睡眠ってどんな効果と影響があるの?
寝不足って脳にどんな影響をおよぼすの?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきますね。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 寝不足が脳におよぼす影響を脳科学で説き明かします。
睡眠って何なのか?
寝不足の脳科学
- 睡眠は動物のみならず植物にも見られる不思議な行為です。
- そもそも睡眠は敵に見つからないようにしてエサを取る時間を潰すための合理的な行為です。
- ですから睡眠を自在に操り脳の一部分だけを睡眠状態にして活動する(局所睡眠)ことも可能なのです。
- しかし人間は他の動物や植物のように器用に睡眠を操る術を持っていません。
- そのため睡眠時間を削って活動し寝不足になり…そして太るのです。
しかしその前に睡眠について知っておく必要があります。
“睡眠の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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睡眠はとことん不思議な現象です。
「時間が足りない!」なんて嘆きながら忙しなく動き回る現代人でも一生の時間の30%近くを何もせずただ寝てすごしているのです。
睡眠をとる動物たち
睡眠は昆虫から哺乳類まですべての動物に見られる普遍的な生理現象です。
なんて思ってしまった人もいるかもしれませんがたとえばハエも寝ます。
ハエの睡眠はヒトととても似ています。
ハエも寝不足になると仕事の効率が低下します。
徹夜で動き回った翌日は30%ほど長く寝ます。
睡眠が動物の種を超えて見られる現象ということは睡眠にはそれだけ重要な役割があるのでしょう。
睡眠の効果についてはいろいろな議論がされています。
睡眠と記憶の関係は一番話題とされている分野です。
“記憶と睡眠の脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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しかし実際には睡眠が何のためにあるのか厳密には解明されていません。
睡眠の長さは種によって様々です。
短い種では1日3時間ほどしか眠りません。
長い種では1日20時間も眠ります。
何日も寝ない動物もいます。
ちなみにヒトの睡眠時間は平均すると8時間くらいで動物の中では比較的「長眠型」の部類に入ります。
短眠型の動物は短い時間で集中した睡眠を効率的に取っているかと言えば実はそんなことはなくむしろ逆です。
シマウマはもっとも短眠型の1種ですが眠りが浅いことが特徴的とされています。
いつ的に襲われるかわからない状況で生活しているのでぐっすり寝ているわけにいきません。
眠りが浅いのにはそれなりの利点があるわけです。
一方ライオンはぐっすりと長い睡眠をとります。
一般的に睡眠時間は草食動物→雑食動物→肉食動物の順に長くなるとされています。
睡眠のとり方はさまざま
睡眠はヒトのように毎日繰り返されるタイプばかりとは限りません。。
たとえば冬眠も睡眠の1つの型です。
極寒の地で生活する動物たち…特に渡り鳥のように暖かい土地を求めて長距離を移動することのできない陸上の動物は冬眠しながら厳冬をやり過ごし生命を維持する必要があります。
冬眠中は体温がマイナスまで下がることもあります。
体温を下げることで身体や脳の活動を大きく減らしてエネルギーを節約するのです。
ですから冬眠の状態から目覚めるには1時間以上かかるのが普通です。
ちなみにクマは冬眠すると思っている人がいるかもしれませんがクマが眠るのは冬眠ではなく「冬季睡眠」です。
冬眠ほど体温を下げて身体や脳の活動を下げることはなく冬眠よりもかなり早く目覚めることができます。
植物も睡眠をとる?
睡眠の定義を「じっとして活動を休止する」という意味でとらえるのであれば睡眠はなにも動物だけに見られる特徴的な現象ではなく植物にも見られます。
植物と言っても睡眠をとるのは「タネ」です。
冬を越して春になったら芽生えるタネは適切な季節が来るまで休息しているわけですから睡眠をとっていると言えるでしょう。
タネの睡眠は単に暖かい季節を待つだけではありません。
何年にもわたり眠り続けることもあります。
たとえば蓮のタネは1千年以上たっても健康に育つことができます。
地球上には1万年以上も眠り続けるタネもあります。
動物にしても植物にしても睡眠の長さとタイミングは種によってそれぞれ極めて合目的に計算されています。
睡眠は敵の危険に無防備にさらされるという不利な時間と思われがちです。
しかし睡眠は実は敵に見つからないように静止しかつエサを取ることが難しい時間をやり過ごすために最適化された合理的な行為なのです。
寝不足が脳におよぼす影響を探る
では睡眠は脳にとってどのような意味を持つ時間なのでしょうか?
睡眠によって身体は確かに休んでいます。
しかし脳の活動レベルを測定すると睡眠中も覚醒時と変わりがありません。
むしろ脳の部位によっては睡眠時の方が活発です。
つまり寝ていても脳は休んでいないのです。
睡眠は深い眠りと浅い眠りが交互に生じています。
おもしろいことに深い眠りの時の方が脳の活動は活発でほぼすべての神経細胞が活動しています。
活動の様子も独特で神経細胞は同期して活動しています。
活動のタイミングがそろっているということです。
いっぽう浅い眠りの時の脳は覚醒している時の脳の活動パターンとそっくりです。
実際夢を見たと自覚するのはこの浅い睡眠の時です。
“夢の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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それでは睡眠をあまりとらずに寝不足になると脳にはどのような影響があるのでしょう?
