赤ちゃんはなぜ左利きなのでしょう?
成長するとなぜ右利きに変わるのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきますね。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 赤ちゃんはなぜ左利きなのか、成長するとなぜ右利きに変わるのか、を考えることで利き手の秘密がわかります。
利き手は遺伝?
利き手の秘密を脳科学で説く
- 利き手にはほぼ遺伝的要因はありません。
- 赤ちゃんは世界中どんな地域に行ってもほとんど左利きです。
- そして成長するとほとんどの人が右利きになります。
- この事実は地域を超えて時代を超えて共通する傾向です。
- 利き手のカギは脳ではなく心臓にあります。
- 左側にある心臓を守るために人は右利きになったのです。
- 多くのことは脳で支配されていますが利き手は脳が支配されて柔軟に従っているだけなのです。
何げないことですがなんとなく皆さん疑問に思ってませんでした?
そんな利き手の秘密を脳科学的に探っていきます。
そんな疑問もよく聞きますね。
遺伝と言えば遺伝子ですよね。
遺伝子は人によって当然異なります。
だから個性が生まれたり、顔が違ったり、体型が違ったり、そもそも男女の違いも遺伝の違いによるものです。
遺伝子は人種によっても当然違いがあります。
ですからアジア、ヨーロッパ、アフリカ、欧米など地域によって人の体型も顔つきも違っていますよね。
人にもっとも近い種族であるとされるチンパンジーの遺伝子と人の遺伝子をくらべた研究です。
チンパンジーの遺伝子もそれぞれの個体で違いがみられました。
そのためチンパンジーにもそれぞれの個性があるということがわかりました。
人との比較ではチンパンジーの遺伝子は個体差が相当あるということがわかりました。
つまりチンパンジーは個体による遺伝子のバラツキが多いということです。
一方人では遺伝子の個体差は当然認めるもののチンパンジーとくらべると“ない”に等しいくらい少ない結果でした。
つまり人は動物として生きる種族ではかなり種族内で均一化された集団なのです。
話が長くなりましたが、それでは利き手は遺伝なのでしょうか?
答えはおそらく“NO”です。
利き手の秘密-その1
赤ちゃんが左利きで大人になると右利きになるのは何も日本人に限った話ではありません。
これは万国共通で世界中どんな地域に行っても同じ傾向がみられます。
文明史以前の遺跡から発掘された斧を見てもその形跡から人は右利きだったことがわかります。
つまり人は地域を超えて時代を超えてずっと右利きなのです。
ですから利き手は遺伝ではないのです。
そういう人にはもしかしたら遺伝的素因が含まれている可能性は否定できません。
しかしたとえ左利き、両手使いであってもそれは遺伝よりも生きている環境の影響によることの方が実際は多いのです。
利き手の秘密-その2
また赤ちゃんに左利きが多いというのも万国共通で世界中どんな地域に行っても同じ傾向がみられます。
”なぜ赤ちゃんは左利きが多いのか?”を考える前にまずは”なぜ大人は右利きが多いのか?”を脳科学で探ってみます。
大人はなぜ右利きなの?
人の体の体型は基本的に左右対称です。
それなのになぜ利き手ができるのでしょう?
そしてなぜ利き手は右手なのでしょう?
利き手のカギは脳ではなく心臓にあります。
人の体の体型は左右対称であっても体の中身は左右対称ではありません。
全内臓逆位と言って心臓が右にある人は5000人に1人程度と言われています。
実際自分も今まで多くの人の胸のレントゲンを見てきましたが心臓が右にあった人は1人しか見たことがありません。
おそらくあまり意識したことはないかと思いますが多くの方は左に寄って歩く傾向があります。
それは心臓のある左側を壁の方に向けることで危険から心臓を守ろうとする生理的な防衛行動です。
このように人の行動はいろいろな場面で心臓を守ろうとすることを優先させて行動していることがわかります。
人の時代をずっとさかのぼって人がまだ木に登ってサルと同じような行動をしていた時代を考えてみましょう。
人が木に登っています。
片方の手で木の幹につかまりながら、もう片方の手を伸ばして枝についている実を取ろうとしています。
“サルも木から落ちる”ということわざのように木から落ちてしまった時のことを想像してみてください。
頭は左右どちらにもありますが心臓は左側です。
サルも木から落ちる
地面に落ちた時体の左側が下になって落ちると心臓には地面にぶつかった衝撃が直接伝わってしまいます。
しかし左側が上に落ちればその衝撃から少しでも心臓を守ることができます。
このように木から落ちた時のことを考えると木の幹はどちらの手でつかんで実はどちらの手で取るのが安全なのかおのずと決まってきます。
つまり左手で木の幹をつかんで右手で実を取るのです。
そうすれば万が一木から落ちても手を伸ばした右側から落ちていくので右側が下になって地面に着地する可能性が高くなります。
おそらく人は幾度となく木から落ちることでこのようなことを学んでいったのではないでしょうか。
時には心臓を強く打って死んでしまった人もいたでしょう。
利き手の秘密-その3
左手で木の幹をつかんで右手で実を取る方が長く生存していくことに関して有利という結論にいたったのです。
そのようなわけで右手で実を器用に取るようになり人は右手が利き手になっていったのです…という仮説があります。
人は最初から言葉を自由にあやつっていたわけではありません。
最初は身振り手振りでコミュニケーションをとっていました。
木の実を右手で取っていたためすでに右手の方が器用に動くようになっていた人は当然右手を使って手ぶりでコミュニケーションをとるようになります。
微妙なニュアンスも器用に動く右手の方がきっと伝えやすかったに違いありません。
つまり言葉の原型は右手の手ぶりから作られた可能性があるのです。
右手を動かすのは左の脳です。
左の脳には言語野という言葉をつかさどる部分があります。
”言語野の脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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右手を動かすのも言葉を発するのも左の脳ですからネットワークの連携も当然良好です。
利き手の秘密-その4
コミュニケーションを右手で取ることによって右手がますます起用となった人は右手をますます利き手にしていったのです…という仮説もあります。
いずれにしてもさまざまな仮説のもと人は地域を超えて時代を超えて右利きとなったのです。
利き手の秘密-その5
左の脳に言語野がありまた人は右利きであるという事実は元をたどれば心臓が左側にあるという事実から波及していった結果とも考えられます。
心臓は全身に血液を送り続けるといういわばポンプの働きをするだけでなくわれわれの体や脳の機能にまで広く深くかかわっているのです。
赤ちゃんはなぜ左利きなの?
