あなたの想像する未来予想図はどんな世界ですか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 自分の想像する未来予想図は脳の中でどのように描かれていくのかを脳科学で説き明かします。
自分勝手な未来予想図
自分の想像する未来予想図の脳科学
- 多くの人は脳の中に今と変わりない安定した未来を描いています。
- 過去の記憶をゆがめてたり過去の自分に後悔したりしてまでも脳は変化のない未来を求める「歴史の終わり錯覚」に脳は縛られています。
- 「歴史の終わり錯覚」から導き出される過去から未来へと一貫して変わらない自分像を求める「一貫性バイアス」によってあなたの未来予想図は描かれています。
- 脳が感じ得ない「未来の記憶」を想像して自分の輝かしい未来予想図を描いてみてください。
あなたはどんな未来予想図を思い描いているでしょうか?
現在とそれほど変わらない生活をしているでしょうか?
それとも悠々自適な生活をしているでしょうか?
未来予想図の脳科学-その1
脳は自分の状況や物の価値はあまり変わらないであろうと思い込むクセがあります。
しかし何年も何十年も何も変わらないで生きていくことは想像以上に難しいことです。
ですから変わり果ててしまった自分の姿を見て自分の過去に対して後悔するのです。
“後悔の脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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たとえば若気の至りでタトゥーにお金をかける人がいますが大人になってかつての過ちを消し去るために高いお金を払う人がいます。
かつては結婚生活を強く望んでいたのに何年かたつと離婚を望む人がいます。
若かりし頃に食べまくって肥えた体を中年になってお金を払ってジムやスパで取り除こうと努力する人がいます。
脳は現在の自分の状況や嗜好は今後もずっと変わらないと勘違いをして生きています。
ですから自分勝手な未来を描き続けます。
現在の親友のうち10年前から親友である人数をA人、10年後も親友であると期待できる人数をB人とします。
AとBとどちらが多いでしょうか?
脳は「今の親友との絆は固く変わることはない」と勘違いをするのです。
未来予想図の脳科学-その2
脳は実際に過去の自分に起きた変化に比べ将来の自分に起こるであろう変化を低く見積もる傾向があります。
この傾向はなにも親友だけでなく好みの芸能人であったり好みの食べ物であったり趣味や休暇の過ごし方に至るまで様々な分野に共通して認められる習慣です。
ちなみにこの傾向はフランシス・フクヤマ氏の世界的大ベストセラーである「歴史の終わり」にちなんで「歴史の終わり錯覚」と呼ばれています。
ではなぜ「歴史の終わり錯覚」なるものが起こるのでしょうか?
「歴史の終わり錯覚」から学ぶ一貫性バイアス
脳は自分が理想とする姿に無理やりでも近づこうとします。
それを証明した研究があります。
ある有名作家が生涯に何冊の本を書いたかを想像して当てるテストをします。
ほとんどの人は正解を知らないために推測で答えてもらいます。
回答の平均は50冊でした。
実際には66冊です。
テストから時間をおいて正解を全員に伝えます。
そして「あなたは何冊と答えましたか?」とたずねます。
すると回答の平均はどう変わるでしょうか?
① 回答の平均は50冊で変わらない。
② 回答の平均は50冊よりも少なくなる。
③ 回答の平均は50冊よりも多くなる。
回答の平均は63冊まで増加しました。
「テストでは正解はしなかったけどそれでも自分は正解に近い解答をしていた。」
とばかりに記憶を都合よく書き換えるのです。
脳は「昔から自分はそうだった」と思い込む傾向があります。
ジョギングが習慣になれば以前から実はジョギングが好きだったと記憶がゆがめられます。
パスタを好んで食べるようになると以前から実はパスタを食べていたと思い込みます。
脳は自分が非定常で不安定な存在であることを嫌います。
未来予想図の脳科学-その3
自分は以前から一貫して変わらないと過去をゆがめて自分像を作り上げるこの傾向を脳科学的に「一貫性バイアス」と言います。
「自分は一貫していて変わらない普遍的なモノ」
そんな風に思い込む一貫性バイアスは誠実さ、有効性、先進安定性、好奇心、外向性などの性格や個性においてよく見られる現象です。
以前の自分と現在を比べてみて実はかなり変わっているにもかかわらず「あまり変化していない」であったり「変化はもう終わった」と脳は思い込むのです。
一貫性バイアスは「歴史の終わり錯覚」から生まれた現象です。
ちなみに「歴史の終わり錯覚」からは他にもいくつもの思い込み的なバイアスが発生します。
「ほら、だから言ったじゃないか…」
「以前からずっと言い続けいているけど…」
「自分のような経験者の言うことには耳を傾けるべきで…」
これは自分の記憶をゆがめて自分を正当化しようとする「認知バイアス」です。
「本来ならうまくいくはずだったのに…」
「やっぱりそうなると思ったよ…」
これも自分の記憶をゆがめるのですがさらに後悔する「後知恵バイアス」です。
“後知恵バイアスの脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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ヒトは夢を語る時は大きな希望をもって自分の未来を語ります。
しかし現実的に実現し得る未来予想図を思い描こうとすると脳は一貫性バイアスを働かせて
「夢は夢、現実は現実」
そんな風に割り切ってしまいがちです。
未来も今とさほど変わらない自分であることを幸せに感じるのです。
過去に比べて将来の自分像を具体的にイメージするのが難しいからなのかもしれません。
もしくは脳はもともと安定性を求め自分の本質が変わってしまうことを想像することが不快なのかもしれません。
ではなぜ脳は過去の記憶をゆがめてまでも今と変わらない普遍的な自分を未来に求めるのでしょうか?
