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猫の治療薬開発に寄付が殺到する理由~「身元の分かる犠牲者効果」を脳科学で探る

2021-07-23

寄付-A1

猫がかかりやすい腎臓病の治療薬の開発に寄付が殺到しているのはなぜなのでしょう?

 

そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。

 

このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。

 

基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。

 

この記事を読んでわかることはコレ!

  • 猫の治療薬開発に寄付が集まる理由を探るため「身元のわかる犠牲者効果」についてわかりやすく脳科学で説き明かします。

 

猫の治療薬開発に寄付が殺到!

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身元の分かる犠牲者効果の脳科学

  • 多くの猫を苦しめている腎臓病の治療薬の開発のため東京大学に多くの寄付が殺到しています。
  • 寄付を効果的に行うためには誰だかわからない人の危機よりも誰だかわかっている人の危機に対してより強く反応する「身元のわかる犠牲者効果」が重要です。
  • 数字を並び立てた「統計条件」よりも個人が特定された「顔の見える条件」の方が脳は揺り動かされます。
  • 多くの寄付によって1日も早く猫の治療薬が開発されることを願っています。

猫は腎臓病にかかりやすく死因のトップは腎臓病を含む泌尿器疾患で約3割を占めるとされています。

 

しかしいまだ猫の腎臓病に対する有効な治療法はありません。

 

東京大学の研究所では猫の腎臓病の研究が行われていて、猫には腎臓にたまった老廃物の除去に必要なタンパク質「AIM」が先天的に機能していないため腎臓病になりやすいことが判明しました。

 

東京大学と企業が協力して治療薬の開発が進み完成までもう少しの段階まで進んでいましたが新型コロナ感染拡大の影響で研究費が不足し開発が中断してしまったそうです。

 

そこで東京大学では寄付を募ったところ予想以上のスピードで寄付が集まり史上最速のペースで1億円以上集まっています。

 

また寄付とともに「研究が再開し治療薬が無事に開発され猫が少しでも長生きできますように」というメッセージも数多く寄せられているそうです。

 

寄付の詳細についてはこちらのページをご参照ください。

 

『宮崎 徹 教授による猫の腎臓病治療薬研究へのご寄付について』

 

へなお
日本全国の猫を愛する人たちの熱い愛情に驚かされるばかりです。

 

“コンパニオンアニマルの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。

コンパニオンアニマル-A1
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続きを見る

 

今までもさまざまな寄付が行われてきましたがここまで寄付が殺到しニュースになるのはある意味異例のことかもしれません。

 

へなお
今回は「猫の治療薬開発に寄付が殺到する理由」について脳科学的に探っていきます。

 

寄付を効果的にする「身元のわかる犠牲者効果」

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ただがむしゃらに寄付を募っても効果的とは言えません。

 

脳科学的に寄付を効果的にするには「身元のわかる犠牲者効果」を活用するのが有効です。

 

へなお
なんとも毒々しい名称ですが「身元のわかる犠牲者効果」は身の回りでよく起きている現象です。

 

それでは「身元のわかる犠牲者効果」とは何なのかを説き明かしていきましょう。

 

「身元のわかる犠牲者効果」とは?

身元のわかる犠牲者効果

「身元のわかる犠牲者効果」とは簡単に言えば「顔の見えない大多数の犠牲者よりも身近に存在する1人の犠牲者を重要視する現象」です。

 

へなお
もっとわかりやすく説明しましょう。

 

夜空を見上げた時理科の教科書に出てきた星座であれば大人になってからでも見つけられる人は多いでしょう。

 

北斗七星、オリオン座、カシオペア座…星座としてひとまとめに認識される星にはそれぞれ名前がついていて大きさも明るさもばらばらです。

 

しかしわたしたちが星座として認識する時には星の個別性は失われ星座を構成するひとつひとつの星について意識することはなくなってしまいます。

 

同様の出来事は人間の世界でも観察することができます。

 

