「後悔先に立たず」って言いますが後悔ってどういうこと?
新しい自分を見つけ出すにはどうしたらいいの?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきますね。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 「後悔先に立たず」からあなたのイノベーションを導き出す方法を探り新しい自分を見つけ出す脳科学的な意味がわかります。
「後悔先に立たず」を引き起こす後知恵バイアス
新しい自分の脳科学
- 自分を過信してあらゆる可能性を考えることを怠ることで後悔は生まれます。
- 自分の失敗に対して言い訳として後知恵バイアスを並び立てても後悔先に立たずです。
- しかし脳は後悔しない生き方などできないですし望んではいません。
- 脳は後悔を恐れつつも常にイノベーションを求めています。
- イノベーションは斬新すぎる発見である必要はありません。
- 後悔をしてでも先人たちの知恵に自分なりのスパイスを効かせたイノベーションから新しい自分を生み出してみてください。
みなさんは一度ならずとも何度も後悔をしたことがあるのではないでしょうか。
あなたは毎日通い慣れた道を使って通勤しています。
今朝は寝坊してしまい出勤時間ギリギリです。
間に合うかどうかのタイミングです。
そこでいつもは通らない裏通りの近道を通って行くことにしました。
しかしそういう時に限って運は悪いものです。
先日の台風の影響で橋が工事中で通行止めです。
結局いつもの道まで戻って職場に向かったので大遅刻です。
こんな時あなたならどのような感情になるでしょうか?
① まあ仕方ないですね…
② 最初からいつもの道で行けばよかった…
多くの人は②を選ぶのではないでしょうか。
では後悔はどのようにして生まれる感情なのでしょうか?
「最初からいつもの道で行けばよかった…」という考えは事前に
「以前にも似たような状況があり橋が通れない可能性があることを知っていた。」
あるいは
「先日の台風を考えると少なくとも橋が通れない可能性を考える余地はあった。」
そんな思いが心のどこかに存在していたことを前提としています。
「橋が通れない可能性をまったく考えてもみなかった…」
そうは思っていないはずです。
橋が通れない可能性をあまり重要視していなかったからこそ近道を選んでしまったわけです。
新しい自分の脳科学-その1
ある事柄が起こってから振り返ってみた時に
前もって予測できたはずなのに…
本当ならできたはずなのに…
そのように考えがちです。
これを後知恵バイアスと言います。
何かしらの事柄が起きてから予測できないことまで予測できていたかのように考える心理です。
“後知恵バイアスの脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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どんな出来事でもそれが生じる前には多くの可能性があったはずですが後から振り返ってみると現実が100%必然であったかのように見えてくるものです。
橋が通れるか通れないかは行ってみないと分からない。
通れる可能性もあれば通れない可能性もあったはずです。
しかし橋が通れない現実を目の当たりにすると
やっぱりね…
通れないと思ってたよ…
だから通れないって言ったじゃない…
そんな発想で頭がいっぱいになります。
これらは典型的な後知恵バイアスによる錯覚です。
そもそも後知恵バイアスは医師が自分の診断力を過信していたことから発見されました。
まるで病気を予見していたかのように「そんな生活をしていたら病気になるのは当然ですよ。」
そんな発想が後知恵バイアスを生み出しています。
後知恵バイアスの悪しき点は「あれが予兆だった」とありもしない因果を頭の中で捜索して妙な迷信を導いてしまうことです。
後知恵バイアスは後悔の念をより一層強くします。
そして最終的には後悔してももう時すでに遅しという「後悔先に立たず」の心境を生み出すのです。
「後悔先に立たず」の思いをしたくなければ「もっと事前にあらゆる可能性を考えて慎重に行動したり発言したりしなさい」ということになるのでしょう。
しかしそもそも後悔せずに生きることなんて可能なのでしょうか?
