「”Get Wild退勤”で仕事の達成感を得る」とはどういうことなのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- “Get Wild退勤”から学ぶ脳内妄想がわかります。
“Get Wild退勤”がトレンド入り!
“Get Wild退勤”から学ぶ脳内妄想
- “Get Wild退勤”がトレンド入りして実際に試してみる人が続出しています。
- “Get Wild退勤”では自分を“仕事ができる人”だと脳内妄想することで脳は快楽を感じています。
- それと同時に自分にとって都合の悪い情報は排除する脳内妄想も働いています。
- 脳内妄想で自分を過大評価することは大切な脳の働きです。
- しかし脳内妄想は周りの人にバレているかもしれませんのでくれぐれもご注意ください。
あるツイートから過熱した“Get Wild退勤”。
友達から退勤する時にドアを開けると同時にGet Wildを聴く「Get Wild退勤」を教えてもらって試したらマジでめちゃくちゃ良い仕事した気持ちになるし何なら後ろの建物(会社)が爆破してる脳内妄想が起こってオススメ。
— shotac (@shotac_) September 10, 2020
前から言われてることだけど全ての会社は終業30秒前あたりから「Get Wild」を流すべきだと思う。仕事が全然終わってなくても何となく終わった雰囲気になるし残業しようとしてた人も同僚の机に書類を置いて「親愛なる友人に、一足早いクリスマスプレゼントってとこさ」と言って帰るようになる
— ビニールタッキー (@vinyl_tackey) July 10, 2017
テレビアニメ「シティーハンター」(日本テレビ系)のエンディングテーマであったTM Networkの『Get Wild』。
殺しやボディーガードを請け負う主人公が仕事を終えて炎上する車などから立ち去る際に"Get Wild"のイントロが流れ出しそのままエンディング映像に入るという演出。
自分は全然知りませんでした…
皆さん知ってました?
仕事が終わって退勤するのをアニメのエンディングに重ね合わせて脳内妄想で快感を得る…そんな感じなのでしょうか。
さらに出勤の時にアニメ「進撃の巨人」のオープニングテーマ「紅蓮の弓矢出勤」を聴いて脳内妄想でやる気アップ!
なんてツイートも数多くされているようです。
いずれにしてもその時の脳内妄想に合った音楽を聴いてますます気分を盛り上げようという発想ですよね。
これに対して世間の評価では84%の人が好意的な反応をしているそうです。
実は私たちは日ごろからさまざまな脳内妄想をしています。
特に人に言えないこと、言いづらいことなんかを脳の中にため込んでさまざまな妄想をすることで解消してますよね。
脳内妄想を生み出すメカニズム
私たちはさまざまなことを脳内で妄想しています。
その中でもっとも多くを占めているのは快感や幸福感です。
仕事で重圧やストレスを抱えて疲労した脳は快感や幸福感に飢えています。
そんな時に脳の中では側坐核という部分が活発に働きます。
側坐核は快感を生み出す脳の報酬系回路の一部です。
”報酬系回路に関する脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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脳内妄想-その1
“Get Wild退勤”ではがんばって仕事をしたことに対して脳がご褒美として快感を求めて側坐核を活発に働かせて脳内妄想をしている状態と言えます。
「シティーハンター」では主人公が悪人をやっつけて颯爽(さっそう)と帰っていくシーンがエンディングとなっています。
そんな快感MAXな状態を脳は求めているのです。
それは自分を“仕事ができる人”だと思うことです。
ある研究では70%の人が“自分は平均以上にできる人”だと考えているようです。
平均以下と自己評価した人はわずか2%に過ぎないという結果でした。
Front Psychol 8:898. doi: 10.3389/fpsyg.2017.00898. eCollection, 2017
こんなにも平均以上の人ばかりであったらそもそも平均の意味が崩壊してしまいます…
しかしそれだけ人は自分を高く評価する傾向があるのです。
脳内妄想-その2
側坐核の報酬系の回路はがんばって仕事をしたことに対して自分を“仕事ができる人”と自己評価して脳内で自己願望を叶えてくれているのです。
脳内妄想-その3
脳はより快感度を高めるために自分にとって都合の悪い情報は排除してしまいます。
ですから自己評価のあとに「後ろの建物(会社)が爆破している脳内妄想」がうまれてくるのです。
自分に都合の悪いものは爆破して消し去ってしまうのです。
しかしあまり高い自己評価ばかりしているとつい自分を過大評価しがちになってしまいます。
時に過大評価は有利にも働き“戦わずして勝利はない”なんて向こう見ずな挑戦が最初の一歩を踏み出すのに一役買うなんてこともあるでしょう。
自分を過大評価しつつも少しの謙虚さを兼ね備えているくらいが適度な自己評価なのかもしれません。
“実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな”…そんな気持ちでいたいものです。
脳内妄想は周りの人にバレている?
そんな風に思ってませんか?