たとえば次のような文章は誰もが一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

 

難病にかかっている○○ちゃんという子どもがいます。

 

この病気を治すにはアメリカに行って有名な病院で治療する必要があります。

 

ですから治療を受けるには莫大な費用がかかります。

 

○○さんが治療を受けられるように寄付をお願いします。

 

一方で次のような文章も目にしたことがあるでしょう。

 

全世界で〇万人の子どもたちがこの病気で苦しんでいます。

 

この病気を治すには限られた病院で治療する必要があります。

 

ですから治療を受けるには莫大な費用がかかります。

 

子どもたちが治療を受けられるように寄付をお願いします。

 

どちらも病気の治療のために寄付を募る文章です。

 

異なるのは寄付を必要としているのが名前のわかる個人であるか数字で示された集団であるかです。

 

この対象の違いが実はわたしたちの行動に大きく影響をおよぼしているのです。

 

「身元のわかる犠牲者効果」の驚くべき効果

先ほどの寄付の文章で個人が特定できる1人と特定できない数字でたくさんいることを示された集団とどちらがより多くの寄付を集めることができるでしょうか?

 

後者だと考えた人もきっとたくさんいるでしょう。

 

しかし実際には個人が特定できる方が寄付を受けやすいということが証明されています。

 

へなお
これを「身元のわかる犠牲者効果」と言います。

 

「身元のわかる犠牲者効果」を検討した実験をご紹介しましょう。

 

実験参加者にアンケートに回答してもらい報酬として5ドルを渡します。

 

その後食糧危機に関する記事を読んでもらいこの問題の解決を支援するために報酬として受け取った5ドルのうちいくら寄付してくれるかを尋ねます。

 

食糧記事に関する記事は2種類あります。

 

1つ目は「全世界で○億人以上が食糧不足で飢餓に直面しています」「2000年と比較してトウモロコシの生産量が42%減少している」などと具体的な数値で問題を説明する「統計条件」です。

 

2つ目は「あなたの寄付で○○という子どもの生活をよくすることができます」というように子どもの名前と顔写真が提示された「顔の見える条件」です。

 

どちらの記事を読んだ後の方がより多くの寄付が集まったでしょうか?

 

Small DA, et al, Organizational Behavior and Human Decision Processes 102, 143-153, 2007.

 

寄付を求められた参加者たちは前者の統計条件では報酬の5ドルの23%、後者の顔の見える条件では48%を寄付しました。

 

この結果は相手の顔や名前など詳しい条件を知ることが寄付を促進することを示しています。

 

「顔の見える条件」では親近感を持ったり同情心が呼び起こされたりしやすいのです。

 

一方で「統計条件」では情報が個人と結びつかないため親近感や同情心などの感情が生じにくく行動が起こりにくいのです。

 

へなお
これこそまさに「身元のわかる犠牲者効果」の驚くべき効果なのです。

 

「焼け石に水効果」の付加作用

寄付という行動の促進や抑制に影響する作用として「身元のわかる犠牲者効果」がいかに大きな影響を与えているかを説明しました。

 

それ以外にも影響を与えている要素はまだあります。

 

「相手との距離感」…まったく知らない人、友人、家族など

 

「状態の鮮明さ」…実際に目の前で起こっている出来事や記事で読んだだけの出来事など

 

これらの要素によっても寄付は大きな影響を受けています。

 

さらに心理学的に大きな影響を与える要素として「焼け石に水効果」という作用があります。

 

寄付をする時には誰もがきっと「自分1人が行動を起こすことで相手を確実に救えるかのか?」ということを考えます。

 

へなじんさん
自分だけが頑張ったところでどうにもならないし焼け石に水だろう…

 

そのように思ってしまうと行動は起こりません。

 

いかに「焼け石に水効果」を抑制するかが寄付をより多く集めるためには重要になってきます。

 

脳は数字に惑わされない

「身元のわかる犠牲者効果」で理解していただきたいことは

 

誰かに協力を仰ぎたいのであれば「これだけの人が助けを求めている」と数字で示すよりも困っている人の現状について生活に密着した詳しい説明を用意する方が得策である。

 

ということです。

 

みなさんは日本ユニセフ協会のワクチンの寄付のページを見たことがあるでしょうか?

