自分の意見が多数派であり、他の人も自分と同じ考えを持っていると思い込んでしまうのはなぜなのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 他人も自分と同じ考えを持っていると思い込んでしまう「フォールスコンセンサス効果」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
誰もが「自分の意見が多数派」と思い込んでいる
「フォールスコンセンサス効果」の脳科学
- 自分以外の他人が自分と同じように考えて同じように行動するはずと思い込む認知バイアスを「フォールスコンセンサス効果」と呼びます。
- 「フォールスコンセンサス効果」は脳の本能であり、自分はみんなと同じであり、みんなは自分に合意しているという「偽の合意」のもと成り立っています。
- 「フォールスコンセンサス効果」が強く働くと、自分と異なる他人の意見を受け入れられなくなり、他人を攻撃するようになります。
- 他人を疑う前に自分自身を疑い“真の正義”を見つけてください。
フォールスコンセンサス効果
『フォールスコンセンサス効果』 False consensus effect
偽の合意効果あるいは総意誤認効果とも呼ばれ、自分の考え方を他の人に投影する傾向のこと。
つまり、人は他の人々も自分と同じように考えていると見なしたがる。
この推定された相関には統計的確証はないが、存在しない合意があるかのように感じさせる。
人々は自分の意見・信念・好みが実際よりも一般大衆と同じだと思い込む傾向がある。
たとえば「1980年代の音楽と2000年代の音楽ではどちらが好きですか?」という質問をしたとすると、あなたならどちらを選ぶ人が多いと思いますか?
そのような質問をすると、多くの人は「自分」を基準にして推測します。
あなたが1980年代の音楽が好きなら、他の人も1980年代の音楽が好きだろうと考えます。
同様に2000年代の音楽が好きな人は自分が多数派だろうと考えます。
「フォールスコンセンサス効果」はわたしたちの日常にあふれかえっています。
自分が子どもだった時に気に入っていたものを現代の子どもも気に入るはずと思い込んでいる。
仕事を休む時にはメールで連絡するのは非常識で電話で報告するのが常識と思い込んでいる。
好きな人が喜ぶはずと思って言った褒め言葉が逆に相手を傷つけてしまった。
お客さんのためを思って行ったサービスが空回りして、逆にクレームの原因になった。
人気が出て売れると思っていた商品が全然売れず、たいして力を入れていない商品が売れた。
このような経験をしたことがある人はきっとたくさんいるでしょう。
脳は他の人たちと自分の意見の一致具合を過大評価する癖があります。
“思い込みの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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1977年にアメリカのスタンフォード大学の社会心理学者であるリー・ロス氏の研究によって提唱されました。
研究では「ジョーのレストランで食事をしよう」という宣伝文句の書かれた看板を作り、無作為に選ばれた学生たちに「サンドイッチマンのように看板を身につけてキャンパス内を30分歩いて欲しい」と頼みます。
同時に「どれくらいの学生がこの頼みを承諾すると思うか?」と質問しました。
するとサンドイッチマンの格好をすることを承諾した学生は、学生たちの大半(62%)が自分と同じように承諾の返事をすると答えました。
それに対して頼みを断った学生は、自分と同じように学生たちの大半(67%)がサンドイッチマンの格好をすることを嫌がって断るだろうと答えました。
つまり頼みを承諾した学生も、断った学生も、「自分の意見が多数派」と思い込んでいたわけです。
知らぬ間にはまり込んでしまう「フォールスコンセンサス効果」のワナ
ここまで読んでみて、
なんて思った人は、その時点で「フォールスコンセンサス効果」にはまり込んでいると言えるでしょう。
「フォールスコンセンサス効果」はみんなが自分と同じように考えて同じように行動するはずと思い込む認知バイアスのことです。
バイアスとは、「認知の偏り」を意味する言葉です。
「フォールスコンセンサス効果」が生まれる原因は、「正常化バイアス」と「帰属バイアス」の2つに分けて考えることができます。
「正常化バイアス」とは、自分が少数派ではなく多数派に属していて正しいと思い込む認知バイアスで、「自分とみんなが同じ」と考えることで安心感や正常性を得ようとします。
つまり自分を常に「多数派」「正常」「常識人」「普通」と思い込んでいたいわけです。
一方、「帰属バイアス」とは、「自分の意見や考えや価値観」を他人に投影して帰属させる認知バイアスで、「自分とみんなが同じという偽の合意」を強化しています。
