最近多くの銭湯で見かける炭酸泉は本当に効果的なのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 炭酸泉の効果を勝手に脳科学で説き明かします。
炭酸泉とは?
炭酸泉の脳科学
- 銭湯に訪れると、多くの施設で炭酸泉を見かけます。
- 炭酸泉は低温で長時間入浴するのが効果的です。
- 炭酸泉は血管を拡張し血流を増加させることで、体にさまざまな効果を生み出します。
- 炭酸泉の脳への効果は確定的でなく微妙なのが現状です。
- しかし科学的、医学的な炭酸泉の効果にとらわれすぎず、実際に炭酸泉で癒されながら、その効果を実感してみてください。
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サウナに入るために銭湯に訪れると、最近多くの銭湯では「炭酸泉」の浴槽を見かけます。
そのように思っている人も少なくないはずです。
「炭酸泉」とはその名の通り、炭酸ガス(二酸化炭素)が溶け込んだお湯のことです。
つまり“温かい炭酸水のお風呂”ということです。
しかし炭酸を含むお湯であればなんでも炭酸泉と呼んでいい訳ではありません。
日本には「温泉法」という温泉に関する法律があります。
温泉法は、「温泉を保護し、温泉の採取等に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害を防止し、及び温泉の利用の適正を図り、もって公共の福祉の増進に寄与すること」を目的として定められました。
温泉法によれば、炭酸泉は「お湯1リットルに炭酸ガスが250ppm以上溶けたもの」と定義されています。
炭酸ガスが1000ppm以上溶けたお湯は「高濃度炭酸泉」と呼ばれます。
今では多くの銭湯で見られる炭酸泉ですが、そのほとんどは人工的に作られた炭酸泉です。
“炭酸ガスは高温のお湯に溶けにくい”という性質があるので、火山活動が活発な日本では泉温が高く、天然の炭酸泉に出会うことはほとんどありません。
とはいえ天然の炭酸泉がないわけではありません。
ちなみに泉温が低いヨーロッパ、とくにドイツでは天然の炭酸泉が数多く湧き出しているそうです。
ですから高温のお湯に大量の炭酸ガスを溶け込ませるには特殊技術が必要で、それを可能にした装置が開発されたことにより、今では簡単に人工炭酸泉に浸かることが可能となりました。
日本では2000年に「竜泉寺の湯」が初めて炭酸泉の装置を導入し、これが全国の炭酸泉ブームの火付け役となりました。
「竜泉寺の湯」と言えば、1990年に名古屋市に第1号店をオープンし、お手頃価格でいろいろなお風呂に入れる施設である「スーパー銭湯」の名付け親として有名です。
最近の話題としては、2022年4月27日に千葉県流山市に関東最大級のスーパー銭湯である「竜泉寺の湯スパメッツァオオタカ」がオープンしました。
ではみなさんは炭酸泉にはどのような効果があるのかご存じでしょうか?
炭酸泉の一般的な効果とは?
炭酸泉の最大の特徴は、低い温度でゆっくりと長湯することで効果が得られるということです。
低温であっても体の芯から温まり、湯上り後も体が持続してポカポカと温かくすごすことができます。
なぜ炭酸泉は高温でないのに温かさが持続するのでしょう?
