銭湯やサウナでドラクエ行動をしてしまうのはなぜなのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
銭湯やサウナでドラクエ行動をしてしまう「集団心理」と「集団脳」を脳科学で説き明かします。
銭湯やサウナでのドラクエ行動
集団心理と集団脳の脳科学
- 銭湯やサウナでは集団心理が働き、すべてを一緒にぞろぞろと行動して大声で話をするドラクエ行動が時に見られます。
- 1人ではできないことも集団ではできてしまい、極端な行動を引き起こしやすくなることがドラクエ行動を生み出しています。
- 脳は集団になると集団脳を形成し、内省や倫理判断の領域の活動性が低下することで、本能的に集団心理が働きやすくなっています。
- しかし脳科学的な集団心理である集団脳は決して悪いことばかりではなく、意識的に集団脳を働かせて言動をすることで、時代を変えるようなイノベーションを生み出すこともあります。
- 脳科学的な集団心理=集団脳を理解して、マナーと節度のあるドラクエ行動を考えてみてください。
現代の日本では第3次サウナブームによって多くの施設がにぎわっています。
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サウナの醍醐味(だいごみ)は何と言っても、サウナトランス=「サウナでととのう」でしょう。
温かいサウナと冷たい水風呂、休息タイムを繰り返す温冷交代浴では徐々に体の感覚が鋭敏になってトランスしたような状態になっていきます。
トランス状態になると、頭からつま先までがジーンとしびれてきてディープリラックスの状態になり、得も言われぬ多幸感が訪れます。
”サウナでととのうの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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サウナ―達は至高のサウナトランスを味わうためにサウナに通うわけです。
しかし最近はサウナブームのせいか、サウナトランスの邪魔をするドラクエ行動が問題になっています。
ドラクエ行動とは、2~5人くらいの集団で銭湯・サウナにやって来て、体を洗うのも、湯船につかるのも、サウナで蒸されるのも、水風呂に入るのも、休憩するのも、すべて一緒にぞろぞろと行動することです。
しかもどこでもしゃべり続け、時には大声で話したり笑ったりと、黙浴はどこへやらという感じです。
ドラクエとは、ドラゴンクエスト(DRAGON QUEST)の略語で、1986年5月27日にエニックス(現在はスクウェア・エニックス)より発売されたロールプレイングゲームで、仲間とともにパーティを作り、冒険をしながらモンスターと戦っていきます。
発売当初から人気を集め、現在ドラクエⅪまで発売されています。
パーティはぞろぞろと列をなし、どこに行くにも誰と戦うにもいつも一緒に行動をします。
ドラクエ行動をする集団を不快に思われている人も少なくないはずです。
また時には集団に注意をしてトラブルになるケースもあります。
では銭湯やサウナでドラクエ行動をしてしまうのはなぜなのでしょう?
ドラクエ行動を生み出す「集団心理」
集団心理(群衆心理)とは、複数の人が集まって集団が形成された時に起こる特殊な心理状態のことです。
1人ではできないことも集団ではできてしまう…これこそが集団心理が引き起こすワナです。
集団の中では多数派に同調して、合理的な思考力や判断力が抑制されやすくなります。
その結果、集団全体として極端な行動を引き起こしやすくなります。
たとえばいじめ、SNSでの炎上、スポーツでの乱闘騒ぎ、カルト宗教、マルチ商法、自己啓発セミナーなどは集団心理が悪い方向に働いた例と言えるでしょう。
「赤信号みんなで渡れば怖くない」
心理学的には、集団になると冷静さを失い、衝動的で危険な行動をしたり、ルール違反や迷惑行為に走ったりしやすくなるわけです。
匿名性
不特定多数の中に混じると、一個人としての責任や恥じる気持ちなどの社会的なモラルが低下しやすくなります。
1人では個人が特定されてしまいますが、集団ですと誰が言い始めたのかがあいまいになります。
すると普段しないような過激な発言も「言ってもよいだろう」と思ってしまい、無責任な発言や行動がしやすくなります。
