が破裂しやすくなる要素はほかにありますか?
ココがポイント
女性、高血圧、70歳以上の高齢者は破裂の確率が高くなるという結果でした。

今回の研究では喫煙はくも膜下出血の危険な要素には入っていませんでした。
ココに注意
今回の研究中に禁煙した人が多かったこと、もっと人数を集めた海外での研究では喫煙はくも膜下出血の危険な要素とされていることから注意が必要です。
UCAS脳動脈瘤破裂危険性計算式
ココがポイント
脳動脈瘤が破裂しやすい危険な要素をUCAS破裂予測スコアで点数化することで破裂する確率を具体的に導き出すことができます。
点数によって3年間での破裂する確率が示されているので、実際診療の現場でも点数をつけて評価を行い治療の方法が検討されています。
ココに注意
UCAS破裂予測スコアは1つの目安であり絶対的な数字ではないので、あくまでも参考するにとどめておくべきで、最終的な治療の方法の判断は主治医の先生と充分に相談することが大切です。
引用元:
Tominari S, et al: Prediction model for 3-year rupture risk of unruptured cerebral aneurysms in Japanese patients. Ann Neurol 77:1050-1059, 2015
UCAS Japanで注意すべきこと
未破裂脳動脈瘤はUCAS Japanをはじめとして海外でも数多く研究されどのような脳動脈瘤は破裂しやすいのかがかなりわかっています。
しかし未破裂の脳動脈瘤があると知らされると人は強い不安に襲われます。
説明の仕方によっては生活スタイルやリズムがくるってしまい生活の質を落とすことにもつながりかねません。
ココがポイント
✔ ただやみくもに不安を募らせるような説明は避けるべきで、正しい治療の方向に導くべきであるとUCAS Japanでも提唱しています。
✔ 脳動脈瘤が見つかったことで逆に危険な要素を取り除き破裂する確率を下げるような健康的な生活に導くことが大切です。
放置された高血圧の管理、禁煙指導、適度な有酸素運動などを取り入れることで破裂する確率は下がります。

正しい知識を身につけて規則正しい健康的な生活を送ることがなによりも大切です。
また主治医の先生と充分なコミュニケーションをとることもとても大切です。
まとめ
今回はこわい頭痛を引き起こすくも膜下出血のの原因となる脳のこぶ…脳動脈瘤はどのようなものが破裂してくも膜下出血になりやすいをご理解いただくためにUCAS Japanを解説しました。
今回のまとめ
- 未破裂脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血になる確率は1年間で0.95%。
- 脳動脈瘤は大きいほど破裂しやすい。
- 前と後交通動脈の脳動脈瘤は破裂しやすい。
- 凸凹している脳動脈瘤は破裂しやすい。
脳の病気について正しい知識を身につけて健康な生活を送ることがとても大切です。
これからも少しでも理解を深めてもらうために情報を提供していきます。

最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も『脳の病気』、『脳の治療』について現場に長年勤めた脳神経外科医の視点で皆さんに情報を提供していきます。
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