データを見せられるとつい信じてしまい、偶然の分布に気づかずに惑わされてしまうのはなぜなのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 偶然の分布が生み出す「少数の法則」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
脳は数字に振り回される
「少数の法則」の脳科学
- 少ないサンプルによって得られた統計的な結果を無意識のうちに正しいと思い込んでしまう脳のクセを「少数の法則」と呼びます。
- 「少数の法則」は“目の前の目に見える情報を何となく正しそうな因果関係を見つけ出して信じ込む”という脳の自己満足です。
- どのような情報でもサンプルの数を確認して、偶然の分布が生み出す「少数の法則」にはまり込んでいないか確認しましょう。
少数の法則
財務の責任者の依頼で「万引き」というテーマについての調査を実施したコンサルタントが結果の報告を始めました。
スクリーンには売り上げ高と比較して万引き率の高い店舗の名前が大きく映し出されています。
そして驚くべき事実がそこには書かれています。
「万引き率が高いのは、売上率の低い農村部にある店舗」
売上率が低い上に万引き率が高いということはまったく得をしていないということです。
しかもそれが農村部の店舗となれば誰もが驚くでしょう。
普通に考えれば、万引きが多いのは客が多く、売り場面積が広く、万引きがしやすい環境が整っている都会の店舗でしょう。
しかしコンサルタントが出した報告はそれとは異なる結果でした。
その結果を見て財務の責任者は次のように言いました。
しかしほとんどの人はなんかしっくりときていません。
あなたはその理由がわかりますか?
その理由は簡単で、「少数の法則」のワナにはまり込んでいるからです。
脳は簡単に数字にだまされます。
万引き率が数字で出されると、その数字だけを信じ込み、その他のものは見えなくなってしまうのです。
偶然の分布に惑わされるなかれ
わからない人は、万引き率のリストを下からながめて、万引き率の低い店舗を見てみてください。
すると驚くべき結果がわかります。
なんと万引き率が低い店舗のほとんどが農村部の店舗なのです。
つまり店舗が農村部にあるかどうかは決定的な要因ではないということです。
それは「店舗の大きさ」です。
大きい店舗では売り場面積が広く、たくさんの商品が陳列されています。
一方で農村部の店舗はたいてい小さい店舗であり、売り場面積が狭く、そのため陳列されている商品も少なくなります。
ですから小さい店舗ではたった1件でも万引きが起こると万引き率は急上昇してしまうのです。
ところが都会の大きい店舗ではたくさんの商品の中からたった1商品だけ万引きされたところで、万引き率としてはたいした影響はありません。
すなわち大きい店舗と小さい店舗では商品の分布数がまったく違うため、万引き率を同じ方法で解析してしまうと、偏(かたよ)った結果となってしまうのです。
大きい店舗と小さい店舗という「偶然の分布」にもかかわらず、データとして結果を提示されると無条件でそれを信じてしまう…これこそが「少数の法則」です。
「少数の法則」の意味
「少数の法則」とは、少ないサンプルによって得られた統計的な結果を無意識のうちに正しいと思い込んでしまうという脳の悪いクセです。
一般的に統計的データからものごとを判断する時には、「大数の法則」が働くので、サンプルの数が重要になると言われています。
ちなみに「大数の法則」とは、「サンプルの数が増えれば増えるほど得られるデータは正しいものに近づいていく」というものです。
大きい店舗で平均体重を計ると50キロでした。
大きい店舗では当然従業員もたくさん働いているので、たとえ新しい従業員が入っても、辞めていく従業員がいようとも、平均体重は50キロからほとんど変化はありません。
“平均体重50キロ”と聞くと成人男女の平均体重としては一般的でしょう。
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では小さい店舗ではどうでしょう?
小さい店舗では大きい店舗とくらべて当然従業員は少ないはずです。
ですから肉づきのいい大柄な従業員が入ってくれば平均体重は一気に跳ね上がり、逆にやせ細った従業員が入ってくれば平均体重は一気に下がります。
つまり、従業員の少ない小さい店舗では、たった1人の従業員の体重が従業員全体の平均体重に大きな影響をあたえるのです。
「少数の法則」のワナにはまり込むと、とんだ誤解をまねくことがあります。
たとえば小さい店舗にたまたま太った従業員がいて、平均体重が80キロだったとしましょう。
すると平均体重の調査結果として「小さい店舗の方が大きい店舗よりも平均体重が重いので、小さい店舗では太っている従業員が多い」という結論が出されてしまいます。
そのようにパッと考えつくでしょうか?
きっと多くの人はそのようには考えないはずです。
目の前に情報を見せられると、脳は情報の正確さや信頼性を考えることなく、とりあえず信じてしまいます。
特に、そこにそれらしいコメントがついているとますます信じ込んでしまいます。
よくよく考えれば間違えた理屈で単なる屁理屈にすぎないとわかるようなことでも、脳は目に見えるデータを信じ、目に見えないデータは信じないのです。
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さらに言えば、脳は何ごとにも因果関係を求めたがります。
「小さい店舗の方が大きい店舗よりも平均体重が重い」という情報を見せられると、それを信じ込み、そしてその原因を知りたくなります。
まったく間違えていても、なんとなく正しそうな因果関係があればそれでスッキリするのです。
結局のところ、「少数の法則」の意味とは、「目の前の目に見える情報を、何となく正しそうな因果関係を見つけ出して信じ込む」というただの脳の自己満足にすぎないのです。
「少数の法則」にはくれぐれも用心しよう
脳は数が多かろうが少なかろうがまったくお構いなしです。
目の前の目に見える情報だけを頼りに、その原因を探すことに一生懸命になり、最終的に自分なりに納得できればそれでいいのです。
しかしこの考え方は自分自身には通用しても、自分以外の他人にはまったく通用しません。
成人式で一部の若者が暴れているのを見て、最近の若者全般を礼儀がなっていないと非難する。
じゃんけんに続けて数回負けただけで自分はじゃんけんが弱いと思い込む。
少ない口コミ情報でも高評価の口コミであればその商品が最高の商品だと信じてしまう。
これらはいずれも自己満足のための自分勝手で間違えた思い込みです。
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「少数の法則」は日常生活にあふれかえっています。
ですから情報を見る時にはよく注意してください。
驚くような結果がでていても、実際にはただ単に「偶然の分布」にすぎないかもしれません。
「偶然の分布」から導き出された「少数の法則」にだまされてはいけません。
「少数の法則」の提唱者であるアメリカのプリンストン大学名誉教授であるダニエル・カーネマン先生も、かつてはサンプルの数を気にせずに統計をあつかっていました。
そしてある時、「サンプルが少ないと統計結果の信憑性(しんぴょうせい)が下がってしまう」ことに気づき、「少数の法則」を導き出しました。
ちなみにダニエル・カーネマン先生は2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。
“「少数の法則」の脳科学”のまとめ
偶然の分布が生み出す「少数の法則」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 少ないサンプルによって得られた統計的な結果を無意識のうちに正しいと思い込んでしまう脳のクセを「少数の法則」と呼びます。
- 「少数の法則」は“目の前の目に見える情報を何となく正しそうな因果関係を見つけ出して信じ込む”という脳の自己満足です。
- どのような情報でもサンプルの数を確認して、偶然の分布が生み出す「少数の法則」にはまり込んでいないか確認しましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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