「悪いことをしているのは自分だけではない」という誤った安心感が、犯罪や迷惑行為を引き起こしやすくします。
「自分だけでなく他の人もやっているから…」と自己正当化をして、罪の意識が薄れて悪いことをしていると感じにくくなってしまうのです。
被暗示性
集団となり、大勢で同じことを話し同じ行動をしていると、冷静な判断力を失ってしまい、つい自分もその場の雰囲気に合わせた言動をしやすくなります。
特に日本人は協調性を大切にする文化的な背景がありますので、「みんながやっているから自分もやる」といった具合に、周囲の人に流されやすい傾向があります。
空いている店よりも行列ができている店にわざわざ並ぼうとするのは、まさに被暗示性の影響と言えます。
“同調バイアスの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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感情性
日本人は一般的に「感情的になるのは好ましくない」という価値観を持っています。
ですから外国人と比較して人前で感情を抑えようとする人が多いとされています。
しかし集団になると、つい周囲の人に同調して感情が出やすくなり、感情優先の状態におちいります。
普段は物静かな人でも好きなアーティストのライブ会場に行くと気分が高揚して別人のようにノリノリになったり、好きなスポーツチームの試合観戦に行くと感情的に叫びながら応援してしまったりと、集団心理が働くと周りの人たちの感情の影響を受け、自分も感情に従った言動をしやすくなるのです。
権威性
自分1人では「自信がない」と思って行動をためらう人でも、集団になると気が大きくなって大胆に振る舞うことがあります。
また、時には他人に対して、暴力的になったり攻撃的な態度をとったりすることもあります。
1人では相手に何も言い返せない人が、集団になることで自分が強くなったと感じて、相手を挑発したり暴力を振るったりしてしまいます。
集団になると「自分は1人ではない」と感じ、大胆な行動ができるようになるのです。
「虎の威を借りる狐」ということわざもあるように、集団に権威やブランドがある場合には、それを味方につけて相手を威圧したり自分の思い通りにコントロールしたりしようとすることも集団心理が原因となっています。
善意性
例えば、1人では恥ずかしくて駅前に立って募金活動ができないという人でも、同じ目的を持った人が集まって集団になると恥ずかしさが薄れてちゃんと募金活動ができる…というように、集団心理が良い方向に働くこともあります。
サッカーのワールドカップで、試合後に観客席のゴミ拾いをする日本人の姿は世界中から賞賛されています。
これも善意の集団心理と言えるでしょう。
集団心理が働くと、1人ではできないことに挑戦できるようになり、さまざまなメリットを生み出す可能性があるのです。
また同じ思いを持つ仲間が集まり共感し合うことで喜びや感動を分かち合い、1人の時よりもずっと幸せな気持ちになりやすくなります。
サッカーのワールドカップで日本が勝った時に、お互いを知らない人同士が喜びを分かち合って抱き合う姿は、まさに集団心理のメリットと言えるでしょう。
このように集団行動はデメリットばかりがクローズアップされがちですが、集団心理を理解してうまくコントロールできるようになれば、今までにない自分を引き出すことも可能となります。
すべての人は他人に対して影響を与えています。
「自分は人に影響を与えている」という自覚を持ち、お互いを肯定し合ったり、モチベーションを高め合ったりなど、ポジティブな方向で影響を与え合うことができれば、集団心理のメリットが生かせるはずです。
脳科学的な「集団心理」=「集団脳」
ここまでは心理学的な見解から「集団心理」を説き明かしてきました。
ここからは、脳科学的になぜ脳は「集団心理」なるものを引き起こすのかを探っていきましょう。
集団心理は本能である
集団の一員として行動している時に脳はどのような活動をしているのでしょう?
研究の論文を読んでみたいという方はこちらをご参照ください。
Cikara M, et al. Neuroimage 96:36-43. doi: 10.1016/j.neuroimage.2014.03.080.
