どうして男と女…2つの性別が存在するのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い、勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきますね。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 男と女が存在する意味を脳科学で説き明かします。
男と女が存在する意味とは?
男と女の脳科学
- 男と女が地球上に存在するようになった理由は、遺伝子の交換を行うことで生物として進化するためです。
- 脳科学的にも男と女は脳の使い方が異なる生物種として存在してきました。
- しかし現代では男と女の存在する意味は薄らいできています。
- 今後さらなる科学技術の進化によって、男と女という定義は消えていってしまうかもしれません。
地球上には男と女が存在します。
その狭間からはさまざまなドラマが生まれます。
狂おしいほどの恋
切ない恋
すれ違いの恋
行きずりの恋
男女の葛藤(かっとう)と軋轢(あつれき)は多くの芸術作品の下地となっています。
もし世の中には性別がなければどれほどわたしたちの心は穏やかだったことでしょう。
なぜ男と女という、ある意味めんどうなものがこの世には存在するのでしょうか?
中には「男と女がいるからこそ商売が繁盛して活性化する」なんて意見がある人もいるでしょう。
しかしそれだけでは男と女が存在する理由にはなりません。
生物学的に言えば「オスとメスがある利点はなにか?」といういわば進化論的な疑問に行きつきます。
そもそも古代生物の世界では男も女もない無性生殖が主流でした。
男と女に性別が分かれて有性生殖が現れたのは、今から5億6000年も前のことです。
5億6000年前と聞くとはるか昔のように聞こえますが、地球の歴史を考えると実はそんな昔の話ではありません。
地球は46億年前に誕生しました。
そして最初の生物が地球上に誕生したのは40億年前です。
つまり生命そのものは地球誕生からわずか6億年で出現しているのです。
その時代の生物は当然無性生殖です。
つまり無性生殖だけの世界が35億年もの間続き、ごく最近になって(5億6000年前は地球の歴史ではごく最近になるのです)ようやく男と女に分かれたのです。
ではなぜ無性生殖から有性生殖へと変化したのでしょうか?
一般的に無性生殖の方が子孫を残すスピードが速く生物種の繁栄には有利とされています。
にもかかわらず生物が有性生殖を始めたのにはちゃんと理由があります。
それは「遺伝子の交換」による多様性の確保のためです。
遺伝子の交換には奇形が誕生する確率が増加するというリスクを伴います。
しかし遺伝子の交換によって生物としての進化の速度は格段に上昇します。
つまり環境への順応が早くなるのです。
男と女の脳科学-その1
現在地球上にヒトをはじめとする多彩な有性生殖の生物が闊歩(かっぽ)しているのは、男と女で遺伝子の交換を行ってきた恩恵をうけている証拠になります。
これが男と女が存在する意味になります。
ではもっと深く男性と女性が存在する意味を探ってみましょう。
男と女の脳科学
そもそも地球上に男性かしかいなかったら…あるいは女性しかいなかったら…いったいどうなるでしょうか?
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男と女の脳科学-その2
男と女ではそもそも脳の使い方が大きく異なっています。
だからこそさまざまなドラマが生まれるのです。
なんてキザな言葉を言った人がかつていました。
その真偽はともかくとして、男と女が異なった世界を感じているのは確かなことです。
脳の構造だけを見れば、実は男と女で大きな性差はありません。
以前左右の脳をつなぐ脳梁という部分は女性の方が発達していると報告されたことがあります。
DeLacoste-Utamsing C, et al, Science 216(4553):1431-2. doi: 10.1126/science.7089533, 1982
この報告を根拠に「だから女性はおしゃべりなんだ」と言われたこともあります。
しかしその後、再度研究が行われ脳梁の大きさに男女差がないことが証明されました。
男と女の脳科学-その3
最近の脳科学では、脳の「形」にはほぼ性差はありませんが、脳の「使い方」には性差が認められることが分かっています。
特に左右の脳の活動には男女の差が見られるようです。
健康な男女を何人か集めてジョークを聞いた時の脳の反応を調べます。
Azim E, et al, Proc Natl Acad Sci USA 102(45):16496-16501. doi: 10.1073/pnas.0408456102, 2005
脳の言語や知識に関係する部分が活発に働いており、その点に関して男女差は見られませんでした。
しかし女性だけに強く活動する脳の部分がいくつか見つかりました。
側坐核は快感に関係する脳の部分です。
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つまり女性の方がジョークを快楽に感じ楽しんでいるということになります。
側坐核の活動は期待と現実の差に比例します。
お金は同じ金額をもらったとしても予想よりも大きい金額であった方が嬉しいものですよね。
逆に同じ金額でも予想よりも少ないと、お金をもらってもちょっと悲しくなりますよね。
これと同じです。
女性はジョークのおもしろさを過剰には期待していません。
ですから予想以上にジョークをおもしろく感じ、素直に提示されたオチを楽しみ快感を得ています。
一方、男性はジョークのオチの前からジョークのおもしろさを過剰に期待してしまい、なかなか快感を得られません。
そのことに加えて、男性は妙な競争心から「うまいこと言うやつだなあ…」という嫉妬心もあり、素直にジョークを楽しめず、側坐核がうまく活動できていないのです。
皆さんもお笑い番組を見た時に男性と女性で反応が違うか確認してみてください。
きっと女性の方が楽しそうに笑っていると思います。
ですからお笑いのショーレースでは、審査員に男性が多いか女性が多いかで結果は大きく異なってくるのです。
男女数人を集めて絵画や写真などの芸術作品を見た時の脳の反応を調べます。