 

公益財団法人日本ユニセフ協会

 

1人の子どもをアップで撮った写真に「たった1本のワクチンで助かる命がある。」というコピーがついています。

 

寄付することで「この子」の命を助けることができると感じさせるこの工夫が寄付の行動を促進しているのです。

 

最初の星座の話で言えば多くの星を星座としてひとまとめにするのではなくひとつひとつの星に注目させているのです。

 

当たり前のことですが良い結果を得るためにはより効果の高い方法を知ることが大切です。

 

それを軽んじていると良い結果は決して得られず失策へと繋がるのです。

 

猫の治療薬開発に寄付が殺到する脳科学的な理由

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今回は寄付の促進に大きな影響をあたえている「身元のわかる犠牲者効果」について脳科学で探ってみました。

 

脳は誰なのかわからない人や集団の危機や困難よりも誰なのかわかっている人や特定できる集団が危機や困難に陥っている場合の方が強く反応し思いやりを見せたり助けてあげたいと手を差しのべたりする傾向があります。

 

猫の治療薬開発に関する寄付についても「身元のわかる犠牲者効果」が強く作用しています。

 

漠然と動物の治療薬を開発するのではなく「猫」という特定の動物のしかも「腎臓病の治療薬」という特定のものに対して寄付を求めていることに脳は揺り動かされるのです。

 

また今回の場合は「身元のわかる犠牲者効果」が逆に働いた可能性も考えられます。

 

「猫」と言ってもどの品種の誰が飼っている「猫」というように細かく特定されているわけではありません。

 

そういう意味では「猫の治療薬」というのは漠然とした対象とも考えられます。

 

しかし「身元のわかる犠牲者効果」がそもそも存在するということは

 

「同情の気持ちが自然に涌いてこない時…つまりひとりひとりを特定できないほど多くの被害者が出ている時にこそわれわれは余計に思いやりの心を働かせる必要がある」

 

ということを示しているのではないでしょうか。

 

腎臓病によって多くの猫が苦しめられているからこそ「身元のわかる犠牲者効果」にとらわれることなく多くの人の脳が揺さぶられ寄付が殺到しているのかもしれません。

 

へなお
いずれにしも多くの寄付によって猫の腎臓病の治療薬が1日も早く開発され多くの猫が救われることを願っています。

 

 

“身元の分かる犠牲者効果の脳科学”のまとめ

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猫の治療薬開発に寄付が集まる理由を探るため「身元の分かる犠牲者効果」についてわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。

今回のまとめ

  • 多くの猫を苦しめている腎臓病の治療薬の開発のため東京大学に多くの寄付が殺到しています。
  • 寄付を効果的に行うためには誰だかわからない人の危機よりも誰だかわかっている人の危機に対してより強く反応する「身元のわかる犠牲者効果」が重要です。
  • 数字を並び立てた「統計条件」よりも個人が特定された「顔の見える条件」の方が脳は揺り動かされます。
  • 多くの寄付によって1日も早く猫の治療薬が開発されることを願っています。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

 

今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。

 

最後にポチっとよろしくお願いします。

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  • この記事を書いた人

へなお

▶脳神経外科専門医でアラフィフおじさんの「へなお」です。▶日々脳の手術、血管内治療、放射線治療を中心に某総合病院で勤務医をしています▶一般の方でも脳についてわかりやすく理解していただけるように、あなたのまわりのありふれた日常を長年の経験からつちかった情報をもとに脳科学で探っていきます▶多くの方に脳に興味をもっていただき、少しでもこれからの生活の役に立つ知識をつけていただければと思います!

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