後悔しない生き方なんでできるはずがない
自分がおかれた境遇を残念に思う感情には主に2つあります。
1つは「後悔」です。
そしてもう1つは「落胆」です。
落胆は自分が期待していたよりも悪い結果になってしまったことに対してネガティブになる感情です。
一方後悔は自分の取った選択により悪い結果になったことへ抱くネガティブになる感情です。
つまり後悔は落胆よりも脳科学的には高度な感情なのです。
もっと良い選択肢があったかもしれない…
後悔は一歩引いた位置から自分を客観的に見つめ返す必要があるのです。
落胆の感情はヒト以外の動物にもあるありふれた感情です。
エサをもらうと動物は快楽を感じ報酬系回路が活発に働きます。
“報酬系回路の脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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しかしエサが予想よりも少なかった場合には報酬系回路は作動しません。
つまり落胆は「快楽の抑制」という形で脳内では処理されています。
動物の後悔については長年謎に包まれていましたが最近動物にも後悔の感情が存在することがわかりました。
ネズミがエサをもらう行動で脳活動を観察し後悔していることを報告しています。
後悔をしている時ヒトは脳の中の眼窩前頭皮質という部分が活発に働いていることが知られています。
今回の研究では自分の選択のミスによってエサを取り逃がしたネズミの脳を調べています。
すると驚くべきことにネズミの脳でも眼窩前頭皮質が活発に働いていることが分かりました。
つまりネズミはエサを取り逃がして後悔をしているのです。
ヒトもネズミも同じ脳のメカニズムを使って失敗した過去を悔しがっているのです。
なんとも不思議ですよね。
新しい自分の脳科学-その2
では「後悔先に立たず」な生き方ではダメなのでしょうか?
常に正しい選択をする生き方だけが正しい生き方なのでしょうか?
あなたのイノベーションはどうやって生まれる?
後悔しないためにうまくいくことが決まっているやり方で成功するよりも新しい戦略(=イノベーション)で成功した方が脳はより大きな快感を得る。
イノベーションは脳にとって快感なのです。
新しい自分の脳科学-その3
脳は後悔を恐れつつも常にイノベーションを求めて生きています。
イノベーションは「情報探索」と「情報利用」から生み出されます。
情報探索とは情報を集めることです。
新しい街に引っ越してきた時まず家の近くの飲食店をいろいろ検索してどのお店が自分に合っていて美味しい料理を出すお店かを確かめますよね。
当然行ってみて後悔するお店もでてきます。
しかし後悔を積み重ねてしばらく情報探索を行っているとどのお店が自分の好みかがわかってきます。
するともはや探索して試行を続ける必要はなくなります。
自分好みのお店に通えばよいのです。
これが情報利用で集めた情報に基づいて行動します。
お気に入りのお店の常連客であり続けることは決して得策であるとは限りません。
なぜなら最近開店した別のお店の方がより自分好みで自分に合っている可能性があるからです。
あるいは以前は自分には合わなかったお店の料理人が変わって自分好みに変貌しているかもしれません。
ですから時には通い慣れたお店を浮気して勇気を出して別のお店をチェックする必要があります。
そこにはまた後悔が待ち受けているかもしれません。
新しい自分の脳科学-その4
ただ決め打ちで情報利用するばかりでなく時に情報探索を織り交ぜて情報を常にアップデートするのです。
このように後悔をしつつもアップデートを繰り返すことでイノベーションは生み出されていきます。
賢(かしこ)い情報探索は確実な情報をもたらし後悔のない情報利用を可能にします。
それでは脳はどのようにして情報探索と情報利用という2つの作戦をうまく切り替えて新たなイノベーションを生み出していくのでしょう?
脳には1つの行動を選択する時にさまざまな選択肢に対して価値づけを行います。
そして価値づけを行うためにはそれぞれ専用の脳回路が存在しています。
現在の選択が成功するかどうかを判断する時…内側前頭前野
他の選択肢の成功率を推測する時…前頭極皮質
選択肢を変更する時…線条体
選んだ選択肢が成功した時…側坐核
選んだ選択肢が失敗だった時…前部帯状皮質
この中で興味深いのは選択肢が成功した時と失敗した時の脳回路です。
成功した時に活発に働く側坐核は報酬系回路の中にあります。
つまり自分の選択が正しかった時には脳は快楽を感じるのです。
“報酬系回路の脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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さらにもう1つ興味深いのは側坐核の活動は情報利用で成功した時よりも情報検索で成功した時の方が激しかったことです。
つまりいつもの通い慣れたお店で美味しいと感じる快感よりも新しいお店に挑戦して美味しいと感じた快感の方がたとえ同じ美味しいであっても快感度がずっと高いのです。
一方で失敗した時に活発に働く前部帯状皮質は痛みの回路の中にあります。
つまり元来は痛みの専用回路であった脳部位が失敗したことに不快感を検知するために使いまわされているのです。
