数字に振り回されて数字のワナにはまっていませんか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 見せかけの数字のワナにだまされる「ウィル・ロジャース現象」をわかりやすく脳科学で説き明かします。
見せかけの数字の恐るべきワナ
「ウィル・ロジャース現象」の脳科学
- 「ウィル・ロジャース現象」は数字を見せかけだけよくするマジックです。
- 「ウィル・ロジャース現象」は数字を巧みに操る一種の脳の妙技であり見破るのはほぼ不可能です。
- 「ウィル・ロジャース現象」が医療に及ぼす現象である「ステージ・マイグレーション」には注意が必要です。
- 数字にばかりに気をとられすぎず、物事の実態をちゃんと直視して正確な判断を下せるように心がけましょう。
わたしたちの回りには常に数字が存在して大きな影響をあたえています。
たとえば勉強や仕事をしていて、いつもついて回るのが成績です。
そしてその成績は常に数字で点数化されます。
学生であれば、成績はテストの点数であったり通知表であったり、いずれも点数で評価されます。
仕事では、今月の売り上げはいくらだったなど業績が数字で評価されます。
ですから多くの人は子どものころから数字に振り回されて生きています。
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しかし数字にこだわりすぎて見せかけの成績を上げようと画策に走るのはちょっと考えものです。
とはいえ数字を自由にあやつって、何もせずとも見せかけの数字を見栄え良くすることは可能です。
「ウィル・ロジャース現象」を知ってますか?
ウィル・ロジャース現象
『ウィル・ロジャース現象』 Will Rogers phenomenon
ある集合の中の1つの数を別の集合に移した結果、両方の平均が高くなる現象。
アメリカのコメディアンであるウィル・ロジャースが、1930年代の世界恐慌の際に
「もしオクラホマ州の出稼ぎ労働者がカリフォルニア州に移動したら、両方の州の知的レベルが上がるだろう」
と言った言葉に由来するとされています。
「ウィル・ロジャース現象」という言葉を知らなくても、数字を自由にうまく使いこなせる人であれば知らぬ間に見せかけの数字を見栄え良くする術を知っているはずです。
“番組A”は高い視聴率を誇っていますが、“番組B”の視聴率はあまりよくありません。
会社からは両方の番組の視聴率を同じくらい高い数字にするように言わています。
しかも半年以内にです。
もしそれが実現すれば特別ボーナスを出すと発破(はっぱ)をかけられました。
しかしうまくいかなかった時にはディレクターを降板させられてしまいます。
普通に考えれば、とにかく多くの人が興味を持って飛びついてくるような新しい企画を提案するしかありません。
しかし半年以内に結果を出すとなるとそう簡単なことではありません。
番組Aの中で、今まで平均視聴率をわずかに下げる原因となっているものの、そこそこ視聴率を上げているコーナーを番組Bに移動させます。
番組Bの視聴率は惨燦(さんさん)たるものなので、移動してきたコーナーによって平均視聴率は間違いなく上がるでしょう。
このような操作をすることで、新しいコーナーのアイデアを出さなくても、両方の番組の視聴率を同時に上げることができるはずです。
そしてあなたは特別ボーナスを確実に手に入れられるでしょう。
「ウィル・ロジャース現象」は直観的に見破ることはそう簡単ではなく、ほぼ見破れません。
印象をよくすることは簡単にできてしまう
もっと「ウィル・ロジャース現象」について説明しましょう。
あなたのもとには7つの販売支店が存在しています。
1年間の販売件数の実績に応じて、上位4つの支店を販売良好グループ、下位3つの支店を販売不振グループにわけていました。
販売良好グループには年間180件、170件、160件、150件の自動車を販売した支店が入りました。
販売不振グループには年間140件、130件、120件の販売にとどまった支店が入りました。
社長からは両方のグループの販売成績を向上させるように命じられています。
両方のグループのそれぞれの支店に足を運んで、営業活動をもっとがんばるように渇を入れるのが一番効果的かもしれません。
しかしあまり過激にやりすぎるとパワハラになってしまいます。
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それは販売良好グループと販売不振グループのグループ分けを見直すことです。
具体的には、販売良好グループの最下位の150件の物件を販売した支店を、販売不振グループに移動させるのです。
そうすることで販売良好グループの平均販売件数は165件から170件に増えますし、販売不振グループの平均販売件数も130件から135件に増えます。
このグループ分けの見直しは、見かけ上は両方のグループの販売成績の引き上げにつながります。
しかし、それが会社の販売利益の向上につながった訳ではありません。
このようなグループ分けによる数字のマジックは、表面的な取り繕いに過ぎません。
しかしあなたは一瞬にして売り上げを上げたのですから、あなたに対する社長の印象は間違いなく良くなるでしょう。
「ウィル・ロジャース現象」を見破るには、さまざまな現象を記憶に定着させて、いくつかの異なる状況のもとで十分な訓練をする必要があります。
しかしそうそう見破れるものではなく、ほぼ不可能と言えるでしょう。
「ステージ・マイグレーション」の危険性
「ウィル・ロジャース現象」は数字を巧みに操る脳の妙技であって、誰も得はしませんが損もしません。
しかし「ウィル・ロジャース現象」は決して油断して軽く見てはいけません。
例えば俗に“癌”と呼ばれる悪性新生物では、腫瘍の大きさや転移の程度などによってステージが1から4までの4段間に分類されています。
ステージは1から始まり、4になると病状は重くなります。
そして各ステージの生存率によって、治療方法の成績が判定されます。
たとえばある患者がステージの境界線上にいたとしましょう。
この人が下のステージに分類されれば、他の患者よりも相対的に容態が重いことになります。
しかし上のステージに分類されれば、他の患者よりも相対的に容態は軽いことになります。
したがってこの患者を上のステージと判定すると、下のステージと判定する場合に比べて、上下いずれのステージとも見かけ上、治療が奏功して生存率が上昇したことになります。
このように、見かけ上の生存率が上昇する効果を、専門用語で「ステージ・ マイグレーション(Stage Migration)」と 呼びます。
「ステージ・マイグレーション」も「ウィル・ロジャース現象」の一種ですが、誰も意図しないままに、知らず知 らずのうちに医療の分野にこのような効果が入り込んで、治療成績に影響をおよぼしてしまうことはとても悩ましいことと言えるでしょう。
「ウィル・ロジャース現象」を巧みに操って自分の成績をよく見せようと、意図的にグループ分けを変えるのとはわけが違います。
現代社会ではさまざまな情報が錯綜(さくそう)していて、何が正しい情報で何が誤った情報なのか誰もわかりません。
しかし少なくとも医療に関しては、治療成績ばかりを気にするのではなく、その成績がどのように評価されているのか、どのような意味を持っているのかをよく考えてみることが大切です。
“「ウィル・ロジャース現象」の脳科学”のまとめ
見せかけの数字のワナにだまされる「ウィル・ロジャース現象」をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 「ウィル・ロジャース現象」は数字を見せかけだけよくするマジックです。
- 「ウィル・ロジャース現象」は数字を巧みに操る一種の脳の妙技であり見破るのはほぼ不可能です。
- 「ウィル・ロジャース現象」が医療に及ぼす現象である「ステージ・マイグレーション」には注意が必要です。
- 数字にばかりに気をとられすぎず、物事の実態をちゃんと直視して正確な判断を下せるように心がけましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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