じっとしていられないで余計なことをしてしまうのはなぜなのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 余計な行動をしてしまう「過剰行動」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
「過剰行動」と「不足行動」
「過剰行動」の脳科学
- 脳はやるべきなのになかなかやれない「不足行動」よりも、ついやってしまう余計な「過剰行動」を好むようにプログラムされています。
- 「過剰行動」は余計な行動なので、多くの場合結果は失敗に終わります。
- 「過剰行動」の欲望を抑えて、「何もしない」を受け入れてみてください。
「過剰行動」とはついやりすぎたりやってしまったりする行動です。
必要以上に食べてしまう
だらだらテレビを見てしまう
ついスマホでゲームをしてしまう
これらの行動はいずれも必要のない行動です。
しかしついやってしまったりやりすぎたりしてしまいます。
一方で「不足行動」とは今は出来ていないがやった方が良い、あるいはやるべき行動です。
運動をする
本を読む
勉強をする
これらの行動は習慣化して継続すべき行動ですが、なかなか身につきません。
一般的には、不足行動を増やすよりも過剰行動を減らす方が難しいと言われています。
つまり本来はやらなければならないことを実際に行動に移すよりも、やりたいという衝動を抑えて行動しない方が難しいということです。
よく言われている理由は、不足行動をがんばって行ってもなかなか良い結果が得られず、目の前の過剰行動の欲望を抑えきれないからです。
がんばって勉強してもテストで良い点数が取れないと、
そのように思ってしまい、ついスマホでゲームをしたりマンガを読んだりしてしまうのです。
人によってはこのような行動に対して、
なんていうかもしれません。
しかし実は脳はもともと過剰行動を好むようにプログラミングされています。
ですから過剰行動を抑制する…つまり勉強せずにゲームをしたりマンガを読んだりするのは人間である以上仕方のない行動なのです。
ではなぜわざわざ脳には余計な行動をしてしまう「過剰行動」を好むようなプログラムが組み込まれているのでしょうか?
「過剰行動」を探ってみるといろいろとおもしろいことがわかってきます。
積極的に動く「過剰行動」は失敗の始まり
キッカーとゴールキーパーの1対1の対決です。
ではキッカーはどの方向にボールを蹴る確率が高いでしょうか?
確率的に言えば、真ん中、右、左いずれも3分の1の確率で同じはずです。
それに対してゴールキーパーはどのように動いているでしょうか?
ほとんどの場合、ゴールキーパーは右か左にダイビングしています。
つまり左右どちらにも動かずに真ん中に立ちつくしていることはほとんどないということです。
しかし真ん中にも3分の1の確率でボールは飛んできます。
ゴールキーパーが左右どちらかに激しくダイビングしているのを余所目(よそめ)に、キッカーが冷静にど真ん中にボールを蹴って鮮やかなシュートを決めるシーンを見たことがある人は少なくないはずです。
ではどうしてゴールキーパーはじっと真ん中にいられないのでしょうか?
左右どちらにも動かずにいられないのはなぜなのでしょうか?
その理由は単純です。
左右どちらかにダイビングした方が見た目がいいからです。
ただ真ん中に突っ立ったまま左右に飛んでいくボールを見送るよりは、飛ぶ方向を間違えてゴールを決められた方が、他の選手や観客に対して抱く気まずさは多少薄らぐでしょう。
ちなみにペナルティキックの時のゴールキーパーの動きに関しては、イスラエルの研究者が何百という映像を見て、過剰行動としてきちんと研究結果を報告しています。
たとえば街中で口ケンカして怒鳴り合っている若者の集団がいたとしましょう。
今にも殴り合いになりそうな雰囲気です。
そこに2人の警察官がやってきました。
若い警察官はすぐに止めに入ろうとしました。
しかし先輩警察官に制されて成り行きを観察していました。
結局口ケンカは殴り合いとなり、1人がけがをしてから警察官は介入しました。
一見すると若い警察官のようにもっと早く介入すべきだったと思うかもしれません。
しかし口ケンカの状況で警察官が早期に介入すると、その後の展開は余計に混乱し負傷者が多数出ることがある研究で証明されています。
そのため先輩警察官はすぐには介入しなかったのです。
負傷者が1人だけで済んだのは、若い警察官の過剰行動を抑制した効果なのです。
株式市場があわただしく動き始めると、いまだ株式の状況を正確に判断できていなくとも、多くの人は積極的な売り買いに走りがちになります。
しかし多くの場合は失敗に終わります。
投資において積極性は成果とは何ら関係はないのです。
脳は「自分がそれまでに経験したことがない」、あるいは「はっきりしない状況」では、過剰行動を起こしがちです。
しかしその多くの場合、結果は失敗に終わります。
