サウナを2軒目、3軒目と「はしご」をしてしまうのはなぜなのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
2軒目、3軒目と「はしご」をしてしまう意味を脳科学で説き明かします。
サウナを「はしご」する
「はしご」の脳科学
- 「はしご」をする最大の理由は、その対象が大好きで労力や時間を惜しまずに、より良いものを探そうとする探求心にあります。
- 脳科学的には、対象が100個あれば少なくとも37個は試してみるべきであり、そのためにはしごをするのはいわば脳の本能です。
- 2軒目、3軒目と「はしご」をすることを好まないのは、はしごをするには労力と時間を要して面倒だからです。
- しかしより多くの選択肢を試してみなければ全体像は把握できず、最適な決断が下せているとは言えません。
- 自分の好みをしっかりと把握できるまでは、労力や時間を惜しまず、2軒目、3軒目と「はしご」をして生きてみてください。
現代の日本では第3次サウナブームによって多くの施設がにぎわっています。
“サウナブームの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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温かいサウナと冷たい水風呂、休息タイムを繰り返す温冷交代浴では徐々に体の感覚が鋭敏になってトランスしたような状態になっていきます。
トランス状態になると、頭からつま先までがジーンとしびれてきてディープリラックスの状態になり、得も言われぬ多幸感が訪れます。
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しかしサウナトランスを味わってもそれに飽き足らず、2軒目、3軒目とサウナをはしごする人がいます。
というかどちらかと言うと好きな部類かもしれません。
ちなみに1日で最高6軒のサウナをはしごしたことがあります。
さすがに最後のサウナではへとへとになってしまいました。
ではなぜ1軒目だけでは満足できずに、2軒目、3軒目とはしごしてしまうのでしょう?
「はしご」をする心理
その語源は「はしご酒」にあります。
『はしご酒』
はしごに登るように、飲んでいるうちに感情も昇華してい くことに因(ちな)んで、「はしご酒」と呼ぶ。
それに反対すれば、「仲間に不満があるのか」とか、「変な人」などと思われることがあるので、自分がどんなに疲れていても、あるいはお酒に弱くても、2次会、3次会の提案に賛成するほか仕方がない。
お酒を飲みに行くと、ついつい2軒目、3軒目とはしごをして飲み歩いてしまい、最後はラーメンで締めてあわてて終電で帰る…そのような経験をしたことがある人は少なくないはずです。
付き合いで2軒目、3軒目とはしごをしていると、
なんでこんなにはしごをするのだろう…
もう帰りたいのに…
そのように思う人もいるでしょう。
お酒に限らず、買い物でも、食事でも、そしてサウナでも何軒もはしごをする人がいます。
はしごをする一番の理由は、なんといってもはしごをする対象の物事が大好きだからです。
お酒でもサウナでも、その対象が大好きだと、良さそうな店や場所があればいろいろ行ってみたくなるものです。
他人からみればたいして変わらないように思えても、好きな人から見れば全然違うように思えることはよくあることです。
雰囲気やムードはお店によってさまざまですので、大好きな人から見ればぜひ体感してみたくなるものです。
その他にもさまざまな心理がはしごをすることを誘惑してきます。
場所を変えることで気分転換できて、また新たな気持ちで楽しめる。
多くの店を訪れることで、同じような心理の人との偶然の出会いを期待してしまう。
なかなか満足感を得ることができず、もっといいもの、いいお店があるのではないかと追求し続けてしまう。
はしごをすることで自分がいかに対象の物事が大好きかをSNSなどでアピールしたい。
主だった心理としてはこんなところでしょうが、人によってはまだまだあるかもしれません。
スタンプラリーなるものが存在しますが、これも多くの店をはしごすることを好む日本人の心理をうまくついた策略と言えるでしょう。
またお酒でも銭湯でも“2時間まで”などと時間制にしているところは少なくありません。
長時間居座られると当然生産性は時間とともに低下していきます。
最初にたくさん飲み物や食べ物を注文しても時間と共に注文数は当然減っていきます。
銭湯、サウナも長時間いたからといって多くのお金を使ってくれるとは限りません。
そこではしごをすることを好む日本人の心理を突いて一定の時間で区切ることで、「もっと楽しみたかったら次のお店でどうぞ…」といった仕組みになっているのです。
ですからはしごをしたいと思っていなくても、結果として何軒もはしごをしてしまった…なんてことが起きることもよくあることです。
脳科学で探る「はしご」
ここまでは一般的な「はしご」をする心理を考えてみました。
心理学とは違った観点から「はしご」の意味を探ってみましょう。
秘書問題を知っていますか?
