脳を科学する 自己の脳科学

バッシングする意味、なくならない理由はどこにある?~フリーライダーの問題と対策を脳科学で探る

バッシング-A2

なぜ他人をバッシングするのでしょう?

 

そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。

 

このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い手術、血管内治療、放射線治療を中心に勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。

 

基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。

 

この記事を読んでわかることはコレ!

  • バッシングする意味やなくならない理由を探るためにフリーライダーについてわかりやすく脳科学で説き明かします。

 

懲らしめなければ気が済まない

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バッシングの脳科学

  • 失言やスキャンダルなどの事件が起こると脳はそれを“悪”と認識して懲らしめようと働きます。
  • バッシングの対象となるのはコストを負担せず“おいしいとこどり”をするフリーライダーです。
  • 脳にはフリーライダーを検知して排除する機能が備わっていて種の共同体を守ろうとします。
  • バッシングが辞められない理由には「集団の絆を強めるため」「バッシングにかかるコストの分だけ快楽が得られるため」「自分の正義感を確認するため」などがあります。
  • わたしたちは脳に操られてフリーライド化したりバッシングしたりしているのでバッシングがこの世からなくなることは絶対にありません。

芸能人、政治家、スポーツ選手などの著名人が失言やスキャンダルなどの事件を起こすと世間でははあっという間にバッシングが起こります。

 

あたかも誰かが事件を起こすことを常に多くの人が望んでいるような風潮がありひとたび事件が報じられると待ってましたとばかりにその人をあらゆる手を使ってバッシングします。

 

魚のいる水槽の中にエサを放り投げると一瞬でそのまわりに魚がむらがってきますがバッシングも似たような構図です。

 

へなお
そもそもバッシングとはどんな意味なのでしょうか?

 

バッシング

 

〘名〙 (bashing) 打ちのめすこと。手きびしく非難すること。

コトバンク

 

つまりバッシングとは自分とはまったく関係のない人をまったく関係のない事件について激しく非難することです。

 

ではバッシングすることは悪いことなのでしょうか?

そしてバッシングすることをエンターテイメント化してしまうのはなぜなのでしょうか?

 

世間は“失言”や“スキャンダル”といった言葉にとても敏感で過剰に反応します。

 

事件が発覚した人物を積極的にバッシングしようとする人は

 

「社会の規範に反する行為を見逃すべきではない!」

 

「他人を傷つけて自分だけ幸せになるなんて許せない!」

 

「自分だって本当はしたいのをがまんしているのにあの人だけいい思いをしておとがめなしなんて許せない!」

 

このようにそれぞれの“正義”を盾にして脳はバッシングを正当なものとして認識しています。

 

自分は正義の側にあり悪いことをした人間を「ほかならぬ私が直々に懲らしめてやらなければ」という心理が働くわけです。

 

著名人の失言やスキャンダルなどは芸能ニュースの“鉄板ネタ”です。

 

これまで数多くの著名人がバッシングを受けてきました。

 

しかし以前は現在ほど失言やスキャンダルなどの事件に対して世間の目が厳しくなかった…という声もあります。

 

へなお
ではなぜ現代では「懲らしめなければ気が済まない」というバッシングがこれほどまでに猛烈になってきたのでしょうか?

 

共同体を乱すフリーライダー

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そもそも芸能人、政治家、スポーツ選手などの著名人の失言やスキャンダルなどの事件を“悪”と脳が感じるからこそ「懲らしめなければ気が済まない」というバッシングが起こるわけです。

 

ではなぜ脳は失言やスキャンダルなどの事件を“悪”と感じるのでしょうか?

