「お盆には祖先の霊が私たちのところに訪ねて来る」って言いますが、それってどういうことなのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- スピリチュアルの意味を脳科学で探りお盆にわれわれのところにやってくる霊魂は存在し得るのかがなんとなくわかります。
お盆とスピリチュアルを脳科学で探る意味
お盆と霊の脳科学
- お盆には祖先の霊魂がわれわれのところにやってきます。
- 脳科学的に霊魂ともっとも関わりをもつ脳の領域は側頭葉です。
- 霊魂と生きているわれわれがが交わるスピリチュアルという思想を信じるか信じないかは最終的には自分次第です。
諸説ありますが、お盆は仏教の行事で一般的には8月13日の夕刻に”迎え火”と言って祖先の霊を迎え入れます。
いろいろなお供え物をしたりお墓参りに行って掃除をしたりして祖先の霊に報恩します。
8月16日は”送り火”です。
祖先の霊が元の世界に帰っていくのを見送りします。
クライマックスは盆踊りです。
このような霊との交流は仏教以外でも見られます。
ココがポイント
お盆の思想の根本はスピリチュアルにあります。
スピリチュアル
われわれ人間は死を迎えても失われるのは肉体だけで心や精神は霊魂として残り続けます。
この霊魂と生きている人間とが交流できるという思想をスピリチュアルと言います。
この問題には今まで多くの研究者たちが挑みいろいろな意見がでていています。
霊魂の正体は一部では解き明かされつつありますが、その多くはいまだ闇の中で完全には解き明かされてはいません。
科学と霊魂の関係は難しくもあり面白くもあります。それでは、
いまこれだけ科学が飛躍的な進化を遂げている現代において、スピリチュアルの要素の強いお盆を脳科学で説くことは意味のないことなのでしょうか?
またこの行為は神への冒涜(ぼうとく)になるのでしょうか?
科学の本質的なルーツは宗教にあります。
ユダヤ教やキリスト教の「神が創り給いし世界」がいかに巧妙にできているかを知りたいという人間の願望が原動力となって科学は生まれ進歩してきました。
そして科学とともに進歩してきたものが科学とは全く反対側にある霊魂を取り入れたスピリチュアルです。
この2つは世界を支配する宗教と対立する形で進歩してきました。
一方で宗教もオカルト的な要素を含みつつさまざまな枝分かれをしながらも科学とスピリチュアルと対立しながら進歩してきました。
ココがポイント
科学、スピリチュアル、宗教は持ちつ持たれつの関係を保ちながらそれぞれが同時期に成長していったと言えます。
いずれもそれそれの思想を受け入れ難い3者ですがこのようにとても密な関係です。
ですからこれらをそれぞれで解き明かすことは決して意味のないことでも冒涜(ぼうとく)にもならないのです。
霊魂を感じる脳
いくら科学が霊魂を否定しようとしても人の脳には霊魂を感じ取る回路が備わっているから否定しきれないのではないでしょうか。
どこかで霊魂なるものに対する親和性を本能的に持っているので時にはそれに寄り添うのではないでしょうか。
脳のさまざまな回路の中で霊魂に関わる領域の研究は数多く行われています。
霊魂を信じない人たちからは多くの批判を浴びつつも色々なことが報告されています。
スピリチュアルと脳の関係
霊魂にもっとも関わっているとされる脳の領域は側頭葉です。
側頭葉とはこめかみの少し上の部分から耳の後ろまでの領域で左右それぞれに存在します。
“こめかみ”は英語では”temple”ですが、“temple”には神聖なる殿堂、寺院、神殿といった別の意味もあるのです。
スピリチュアルと脳は切っても切り離されない関係なのです。
側頭葉を刺激したある研究では、側頭葉を局所的に刺激すると存在しないものがはっきりと感じられるようになることがあると報告しています。
側頭葉を刺激すると40%の人でキリストだったりマリアであったり亡くなった家族であったりがはっきりと目に映って感じられます。
St-Pierre LS, et al, Int J Neurosci 116:1079-1096, 2006
側頭葉は人工的に刺激をしなくても自然発火しててんかん発作の起源にもなります。
それは側頭葉てんかんと呼ばれます。
側頭葉てんかんはてんかんの中でもとても特徴的な発作パターンを示し見た目にもとてもインパクトの強い発作です。
側頭葉てんかんの発作中に2%程度の人が神秘的な体験をするなんて報告もあります。
Ogata. A, et al, Psychiatry Clin Neurosci 2:321-325, 1998
これは日本からの研究結果の報告ですが、日本は欧米と比較して宗教意識が決して高いとは言えない国です。
教育や生活環境から宗教を習得する機会の少ない日本においててんかん発作中に神秘的な一種の宗教の影響のかかった体験をするということに意味があるとされています。つまり、