それではいよいよ赤ちゃんはなぜ左利きなのかを考えてみましょう。
ここまで色々となぜ人が右利きになったのかを考えてきました。
これにはさまざまな説があります。
しかし赤ちゃんが左利きであることに遺伝が影響している可能性はとても低いことはほぼ間違いありません。
赤ちゃんが左利きである理由のカギも脳ではなく心臓にあります。
お母さんでなくてもあなたが赤ちゃんを抱っこしている姿でも構いません。
ほとんどの方は赤ちゃんの頭を左側にして抱っこしています。
1つ目は赤ちゃんの頭がお母さんの心臓の近くにあることでお母さんの心臓の鼓動を赤ちゃんが直接感じることで安心感や心地よさを感じているからです。
ですから赤ちゃんの頭が左側にあったほうが赤ちゃんは早く機嫌が良くなりますしすやすやと眠りやすくなります。
2つ目は利き手でない左手で赤ちゃんの頭や体を支えることでお母さんの利き手である右手が比較的自由に使えるようになることです。
赤ちゃんを抱っこしながら何か他のことをするのにはその方が圧倒的に便利です。
他にも色々な理由がありますがとにかく赤ちゃんは頭を左にして抱っこされることが圧倒的に多いのです。
利き手の秘密-その6
赤ちゃんが頭を左にして抱っこされている姿を想像してみてください。
赤ちゃんの右手は抱っこしているお母さんと自分の体にはさまれて窮屈な状態となり思うように動かせません。
一方で左手は自由に動かすことができます。
抱っこされている時間の長い赤ちゃんほど左手を使う時間が長くなるのでその結果左手でなんでもしようとします。
そして気づいたら左利きになっていた…まあそんな感じですね。
人である以上心臓が左にあるのは世界共通なので当然赤ちゃんの頭を左にして抱っこするのが多いのも世界共通と言えます。
ですから赤ちゃんは世界中どんな地域に行ってもたいてい左利きなのです。
それではどうして赤ちゃんは成長すると右利きに変わっていくのでしょう?
右利きが生きやすい世界
先ほど説明したように人は地域を超えて時代を超えてずっと右利きです。
ですから人の住む世界は右利きの方が便利になるように作られています。
少数派の左利きの人にはちょっと住みづらい世界かもしれません。
つまり右手で小銭やお札を入れたり携帯やカードをタッチしたりしやすいようになっています。
そんな例はまだまだあります。
ピアノを弾く時たいてい主旋律は右手で奏でて左手は伴奏になります。
それは利き手である右手の方が器用に豊かな表現力で演奏できるからです。
そのためピアノの鍵盤は右側にいくほど高音になっています。
ココに注意
赤ちゃんの時に左手が利き手であっても右手に便利な世界で生きていくために無理やり利き手を右に矯正するかあるいは自らの力で右利きに変わっていく人が多いのです。
脳は右利きが生きやすい世界に順応していくために利き手を変えるのです。
多くのことは知らず知らずのうちに脳で支配されています。
しかし中にはこのように脳が支配されていることもあるのです。
利き手は心臓がカギとなっています。
そしてそれは危険を極力回避して長く生存していくための人の知恵なのです。
脳はその知恵に柔軟に従っているのです。
”そうはいっても左手だって大事だよね!”
”左手の無限の可能性を解放したい!”
というあなたはこちらをご参照ください。
”利き手の秘密の脳科学”のまとめ
利き手の秘密について脳科学的に解明してみました。
今回のまとめ
- 利き手にはほぼ遺伝的要因はありません。
- 赤ちゃんは世界中どんな地域に行ってもほとんど左利きです。
- そして成長するとほとんどの人が右利きになります。
- この事実は地域を超えて時代を超えて共通する傾向です。
- そのカギは脳ではなく心臓にあります。
- 左側にある心臓を守るために人は右利きになったのです。
- 多くのことは脳で支配されていますが利き手は脳が支配されて柔軟に従っているだけなのです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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