「熱々のサウナに入っているのになんだか寒く感じる」あるいは「キンキンに冷えた水風呂に入っているのになんだか温かく感じる」といった不思議な経験をしたことないでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
サウナでの体感温度を脳科学で説き明かします。
サウナと体感温度
体感温度の脳科学
- 体感温度とは、気温のみならず、湿度や風速や日射量などの要素が複合的に作用して、人が実際に感じる暑さや寒さの度合いを表すものです。
- サウナと水風呂の温冷交代浴を繰り返していると、皮膚の温度受容体、自律神経の調節、血管の収縮と拡張、心理的な要因などが誤作動を起こして、体感温度がくるってしまうことがあります。
- しかしもっとも体感温度をくるわせる原因は、認知バイアスの1つである“脳のバグ”です。
- ぜひ「サウナが寒い」「水風呂が温かい」といった“脳のバグ”による体感温度の不思議を体感してみてください。
現代の日本では第3次サウナブームによって多くの施設がにぎわっています。
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サウナの醍醐味(だいごみ)は何と言っても、サウナトランス=「サウナでととのう」でしょう。
温かいサウナと冷たい水風呂、休息タイムを繰り返す温冷交代浴では徐々に体の感覚が鋭敏になってトランスしたような状態になっていきます。
トランス状態になると、頭からつま先までがジーンとしびれてきてディープリラックスの状態になり、得も言われぬ多幸感が訪れます。
これがいわゆるサウナトランスであり、そして「サウナでととのう」の状態です。
”サウナでととのうの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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サウナ―達は至高のサウナトランスを味わうためにサウナに通うわけです。
ところで、温冷交代浴を繰り返していると、時に「熱々のサウナに入っているのになんだか寒く感じる」、あるいは「キンキンに冷えた水風呂に入っているのになんだか温かく感じる」といった不思議な感覚に見舞われる経験をしたことないでしょうか?
なんて思ったことがある人も少なくないのではないでしょうか。
熱々のサウナは熱いに決まっているし、キンキンに冷えた水風呂は冷たいに決まっています。
しかし脳は時に不思議な感覚を生み出します。
では、実際の温度とは異なった体感温度を感じるのはなぜなのでしょう?
体感温度とは?
体感温度とは、気温だけでなく、湿度、風速、日射量などの要素が複合的に作用して、人が実際に感じる暑さや寒さの度合いを表すものです。
ではなぜ気温だけでは体感温度が説明できないのでしょうか?
まずは湿度です。
湿度が高いと汗が蒸発しにくくなり、暑く感じます。
一方、乾燥している時は汗が蒸発しやすく、涼しく感じます。
つづいては風速です。
風が吹くと体の表面から熱が奪われ、涼しく感じます。
しかし、風が強すぎると体感温度が逆に上昇することもあります。
そして日射量です。
直射日光は、皮膚に熱を与え、暑く感じさせます。
日陰に入ると、日射量が少ないため涼しく感じます。
このようにさまざまな要素が関連する体感温度ですが、人が生きていくためには体感温度はとても重要で欠かせない感覚です。
気温だけでなく、体感温度を把握することで、熱中症のリスクをより正確に予測することができます。
また、冷暖房の設定温度を決める際などには、体感温度を考慮することで、より快適な空間を作ることができます。
外出する際の服装を選ぶ時には、体感温度を参考にすると、寒すぎたり暑すぎたりすることを防ぐことができます。
体感温度の計算
体感温度の計算方法は、いくつかの式があり、どの式を使うかによって結果が少し異なります。
一般的に用いられるのは、気温、湿度、風速を基にした計算式です。
しかし、個人の体質や服装などによっても体感温度は変化するため、あくまでも目安となります。
ミスナールの式は湿度に着目した計算式で、特に暑い環境での体感温度を評価する際に用いられます。
また、風速に着目した計算式ではリンケの式が有名で、風の影響による体感温度の変化を評価する際に用いられます。
これらの式は、気温、湿度、風速の値を代入することで、体感温度を数値として求めることができます。
自分で計算するのが面倒な場合は、インターネット上で体感温度を計算してくれるサイトを利用することもできます。
「Keisan」では高精度な計算ができるサイトで、ミスナールの計算式(改良版)を用いて体感温度を簡単に計測できます。
ちなみに、体感温度はあくまで計算値であり絶対的なものではありません。
個人の感覚や服装、体調などによって異なりますので、あくまでも参考程度にお考え下さい。
脳は体感温度をどのように感じるの?