学生の被検者23人にあるゲームをしてもらいます。
画面に出たメッセージに従って素早く反応して、勝つとお金が手に入るというゲームです。
ゲームは個人同士の対戦とグループ同士の対戦の2通りの方法で行われると説明します。
メッセージの内容はあらかじめ被験者を調査し、それに基づいたものが使用されました。
その内容は「Facebookに600人以上の友人がいる」などのSNSに関するものと、「みんなで共有している冷蔵庫から食べ物を盗んだことがある」などの道徳的な問題に関するものが含まれていました。
被験者がゲームをしている間、研究チームは被験者の内省や倫理判断と関係している脳の領域をモニターしました。
ちなみに内省とは、自分自身と向き合い自分の考えや言動を振り返り気付くこと、つまり何がいけなかったのかを把握するとともにどうすればいいのかに結び付けられる考え方のことです。
結果は、被験者たちがグループ対戦と告げられた時は、個人での対戦と告げられた時に比べて、道徳に関わるメッセージが表示された時の脳の活動が著しく低下していたことがわかりました。
またゲーム終了後、対戦相手の顔写真を被験者に選ばせたところ、脳の活動が低下した被験者は、チームメイトに比べて写りのよくない対戦相手の顔写真を選ぶ傾向を示しました。
この研究で最も注目すべき点は、集団の中にいると道徳に関わるメッセージに対しては、特異的に内省や倫理判断と関係している脳の領域の活動が低下するということです。
つまり集団では道徳に対する意識が薄れることで匿名性を生み出し、個人の責任を縮小させ、“大義のためには必要である“という考えで、倫理に反する言動を起こしやすいということです。
集団の中では自分の利益に関係しようがしまいが、それとは関係なく自らの記憶自体が多数派に同調して書き換わってしまい、多数派の主張する嘘の事実を本気で信じてしまう現象が脳の中では起きているのです。
集団心理を生み出す集団脳
ではなぜ集団の中にいると脳は内省や倫理判断を低下させ、道徳観を失うような言動をとるようにプログラミングされているのでしょう?
その最大の理由は、人類が地球上で生き延びて反映していくためです。
わたしたちが当たり前のように使っている知識やテクノロジーはどれも、わたしたちの祖先が長い年月をかけて他の個体から学び、集団の中で共有し、世代を超えて伝えてきたもの、つまり文化の累積です。
人類はこうして積み上げた文化を活用して環境にうまく適応し、いまの繁栄を手にいれてきました。
これを可能にしたのが「集団脳」です。
人類が現代社会において他の動物とはまったく違う存在なのは、個体それぞれの頭脳が優れていて創造性や発明に優れているからではありません。
たくさんの脳が集まってできた「集団脳」を使って、時を超え文化を積み上げてきたおかげなのです。
集団脳が発達するには、1つの個体が学習するだけではダメで、それが集団の他の個体へ、さらには次の世代へと伝えられなければなりません。
そのためわたしたち人類には、他者から学び、集団で生活し、文化を蓄積していくために、さまざまな行動がプログラムされています。
つまりわたしたちは「ついつい他人から学び、ついつい集団に従ってしまう」生き物なのです。
「誰の影響も受けていない」と思っているあなた自身も、実は無意識にこうした行動をとっているはずです。
車がまったく来ないのに青信号になるまで待ったり、有名人が宣伝する商品をつい選んでしまったり、行列ができているラーメン店にわざわざ並んだり…挙げればきりがありません。
同郷の人や同じ言語を話す人に親近感を感じるのも、同じ仲間の集団から学ぼうとする反射的な行動の1つと言えます。
ですから集団の中では内省や倫理や道徳などは邪魔なもので、そのような縛(しば)りから解き放たれ、集団内での相互のやりとりをとにかくうまく行ってこそ、集団脳は時代を変えるようなイノベーションを生み出すのです。
人類は集団で文化を生み出し、文化に依存して進化をしてきたと言えます。
ですから集団心理は本能であり、集団の本能が集まってできたものが集団脳であり、それにより人類は地球上で生き延びて反映できたわけです。
脳科学的ドラクエ行動回避法
では脳の本能で生み出されたドラクエ行動を回避するにはどうしたらよいのでしょう?
