おごってもらったらなぜお返ししないといけないのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- お返しの法則である「返報性の原理」の意味についてわかりやすく脳科学で説き明かします。
お返ししたくなる「返報性の原理」とは?
返報性の原理の脳科学
- 何かをしてもらった時にお返ししたくなる現象が「返報性の原理」です。
- 脳がお返しをしたくなる理由は相手に負い目を感じることに耐えられず借りを返しておきたいと感じるからです。
- 「返報性の原理」は生き残るためのリスクマネジメントですから決して逃れることはできません。
- 「返報性の原理」の呪縛にはまらないようにするためにはそもそもおごってもらわない方がよいのです。
人に何かをしてもらったらお返しをしないと申し訳ない気持ちになりますよね。
このような心理状態を「返報性の原理」と言います。
お返しの習慣は特に日本人には「あるある」と思われそうですよね。
しかし返報性の原理が紹介されたのは社会心理学者であるロバート・B・チャルディーニ氏の名著「影響力の武器」であり、老若男女・国を問わず人間が本来持っている普遍的な現象です。
お酒や食事をおごってもらったらお返しをしたくなりますし、SNSで「いいね!」をもらったらお返しに「いいね!」をしないといけなく感じてしまう…このように自然に湧きおこる感情が返報性の原理です。
「お返し」というと「好意に好意で返す」と思われがちですが「やられたらやり返す」といった悪いことへの報復も含まれます。
また自分だけが恩を受けた状態でお返しをしないと時には「恩知らず」などと非難されることすらあります。
返報性の原理はそもそも無意識の中で生まれる現象ですが時には意識して「お返し」をしなければならないほど強力な力を持っています。
好意の返報性
自分が好意を見せれば相手もこちらに好意を示してくれるものです。
笑顔には笑顔で返す
手を振ってくれたら手を振って返す
その他にもたとえばバレンタインは好意の返報性の典型でしょう。
チョコレートをもらったらお返しをしないとなんだか悪い気持ちになりますよね。
たとえ義理だと分かっていても好意を受け取った以上は好意を返そうと感じるものです。
また観光地での写真の撮りあいもよく見られるシーンです。
と声をかければたいていの場合は
と返ってきます。
もしお返しがないとなんだかモヤモヤしてしまいますよね。
悪意の返報性
さきほど登場した「やられたらやり返す」です。
時には100倍返しされることもありますから注意が必要です。
“半沢直樹の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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譲歩の返報性
交渉ごとに関連して自分が譲歩すれば相手も譲歩してくれやすくなるというものです。
お互いに100を主張している時に相手が交渉をまとめるために主張を80に譲歩してくれたら自分も多少は譲歩する気になるものです。
自己開示の返報性
相手のことを知りたいと思った時はまずは自分のことを相手に知ってもらうと相手も心を開きやすくなるものです。
このようにひとえに「お返し」といってもさまざまなものがあします。
ではなぜ脳はそこまでして「お返し」をしたがるのでしょうか?
脳は負い目を感じることに耐えられない
この友人とは長い付き合いでかなり前からの知り合いです。
その人はとても親切なのですが正直に言うと是非とも会いたいと思うほどの仲の良さではありません。
しかしうまく断る理由が思い浮かばず招待を受けることにしました。
結果は予想していた通りでした。
友人の自宅で催された食事会はとても退屈なものでした。
それなのに次は自分がその友人を招待しなければならないという義務感だけが残りました。
結局「返報性の原理」が働いたために二度も気の乗らない食事会に参加する羽目になってしまいました。
ところが友人は自分と同じようには感じていなかったようで数週間後には再び食事会の招待を受けることになってしまいました。
このような悪循環から抜け出したいと思っていながら「返報性の原理」が働いてしまうためにさほど会いたくない人と何年間も定期的に会う羽目になってしまうというのはよくある話でしょう。
ではなぜ脳の中で「返報性の原理」が働いて自分の意に反してまで「お返し」をしようとするのでしょうか?