 

人は共同体の中で一定のコストを負担する見返りとして共同体からリソース(資源)の分配を得て生活しています。

 

たとえばわたしたちは税金や社会保障費用を収める代わりにインフラや医療の恩恵を受けているわけです。

 

しかし中にはコストを負担せず“おいしいとこどり”をする人もいます。

このような人を「フリーライダー」と呼びます。

 

フリーライド

free ride

 

必要とされる経済的・時間的・労力的コスト(費用)を負担せずに便益やサービスを得る行為。

 

日本語で「ただ乗り」を意味する。

 

直接的には電車などの無賃乗車をさすが、そのほかにも幅広い意味に用いられる。

 

ブランドの信用を利用して偽装する(たとえば外国産牛を松阪牛などと偽る)、先駆者の意匠をまねる、税金を負担せずに便益のみを得る、寄付で成り立っているサービスを寄付をせずに利用することなどが、フリーライドの典型例である。

 

経済学用語としては悪意をもった行為をさすわけではなく費用を負担する者と便益を受ける者が一致しない場合に便益を受ける者をフリーライダーfree riderとよぶ。

コトバンク

 

つまりフリーライダーとは“必要なコストを負担せず利益だけを受ける人”ということになります。

 

フリーライダーはなにも人間社会にだけ存在するのではなく虫や動物の世界にも存在します。

 

フリーライダーが一定の割合を超えてしまうと共同体のリソースが減ってしまい破滅への突き進むことになります。

 

脳は失言やスキャンダルなどの事件を引き起こす人をフリーライダーと認識するために“悪”と感じるわけです。

 

ではフリーライダーがひとたび検出されるとどうなるのでしょうか?

 

集団内の人はその人にフリーライドを改めてもらえるように何らかの形でアラートを出します。

 

アラートの段階で行動が改められない場合そのフリーライドを何とか食い止めるため実力行使してでも制裁を加える必要が出てきます。

 

そうしなければ集団内のすべての人に“なんの制裁も受けないのであればフリーライドした方が得”という戦略が広まりその集団そのものが崩壊してしまうからです。

 

人類は他の動物と比較して肉体が脆弱(ぜいじゃく)であり子育ての期間が異様に長く集団で生き延びることが種の保存には必須でありそのため社会性が大きく発達した特殊な生物です。

 

“人類史の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。

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ですから人類にとってフリーライダーの検出機能と排除の機構は他の動物よりもずっと協力に脳に組み込まれているわけです。

 

ちなみに集団内におけるフリーライダーを検出する心理的な要素として“妬み(ねたみ)”というやっかいな感情があります。

 

共同体のルールを守らずにごく個人的な快楽をむさぼるようなスキャンダルに対しては特に“コストを払わずにおいしい思いをしている”という妬みが生じやすくなります。

 

「自分も同じようなスキャンダルをしたいのをがまんしているのになぜあいつだけが楽しんでいるのだろう…」

 

「そんなの絶対に許せない…」

 

この“妬み”が集団内の他の人にどんどん伝染していきバッシングを発火させていくのです。

 

集団の結束こそ美学である

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脳が作り出すホルモンの1つに愛情ホルモンとしてしられる「オキシトシン」があります。

 

“オキシトシンの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。

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オキシトシンという脳内ホルモンは近しい人との愛情を強め集団の結束を高める働きがあります。

 

日本人は地理的な環境のため世界的に見ると集団があまり流動的でなく集団の結束を個人の意思より優先することを美徳とする傾向があります。

 

“日本人の美学の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。

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愛情ホルモンは一見素晴らしいもののように見えますが“妬み”の感情も同時に高める性質を持っています。

 

 

とりわけここ最近大規模な災害が相次いだことで日本社会には“絆(きずな)”の精神がさらに強くなり集団の結束をより重視する社会にどんどんシフトしています。

 

今の日本は大規模な災害のみならず拡大を続ける感染症などわたしたち人間は集団の結束を必要とする事態に次々と見舞われていますが集団がそのような状態にある時フリーライダーにはより厳しい視線が向けられます。

 

利己的な振る舞いをしている人がいればいつも以上にバッシングされやすい状況にどんどんなっているわけです。

 

つまり集団の結束を強める外的要因がバッシングすることそのものがエンターテイメントとして機能する素地を築いているとも言えるでしょう。

 

バッシングがなくならない理由

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バッシングがなくならない理由の1つは集団の結束を邪魔するフリーライダーを排除することでより“絆”を強めようとする脳の機構にあります。