寝不足と脳の関係を調べた研究をご紹介しましょう。
Vyazovskiy VV, et al, Nature 472(7344):443-447. doi: 10.1038/nature10009, 2011
研究ではネズミの睡眠時間を一晩はく奪して強制的に徹夜させます。
そして徹夜明けの脳の活動を測ると驚いたことにネズミはかろうじて起きてはいるのですが脳は部分的に眠った状態でした。
脳のあちこちで深い眠りの状態になっていました。
寝不足の脳科学-その1
本来深い眠りの時の脳の活動は足並みがそろった状態で観察されるのですが寝不足の時には足りない睡眠時間を補うためなのか神経細胞たちが交代で休んでいるのです。
このような脳の部分的な眠りを「局所睡眠」と呼びます。
おもしろいことに局所睡眠が生じると学習成績は低下します。
これは寝不足の状態では仕事の効率が下がることにもつながっていきます。
つまり寝不足では脳のパーツが交互に作業をサボって脳の能力は低下するのです。
ちなみに普段の睡眠でも寝入った直後は睡眠が深く脳全体が同期していますが明け方の脳は寝不足の時と同様に局所睡眠になることがあります。
ただし明け方の局所睡眠は睡眠不足の時と違って睡眠時間は足りています。
ですから脳が部分的に寝ている局所睡眠というよりは部分的に目が覚めつつある局所覚醒と言ってもいいのかもしれません。
部分睡眠はなにもヒトだけに見られる現象ではなく他の多くの動物でも見られます。
たとえばイルカや渡り鳥は脳を半分ずつ交互に睡眠させながら移動することが知られています。
寝不足の時や覚醒前に観察される脳の部分睡眠はヒトがまだ野生動物だったころに活用してきた能力の名残りなのかもしれません。
寝不足と肥満の不思議な関係
では最後は寝不足と肥満の関係をご紹介しましょう。
肥満…いわゆる太りすぎはしばしば美的な観点から敬遠されることがあります。
特にダイエットの目的の多くは「見た目」を気にしてのことでしょう。
“見た目の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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まずは肥満はそもそも健康に悪影響を及ぼすことをあらためて確認してくことが大切です。
肥満はさまざまな病気の危険因子となっていますから日ごろから体重に気を配っておくことは重要です。
流れには必ず入力と出力があります。
体重の場合は体に入ってくる重さと体から出ていく重さです。
このバランスが体重の増減を決定します。
ここで重要なことがあります。
出力にはたくさんの出口があります。
ちょっと汚い話になりますが糞や尿として排泄することは出力になり体重は減ります。
その他にも汗をかいてもその水分量だけ体重は減ります。
肺で呼吸しても同様に体重は減ります。
吸い込んだ酸素は体内で炭素と結合して二酸化炭素となって排気されますから体重は減るのです。
じっとしているだけでも体からは熱が放散されて体重は減ります。
ところが入力については基本的には1種類しかありません。
食べなければ入力はゼロとなります。
たとえば今この瞬間から断食を始めれば現時点の体重より増えることはありません。
これが減量に食事管理が有効とされる理由です。
寝ている時間は身体は休んでいる状態です。
ですから体全体のエネルギー消費は当然低下します。
つまり体重においては重さの出力が落ちるので寝れば寝るほど太りそうな気がします。
ところが実際に体重を測ってみると逆の関係になることが分かります。
つまり肥満な人ほど睡眠時間は短い傾向にあり寝不足なのです。
寝不足と肥満の関係を調べた研究をご紹介しましょう。
Markwald RR, et al, Proc Natl Acad Sci USA 110(14):5695-5700. doi: 10.1073/pnas.1216951110, 2013
普段ヒトの平均的な睡眠時間である7~8時間の睡眠をとっている健康な人に対して1日5時間睡眠の短眠を連続して5日間続けてもらいます。
5日後に体重を計測するとなんと平均0.8キロの体重増加が認められました。
寝不足は確かに肥満を引き起こしたのです。
短眠の5日間の様子を観察すると多くの人はスナック菓子などの間食が増えていました。
つまり体重において重さの唯一の入力源である飲食が増加していたのです。
寝不足の脳科学-その2
睡眠不足は活動によるエネルギー消費が増加する以上に食べ過ぎてしまい肥満を引き起こすというなんとも非科学的な事態を引き起こしているのです。
しかし睡眠不足になると「食事を節制しよう…」という真っ当な自制心そのものも減ってしまうのです。
寝不足は食欲のみならず理性的な判断力を全般的に鈍らせます。
寝不足の脳科学-その3
十分な睡眠を確保するように心がけることは自分自身の健康のためのみならず社会人としてのマナーとも言えるのかもしれません。
睡眠と寝不足についてもっと学んでみませんか?
お勧めの本をご紹介しましょう。
“寝不足の脳科学“のまとめ
寝不足が脳におよぼす影響を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 睡眠は動物のみならず植物にも見られる不思議な行為です。
- そもそも睡眠は敵に見つからないようにしてエサを取る時間を潰すための合理的な行為です。
- ですから睡眠を自在に操り脳の一部分だけを睡眠状態にして活動する(局所睡眠)ことも可能なのです。
- しかし人間は他の動物や植物のように器用に睡眠を操る術を持っていません。
- そのため睡眠時間を削って活動し寝不足になり…そして太るのです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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