それは他人の行為に対して負い目を感じることに耐えられないからです。
「良いことでも悪いことでも借りは返しておきたい」
そのような心理が働き無意識的に「お返し」をしようとするのです。
ある自然保護団体から封書が届いたとしましょう。
開けてみると仲にはさまざまな田園風景の写真が印刷された絵葉書がたくさん入っていました。
送り状には「絵葉書はあなたへのプレゼントです。寄付をするしないに関わらず絵葉書を受け取ってください」と書かれていました。
はがきをゴミ箱に捨てるにはそれなりの努力と冷徹さが必要です。
まるで賄賂のようなこのやんわりとした恐喝は一般社会のいたるところで目にする現象です。
「まず何かをプレゼントして次に要求する」
このようなタイプの募金活動は脳に「返報性の原理」を働かせとても効果的なのです。
“寄付の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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『借りは返しておきたい』
そのような思いが「お返し」という発想を生み出すのです。
リスクマネジメントである「返報性の原理」
負い目を感じることに耐えられず借りを返しておきたいからお返しをする
このように考えると「返報性の原理」はなにか悲しい現象に思われてしまうかもしれません。
しかし脳に「返報性の原理」が働くのはそもそもリスクマネジメントのためです。
たとえば狩猟と採集で食糧を確保していた時代を想像してみてください。
あなたはある日幸運にもシカを仕留めました。
1日で食べられる量よりもはるかに多い肉を手に入れました。
当然冷蔵庫など存在していない時代です。
あなたはシカの肉を自分のグループの仲間と分け合うことにしました。
そうすることで運悪く自分が獲物をとれなかった時には他の人から分け前をもらえるチャンスが得られます。
つまり他人の胃袋があなたにとっての冷蔵庫ということです。
この「お返し」の仕合いは巧みな生き残り作戦です。
食糧確保が不安定なすべての動物に必要なこの現象こそが「返報性の原理」が生まれた理由です。
返報性の原理がなければ人類をはじめとした無数の負動物たちはとっくに絶滅していたでしょう。
『借りたものは必ず返す』
そのような無意識の働きが脳にあるからこそ世界はうまく回っているのです。
おごってもらわない方がいい理由
「返報性の原理」は悲しくもあり生きていくためのリスクマネジメントであり脳には必須の現象であることがお分かりいただけたでしょうか?
それは脳はどのような場面においてもそう簡単には「返報性の原理」の呪縛から逃れられないということです。
攻撃してきた相手に返報性の原理を働かせて報復していては争いごとは決しておさまりません。
ですから世の中から戦争がなくならないのです。
イエス・キリストは頬を殴られたら相手の頬を殴るのではなく殴られたのとは反対側の頬を相手に自ら差し出しなさいと説いています。
そのような行動をとれば悪意の返報性の悪循環は止められるかもしれません。
しかしそのような行動はそう簡単にできることではありません。
お酒や食事をおごってもらったらお返しに次の機会にはおごり返さなければなりません。
そのような機会がない場合にはもっと別のモノを要求されるかもしれません。
時に男女の関係のもつれにつながることも決してめずらしい話ではありません。
そのように言われて断り切れなくなってしまう…なんてこともあるでしょう。
ですからそもそもおごってもらわない方がよいのです。
おごってもらわなければお返しする必要がないのですから負い目を感じることも借りを返す必要もありません。
むやみに「いいね!」をしまくるのも問題を引き起こす引き金になりかねません。
たとえ見返りを期待していなかったとしても「返報性の原理」はずっと昔から生き残っていくために脳の中に組み込まれたプログラムですから簡単に逃れることはできません。
まさに「返報性の原理」の呪縛です。
“返報性の原理の脳科学”のまとめ
お返しの法則である「返報性の原理」の意味についてわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 何かをしてもらった時にお返ししたくなる現象が「返報性の原理」です。
- 脳がお返しをしたくなる理由は相手に負い目を感じることに耐えられず借りを返しておきたいと感じるからです。
- 「返報性の原理」は生き残るためのリスクマネジメントですから決して逃れることはできません。
- 「返報性の原理」の呪縛にはまらないようにするためにはそもそもおごってもらわない方がよいのです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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