「フォールスコンセンサス効果」の影響を受けている人は、実際には存在しない多数派の合意があるように錯覚していることから、「偽の合意効果」や「総意誤認効果」とも呼ばれます。
“帰属バイアスの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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「フォールスコンセンサス効果」にはまり込むと、自分を正当化しようとするあまり、「自分の意見や考えや価値観」を過大評価しがちになります。
政治家が選挙で自分の当選を確信するのはタダの楽観主義からではありません。
自分でも気づかないうちに、自分が当選する確率を過大評価してしまうのです。
そして有権者であるあなたも、自分の支持政党が勝利する確率を何%か過大評価しているはずです。
芸術家や音楽家や作家たちも同じです。
作品が完成して世に送り出す時には「自分の作品はきっと素晴らしい成功をおさめるだろう」と信じているはずです。
しかしほとんどの作品は見向きもされず、自分が思い描いていた成功は手にできません。
自分で自覚していようがどうであれ、ほとんどの人は知らぬ間に、そして無自覚に「大多数の人は自分と同じ考えでいる」と思い込む「フォールスコンセンサス効果」にはまり込んでいるのです。
「フォールスコンセンサス効果」にはご用心ください
「フォールスコンセンサス効果」とは、自分の意見や考えや行動が常に多数派(マジョリティ)で正常であると思い込む認知バイアスです。
「フォールスコンセンサス効果」は自分で勝手に思い込んでそのワナにはまるだけであればたいして問題ではありません。
時には思い込みがただの勘違いであり失敗に終わることもあるでしょう。
その場合困るのは自分だけです。
他人には迷惑はかかりません。
しかし「フォールスコンセンサス効果」が強く働くと、他人に迷惑をかけてしまう場合があります。
他の人が自分と同じ考えだと思い込みすぎると、「自分の意見や考えや価値観」が常に多数派で正しいと思い込む正常化バイアスによって、「自分とは異なる他人の意見や考えや価値観」を受け入れられなくなってしまいます。
そして最終的には、自分と意見を異にする人たちを「変わり者」と決めつけて攻撃するようになります。
これは先ほどのリー・ロス氏の研究でも証明されています。
サンドイッチマンの格好をすることを承諾した学生は、拒否した学生のことを「ユーモアを理解しない頭でっかち」と評価し、拒否した学生は承諾した学生のことを「常に自分が中心にいない時が済まない“まぬけ”」と評価しています。
このようなことは一般社会でもよく見かけます。
たとえば
広告では都合の良い情報しか流さない。
キャンペーンなのに対象外の商品が多くて値段が高すぎる。
自分の方が企業なんかよりもお得な情報をたくさんもっている。
「フォールスコンセンサス効果」は人間が生き残っていくために勝ち得た本能です。
真実を認識するのではなく、たとえ間違えていても「自分が正義である」という大胆で自信に満ちた発想を持った人が、周りによい印象を与え、多くの人の心をとらえ、自分の遺伝子を後世に残してきました。
疑い深い人は魅力に欠け、生き残れなかったのです。
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脳は何が正しいかよりも、できるだけ多くの子孫を残すことを最重要事項として働きます。
ですから意識していないと、誰しもいつのまにか「フォールスコンセンサス効果」にはまり込んでしまうのです。
あなたと意見が一致しないからといって、相手のことを見下して攻撃するようなことは“真の正義”とは言えません。
自分と意見の違う人に懐疑的になるのではなく、まずは自分自身に懐疑的になってみてください。
あなたの意見がいつも正しく、主流で、正義だとは限りません。
時には本能に抗(あらが)ってみてください。
きっと今まで見えなかったものが見えてくるはずです。
“「フォールスコンセンサス効果」の脳科学”のまとめ
他人も自分と同じ考えを持っていると思い込んでしまう「フォールスコンセンサス効果」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 自分以外の他人が自分と同じように考えて同じように行動するはずと思い込む認知バイアスを「フォールスコンセンサス効果」と呼びます。
- 「フォールスコンセンサス効果」は脳の本能であり、自分はみんなと同じであり、みんなは自分に合意しているという「偽の合意」のもと成り立っています。
- 「フォールスコンセンサス効果」が強く働くと、自分と異なる他人の意見を受け入れられなくなり、他人を攻撃するようになります。
- 他人を疑う前に自分自身を疑い“真の正義”を見つけてください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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