経験則って正しいの?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- ヒューリスティックを探ることで自分の経験則で物事を判断することの脳科学的な意味がわかります。
ヒューリスティックスってなに?
経験則の脳科学
- 自分の経験則や先入観に基づいて物事の判断をする手法をヒューリスティックスと言います。
- 世の中の多くは経験則から作り上げた見た目をもとにヒューリスティックスで処理されています。
- しかしヒューリスティックスに頼りすぎると新たに知識を身につけて計算高く処理するアルゴリズムを軽視しがちになります。
- ヒューリスティックスはそもそも自分の経験則や先入観というバイアスに縛られているため自分は世界の中心にいるという勘違いにもおちいりがちです。
- ヒューリスティックスに頼るばかりでなく落とし穴があることを覚えておきましょう。
わたしたちは何か物事の判断をする時にさまざまな可能性を考慮して色々な複雑な計算をして論理立てして…このように多くの段階を踏んで最終決定をしています。
この手順を「アルゴリズム」と言います。
「ヒューリスティックス」はまさにアルゴリズムの正反対に位置します。
経験則の脳科学
「ヒューリスティックス」とは簡単に言えば自分の経験則や先入観に基づく手法です。
何も考えず自分の直感に頼って判断をしている時はまさにヒューリスティックスが働いています。
“直感の脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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多くの人はアルゴリズムを好みます。
なぜなら自分がなぜそのような判断を下したかの理由があった方が他人に理解してもらいやすいからです。
そう言っても他人の信頼を勝ち取ることは難しいかもしれません。
しかし実際には多くの人はヒューリスティックスを働かせて多くの判断をしています。
経験則の脳科学-その1
一見するとアルゴリズムを活用して色々考えている風に見せかけて実は自分の経験則で意思決定をしているのです。
ヒューリスティックスを細かく分析すると3つ分類できます。
代表ヒューリスティックス
顔つきや風貌などの特徴や固定観念によって判断する手法です。
外国人っぽい見た目の人は英語が話せるだろう。
赤い食べ物は辛いに決まっている。
一種の偏見とも言える手法ですね。
利用可能性ヒューリスティックス
自分の記憶や経験をもとに確立の高そうなものを選択する手法です。
今まで大丈夫だったのだからこれらも同じ手法で大丈夫だろう…という考えが根底にあります。
いつも同じお店でランチをする。
今までインフルエンザの予防接種をしなくても感染したことがないから今年も予防接種をしない。
一見すると正しい判断をしていそうですが科学的根拠に欠ける手法で重要な情報を欠いたまま判断を下すので注意が必要です。
係留と調整のヒューリスティックス
最初に得た情報をもとに推測で判断する手法です。
同じ1万円の商品でも定価で1万円の商品よりも値引きされて1万円になった商品を選ぶ。
先入観にとらわれた判断です。
ヒューリスティックスと言う言葉を聞いたことがない人でも知らぬ間にこれらさまざまなヒューリスティックスに縛られて生きているのです。
見た目の経験則で世界はまわっている
そんな議論をよく耳にしますよね。
見た目と心とどちらを優先するかはある意味永遠のテーマかもしれません。
「見た目と心はそもそも無関係」という仮定です。
もし見た目にその人の内面的な性格や個性が反映されているのであれば見た目で選ぼうが心で選ぼうが同じことになります。
見た目と心はそもそも無関係であると思っているからこそ熱い議論に発展するのです。
脳科学では見た目は心を映す鏡です。
“メラビアンの法則の脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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ヒトの脳は顔や表情といった見た目にとても敏感です。
実際に見た目から「信頼できそう」「怖そう」など多くの情報を得ています。
脳は30分の1秒という超高速な時間で見た目をほぼ正しく判断しています。
見た目を判断する時は脳の中の“扁桃体”という感情に関わる部分が活発に活動しています。
理由なしに脳は働きません。
脳は見た目がその人の心を反映すると判断し見た目を重要視することを有利だと感じているのです。
脳が見た目に敏感なのはなにも適当に言っているわけではありません。
ちゃんと裏付けるデータが存在しています。
327人の顔から14種類のパラメータを測定し統計学的に解析することで親和的か権力的かの2つに顔から判定できることを証明しました。
Oosterhof NN, et al, Proc Natl Acad Sci USA 105:11087-11092, 2008
この研究では集めたデータをもとにしてコンピュータに顔写真から性格を判断させる人工知能を作り上げることにも成功しています。
脳は自分が今まで出会った人の見た目を分析することでさまざまな判断をしています。
見た目は経験則から作り上げられているのです。
見た目はなにも人に限った話ではありません。
対象が物であっても同じです。
一見するとアルゴリズムを駆使して計算高く見せかけいても多くの場面では経験則から見た目で判断しヒューリスティックスで処理しているのです。
それによって世界は何となくうまく回っているのです。
それでは次にヒューリスティックスが脳に与える影響について考えてみましょう。
ヒューリスティックスにご注意を!
