動物と感情を伝え合い会話できる日は来るの?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い手術、放射線治療を中心に勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきますね。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 人工知能(AI)を使って動物と感情を伝え合い会話できる未来について「イライザ効果」と「Googleの猫」を脳科学で探ることで説き明かします。
「イライザ効果」から「Googleの猫」に繋がる人工知能の未来
人工知能(AI)を使って動物と感情を伝え合い会話できる未来への脳科学
- 「イライザ効果」はヒトがAIを擬人化することで生まれる現象です。
- 「Googleの猫」によってAIは自分自身で学習するディープランニングを手に入れました。
- 現在のAIの技術では動物とある程度のコミュニケーションをとれても会話することまではできません。
- しかし遠くない未来に動物と会話できるような高度な思考や創造を兼ね備えたAIが登場することは充分に期待されます。
「イライザ」とはチャットボットの元祖で1966年に発明されたおしゃべりロボットです。
チャットボットとは自動で会話するプログラムのことで簡単な会話が可能であり当時としては革新的な発明でした。
しかし一見するとちゃんと成立しているような会話のやりとりは実はプログラムされた言葉遊びのレベルでした。
AIの脳科学-その1
意識的にはわかっていても無意識的に人工知能(Artificial Intelligence=AI)の動作や会話が人間とあまりにも似ていると感じてしまう現象を「イライザ効果」と呼びます。
“AIの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
こちらもCHECK
人工知能(AI)とコラボする藤井聡太八冠から学ぶ新時代の流動性知能を脳科学で説く
将棋の藤井聡太八冠の強さの秘密はどこにあるのですか? このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし ...
続きを見る
イライザが登場した1960年台は”第一次AIブーム”でありさまざまな発明がされましたが結果的に現実社会に活用されるまでには至りませんでした。
イライザは人間の会話のように見えることを目的として作られていたため正確には現代のAIのように自ら考えたり何かを見つけ出したりすることはできませんでした。
1980年台になり”第二次AIブーム”が訪れます。
ここでも現実社会に有効なシステムの開発には至りませんでしたがその後のAI研究の礎を築くような発明がいくつもなされました。
この時代までのチャットボットは基本的にパターンマッチング技法を用いていました。
つまり人間がAIにルールや知識を体系的に整理して情報として組み込むことで会話が成り立っていたのです。
ですから複雑な要求に直面すると対応しきれなくなってしまい限界がありました。
そして現在は”第三次AIブーム”と言われています。
AIの脳科学-その2
現代のAIの大きな特徴は「ディープランニング(深層学習)」という機能です。
AIは与えられたデータをもとに自分自身で学習する技術(機械学習)を兼ね備えています。
AIの脳科学-その3
ディープランニングを世界中に広めるきっかけとなったのが2012年にGoogleが発表した「人が教えることなくAIが自発的に猫を認識することに成功した」とする研究結果です。
いわゆる「Googleの猫」です。
Googleの研究チームはディープラーニングによってYouTubeに投稿されたビデオの中から無作為に一千万枚の画像を取り出してAIに学習をさせました。
その結果AIは猫が写っている画像を見分けられるようになったのです。
AIが独自で猫を認知できることを実証したのです。
「Googleの猫」はAIの歴史を大きく動かしたと話題になりました。
ディープランニングの登場によってAIは一気に現実社会に浸透していくことになります。
いつの時代も人とAIとの自然な会話が求められてきました。
会話はわたしたち人類が古代から続けてきた最も基本となる人としての営みです。
ですからAIに求める要求も時代と共にどんどんと高くなっているのです。
そう考えると本当の意味で人間の言葉を理解するAIの実現はまだまだこれからなのかもしれません。
擬人化を愛する脳
AIの脳科学-その4
脳は基本的に擬人化が大好きです。
ですからAIにもイライザ効果が働くのです。
故障するとあたかも大切な人を失ったかのような脱力感におちいる「ロボットロス症候群」に悩む人まで出てくる時代です。
脳はヒト以外のものにヒトの心を見出すことで勝手に親近感を覚え快感を得ます。
そして相手を理解したような気分になるのです。
“快感の脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
こちらもCHECK
“Get Wild退勤”で仕事の達成感を得る!脳内妄想を脳科学で説く
「”Get Wild退勤”で仕事の達成感を得る」とはどういうことなのでしょうか? そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。 このブログでは脳神経外科医と ...