ドラクエ行動をとっている時は、集団心理が働き内省や倫理判断と関係している脳の領域が低下していることは説明しました。
ですからドラクエ行動を回避するためには、内省や倫理判断と関係している脳の領域を意図的に働かせればよいのです。
つまり集団に身を置いた時には、まずは意識的に一度立ち止まって考え、これまでの自分の道徳観念と照らし合わせて、その行動が果たして倫理的であるのかどうかを省(かえり)みることが、集団心理の影響を弱めるのに役立つ方法の1つと言えるでしょう。
ドラクエ行動を回避するもう1つの方法は、集団脳に洗脳されないことです。
さきほどの研究では、もう1つ興味深い結果を示しています。
それはすべての被験者が同じような反応を示したわけではないということです。
グループで競争することに強く影響を受けた者もいれば、あまり影響を受けなかった者もいたのです。
つまり集団に入ることで、簡単に自分を見失いやすい人と、まわりに流されない人がいるということです。
ドラクエ行動をとりやすい人とそうでない人がいるということです。
たしかに集団で行動していても、まわりの意見に流されずに独自の考えで行動している人はいるはずです。
これは若者でも年配者でも同じことが言えます。
ドラクエ行動というと、とかく若者がターゲットとなり非難されやすいのが現実です。
しかし実際には年配者でも銭湯やサウナでドラクエ行動をしている人はいます。
若者が集団を形成しやすいのは、集団でつるむような仲の良い友人が多いだけなのかもしれません。
現代社会では原始時代と違い、集団で集まって集団脳を働かせなくとも個人だけでも十分に生きていくことができます。
ですから集団の中にいても集団心理が働かず、内省や倫理判断と関係している脳の領域の活動が低下しない人が増えてきています。
ドラクエ行動は集団脳の1つとは言え、明らかにイノベーションを生み出すものではなく、世間一般の倫理や道徳に反する言動です。
ですから集団の中にいても集団脳に洗脳されないようにうまく回避することも必要なのです。
ドラクエ行動したっていいじゃないか、にんげんだもの
自分1人であれば冷静に判断をして責任をある言動をとることができても、集団になると大胆になったり他人に流されやすくなったりするのは、時には仕方のないことかもしれません。
とは言え、集団心理が悪い方向に働くと、極端な行動や衝動的な行動をしてしまい、ドラクエ行動を生み出します。
集団も元は1人の集まり。
1人ひとりが「自分が持っている影響力」を意識的に考えて言動をすることで、集団のあり方も変わってきます。
とはいえ銭湯やサウナでドラクエ行動をすることはマナーを守れば決して悪いことばかりではありません。
そのような主張をされるとなかなか反論しづらいでしょう。
しかし集団で大声で話をしたり笑ったりするのは明らかににマナー違反です。
“マナーの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考【サウナの脳科学】銭湯やサウナでマナーを守らない理由はどこにある?マナーを脳科学で探る
銭湯やサウナでマナーを守らない人がいるのはなぜなのでしょう? そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。 このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの ...
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しかし銭湯・サウナでのマナーを守ったうえでのドラクエ行動であれば、誰も文句は言ってこないはずです。
銭湯・サウナに1人で来ても、顔見知りの人が集まっていつのまにか集団となり、一緒に行動してがやがやと話をしている…なんてこともあります。
1人ひとりが内省や倫理判断と関係している脳の領域を意識的に働かせ、集団脳を意識的に回避して道徳的な言動ができるのであれば、「ドラクエ行動したっていいじゃないか、にんげんだもの」と言えるのではないでしょうか?
マナーと節度のあるドラクエ行動であれば、現状のような非難もきっと減るはずです。
“集団心理と集団脳の脳科学”のまとめ
銭湯やサウナでドラクエ行動をしてしまう「集団心理」と「集団脳」を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 銭湯やサウナでは集団心理が働き、すべてを一緒にぞろぞろと行動して大声で話をするドラクエ行動が時に見られます。
- 1人ではできないことも集団ではできてしまい、極端な行動を引き起こしやすくなることがドラクエ行動を生み出しています。
- 脳は集団になると集団脳を形成し、内省や倫理判断の領域の活動性が低下することで、本能的に集団心理が働きやすくなっています。
- しかし脳科学的な集団心理である集団脳は決して悪いことばかりではなく、意識的に集団脳を働かせて言動をすることで、時代を変えるようなイノベーションを生み出すこともあります。
- 脳科学的な集団心理=集団脳を理解して、マナーと節度のあるドラクエ行動を考えてみてください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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