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情報探索はいわば一種の賭けです。
成功するとは限りません。
宝くじを買うようなものかもしれません。
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成功するかもしれないし失敗するかもしれないという不安定な心理状態は脳にとっては不快です。
ですから不快から抜け出すだけでも脳にとっては快感となり得るのです。
新しい自分の脳科学-その5
何かを選択するという決断自体が脳にとっては快感です。
そのうえ選択の結果までうまくいったとなれば快感はさらに上乗せされます。
ですから情報探索で成功した時の喜びはひとしおなのです。
われわれが決して安定だけを求めず後悔してまでも常に何か新しいもの=イノベーションを模索し続ける秘密はここにあるのです。
脳は常に快感を求めてさまよい続けいているのが心地よいのです。
新しい自分を生み出そう
しかしそうはいってもあまりにも斬新すぎる新発見は自分にも他人にもなかなか受け入れられないものです。
斬新すぎるアイデアは世の中に理解されないことを脳科学的に証明した研究があります。
研究では過去に出版された科学論文を調査して発見の革新性と影響力の関係を論じています。
研究者は科学論文を書く時には必ず過去の論文を引用します。
これは科学論文に限った話ではなく通常情報を提供する媒体(ブログも当然含まれます)では引用はとても大切な役割を果たしています。
自分の研究が過去のどのような知見の延長にありどのような知見を活かしてどのような新しい発見をもたらしたかを引用文献を明示することで世に問うわけです。
ですから引用論文のリストを見ればその科学論文をある程度は評価できてしまうわけです。
ある過去の論文がいくつもの新論文に共通して何度も引用されていたとすればそれはありがちな発想であり元の論文を読めば誰もが簡単に思いつく程度のアイデアであったにすぎないということです。
一方で引用されている論文が他の論文では引用されていないような論文ばかりであればその論文は誰もが思いつかないような新しいアイデアと判断できます。
実際に論文が後世にどれだけ影響を与えたかについてはその論文自体がその後何回引用されたかを調べればわかります。
数多く引用されている論文ほど論文で発表された新しいアイデアがその後の世界において重要な発見であったことを意味しているからです。
科学論文の多くは保守的な内容のものが多く革新的で斬新な内容の論文はとても少なかったのです。
つまりどの論文もまったくの新しいものばかりでなくどことなく似たり寄ったりの内容のものが多かったのです。
しかし保守的な内容が悪いわけでは決してありません。
後世への影響が強い論文は単に革新性が高かっただけではなく同じように保守性も高かったのです。
新しい自分の脳科学-その6
革新性と保守性は相反するベクトルではなく別々の因子として共存しているということです。
両者のバランスが過去のアイデアと新しいアイデアをうまく引き立てているのです。
単に斬新なだけでは世の中には理解されない独善的な論文になってしまうのです。
かつて偉人たちが導き出した斬新な知識もすぐには世の中には認められませんでした。
ニュートンの万有引力
アインシュタインの相対性理論
ダーウィンの進化論
しかしこれらの理論も当時広く受け入れられていた理論にほんの少しのスパイスを効かせて画期的な発見を生み出されています。
わたしたちの思考は先人たちのアイデアのコラージュによって成り立っているのです。
ヒトの思考はゼロからは生まれません。
必ず種となるアイデアがあるはずなのです。
新しい自分を生み出すことはそう簡単なことではありません。
しかし何もまったく新しいものを生み出す必要はありません。
新しい自分の脳科学-その7
先人たちの知恵を拝借しつつ何か1つでも独自のアイデアを織り込んでイノベーションを導き出せばよいのです。
そのためにはいくら後悔したっていいのです。
あなたも「後悔先に立たず」から新しい自分を生み出してみてください。
イノベーションを学ぶための定番の著書をご紹介します。
ぜひ手に取って新しい自分探しに役立ててみてください。
“新しい自分の脳科学“のまとめ
「後悔先に立たず」からあなたのイノベーションを導き出す方法を探り新しい自分を見つけ出す意味を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 自分を過信してあらゆる可能性を考えることを怠ることで後悔は生まれます。
- 自分の失敗に対して言い訳として後知恵バイアスを並び立てても後悔先に立たずです。
- しかし脳は後悔しない生き方などできないですし望んではいません。
- 脳は後悔を恐れつつも常にイノベーションを求めています。
- イノベーションは斬新すぎる発見である必要はありません。
- 後悔をしてでも先人たちの知恵に自分なりのスパイスを効かせたイノベーションから新しい自分を生み出してみてください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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