お湯に浸かって皮膚表面の細胞の温度が上昇すると、まだ温まっていない他の場所の血液をその周辺に送り込み、温められた細胞から熱をもらい、その熱を汗や呼吸で放散させて、体内の温度を一定に保とうとする作用が働きます。
この作用を引き起こしているのはNO(一酸化窒素)です。
NOは血管を拡張する作用があり、拡張した血管では血流量が増加して、多くの熱を運搬することが可能となります。
このNOの作用によって全身の血液量は増加して体全体が温かくなるのです。
炭酸にはもともと血管を拡張する作用があります。
炭酸泉に浸かることで、血液内に炭酸が溶け込み、血液中の炭酸濃度が上昇して全身の血管を拡張します。
それによって全身の血流量は増加します。
つまり炭酸泉は温度に関係なく全身の血液量を増加させる作用を持っているのです。
ですから体温より少しでも高い温度の炭酸泉に浸かれば、先ほどの熱による血管拡張に加えて、炭酸による血管拡張が加わり、相乗効果で全身の血液量はよりいっそう増加して、血流促進効果を発揮するわけです。
そのため炭酸泉は40度以上の高温でなくても、38度台の低温で十分に保温効果があるわけです。
ちなみに炭酸は皮膚に接触してもすぐには血管内には溶け込みません。
炭酸が血管に溶け込んで効果を発揮し始めるには数分かかると言われています。
また炭酸濃度が高い方が効果発現までの時間は短く、また効果も高くなります。
ですから高濃度炭酸泉の方が通常の炭酸泉よりも効果的といえるでしょう。
さらに炭酸泉に浸かっている時間が長い方が、より多くの炭酸が血管に溶け込むのでさらに効果的になります。
鎮痛作用
熱が加わり体温が上昇すると痛みに対する閾値が上昇します。
閾値が上昇するということは、痛みを感じにくくなるということです。
普通のお湯と炭酸泉を比較すると、炭酸泉入浴後の方が痛みの閾値が高くなることが証明されています。
実際に炭酸泉は腰痛や関節痛に効果があるとされています。
免疫力亢進
人間の体温は36~37度程度で維持さていて、これより高かったり低かったりすると、元に戻ろうとする反応が生じます。
体温上昇が1度以内であれば軽度な刺激、2度以上であれば過度な刺激と感じます。
入浴時間であれば、10分以内であれば軽度な刺激、20分以上であれば過度な刺激と感じます。
このような刺激を受けると、今後再び刺激が来た時により安全に備えられるように体内では免疫反応が起こります。
これによって生体防御の能力を高めるわけです。
免疫力に関係する細胞として有名なのが「NK(ナチュラルキラー)細胞」です。
NK細胞は主に血液中に存在して体中を移動して、がん細胞やウイルスに感染した細胞などの異常細胞を見つけると攻撃して退治します。
普通のお湯と炭酸泉を比較すると、炭酸泉入浴後の方がNK細胞の活性が高まることが証明されています。
美容効果
血管が拡張して血流が増加すると、当然血液中の老廃物はより多く洗い流されます。
老廃物が洗い流されると皮膚は再生され生まれ変わります。
つまり炭酸泉には美容効果があり、これも証明されています。
頭皮、毛根の洗浄効果
炭酸泉を頭皮にかけると頭皮に炭酸の気泡がくっつきます。
気泡は徐々に大きくなり最終的に頭皮からはがれ落ちます。
その際に頭皮の油脂を一緒にはがし落とします。
また頭皮の角質などのタンパク質もはがれ落ちます。
この効果は特に毛根の部分で際立ちます。
普通のお湯でも似たような効果は認められますが、炭酸泉シャワーでは手を使って頭皮を洗わなくてもただ洗い流すだけでもこの効果がみられるので、普通のお湯よりも明らかに効果的であることが証明されています。
この気泡が大切なのです。
頭皮だけでなく手足や体幹の皮膚の汚れも気泡によってはがれ落ちます。
このほかにも炭酸泉にはさまざまな効果が報告されています。
ですから炭酸泉は人気なのです。
では炭酸泉は脳にとっても効果的なのでしょうか?
炭酸泉の脳科学的な効果とは?
炭酸ガスは脳の血流を左右する最も強力な因子の1つです。
血液中の炭酸濃度が上昇すると脳血流は増加し、炭酸濃度が下降すると脳血流は減少することが知られています。
また脳血流と脳の代謝は相関関係にあります。
つまり脳血流が増加すると脳の代謝は増加する…つまり脳細胞は活性化されて激しく働きます。
一方で脳血流が減少すると脳の代謝は減少する…つまり脳細胞の働きは低下してあまり働かなくなります。
頭部を打撲したことによって脳が損傷した場合などでは、人工呼吸器を利用して過換気の状態にします。
過換気とは、通常1分間に20回程度の呼吸回数を、30~40回に増やすことで、二酸化炭素を多量に吐き出させて血液中に炭酸ガスの濃度を低下させます。
これによって脳の代謝を減少させ、脳細胞の働きを低下させて脳を休ませてあげるのです。
無理に脳を働かせると脳のダメージが大きくなってしまうため、脳が損傷から回復するまでは脳が必要以上に働かないようにするのです。
この時同時に全身の体温を低下させると、血管は収縮するので脳血流はますます減少して、脳の代謝をさらに低下させることができます。
この治療法の効果はある程度証明されています。
ではこれとは逆に、炭酸ガスの濃度を上昇させて脳血流を増加させ、脳の代謝を増加させる治療法は存在するのでしょうか?