 

しかし理由はそれだけではありません。

 

バッシングがなくならない理由は他にもあります。

 

1つは“コスト”の問題です。

 

バッシングをするにもコストがかかります。

 

たとえばバッシングのために電話をかけたりSNSに書き込みをしたりするにはそれなりに労力も時間も必要です。

 

また相手によっては名誉棄損(めいよきそん)と言って訴えられてしまう場合もありますしリベンジされるリスクもあります。

 

しかしバッシングをある意味“楽しむ”側にとってはそのコストを支払ってでもバッシングによって得られる快感を味わいたいわけです。

 

へなお
バッシングによって相手がみじめな姿をさらすことでほっとしたり胸のすくような思いに浸ったりしたい…そんなところでしょうか。

 

“快感の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。

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もう1つは“正義感”の問題です。

 

バッシングはフリーライダーが“悪”で自分は“正義”の側にいることを確認する行為でもあります。

 

これにより脳は更なる報酬を得て快感を味わうわけです。

 

なんだかこのように言われるとバッシングをする人の方が悪いかのように思えてしまうかもしれません。

 

しかしバッシングをすることは決して悪いことをしているわけではありませんしバッシングをする人たちは社会性の高い極めて人間らしい人たちとも言えます。

 

ちなみに社会のルールを守る誠実で善良な人ほど逸脱者への攻撃に熱心になる傾向があることが示されています。

 

へなお
ですから“バッシングはなくならない”のです。

 

フリーライダーの問題と対策

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では最後はバッシングの対象となるフリーライダーに対してどのような対策を練っていけばよいのかを探ってみましょう。

 

そもそもフリーライダーさえいなくなればバッシングは起きにくくなるはずですからフリーライダーの問題と対策をしっかり理解しておくことは重要です。

 

フリーライダーの問題と対策の一般論

フリーライダーは先ほども説明しましたが“コストを負担せずに利益だけを得る人”です。

 

あなたのまわりにもきっとそんな人がひとりやふたりいるはずです。

 

そのようなフリーライダーはバッシングの格好の餌食(えじき)です。

 

フリーライダーが抱える問題点の一般論としては以下のようなものがあげられます。

 

なにかと言い訳をつけては自分でコストを払うことから逃げまくる。

 

自分に負荷がかかりそうなことに対しては徹底して批判的な発言や行動をして回避しようとする

 

自分のことは何かにつけて棚に上げて責任感が薄い。

 

このような人はたとえ今バッシングを受けていなくともいずれフリーライダーが顕在化してバッシングを受ける可能性が高いと言えるでしょう。

 

ではフリーライダーにどのような対策をしていったらよいのでしょう。

 

発言や行動を“見える化”して隠し事をさせない。

 

個人の主張だけでなく多方面の人から多角的に評価してもらう。

 

評価において結果だけを重視せずにさまざまなプロセスにも目を向けて尊重する。

 

密なコミュニケーションをとってその結果をフィードバックする。

 

責任ある発言や行動をとるように教育する。

 

このような対策をとることでフリーライダー化することを未然に防いだりフリーライダー化した人を改善させたりすることは理論的には可能なはずです。

 

脳科学から見たフリーライダーの問題と対策

フリーライダーの問題と対策の一般論を眺めてみるとフリーライダーを抑制することはそう難しいことではなさそうに思えてしまいます。

 

へなお
しかし現実はそう甘くはありません。

 

人の性格には“ダーク・トライアド”と呼ばれる3つの社会的に望ましくない気質があります。

 

ナルシズム: 自己愛、自己陶酔

 

マキャベリスト: 結果至上主義(どんな手段や非道徳的な行為も結果がうまくいけばいいという考え方、目的のために手段を選ばない)

 

サイコパス: 自己中心的(自分以外の人間に対する愛情や思いやりなどの感情が欠けていている、道徳観念や倫理観あるいは恐怖などの感情が極めて乏しい)

 

へなお
どれもなんだかヤバそうな性格ですよね。

 