続きを見る
ペットと意思疎通できると思い込むのも擬人化の1つの現象です。
“コンパニオンアニマルの脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
こちらもCHECK
ペットではなくコンパニオンアニマルとして犬や猫と暮らす生活を脳科学で説く
ペットではなくコンパニオンアニマルとして犬や猫と暮らすってどういうこと? そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。 このブログでは脳神経外科医として20 ...
続きを見る
ペットだけでなく愛くるしい動物たちにエサを与えたくなるのも擬人化が下地になっています。
擬人化は当然人工物にも向けられます。
コンピューター、特にチャットボットに対してはヒトは強い擬人化を求めます。
そのため育成ゲームや恋愛ゲームは単純な無機的な計算にすぎないはずなのに感情移入してわたしたちを熱狂させるのです。
高度なAIを備えた商品ロボットに大きな期待を持つのも仕方ないことかもしれません。
これだけAIが発展してきた現代において動物と会話をすることは可能なのでしょうか?
動物と会話できる未来
動物は普段何を考えているのだろう…
会話出来たらきっと新しい世界を知ってもっと楽しく幸せになるに違いない…
そんな夢のような願望を持っている人は決して少なくないはずです。
異種間コミュニケーションの願望はヒトにとって昔から続く根強い願望です。
アニメで動物のキャラクターが言葉を発するのはそうした願望のあらわれなのかもしれません。
当然動物とのコミュニケーションをとるための研究は数多く行われています。
その1つをご紹介しましょう。
バーチャルリアリティ(VR)を応用して仮想空間の中でヒトとネズミが交流するという研究です。
Normand JM, et al, PLoS One 7(10):e48331. doi: 10.1371/journal.pone.0048331, 2012
VRはきっと皆さんご存じでしょう。
VRではモニターに映し出された3次元空間内を探索しているとその空間に入り込んだような錯覚がしてきます。
研究では頭からすっぽりとヘルメットを被り視覚と聴覚を完全にAIで制御することで仮想空間に写し出された部屋が現実と区別できないほどリアルに実現された環境を作ります。
この仮想空間内ではアバターと呼ばれる自分の分身となるキャラクターを操って自在に行動することができます。
仮想空間の中にはもう1人のアバターが存在します。
彼もまた自由に動き回っています。
このアバターはヒトの姿をしていますが操っているのはネズミです。
別の部屋で飼育されているネズミを遠隔でモニターしてそのネズミの動きに合わせたアバターが動いているのです。
実物のネズミの飼育下後の中にはネズミとほぼ同じ大きさのロボットが置かれています。
このロボットは逆に先ほどのヒトの動きと連動しています。
このことはヒト側には知らされていません。
もちろんネズミもまさか目の前のロボットが隣の部屋にいるヒトと連動しているとは思いもよらないでしょう。
つまりお互いがお互いの部屋の中で片やアバター相手に、肩やロボット相手に対峙しているわけです。
部屋に同居することにお互いが慣れてくるとなんと一緒に作業をしたりゲームをしたりし始めるのです。
ヒトとネズミのコラボレーションです。
まだ会話するには至っていませんが種族を超えた共同作業が実質的に可能であることを証明しています。
現在はヒトとネズミの脳をAIを介して連結し脳内会話を行う研究も盛んにおこなわれています。
会話における種族の壁が破られる日もそう遠い未来ではないことが予感されます。
しかし動物と会話できる未来はあくまでも未来であり現実ではありません。
それではそんな未来に向けてAIはどこまで進歩すればよいのでしょうか?
「Googleの猫」からさらに進化するAIへ
脳とAIの違いとはいったい何なのでしょう?