体感温度についてさらに探ってみましょう。
私たちの体は、皮膚に温度を感じるセンサーを持っています。
このセンサーが周りの温度を感知し、その情報を電気信号に変えて、脊髄を通って脳に伝えます。
脳は、この電気信号を解読し、それが熱いのか冷たいのか、どのくらいの温度なのかを判断します。
この情報は、過去の経験や記憶と照らし合わせられ、私たちが「熱い」や「冷たい」といった感覚として認識されます。
しかし時に温度の感覚はさまざまな要因によって装飾されて、本来の温度とは違った体感温度が生み出されます。
たとえば、同じ温度でも、長時間その環境にいると、感覚が慣れてしまい、最初は熱く感じていたものが、だんだん温かく感じられるようになります。
これは、体の恒常性維持機能が働いているためです。
また、私たちは経験や情報から、ある状況でどのような温度を感じるかを予測します。
この期待が、実際の感覚に影響を与えることがあります。
例えば、サウナに入る前に「熱い」と期待していると、実際に感じた熱さがより強く感じられることがあります。
さらに、温度感覚は他の感覚と密接に結びついています。
例えば、風が吹くと、同じ温度でも涼しく感じたり、辛いものを食べると、口の中が熱く感じたりすることがあります。
実際には、脳が体感温度を感じる仕組みは、まだ完全に解明されていません。
しかし、脳は感覚器官からの情報、過去の経験、そして体の生理的な反応が複雑に絡み合って、体感温度を認識していると考えられています。
サウナにおける体感温度の不思議
ここからはサウナにおける体感温度の不思議について探ってみましょう。
サウナの室温は高いのに涼しく感じたり水風呂の水温は低いのに温かく感じたりするのはなぜ?
一般的にサウナの室温は高いので熱く感じ、水風呂の水温は低いので冷たく感じるものです。
しかし、何度もサウナ→水風呂の温冷交代浴を繰り返しているうちに、時にサウナの室温は高いのに涼しく感じたり、水風呂の水温は低いのに温かく感じたり、といった不思議な感覚に見舞われたことはないでしょうか?
サウナや水風呂で感じる温度感覚は、単純な温度計の数値だけでは説明できない、実に興味深い現象です。
1つ目は輻射熱です。
サウナ室の熱源は、ストーブなどの高温物体です。
この高温物体から直接人体に熱が伝わる輻射熱が主な熱源です。
輻射熱は、空気よりも物体に直接熱を伝えるため、空気が熱くなくても体が熱くなります。
しかし、汗をかき、それが蒸発する際に気化熱を奪うことで、体の表面が冷却され、結果的に涼しく感じる場合があります。
2つ目は湿度です。
サウナ室の湿度が低いと、汗が蒸発しやすく、気化熱によって体が冷却されます。
湿度が高いと、汗が蒸発しにくくなり、熱がこもりやすくなります。
3つ目は個人差です。
体格、体調、汗腺の発達度など、個人差によって体感温度は大きく異なります。
これもいくつかあります。
1つ目は温度受容体の適応です。
冷たい水に長時間入っていると、皮膚の温度受容体がその温度に慣れてしまい、相対的に水温が低く感じられなくなります。
2つ目は血流の変化です。
冷水に浸かると、体が温かさを保とうとして血管が収縮し、血流が減少します。
その後、再び温かい場所に移動すると、血管が拡張し、血流が改善されます。
この血流の変化が、温かく感じる感覚を生み出すことがあります。
3つ目は心理的な要因です。
水風呂に入る前後の精神状態や、水風呂に対する期待感も、体感温度に影響を与えます。
水風呂に長時間浸かった後に熱いサウナに入ると体が温まるどころか寒く感じるのはなぜ?
まずは水風呂に長時間浸かった後の体の状態を考えてみましょう。
冷水に長時間触れると、体が熱を逃がさないように血管が収縮します。
この状態が長く続くと、末梢の血流が悪くなり、体が冷え切ったように感じやすくなります。
さらに、水風呂によって体表面の温度が急激に下がると、体は深部体温を維持しようとしますが、長時間浸かっていると、深部体温も徐々に下がってしまうことがあります。
その状態でサウナに入った時、体にはどのような反応が起こるのでしょう?
水風呂に長時間浸かった後、高温のサウナに入ると、体が熱を逃がそうとして血管が拡張します。
しかし、すでに末梢の血流が悪くなっている状態では、この血管拡張が十分に起こらず、熱が体の中心部に伝わりにくいことがあります。
さらに、サウナ内で汗をかくと、それが蒸発する際に気化熱を奪い、体がより冷えてしまうことがあります。
特に、水風呂で体が冷え切っている状態では、汗の蒸発による冷却効果がより強く感じられる可能性があります。
このような要因によって、水風呂に長時間浸かった後に熱いサウナに入ると、体が温まるどころか寒く感じるという不思議な現象が起こるわけです。
水風呂に浸かりながら頭に冷水をかけると体が温かく感じるのはなぜ?