Cela-Conde CJ, et al, Proc Natl Acad Sci USA 106(10):3847-52. doi: 10.1073/pnas.0900304106, 2009
芸術作品を見た時の脳の活動では、脳の中の頭頂葉という部分で男女差が見られました。
特に作品に美しさを感じた時の差が激しく、男性は右側の頭頂葉だけを使っているのに対して、女性は左右両側の頭頂葉を使っていることが分かりました。
頭頂葉は脳の左右にそれぞれ存在しますが、もともとその機能は左右で異なっています。
右側の頭頂葉は主に空間認知…つまり空間内での位置や場所を把握するのに関与しています。
一方で、左側の頭頂葉はモノとモノの相対的認知…例えば前後や左右などの位置関係を把握するのに関与しています。
昔の原始的な生活を送っていたころの人類にさかのぼると、男性は狩猟をして獲物を捕らえ、女性は草木や野菜や果実などの採集を担っていたとされています。
つまり男性は狩猟に必要な空間認知の機能を発達させて道に迷わず適確に獲物を捕らえる機能が発達し、女性は食料としての草木や野菜や果実などを確実に採集するための空間認知機能に加えて、モノ同士の相対的認知の機能を発達させその能力を現在まで磨き続けてきたのかもしれません。
原始的な時代の社会的な役割の差が、現代の芸術作品の美しさの感じ方の差へとつながっていると考えると、なんとも不思議な感じがしてきます。
男性は狩猟する中で感じた美しい景色、女性は美しい草花がそれぞれの美への原点になっているのかもしれません。
単に進化論的な事情で男と女に分かれただけではなく、脳の使い方によって男と女に分かれるべきであったと考えると、性別はとても奥深いものに感じられます。
男と女が入り混じる現代の性事情
ここまで説明してきたように、進化論的にも脳科学的にも男と女が存在する意味が多少お分かりいただけたでしょうか。
LGBTの概念がその1つです。
LGBTとはLesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字をとった単語でセクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつです。
身体の性、心の性、性的指向などによって単に男と女に分けるのではなく、多様性をもった性別の考え方が一般的になっています。
そして近年、LGBTに代わりSOGIという言葉で表現されることもあります。
SOGIとは「Sexual Orientation and Gender Identity=性指向と性のアイデンティティ」の頭文字から撮った言葉です。
SOGIは誰もがそれぞれのセクシュアリティを持っているという考え方に基づいています。
男と女の脳科学-その4
このように性別に関する考え方は男と女に分けるのではなく、男と女が入り混じって多様性を持つことが必要となっています。
わたしたち人間は男と女による有性生殖にも手を加え始めています。
体外受精で獲得した人工受精卵を本来の母親でない女性に戻せば代理母が成立します。
つまり科学技術によって「遺伝上の親」と「生みの親」が異なることが現実化しています。
複数の親ができるのです。
ちなみに親になるのはそれだけではありません。
「育ての親」と「法律上の親(養親)」もいますので、1人の子供に最高で4人の親が同時に存在することになります。
現代の遺伝子工学ではさらに進化した事態も生じ始めています。
マウスのiPS細胞から卵子と精子を作り、健康な子供のマウスを作ることにすでに成功しています。
Hayashi K, et al, Science 338(6109):971-975. doi: 10.1126/science.1226889, 2012
この研究は日本から発信されています。
この技術がもしヒトに応用されれば、理屈の上では同性愛のカップルにも子供を授かるチャンスが生まれることになります。
それどころか自分の皮膚細胞から精子と卵子を作れば、自家受精も概念上は可能となります。
iPS細胞を使った技術革新は有性生殖と無性生殖の境界を一気にあいまいにすることでしょう。
マウスの発生過程である遺伝子の働きを調整することでオスをメス化させることが可能となっています。
オスに乳房や子宮が発達し出産も可能です。
Kuroki S, et al, Science 341(6150):1106-1109. doi: 10.1126/science.1239864, 2013
男と女の脳科学-その5
現代では科学技術によって、男と女を区別する「性」の定義は曖昧になってきています。
「性」は大まかに次の3つに分けられます。
遺伝子としての性…生物としての性
精神的自覚としての性…LGBTやSOGI
生殖機能としての性…妊娠や出産
今まではこれら3つの要素が重なって、男と女の存在する意味が成立していました。
しかし現代の「性」では、3つの要素はそれぞれ独立して歩み始め、男と女の存在する意味が薄らいでいます。
古き雅の時代では恋は「孤悲」と歌われています。
「孤悲」は万葉集でしばしば使われている表現です。
求める対象と共にいないことへの悲しさや、一人でいることの寂しさをあらわす言葉です。
しかし現代では男と女の定義はすでに崩壊しつつあり、男女の古典的な恋の概念そのものがひっそりと残っているだけなのかもしれません。
男と女の存在する意味は時の流れとともに大きく変わっているのです。
“男と女の脳科学“のまとめ
男と女が存在する意味を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 男と女が地球上に存在するようになった理由は、遺伝子の交換を行うことで生物として進化するためです。
- 脳科学的にも男と女は脳の使い方が異なる生物種として存在してきました。
- しかし現代では男と女の存在する意味は薄らいできています。
- 今後さらなる科学技術の進化によって、男と女という定義は消えていってしまうかもしれません。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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