実がそうでもないんです。
どうそうでもないかを探ってみますね。
嬉しかったり楽しかったりすると笑顔になりますよね。
逆に不安だったり落ち込んでいたりするとしょんぼりした顔になる。
顔の表情は自分の心の中の状況を映し出して周りの人にも伝わっていきます。
ではすました顔をしていながら脳の中ではすごい妄想をしている…
なんて状況があると思いますがこの時周りの人にはそれがバレてないと思ってません?
絶対にバレていないかと言うと実はそうでもないんです。
脳内妄想は顔の表情や声、仕草などで平常を装っていても空気中にあるものが広がっていき周りの人に伝わっていくのです。
あながち間違えてはいなさそうですが…
正解は…汗です。
実際には汗そのものが広がるのではありません。
脳内妄想-その4
脳内妄想は汗によって体から発する臭い…つまり体臭によって拡散していくのです。
しかし安心してください。
人は臭いを嗅ぎ分ける嗅覚が動物と比較して退化しています。
ですからよほどの体臭でない限りそれを嗅ぎ取ることはできません。
しかし脳は確かにその臭いを嗅ぎ分けているんです。
ある種の臭いを嗅ぐと脳の前頭葉という部分がより活発に活動することがMRIの画像で示されています。
これはいわゆる潜在能力的なものであり意識して感じることができるものではありません。
その人の生理的な好悪のクセであったり本能的な勘であったりに頼るところが大きいのですが確実に脳は汗から臭いを嗅ぎ分けているのです。
例えばこんな実験結果があります。
試験直前の緊張した状態で流した“不安の汗”と同じ人がジムで運動して流した“スポーツの汗”を嗅ぎ分けられるのかという実験です。
正解率は51%で偶然のレベルでの確率でしか正解は得られないという当然の結果でした。
つまり意識して嗅ぎ分けようとしてもそれは識別不能ということです。
しかしMRIの検査をしてみると2つの臭いを嗅いだ時の脳の反応は明らかに分かれていました。
つまり無意識の中で脳は不安状態で流した緊張の汗とスポーツで流したさわやかな汗をちゃんと区別していたのです。
ここでさらにおもしろいことは不安で流した汗は脳の島皮質という部分の活動を活発にしたことです。
島皮質は同情や苦痛に関係する脳の領域です。
つまり不安の汗は他人に同情心や苦痛な内面を伝えているのです。
脳内妄想-その5
不安という感覚的なシグナルは他人の脳に感情を伝染させる力を持っています。
他人の臭いを嗅ぐことは他人の感情を自分の中に取り込むことに等しいと言えます。
どうしてそう感じたのかはわからないけどただなんとなくそんな風に感じる…直感?第六感?
それはもしかしたら相手が出している汗の臭いから脳が感じている直感なのかもしれません。
”直感に関する脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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教育ビデオを見てかいた汗とアダルトビデオを見てかいた汗を嗅いでもらう研究です。
当然実験に参加したのは男性です。
そして汗の臭いを嗅いでもらうのは女性です。
結果は両者の汗の臭いを嗅ぎ分けることはできませんでした。
しかし脳はちゃんと嗅ぎ分けていました。
アダルトビデオを見てかいた汗を嗅いだ脳は視床下部という部分がさかんに活動をしていました。
視床下部は性欲に関わる部位です。
女性の脳には性的妄想はバレているのです。
われわれは意識的に臭いを嗅ぎ分けることはできないのですから…
人は他人とコミュニケーションをとる能力が他の動物と比べてとても発達しています。
臭いという原始的な手段を使わなくても言葉や顔の表情や手足の仕草など自由にあやつれる手段を使って細かな情報を他人に伝えることができます。
ですから臭いを嗅ぎ分ける嗅覚はとても退化してしまっているのです。
とは言っても脳はちゃんと臭いを感じ取っているのですから安心ばかりもしていられないかもしれませんね。
脳内妄想-その6
イヤホンから流れる“Get Wild”を聞きながら会社を出る時に思わずその爽快感、開放感からじんわりと汗をかいていたら要注意ですよ。
自分は“仕事ができる人”だという妄想からでる汗であれば問題はないでしょう。
しかし会社を爆破する妄想からでる汗であればどうでしょう…
たとえ平常を装っていたとしてもあなたがまき散らす汗の臭いは自分の脳内妄想を周りの人の脳に伝えまくっているかもしれないのです。
くれぐれも注意して脳内妄想を楽しんでくださいね。
”脳内妄想の脳科学”のまとめ
“Get Wild退勤”から学ぶ脳内妄想について脳科学的に解明してみました。
今回のまとめ
- “Get Wild退勤”がトレンド入りして実際に試してみる人が続出しています。
- “Get Wild退勤”では自分を“仕事ができる人”だと脳内妄想することで脳は快楽を感じています。
- それと同時に自分にとって都合の悪い情報は排除する脳内妄想も働いています。
- 脳内妄想で自分を過大評価することは大切な脳の働きです。
- しかし脳内妄想は周りの人にバレているかもしれませんのでくれぐれもご注意ください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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