ココがポイント
人は生まれながらにして側頭葉に神の宿った霊魂を感じ取る回路が備わっていると考えられます。
医学が未発達であった古代において側頭葉てんかんは人々の目に霊魂にとりつかれたように映ったでしょう。
てんかん発作から目覚めて「神に会ってきた」とか「神のお告げを聞いてきた」などと言い始めたらどうでしょう。
側頭葉てんかんの人は神に近い存在として教祖のようにあがめられたではないでしょうか。
脳には霊魂を感じ取る回路が備わっているという意見に反対の人も当然います。
そのような人たちは神や霊魂の存在を信じ宗教心が強い人は自己主張が強く自己中心的な人だと言います。
神の宿った霊魂からのおぼし召しは単なる個人的な願望であり神のお告げなどと言って自分の意見を通そうとしているだけというわけです。
しかし側頭葉が霊魂と何かしらの関係を持っていることは確かなことと言えるでしょう。
脳にはさまざまな領域があり多くのネットワークでこれらはつながっています。
その中で側頭葉は外からのさまざまな知覚情報を処理する領域です。
視覚(目で見た情報)、聴覚(耳で聞こえた情報)、嗅覚(鼻で臭った情報)、味覚(口の中で味わった情報)…などなどの情報です。
その側頭葉になぜ他の情報とは異質な霊魂を感じる回路が備わっているかは謎です。
と主張する意見もあります。
しかしそこはすでに脳科学の域を超えたところでありよくわかりません。
スピリチュアルを脳科学で説く
幽体離脱
スピリチュアルでは肉体と精神が分離した状態です。肉体とは別のところに精神が宿り霊魂として存在することが基本的な考えです。これを生きて人で考えると幽体離脱になります。
幽体離脱とは生きている人の心と体が分離して他人の視点から自分を観察している状態です。
幽体離脱に関する研究も様々行われています。
側頭葉を刺激した研究では自分の背後に別の人間の存在を感じるようになることが報告されています。
この別の人間をさらに調べてみると、それは他人ではなく側頭葉を刺激されている自分だったのです。
しかし本人はそのことに気づいていないので他の別人に見られていると感じているのです。
しかも脅されているような恐怖感を感じるのです。
Arzy S, et al, Nature 443:287, 2006
別の研究ではさらに幽体離脱が説明されています。
側頭葉の後方で頭頂葉という別の領域との境に角回という領域があります。
この角回を刺激した研究では、刺激された人は自分の意識が上方に舞い上がり天井からベッドに寝ている自分を見下ろすことができたと報告しています。
まさに幽体離脱の状況です。
Blanke O, et al, Nature, 419:269-270, 2002
幽体離脱は健康な人でも30%程度の割合で経験されます。
しかし一生に一度あるかないか程度なのでなかなか一般的には受け入れ難くオカルト的な要素が強くなっています。
スポーツなどで”ゾーン”と言う言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
ゾーンとは集中力が高まって周囲の情報が完全にシャットアウトされ自分の感覚が極限にまで研ぎ澄まされた意識状態のことです。
たとえばサッカーをしていてゾーンに入ったとします。
すると実際にプレーをしている最中に上空から眺めている景色が見えてドリブルして進む道からシュートコースがわかるなんてこともあります。
自分の視点ではなく他人の視点になって自分を見つめなおすことは、自分を外から眺めているわけで幽体離脱の能力を利用しているとも考えられます。
”相手の立場になって考えなさい”なんてよく言いますが、これは脳科学的にはいわば”幽体離脱しなさい”と言っているのと同じようなものです。
このように人は無意識のうちに幽体離脱をたびたび経験しているのです。
ましてや、
ココがポイント
頭の中や心の中で感じたことをどのようにとらえるかはその人次第で、他人が干渉できるところではありません。そんな微妙なバランスの中でわれわれは普通に生きているのです。
スピリチュアルを感じ取る回路は脳の中に生まれた時からすでに備わっているのです。
それを”どのように感じ取るか”は他人にどういわれようと”結局は自分次第”なのかもしれません。
”お盆と霊の脳科学”のまとめ
今回はお盆にまつわるスピリチュアルについて脳科学的に解説しました。
今回のまとめ
- お盆には祖先の霊魂がわれわれのところにやってきます。
- 脳科学的に霊魂ともっとも関わりをもつ脳の領域は側頭葉です。
- 霊魂と生きているわれわれがが交わるスピリチュアルという思想を信じるか信じないかは最終的には自分次第です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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