今あなたは秘書を1人新たに雇(やと)おうとしています。
求人を出すと100人の女性から応募がありました。
あなたは無作為に順番を決めてひとりひとり面接をします。
しかも面接が終わるごとにその応募者を採用するかどうかを決めなくてはなりません。
全員の面接が終わるまで決断を先延ばしすることはできません。
しかもその決断を後で撤回することもできません。
もっとも優秀な応募者を見極めるにはどうするのがもっとも良い方法でしょう?
印象の良かった最初の応募者を採用したらどうでしょう?
しかしそうするとその後にもしかしたらもっと優秀な応募者がいたかもしれません。
ひとまず95人の面接をして応募者の傾向をつかんだ後に、最後に残った5人の中からそれまでに面接した中でもっとも優秀に見えた応募者と一番印象の似ている人を選ぶのはどうでしょう?
しかしもしかしたら最後の5人の中には優秀と思える人がひとりも残っていないかもしれません。
この「秘書問題」は有名な命題で、その適切な解法は今のところひとつしかないとされています。
まずは最初の37人は全員不採用とし、ひとまずその37人の中でもっとも優秀な女性のレベルを把握します。
そしてその後の面接で、それまでの37人の中でもっとも優秀だった人のレベルを上回った最初の応募者を採用するのです。
この方法をとれば、優秀な秘書を採用できる確率はとても高くなります。
もしかしたら採用を決めた女性は100人いる応募者の中で最高の秘書ではないかもしれません。
それでもあなたは確実に優秀な秘書を雇うことができます。
他のどのような方法をとっても統計学的にこの方法を上回る結果は出ないとされています。
この37とは、応募者数である100をネイピア数e(=2.718…)と呼ばれる数学定数で割って求めた数字です。
応募者が50人だった場合は、最初の18人(50÷e)を不採用にして、その18人のうち最も優秀だった人を上回った最初の応募者を採用すればよいのです。
ネイピア数は数学の世界ではかなり有名な数字ですが、一般的にはなじみがないでしょう。
しかしこの不思議な数字であるネイピア数によって、世の中で起きている物理学、化学、生物学などの多くの事象は解決できるのです。
秘書問題が教えてくれること
秘書問題が教えてくれるのは「目安」です。
脳が決断を下す時に必要なのは、“どのくらいいろいろなことを試してみてから最終決定を下すべきか”という目安です。
きっと多くの人は採用する応募者を決める自分のタイミングが早すぎることに気づくはずです。
人生においては大小さまざまな決断が求められます。
自分のお気に入りの作家、音楽、スポーツなどを見つけ出したり、人生のパートナーや住む場所や夏休みの過ごす場所などを選び出したり、自分に最適な職業や専門分野を決めたりする時には、まず短期間にたくさんの選択肢を試してみるのが、最適な決断への近道です。
最適な決断を下すには、自分が興味あるものだけでなく、できるだけたくさんのものを試してみてから決断すべきなのです。
どんな選択肢があるのかという全体像をつかむ前にひとつを選び取ってしまうのでは早すぎるわけです。
脳はそのことをわかっています。
ですから1軒目に長居して時間を浪費するよりも2軒目、3軒目とはしごして多くを試してみたくなるのです。
はしごをする人とはしごをしない人
世の中誰もがはしごをすることを好んでいるとは限りません。
1軒目で長居してのんびり過ごしたい…そんな人もたくさんいます。
はしごをする人は脳の本能で数多くの選択肢を試してみたい、きっともっといいサウナがあるはずだから2軒目、3軒目に行ってみたいと考えます。
数多くの選択肢を試してみるにはかなりの労力と時間を要します。
秘書問題では、なにもわざわざ100人全員の面接をせずとも、数人面接して決断して何が悪いのでしょう、手間を省いて何が悪いのでしょう…そのように考えるのがはしごを好まない人です。
自分の通い慣れたサウナにこれからもずっと通い続けて何が悪いというのでしょう。
わざわざ新しいサウナを開拓する必要がどこにあるのでしょう。