今回のテーマである炭酸泉を用いて脳血管障害の患者さんを治療したという報告例は数々見受けられます。
どの報告においても「炭酸泉によって脳血流が増加して脳の代謝が増加した」というような結論がなされています。
「日本温泉気候物理医学会」という学会から多くの報告が発表されています。
しかし脳の代謝が増加したからといって、脳血管障害による後遺症が改善するかというと、それは微妙のようです。
当然後遺症が回復した人はいるでしょうが、統計学的に明らかに炭酸泉を用いた治療が効果的であったと強く結論付けるまでには至っていないようです。
実際に炭酸泉に浸かって、脳血流が増加し脳の代謝が増加して、脳が活性化されて頭がすっきりした、脳が活性化された…と感じる人は少ないのではないでしょうか。
それよりも低温の炭酸泉にゆっくり長時間浸かることで、ストレスから解放されて癒されて、なんだか眠くなったと感じる人の方が多いのではないでしょうか。
このようなことが起こる理由は、脳細胞の働きは炭酸ガス濃度だけに依存せず、その他さまざまな要因が関与しているからです。
たとえば炭酸泉によって自律神経も影響を受けます。
自律神経には交感神経と副交感神経の2種類が存在します。
この2つの神経は相反する働きをしているので同時に働くことはなく、どちらかの神経が働いている時はもう一方の神経は休んでいます。
交感神経は体を活発に働かせる神経です。
炭酸泉に入浴中は体が温まり、脳は戦闘モードになるので交感神経が盛んに働いています。
交感神経が興奮状態になると、血圧が上がり、脈拍が早くなり、汗を大量にかきます。
もう1つの副交感神経は体を休ませる神経です。
炭酸泉から出た後は、脳はリラックス状態となっているので、副交感神経が盛んに働いています。
副交感神経が興奮状態になると、血圧が下がり、脈拍が遅くなり、汗はほとんどかきません。
サウナと自律神経の関係については、こちらの記事もご参照ください。
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この自律神経の働きによって脳の代謝は大きく影響を受けます。
ですから炭酸泉に浸かると、脳血流が増加して脳の代謝が増加し脳が活性化するのは確かなのですが、この効果がどのくらいの時間持続し、脳の働きにどのくらいの影響を与えるかを判定するのは、現実的にはかなり難しいわけです。
しかし興味深いのは、ある研究は炭酸泉といっても「花王バブ」を使用して成果を報告しています。
花王バブは炭酸ガスを発生させる入浴剤で、簡単に手に入り自宅でも使用可能です。
ですから脳や全身への炭酸泉の効果を期待するのであれば、なにも銭湯に行かなくても、自宅で花王バブの入浴剤を毎日使用すればよいのです。
そのように思っている人も多くいるはずです。
銭湯の雰囲気、炭酸泉だけでなくサウナに入ったり、うたた寝湯でゴロゴロしたり、そのような癒しの時間こそが脳内麻薬を激しく分泌させ脳を活性化するのです。
“サウナにおける脳内麻薬の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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脳は理屈で説明できるほど単純ではありません。
脳の複雑な回路や働きを一生懸命理解しようとしても限界があります。
これこそが脳にとっても最も大切であり、脳科学的な炭酸泉の効果なのです。
炭酸泉のススメ
いかがだったでしょうか?
なんだかあまり明確な結論はでませんでしたが、とにもかくにも炭酸泉は脳や体に良いことはあっても悪いことはあまりなさそうなことは確かです。
きっと自分なりの炭酸泉の効果を実感できるはずです。
自分のお気に入りの銭湯である「COCOFUROたかの湯」にも炭酸泉があります。
“COCOFUROたかの湯”についてはこちらの記事もご参照ください。
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ちなみに炭酸泉は飲んでも効果的なのでしょうか?
炭酸水を飲むと、胃や腸の血管を拡張させて消化運動を活性化させます。
さらに冷たい液体であれば、炭酸でなくても消化運動を活発にするので、冷たい炭酸水であればより効果的です。
食事の前にシャンパンやビールを飲むと、食欲増進するのはこのためです。
しかし炭酸水は多量に飲むと、胃の中で炭酸ガスが膨れ上がって満腹感を生じやすくするので、飲みすぎには注意が必要です。
“炭酸泉の脳科学”のまとめ
炭酸泉の効果を勝手に脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 銭湯に訪れると、多くの施設で炭酸泉を見かけます。
- 炭酸泉は低温で長時間入浴するのが効果的です。
- 炭酸泉は血管を拡張し血流を増加させることで、体にさまざまな効果を生み出します。
- 炭酸泉の脳への効果は確定的でなく微妙なのが現状です。
- しかし科学的、医学的な炭酸泉の効果にとらわれすぎず、実際に炭酸泉で癒されながら、その効果を実感してみてください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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