記憶の意味を理解して未来を切り開け
過去の記憶はあるのに未来の記憶がないのはなぜなのでしょう?
この質問は言い換えれば
「なぜ時間は過去から未来への一方通行なのか?」
という本質的な問題につながっていきます。
そしてさらに言うならば
「なぜ時間が存在するのか?」
という哲学的ともいえる問題とも関係してきます。
なんだか話が複雑になってきましたが脳が時間を感じているからこそ過去は記憶となり未来へとつながっていくのです。
時間を感じるとはつまり変化を感じ取ることです。
刻一刻とさまざまなモノは時間の流れとともに変わっていき記憶となっていきます。
もし変化がなかったら時間経過を知ることができるでしょうか?
まったく変化のない世界を想像してみてください。
時計の針は止まり一切のものが静止しています。
何も変化しない世界で暮らしていたら時間を感じることはできないでしょう。
脳は変化するものを観察することではじめて「時の移ろい」を知ることができます。
何かが「変化した」という事実を知るために必要な要素こそが記憶です。
以前と現在の違いを知るためには以前にながめた世界がどのようであったかを記憶しておかなければなりません。
過去の記憶と現在目にして感じているモノとを比較して両者に違いを見出してこそ「変化した」と判断できるのです。
つまり脳に記憶が刻み込まれているからこそ時間の経過を感じることができるのです。
記憶は過去に見聞きしたことのいわば蓄積です。
時間が過去から未来へと一方通行に流れるからこそ脳は記憶を蓄えることができるのです。
もし逆方向に時間が流れてしまったらせっかく蓄えられた記憶がすべて消え去ってしまいます。
つまり時間が逆流すると脳内の記憶は失われていってしまいます。
ではそもそも「時間は逆流しない」という保証はあるのでしょうか?
実はそんな保証はどこにもありません。
時間は未来に向かっているだけでなく過去に向かって流れていてもおかしくはないのです。
先ほどの理屈では時間が逆行して過去に向かって流れ始めると記憶はかき消されていきます。
つまり脳に記憶として残らず感知することはできません。
「過去の記憶を用いて時間の流れを検出する」という手段を脳が採用している以上ヒトが感じ取ることができる時間は過去から未来に流れる一方向の時間だけです。
ですから脳は「あたかも時間は過去から未来へ一方通行であるかのように感じているだけ」なのかもしれません。
実は自分の知らないところで時間は未来から過去に流れているかもしれません。
そうすると最初の質問である
過去の記憶はあるのに未来の記憶がないのはなぜなのでしょう?
の答えは
未来の記憶は存在するものの脳には刻み込まれない消え去った記憶である
そんな感じになるでしょうか。
未来予想図の脳科学-その4
自分では実感できなくても消え去っていても「未来の記憶」はきっと存在するはずです。
そんな「未来の記憶」が潜在的に脳に働きかけて自分の未来予想図を変化のない安定したものにしようとしているのかもしれません。
もし未来の記憶が脳内に鮮明に残るものであれば過去と未来の両方向に広がる記憶によってもっと豊かな未来予想図を描けるのかもしれません。
未来予想図の脳科学-その5
鮮明に残っていなくとも脳にかすかでも刻み込まれた未来の記憶を感じ取れればあなたの未来予想図は過去からつながる一貫性バイアスに縛られない輝かしいものになるのではないでしょうか?
“自分の想像する未来予想図の脳科学“のまとめ
自分の想像する未来予想図は脳の中でどのように描かれていくのかを脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 多くの人は脳の中に今と変わりない安定した未来を描いています。
- 過去の記憶をゆがめてたり過去の自分に後悔したりしてまでも脳は変化のない未来を求める「歴史の終わり錯覚」に脳は縛られています。
- 「歴史の終わり錯覚」から導き出される過去から未来へと一貫して変わらない自分像を求める「一貫性バイアス」によってあなたの未来予想図は描かれています。
- 脳が感じ得ない「未来の記憶」を想像して自分の輝かしい未来予想図を描いてみてください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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