冷たい水風呂に浸かりながら頭にさらに冷たい水をかけると、頭が冷たくなりすぎて、水風呂に浸かっているのに体が温かく感じるようになる…このような不思議な現象を最近経験しました。
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この感覚は、私たちの体が温冷刺激に対してどのように反応するか、そして脳がどのように感覚を処理しているかを知る上で、とても興味深い現象と言えるでしょう。
このような不思議な現象が起こる理由は主に3つ考えられます。
1つ目は温冷刺激による体の反応です。
冷水刺激は、自律神経の交感神経を優位にする働きがあります。
交感神経は、体を活動モードにする神経で、心拍数の上昇や代謝の促進など、体の機能を活性化させます。
この交感神経の働きが、体の温感に影響を与えている可能性があります。
2つ目は脳の感覚処理です。
頭に冷たい水をかけると、体の他の部分が相対的に温かく感じられます。
これは、脳が異なる感覚を比較し、より際立った感覚を強調する「対比効果」と呼ばれる現象です。
さらに、脳は様々な感覚情報を統合して、一つの知覚として認識します。
冷たい頭と温かい体という異なる感覚情報を統合する過程で、体が温かく感じられるという知覚が生み出される可能性があります。
3つ目は心理的な要因です。
水風呂に浸かって体が冷たく感じている状態で、さらに頭から冷水をかけると頭だけがもっと冷たくなる…という心理が働き、相対的に体が温かく感じられるのです。
水風呂に浸かりながら頭に冷水をかけると、体が温かく感じるようになるのは、生理的な反応と心理的な要因が複雑に絡み合った結果と言えるでしょう。
サウナでの体感温度を脳科学で探る
今まで説明してきたように、高温のサウナと低温の水風呂の温冷交代浴では、不思議な体感温度を味わうことが少なくありません。
その要因には血管の収縮や拡張、自律神経の調整、心理的な要素などさまざまなものが関係しています。
“脳のバグ”とはいわゆる認知バイアスの1つで、情報を処理する際に、無意識のうちに特定の情報を過大評価したり、反対に過小評価したりする傾向のことです。
サウナにおける温冷交代浴では、短時間に極端な温度変化を繰り返すことで、脳に大量の感覚情報が送られます。
脳は、この大量の情報を処理しきれずに、感覚情報の過負荷によって混乱を起こしてしまうです。
また、サウナで温まり、水風呂で冷えるという一連の流れを繰り返すうちに、脳は一定の温度変化を期待するようになります。
しかし、実際の体感温度が期待と異なる場合…たとえばロウリュやアウフグースによってサウナが極端に熱かったり、氷を投入することで水風呂が極端に冷たかったりすると、脳は混乱し体感温度がおかしくなることがあります。
自律神経が乱れると、交感神経と副交感神経のバランスが崩壊したり温度調節機能が乱れたりして、体が実際にどのくらいの温度なのかを正確に判断できなくなり、体感温度がおかしくなることがあります。
また血管の拡張と収縮の急激な変化によって体の深部体温や末梢の温度に影響を与え、体感温度を変化させます。
末梢の血流が変化すると、末梢神経の働きも変化し、温度感覚が鈍くなったり、過敏になったりします。
その1つは自律神経が乱れやすい人です。
ストレスを感じやすい人や、不規則な生活を送っている人は、自律神経が乱れやすく、温冷交代浴の影響を過剰に受けて体感温度がおかしくなりやすくなるとされています。
2つ目は低体温気味の人です。
基礎体温が低い人は、温冷交代浴によって体温が大きく変動しやすく、不思議な体感温度を感じやすくなるとされています。
サウナでは無理は禁物ですが、時には“脳のバグ”による不思議な体感温度を経験してみてください。
”体感温度の脳科学”のまとめ
サウナでの体感温度を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 体感温度とは、気温のみならず、湿度や風速や日射量などの要素が複合的に作用して、人が実際に感じる暑さや寒さの度合いを表すものです。
- サウナと水風呂の温冷交代浴を繰り返していると、皮膚の温度受容体、自律神経の調節、血管の収縮と拡張、心理的な要因などが誤作動を起こして、体感温度がくるってしまうことがあります。
- しかしもっとも体感温度をくるわせる原因は、認知バイアスの1つである“脳のバグ”です。
- ぜひ「サウナが寒い」「水風呂が温かい」といった“脳のバグ”による体感温度の不思議を体感してみてください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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