わざわざ新地開拓をするのは面倒なことです。
しかも1日のうちに何軒も渡り歩くのにはかなり大変です。
そんなことをするよりも、じっくりと1軒目のサウナでととのった方が心地いいに決まっています。
最終的な決断を保留にしたままいろいろなことを試すよりも、1つのことをしっかりと終えてから次のことに取り掛かった方が脳はすっきりします。
自分があまり重要と考えていない決断をする時にはそれでいいかもしれません。
しかしこの方法では最適な決断を下せるかは微妙です。
自分にとって重要な決断をする時にはあまりいい結果にはつながらないはずです。
はしごをするかしないかの最大の違いは、その対象となっている物事を脳がどれだけ重要と考えているかによります。
はしご酒をする人にとってお酒はとても重要ですし、お酒だけでなくお酒での場で他人と交流することもとても重要です。
サウナをはしごするする人にとっては、より快適なサウナトランスは最重要事項です。
脳科学的にはしごをする人とはしごをしない人の違いは、対象となっている物事をどのくらい脳が重要と思っているかいないかの違いなのです。
世の中絶対なんてものはありませんので、これはあくまでも1つの見解です。
多くの見解の中の1つの意見として参考程度に考えていただければ幸いです。
2軒目、3軒目とはしごをして何が悪い?
世界はあなたが思っていつよりもずっと広く、ずっと多彩で、いろいろなものを含んでいます。
人生においてもっとも重要なのは、お金を稼ぐことでもキャリアを積むことでもありません。
多くの選択肢をできるだけ経験して、人生の全体図の目安を知ることです。
よくおちいりがちなのは、少ない選択肢では全体の目安を把握できないにも関わらず、それまでの少ない情報をもとに決断を下してしまうことです。
現実を反映していない間違えたイメージを自分の中に勝手に作り上げて、広い世界のほんの数種類の選択肢を試しただけで、最適な決断が下せたと信じ込んでいる人がなんと多いことでしょう。
もちろんそれでうまくいくこともあります。
もしあなたが少ない選択肢の中からでも最適な決断ができているのであれば、とても喜ばしいことで幸せなことです。
しかしその結果は、たまたま運よく得られたものにすぎません。
少ない選択肢だけでいつも最適なものを見つけ出せるとは思わない方がいいでしょう。
そのためには常にオープンな姿勢を崩さず、偶然が与えてくれるものはすべて試してみることです。
1軒目のサウナで満足せず、2軒目、3軒目とはしごをして悪いことなど何もありません。
1つのサウナに決めてそこだけに通うのは、歳(とし)をとってからで十分です。
そのかわり歳をとったら多くの選択肢に関わることを減らしてぐっと絞り込むべきです。
なぜなら、そのころにはあなたはすでに自分の好みをしっかりと把握できているはずだからです。
それまでは決して妥協せず、労力や時間を惜しまず、2軒目、3軒目とぜひはしごをしてみてください。
“「はしご」の脳科学”のまとめ
2軒目、3軒目と「はしご」をしてしまう意味を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 「はしご」をする最大の理由は、その対象が大好きで労力や時間を惜しまずに、より良いものを探そうとする探求心にあります。
- 脳科学的には、対象が100個あれば少なくとも37個は試してみるべきであり、そのためにはしごをするのはいわば脳の本能です。
- 2軒目、3軒目と「はしご」をすることを好まないのは、はしごをするには労力と時間を要して面倒だからです。
- しかしより多くの選択肢を試してみなければ全体像は把握できず、最適な決断が下せているとは言えません。
- 自分の好みをしっかりと把握できるまでは、労力や時間を惜しまず、2軒目、3軒目と「はしご」をして生きてみてください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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