ヒトが調理するのはなんでなの?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきますね。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 調理することの意味を脳科学で探り忍耐と逆算の思考が生み出す美学について脳科学で説き明かします。
ヒトはなぜ調理をするのか?
調理することの脳科学
- ヒトが調理をするのは「美味しさ」の逆算と「美味しさ」への忍耐のためです。
- 「美味しさ」の逆算とは調理することで生の食材が体にとって有益で美味しいものに変化すること知っているから調理するのです。
- 「美味しさ」への忍耐とは目の前の生の食材をすぐに食べずに我慢してこそ調理して美味しい食べ物に変化させることができるのです。
自然界には新鮮な生肉や生野菜があふれそうした自然食材から充分な栄養が得られることは野生界を生き抜く多くの動物たちが証明しています。
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調理する動物は地球上でヒトだけです。
ご飯とみそ汁と焼き魚や煮物といったもっともシンプルな食事でさえ調理するのには途方もない数の手間がかかります。
料理が上手な人ほど料理の完成と同時に料理に使った器具の洗浄まで完了しているのですから驚きです。
料理とは複雑極まりない作業をほとんど反射的に行うある意味曲芸です。
調理の脳科学-その1
ヒトが料理をする理由を脳科学で探ると次の2つの理由が浮かび上がってきます。
「美味しさ」の逆算
「美味しさ」への忍耐
これは一体どういうことなのでしょう?
それでは調理することの意味を脳科学で探っていきましょう。
調理は「美味しさ」の逆算である
調理の脳科学-その2
調理は逆算の美学です。
完成後の料理のイメージがまずありそこから逆算して用意周到な計画を立て徐々に完成品へと近づけていきます。
最高の食べごろで料理を提供しようと思ったのならさらに慎重な手順を踏まなくてはベストタイミングで完成させることはできません。
料理が「美味しさ」の逆算であることを証明した研究をご紹介しましょう。
チンパンジーに生のポテトと茹でたポテトを差し出しどちらを選ぶかの研究です。
チンパンジーの89%は茹でたポテトを選びました。
おそらく茹でたポテトの方が美味しかったからでしょう。
脳科学的に「美味しい」とは舌の味覚器でアミノ酸や糖を感知することです。
アミノ酸や糖は栄養素です。
アミノ酸や糖を生み出すには生の食材に火を通す必要があります。
火を通すことでタンパク質や炭水化物が加熱分解されアミノ酸や糖といった小さな分子に変化します。
小さな分子になることで消化しやすくなり胃や腸からの吸収率が高まるのです。
つまり火を通すことで体にとって利用可能な栄養量が増えるのです。
アミノ酸や糖が豊富で栄養満点であるという化学信号は舌では「美味しさ」という味覚信号として脳に届けられるという合目的的性があると言えます。
調理の脳科学-その3
われわれが美味しいものを好むのは生物学的な利点からそうのように体と脳がデザインされているからなのです。
つまり「美味しいから好き」なのではなく逆に「体や脳にとって有益なものを美味しいと感じる」のです。
この「体や脳にとって有益なものを美味しいと感じる」を突きつめたものが「調理」なのです。
ヒトの口や消化器系は加熱された料理を食するのに適するように発達しています。
ヒトは火を通すだけでは飽き足らず調理の腕を上げ手の込んだ料理を作るようになりました。
チンパンジーがどんなに調理された料理の美味しさを理解して好んでも過熱するための火をコントロールすることはできません。
実際にヒトがいつの時代に火を扱えるようになったのかは正確にはわかっていません。
100万年前の地層から炭化した植物や焦げた骨が見つかっており現生人類であるホモサピエンスが亜仏減する前から古代人類は火を使っていたようです。
火の用途は調理だけではありません。
料理だけでなく寒さをしのいだり暗闇を照らしたりと多くの使い方があります。
現在では厳かな聖火や装飾用のろうそくや花火などリラクゼーション的な目的でも活用されています。
ヒトは食材を調理するのみならず火さえも「調理」する優れた動物なのです。
調理は「美味しさ」への忍耐である
調理の脳科学-その4
調理は忍耐から生まれた美学です。
あるテストをしてみましょう。
マシュマロが目の前に1つ置かれています。
今食べてもよいですが15分間食べずに待つことができればもう1つもらえます。
あなたならどうしますか?
