騒がしい場所で携帯電話で会話をする時どうすれば相手の声が聞こえやすくなるの?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 騒がしい場所で携帯電話で会話する時の鍵となるカクテルパーティー効果がわかります。
騒がしい場所で携帯電話で会話をするコツとは?
カクテルパーティー効果の脳科学
- 騒がしい中携帯電話で会話をしていて相手の声が聞き取りづらい時は自分の送信口をふさいでみてください。
- 脳の音源分離の働きを利用したカクテルパーティー効果を日常生活でも活用していきましょう。
騒がしい場所で携帯電話で会話をする時は相手の声が聞こえづらいですよね。
そんな時皆さんはどうしてますか?
携帯電話と反対側の耳をふさぐ?
携帯電話を耳に押し付ける?
そんなことをしなくてもカクテルパーティー効果を使えば騒がしい中でも携帯電話で相手の声を聞き取りやすくすることは簡単にできます。
カクテルパーティー効果-1
相手の話を聞く時に自分の送話口をふさげばいいのです。
それではこのトリックのようなカクテルパーティー効果について脳科学の視点から探ってみましょう。
音を聞くということ
カクテルパーティー効果について話をする前に”そもそも音を聞くとはどういうことなのか?”をまず考えてみます。
音とは空気中の一連の圧力の波がまず最初に耳の中の蝸牛と呼ばれる器官へ伝えられます。
そしてそこから有毛細胞と呼ばれる音のセンサーに伝わり最終的に脳に到達して“音を聞く”ことができます。
音が空気の中を波となって伝わるさまは池に石を投げた時にできるさざ波に似ています。
さざ波の密度(波の間隔)で音の高さが決まり(波の間隔が短ければ高い音、長ければ低い音)、さざ波の高さで音の強さが決まります。
特に言葉のように複雑な音には異なる高さや強さが混じりあっています。
これを脳はうまく聞き分けているのです。
音を聞く-1
音が脳に伝わると脳は2つのことを考えます。
音の発生場所はどこ?
何の音なのだろう?
右の方から車のエンジン音が聞こえる…
後ろから誰かの足音が聞こえる…
こんな感じに音を発している正体を見破ろうと脳は活発に働きます。
ですから脳を損傷すると場合によっては”どこから音がしているのかはわからないけど何の音かはわかる”…なんてこともおこります。
ではどうやって脳は音の発生場所と何の音かを理解しているのでしょうか。
音を聞く-2
音の発生場所に関してはその音が右耳と左耳に到達するタイミングのズレや音の強さの違いによって脳は発生場所を判断します。
真ん中からくる音は左右の耳にちょうど同時に達します。
右からくる音は右耳では左耳より早く到達して大きく聞こえます。
音を聞く-3
何の音かを特定することに関して脳は特殊な能力を持っています。
脳はさまざまな高さや強さの音にうまく反応できるようになっています。
特にコミュニケーションをとるためのツールである言葉の認識に関してはとりわけ”ずば抜けた能力”を発揮します。
生まれたての赤ちゃんはこの能力が特に優れているので世界中のすべての言語を聞き分けられるとされています。
しかし生後18か月くらいになると普段使う言語(基本的には母国語)では使われない音を聞き分ける能力は必要なしと切り捨てられていきます。
母国語を聞き取ることに磨きをかけた脳に切り替わっていくのです。
赤ちゃんの言語の習得に関してはこちらの記事をご参照ください。
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音を聞く-4
脳は成長するにつれて他の言語と比較して母国語の音に明らかによく反応するようになっていきます。
もともと自分たちが生み出した言語なのですから他のさまざまな音の中でも母国語を特に聞き分けることができるのは当たり前と言ってしまえばそれまでなのかもしれません。
いつかコンピューターも独自の言語を自らで作り出す時代が来るかもしれません。
そうなればその言語を人が認識するのはきっと無理なんでしょうね。
カクテルパーティー効果を実践しよう
カクテルパーティー効果が提唱されたのは1953年です。
英国のコリン・チェリーという心理学者の研究によって証明されました。
Some Experiments on the Recognition of Speech, with One and with Two Ears
Cherry Colin EJ, et al, ournal of the Acoustical Society of America 25(5), 975-979, 1953
今から50年以上も前の時代ですからカクテルパーティーなるものが盛大に行われていたのでしょう。
パーティーでは会話の相手の声を聞き取らないといけいないですし、自分の名前を呼ばれたら気づかないといけないですし脳は大忙しです。
声は自分の周り360度のいろいろ方向から飛んできますし声は人によって違います。
高かったり低かったり、鼻にかかっていたり、それらがすべて交じって飛んできます。
しかし不思議なものです。
カクテルパーティー効果-2
どんなに騒がしいパーティーでも人は自分に必要な音を選択して聞き取ることができるのです。
こんな不思議な現象をカクテルパーティー効果と言います。
それには脳の音源分離の能力が関わっています。
カクテルパーティー効果-3
音源分離とはさまざまな音の中からある音だけを拾い上げる作業です。
カクテルパーティーの騒がしい中、脳は音源分離の作業をせっせとおこなっているのです。
音源分離は左右の耳を使って音をうまく聞き分けて行われます。
会話している人の声 → 左耳 → 脳 ← 右耳 ← パーティー会場の騒音
こんな感じになるでしょうか。
これを携帯電話での会話に当てはめてみます。
騒がしい中では携帯電話は周囲の騒音を送信口で取り込んでしまいます。
携帯電話は全二重通信といって双方が同時に送信しあっていてお互いの声が混ざって聞こてえるようになっています。
これに対してトランシーバーは半二重通信といって受信と送信が切り替わります。
テレビやラジオは一方的に送信するだけなので単放送通信になります。
そのため携帯電話では自分の周囲の騒音が送信口を通して相手に伝わり、そして小さくひずんだ音として自分に戻って聞こえているのです。
携帯電話の相手の声 + 自分の周囲の騒音のひずんだ音 → 左耳 → 脳 ← 右耳 ← 自分の周囲の騒音
カクテルパーティー効果-4
携帯電話の相手の声と自分の周囲の騒音のひずんだ音が混じりあって聞こえてくると自分の周囲の騒音と切り離すことが難しくなってしまいます。
ですから送信口をふさぐことで自分の周囲の騒音のひずんだ音を防ぐのです。
そうすることによって、
携帯電話の相手の声 → 左耳 → 脳 ← 右耳 ← 自分の周囲の騒音
このようにカクテルパーティー効果によって音源分離が可能となります。
ちなみにこのカクテルパーティー効果は日常の様々なシーンで知らず知らずのうちに皆さん体験しています。
電車の中でウトウトしていても自分の降りる駅のアナウンスが入るとドキッとして目が覚めるのもカクテルパーティー効果です。
知らぬ間におこっている現象でもこうしてじっくり考えてみると脳がいかに素晴らしい働きをしているかということをあらためて実感できるのではないでしょうか。
”カクテルパーティー効果の脳科学”のまとめ
今回は騒がしい場所で携帯電話で会話する時の鍵となるカクテルパーティー効果を脳科学的に解明してみました。
今回のまとめ
- 騒がしい中携帯電話で会話をしていて相手の声が聞き取りづらい時は自分の送信口をふさいでみてください。
- 脳の音源分離の働きを利用したカクテルパーティー効果を日常生活でも活用していきましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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