後から冷静になって考えれば「自分の行動は過剰行動であり間違いであった」と気づくようなことでも、脳は何もしないではいられないのです。
「何もしない」を受け入れよう
自分も医師として診察をしていて、はっきりしない病状の患者さんを前にすると、とても困ることがいまだにあります。
そして多くの場合は「何もしない」は選択せず、検査を追加しつつ、薬を処方します。
そのように話を進めると多くの患者さんは納得します。
逆に、「何もせずに様子をみましょう。」…そのように言うと多くの患者さんは不安を口にします。
結局自分も患者さんも納得するのは検査を追加して薬を処方することなのです。
この場合、過剰行動を選択したとしても失敗ではありません。
しかし時間とお金がムダとなります。
脳が過剰行動を好む最大の理由は、人間の進化の過程にあります。
“人類史の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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人類がまだ狩猟や採集をしていた時代には、考え込んで動かないよりは、積極的に行動する方がずっと得でした。
動物や植物に素早く反応して行動することが生き延びるための重要な要素だったからです。
じっくり考えていては食糧は逃げていくか、他の誰かにとられてしまい、命取りになりかねません。
たとえば森の中でトラに似ている動物を見かけたとしましょう。
そのようなことをじっくり考えこんでいたら襲われて命を落とすかもしれません。
たいていの人間は「とりあえず逃げた方が賢明」と即座に考えて素早く反応して生きのびてきました。
原始時代においては、「自分がそれまでに経験したことがない」、あるいは「はっきりしない状況」では、積極的に行動する方がずっと得だったのです。
現代社会においては、「自分がそれまでに経験したことがない」、あるいは「はっきりしない状況」では、積極的に動くよりもじっくり考える方がうまくいく場合がほとんどです。
しかし祖先から積極的に行動するように脳の中にプログラミングされた状況を変えるのは不可能です。
ですから現代社会においても人はじっとしていられず積極的に行動してしまうのです。
さらに現代社会においても、多くの場合は「積極的な行動」は賞賛され、「何もしない」は批判される風潮があります。
たとえその決断が正しかったとしても多くの人は納得しないでしょう。
先ほどの話でも、診察室で「今はまだ何もせずにじっとしておくべきだ」と言っても多くの患者さんが納得しないのと同じです。
ところがどのようなことでも決断を下してさっと行動に移すと、たとえ偶然であったとしても状況が良くなれば賞賛の嵐です。
時には表彰されるかもしれません。
“決断の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考優柔不断で決断力がない人のための意思決定の脳科学
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わたしたち人間の社会は「待つ」という賢明な行動よりも、「すぐに動く」という軽率な行動の方が重要視されるのです。
しかし「すぐに動く」という軽率な行動が過剰行動となり失敗を招くことは決して少なくはありません。
特に「自分がそれまでに経験したことがない」、あるいは「はっきりしない状況」においては、「何かをしたい」という衝動を抑えて、「何もしない」を選択すべきでしょう。
過剰行動をしても多くの場合何も好転はしません。
良くなるのは自分の気分だけです。
脳の本能のままに生きていると、どうしても早く決断して積極的に、そして過剰に行動しがちになります。
行動することで状況が好転すると判断できるまで待っても、たいがいの場合は間に合うはずです。
「人間の不幸は、部屋でじっとしていたれないから起こるのだ」
ブレーズ・パスカル(フランスの数学者)
スマホでゲームする、マンガを読む、その手をいったん止めて冷静に自分の欲望を抑えてみてください。
「何もしない」を受け入れられるようになれば、きっと今まではかどらなかった勉強にも簡単に取り組めるようになるはずです。
“「過剰行動」の脳科学”のまとめ
余計な行動をしてしまう「過剰行動」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 脳はやるべきなのになかなかやれない「不足行動」よりも、ついやってしまう余計な「過剰行動」を好むようにプログラムされています。
- 「過剰行動」は余計な行動なので、多くの場合結果は失敗に終わります。
- 「過剰行動」の欲望を抑えて、「何もしない」を受け入れてみてください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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