すぐに食べてしまう人もいればじっと我慢する人もいるでしょう。
正解はありません。
これは「現時点の小さな利益」を取るか「将来の大きな利益」を取るかの判断の傾向を調べるテストです。
どちらを優先するかは皆さんそれぞれの個性が影響します。
いろいろな年代にこのテストを行うと3歳児は我慢できずすぐに食べてしまいます。
しかし4歳になると30%、12歳では60%が現在を我慢して将来の利益を選択するようになります。
このテストは単純ではありますが将来の成功を予見できるテストです。
我慢できた4歳児は将来学業の成績が優秀で社会にでても出征する傾向があるとされています。
また危険な薬物に手をだすような割合が低く健康状態もよく肥満率も低いとされています。
「忍耐」とはいわば「将来を見通して現在の自分に投資する」という準備のための能力です。
ですから忍耐の能力を発揮できるヒトは結末を見越して欲望の衝動をおさえこむ力が強いと言えます。
目の前に美味しそうな野菜や肉や魚などの食材が並んでいたとします。
多くの動物は我慢出できずにすぐに口にしてしまいます。
食べずに我慢することができません。
しかしヒトはこの食材をすぐに口にしないで手間をかけて調理することで体や脳にとって有益な美味しい料理に変化することを編み出したのです。
調理の脳科学-その5
我慢する自制心が調理して美味しい料理を作り上げる高度な認知機能を導き出しているのです。
食材に対する忍耐が調理する能力を生み出したのです。
このように考えると「調理は忍耐から生まれた美学」という言葉がご理解いただけるのではないでしょうか。
犬や猫に同じテストをすると自発的に目の前のエサを我慢することはなかなかできません。
通常のサルでも我慢することができません。
しかしチンパンジーでは71%も我慢することができました。
ヒトの大人で同じテストをすると19%しか我慢することができませんでした。
チンパンジーよりもはるかに低い数字です。
12歳の子供でも60%が我慢できるのに大人になると忍耐する力は退化してしまうのです。
この疑問の答えは意外なところにあります。
我慢して得られる報酬を食べものでなく金銭に変えて同じテストをしてみます。
100円をすぐに受け取るか我慢して15分後に1000円受け取るか。
すると我慢できるヒトは57%にまで増加しました。
つまりヒトは成長するとともに重視する対象が食べ物よりも金銭に変化しているのです。
金銭は食べ物の違いは消費期限と融通性です。
食べ物には消費期限がありいつかは食べてなくなってしまいます。
しかし金銭はいつの時代までも使い続けることが可能であり消費期限がありません。
また金銭はさまざまな報酬に変換できる可能性を持ち抜群の融通性を兼ね備えています。
エサにつられているうちはまだまだ子供で将来を見すえて金銭に価値を見出すようになって初めて大人になったと言えるのでしょうか。
それが正しい考えなのか間違えた考えなのか別としてより現実的な発想になるのが「人間らしさ」なのかもしれません。
“調理することの脳科学“のまとめ
調理することの意味を脳科学で探り忍耐と逆算の思考が生み出す美学について説き明かしてみました。
今回のまとめ
- ヒトが調理をするのは「美味しさ」の逆算と「美味しさ」への忍耐のためです。
- 「美味しさ」の逆算とは調理することで生の食材が体にとって有益で美味しいものに変化すること知っているから調理するのです。
- 「美味しさ」への忍耐とは目の前の生の食材をすぐに食べずに我慢してこそ調理して美味しい食べ物に変化させることができるのです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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