しかしダーク・トライアドの人は“新規探索性(リスクを冒してでも新しい物事に挑う性質)”が高く他人に人気がありモテやすいとされています。

 

“ダメ男がモテる理由の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。

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しかしひとたびダーク・トライアドの人に取りつかれると自分自身が破綻しフリーライダー化して世間からバッシングされるようなことをしでかしてしまうリスクが高くなるとされています。

 

“いけないこと”とわかっていても抑制がきかないのは理性よりも強い意思決定の機構が脳に存在するからです。

 

ダーク・トライアドの魅力に逆らえないのは脳の中の古い皮質がわたしたちに指令を出しているからです。

 

つまり個体として安定した日常生活を送るよりも脳の根源にある欲求の方が優先されるのです。

 

ちなみにフリーライダー化して“おいしいとこどり”をしてしまおう…という欲求を抑える指令は理性をつかさどる脳の中の新しい皮質による判断です。

 

この新しい皮質はアルコールやストレスなどで麻痺しやすくいわばタガが外れやすい状態になります。

 

へなお
「酔った勢いでつい…」などはその典型でしょう。

 

こうした視点から見ると「わたしたちは脳に踊らされてフリーライド化したりあるいはバッシングしたりしている」ということになります。

 

いずれにしても現代においてわたしたちが“倫理的”ととらえているものは人類の長い歴史の中で見れば自明のものではないのです。

 

ごく最近形成されたものかもしれず「失言やスキャンダルなどの事件=“悪”」と言った考えもあと付けで広まった概念なのかもしれません。

 

こうした背景を知るとフリーライダーの悪行を騒ぎ立ててバッシングしてその人の全人格を否定する人を見るにつけ時間をかけてそんなことするのはなんだか滑稽(こっけい)に見えてくるはずです。

 

バッシングは永遠に不滅です

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いくら理屈を並び立ててもわたしたちは結局脳に操(あやつ)られてフリーライド化したりあるいはバッシングしたりしているわけです。

 

フリーライド化やバッシングは個人の倫理的価値観や意思や努力という要素よりも脳の機構によって発生しているのですからもうどうしようもありません。

 

ですからこの先フリーライド化やバッシングはなくなることはないでしょう。

 

特に脳はバッシングを“快感”とする機能を備えている以上バッシングは永遠に不滅です。

 

バッシングされるとわかっていても失言やスキャンダルなどの事件を起こしてしまう、他人のことをとやかく言えた義理ではないのに自分のことは棚にあげてバッシングにいそしむ…この絶対的自己矛盾の中で人類が生きているからこそさまざまな物語が生まれるのかもしれません。

 

へなお
とは言えやはりフリーライダーは許せないですしバッシングする人も何となく許せない…それが本音かもしれません。

 

 

“バッシングの脳科学”のまとめ

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バッシングの意味や理由を探るためにフリーライダーについてわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。

今回のまとめ

  • 失言やスキャンダルなどの事件が起こると脳はそれを“悪”と認識して懲らしめようと働きます。
  • バッシングの対象となるのはコストを負担せず“おいしいとこどり”をするフリーライダーです。
  • 脳にはフリーライダーを検知して排除する機能が備わっていて種の共同体を守ろうとします。
  • バッシングが辞められない理由には「集団の絆を強めるため」「バッシングにかかるコストの分だけ快楽が得られるため」「自分の正義感を確認するため」などがあります。
  • わたしたちは脳に操られてフリーライド化したりバッシングしたりしているのでバッシングがこの世からなくなることは絶対にありません。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

 

今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。

 

最後にポチっとよろしくお願いします。

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  • この記事を書いた人

へなお

▶脳神経外科専門医でアラフィフおじさんの「へなお」です。▶日々脳の手術、血管内治療、放射線治療を中心に某総合病院で勤務医をしています▶一般の方でも脳についてわかりやすく理解していただけるように、あなたのまわりのありふれた日常を長年の経験からつちかった情報をもとに脳科学で探っていきます▶多くの方に脳に興味をもっていただき、少しでもこれからの生活の役に立つ知識をつけていただければと思います!

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