いろいろな視点からさまざまな意見がでてくるでしょう。
ここでは大きく2つの違いに注目しましょう。
AIの脳科学-その5
脳とAIの1つ目の違いは「エネルギー効率」です。
スーパーコンピューター「富岳(ふがく)」は「富岳百京」と呼ばれ「京」の100倍の頭脳を持つ世界最高峰のコンピューターですが30Mワットの電力を消費します。
一方脳はわずか20ワット程度であり驚異的な省エネと言えます。
コンピューターの消費電力が大きい理由はエネルギーの大半を熱として放散し損失しているからです。
脳は熱放射によるエネルギー消費が驚くほど少ないのです。
AIの脳科学-その6
脳とAIの2つ目の違いは「自己書き換え」です。
コンピューターは「このチップを取り外して別の場所に装着しよう」などと自分自身で電気回路を組み替えることはできません。
一方脳は脳活動の状態に応じて脳自身の回路をより最適になるように組み替えることが可能です。
この自己編成は生まれてから死ぬまで延々と続けられます。
脳がしなやかな順応性と適応力を自発的に発揮するのはこの「自己書き換え」によるものです。
しかし最新のAIではこれら2つの脳の特徴を持った優れた電子チップが登場してきています。
AIの脳科学-その7
最新のAIでは脳の動作原理を参考にして設計された電子チップでは脳の神経細胞に似た微小なユニットが何億もの人工シナプスで結合されています。
コンピューターと聞くと最新技術のイメージがあると思いますが多くのコンピューターでは従来からの概念を継承して基本的には設計されています。
コンピューターのメモリに逐一アクセスしてプログラムにしたがって順次計算する方法です。
しかし最新のAIではその概念が変わってきています。
そもそもコンピューターなのにプログラムを持っていません。
脳では神経をつなぎ合わせる橋渡しの役目をしているシナプスは使えば使うほど強化され使わないと弱化していきます。
AIの脳科学-その8
最新のAIにはこの「自己書き換え」の原理が人工シナプスに実装されていて「ニューロ・モーフィック・コンピューター」あるいは「脳型コンピューター」と呼ばれています。
ニューロ・モーフィック・コンピューターではヒトや物を認識したり分類したりと脳に似た動作をして自ら学習していきます。
しかも消費電力はわずか0.1ワット程度で済みます。
低燃費の理由は各瞬間において不要な大多数の神経細胞が休んでいるからで脳とそっくりな動きをしているからです。
AIの脳科学-その9
最新のAIでもいまだ動物と会話できるような高度な思考や創造をする域には達していませんが近い将来そんな未来が現実となる日はそう遠くはないはずです。
「Googleの猫」によって自分自身で学習するディープランニングを手に入れたAIは今後どこまで進化していくのでしょうか。
AIを「Artificial Intelligence(人工知能)」ではなく「Augmented Intelligence (拡張知能)」として人間の知識を拡張し増強するものとするとらえ方も出てきています。
AIと競い合うのではなく動物と会話できるようなより豊かな世界にAIが活用されていく未来を期待しましょう。
“人工知能を使って動物と感情を伝え合い会話できる未来への脳科学“のまとめ
イライザ効果とGoogleの猫からAIを脳科学で探ることでAIを使って動物と感情を伝え合い会話できる未来について説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 「イライザ効果」はヒトがAIを擬人化することで生まれる現象です。
- 「Googleの猫」によってAIは自分自身で学習するディープランニングを手に入れました。
- 現在のAIの技術では動物とある程度のコミュニケーションをとれても会話することまではできません。
- しかし遠くない未来に動物と会話できるような高度な思考や創造を兼ね備えたAIが登場することは充分に期待されます。
今回の記事がみなさんに少しでもお役に立てれば幸いです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も『脳の病気』、『脳の治療』、『脳の科学』について現場に長年勤めた脳神経外科医の視点で皆さんに情報を提供していきます。
最後にポチっとよろしくお願いします。