脳は難しい問題に直面すると経験則をもとにより簡単な別の問題にすり替えてヒューリスティックスを駆使して乗り切ろうとします。
選挙のシーンを思い浮かべてみてください。
当選した人と落選した人から1人ずつランダムに選び選挙結果を知らない人に写真を見せてどちらが信頼できそうな人かを選んでもらいます。
見た目の信頼度と当選確率の関係の調査です。
結果はどうだったでしょう?
① 見た目が信頼できそうな人ほど当選確率が高かった。
② 見た目が信頼できなさそう人ほど当選確率が高かった。
③ 見た目が信頼できそうなことと当選確率に関係はなかった。
『① 見た目が信頼できそうな人ほど当選確率が高かった。』です。
選挙では見た目が信頼できそうな人ほど票が集まります。
この研究ではわずか1秒間でも写真を見ればどちらが当選者化を70%の確率で当てることができることを示しています。
それほど見た目は脳にとって大切なのです。
しかしここで注意が必要なのはこの研究では「どちらが良い政治家なのか」という質問をしているのではなく「どちらが信頼できそうな人か」と言う質問をしている点です。
実際の選挙でも「どちらが良い政治家なのか」を調べつくして投票する人は多くはありません。
それよりも「どちらが信頼できそうな人か」というもっと理解しやすい問題にすり替えて対処しているのです。
ただし当の本人は「自分は良い政治家を選んだ」と信じていて別問題にすり替えて処理したことに気づいていないのです。
ここがヒューリスティックの落とし穴です。
経験則の脳科学-その2
初めて聞いたり知ったりした知識を理解する時はすでに知っている知識に紐づけしてより簡単で平易な内容にすり替えて脳に刻み込もうとします。
すると「なるほど、そういうことか」と妙に腑に落ちるのです。
そもそも「ヒューリスティック」と言う単語は「エウレカ(わかった)」というギリシャ語が語源となっています。
しかし「わかった」という感覚は心理的な落とし穴です。
たとえば自分の見たことのない未知の生物の説明を受けたとします。
しかし言葉だけの説明ではこの未知の生物を理解することは困難です。
そんな時に便利な手段は「比喩」です。
「未知の生物は巨大なネズミのような生物です。」
このように言われるとなんとなく「わかった」気分を疑似体験することができます。
しかし実際には未知の生物を「巨大なネズミ」という別のフレームに置き換えただけで本質的に理解したことにはなりません。
脳はこのように視点を変えるフレーミング効果をとても好みます。
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しかし一度「わかった」と錯覚すると脳は自己充足的な快感に満たされます。
経験則の脳科学-その3
一度快感を味わってしまうと脳は「わかったことはもうこれで充分」という知識欲の減退を誘導して思考停止につながってしまいます。
「巨大なネズミ」以上の情報を欲しようとしなくなってしまい誤った情報だけが脳に残ることになるのです。
ヒューリスティックスはとても気軽で便利な手法です。
しかしヒューリスティックスにばかり頼っていると脳の活動を低下させることにもつながりかねませんのでくれぐれもご注意ください。
ヒューリスティックスが生み出すバイアスの盲点
ヒューリスティックスにはもう1つ落とし穴があります。
それが「バイアスの盲点」です。
電車に乗っていてお年寄りに席を譲らない人がいたとします。
あなたはどう感じますか?
しかし当の本人はそんな風には思っていません。
なせなら自分の近くにお年寄りが立っていることに気づいていないからです。
気が利かない人は問題となる事態に気づいていないからこそ「気が利かない」のです。
自分では自分がどれほど気が利かないかを知ることはできません。
一方自分が気づいていることを他人が気づいていない状況にでくわすと
そんな自分勝手な判断をしがちです。
他人の顔は見えても自分の顔は見えません。
同じように他人の欠点には気づけても自分の欠点には気づけないものです。
経験則の脳科学-その4
ヒトは「自分は公平で正しいのに他人は視野が狭くて偏見に満ちている」という考えにおちいりがちです。
これを「バイアスの盲点」と言います。
自分の経験則や先入観にばかり頼っているとそれこそが常識で正しいことだと勘違いしがちになります。
自分の経験則や先入観というバイアスに人は気づかないのです。
気づかぬうちに自分中心で世界が回っていると勘違いして生きているのです。
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世の中完璧な人なんて一人もいません。
誰もがバイアスの盲点を持っています。
何にでも落とし穴はあるものです。
自分にもバイアスの盲点があるのだから他人にもバイアスの盲点があって当然
お年寄りに気づかないで座っていてもそれは仕方ないこと
ヒューリスティックスの効力ばかりに目を向けるのではなく時には落とし穴にも目を向けてみてください。
“経験則の脳科学“のまとめ
ヒューリスティックを探ることで自分の経験則で物事を判断することの意味を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 自分の経験則や先入観に基づいて物事の判断をする手法をヒューリスティックスと言います。
- 世の中の多くは経験則から作り上げた見た目をもとにヒューリスティックスで処理されています。
- しかしヒューリスティックスに頼りすぎると新たに知識を身につけて計算高く処理するアルゴリズムを軽視しがちになります。
- ヒューリスティックスはそもそも自分の経験則や先入観というバイアスに縛られているため自分は世界の中心にいるという勘違いにもおちいりがちです。
- ヒューリスティックスに頼るばかりでなく落とし穴があることを覚えておきましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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