できるだけ多くの選択肢を残しておいた方が成功しやすいのでしょうか?
それとも退路を断った方が成功しやすいのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 選択肢を絞って「退路を断つ」ことの意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
「退路を断つ」って難しい
「退路を断つ」の脳科学
- 脳は「退路を断つ」を嫌い、「できるだけ多くの選択肢を残しておく」ようにプログラムされています。
- 選択肢を残しておくにはコストや時間がかかるばかりか、時には損失を負う可能性があることを脳は理解していません。
- 成功をつかみ取るためには、時に選択肢を捨て退路を断って生きてみましょう。
退路を断つ
彼は「どの女性も愛していて、どの女性とも家庭を持つことが想像できる」と言います。
その一方で、彼は3人の中で1人の女性を決めることを躊躇(ためら)っています。
誰か1人を選べば、他の2人との関係は間違いなく終わります。
ですから、誰ともきちんとした関係を築けないという代償と引き換えにしても、1人の女性に絞らずに選択を保留したままで、ずるずると3人の女性と付き合っています。
このような状況は当然決していいことではありません。
しかしこのような状況は決して少なくないのが現実でしょう。
たとえば2つ、3つの学部を同時に専攻している大学生はめずらしくありません。
学生たちはそのようにすることで、将来のキャリアの選択肢を多く残しておきたいと考えるわけです。
このように未来の職業の選択を保留状態にしておくことは悪いことなのでしょうか?
楚の武将であった項羽は、秦軍と戦うために黄河を渡ります。
そして兵士が眠っているあいだに、川を渡る時に使った船をすべて燃やし、その翌日兵士たちにそのことを告げます。
「お前たちに残された道は、勝つまで戦うか死ぬかのどちらかしかない」
項羽は兵士たちの退路を断って、彼らの意識をたったひとつの重要なこと、戦いに集中させたのです。
「退路を断って覚悟を決める」ことができれば、大概のことは何とかなる…そのように思われがちです。
しかし現実的に、項羽のように「退路を断って覚悟を決める」ことができる人はほぼ例外と言えるでしょう。
わたしたち普通の人間は、「できるだけ多くの選択肢を残しておこう」と考えるものです。
「退路を断つ」には、本気の上に本気を塗り重ねるほどの覚悟がなければうまくはいかない…そう考えるのが普通でしょう。
できるだけ多くの選択肢を残したがる心理
そもそも脳は「退路を断つ」を嫌い、「できるだけ多くの選択肢を残しておく」ことを好むようにプログラムされています。
ゲームの画面には3つのドアが映し出されています。
プレーヤーたちには最初100ポイントが与えられています。
ドアを開けるには1ポイントが必要ですが、どの部屋に入ってもポイントを稼ぐことは可能です。
部屋によって稼げるポイントは異なりますが、プレーヤーたちは3つの部屋を行き来することで、どの部屋がもっとも多くのポイントを獲得できるかを簡単に知ることができます。
ですからプレーヤーたちは当然、もっとも効率のいいプレーの仕方をします。
3つの部屋の中で一番ポイントを獲得できる部屋を見つけ出して、ゲームが終了するまでその部屋でひたすらポイントを稼ぎ続けます。
プレーヤーたちはドアを開けて部屋を行き来するという行動を10回繰り返す中で、一度も開かれなかったドアは消滅するようになりました。
3つの部屋へのアクセスを失わないために、ドアからドアへとせわしなく動きまわるようになったのです。
一番ポイントを獲得できる部屋にとどまっていれば、たとえドアが消滅しても何ら問題はないはずです。
そこでポイントを稼ぎ続ければよいのですから。
しかしプレーヤーたちは3つの部屋の選択肢を失いたくないがために動き続けたのです。
結局多くのプレーヤーたちは、もっともポイントを稼げる部屋にとどまっていたら得られていたはずのポイントよりも15%も少ないポイントしか得られませんでした。
ドアを開けるために必要なポイントを1ポイントから3ポイントに引き上げます。
つまりドアからドアへとせわしなく動きまわるとポイントはどんどん減っていってしまいます。
しかしプレーヤーたちは移動し続けることをやめませんでした。
手持ちのポイントを浪費してでも3つの部屋を維持して、すべての選択肢を維持しようとしたのです。
最終的にどの部屋でそれぞれ何ポイントずつ獲得できるかを教えても、プレーヤーたちは移動し続けることをやめませんでした。
「選択肢を失いたくない」という欲求を抑えることはできなかったわけです。
多くの選択肢を残しておいても成功するとは限らない
ではどうして、脳はたとえ損失を負ってでも「退路を断つ」を嫌い、「できるだけ多くの選択肢を残しておく」ことを好むのでしょうか?
脳は「退路を断つ」ことをせず、「できるだけ多くの選択肢を残しておく」ことによって生じる「不利益」を想像できないのです。
冷静に考えればなんとも馬鹿げているように思えるかもしれません。
しかしこのようなことは世界中で起きています。
金融市場では選択肢がもたらすマイナス面ははっきりしています。
ですから有価証券にはオプションが有料で存在します。
有価証券を一定期間後にあらかじめ決められた金額で買ったり売ったりできる権利を売買する取引です。
たとえばある株の銘柄を半年後に1株1000円で買う権利を購入したとしましょう。
半年後にその株価が1000円を上回っていれば、この権利を行使することで株式市場で買うよりも安く株を手に入れることができます。
しかし逆に株価が1000円を下回ってしまうと、権利を行使せずに株式市場で株を買った方が安くなるため、オプション取引に支払ったお金は無駄になってしまいます。
このように選択肢を持つにはコストがかかり、選択肢を持つことで不利益が生じることもあります。
しかし脳は選択肢を持つことをとても好みます。
どのような分野においても、多くの場合選択肢を持つのは無償ではありません。
しかし選択肢にはコストも時間もかかること、そして選択肢を持ったばかりに時には損失を負ってしまうかもしれないことを脳は理解できていないのです。
ひとつひとつの選択肢を検討するには精神的なエネルギーが必要ですし、思考をしたり、それぞれの選択肢を試したりしようとすれば、そのために人生の貴重な時間を浪費することになります。
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わたしたちはできるだけ多くの「選択肢」を持って、どの可能性も排除せずに保留しておこうとします。
しかしそれでは成功にはつながりません。
成功を手に入れるためには「選択肢」というドアを閉めることを学ぶべきでしょう。
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多くの企業が提案するビジネス戦略は、特定の選択肢を除外するための意思表明に他なりません。
西郷隆盛は数々の名言を残していて、「西郷南洲遺訓」としてまとめられています。
その第30条に有名な遺訓が記されています。
命もいらぬ、名誉もいらぬ、官位や肩書きも、金もいらぬ、という人は、始末に困るものである。
だが、このような始末に困る人物でなければ、困難を共にして国家の命運を分けるような大きな仕事を、一緒に成し遂げることはできない。
しかしながら、そういった人物は、なかなか普通の人の目では見抜くことはできないものである。
真に道理を行う人、正しく生きるという覚悟のある人物でなければ、そのような精神を得ることはできない。
誰でも命は惜しいものです。
お金も欲しければ、役職や肩書き、名誉もほしいと思うのが普通です。
しかし明治維新後、西郷隆盛のまわりの志士たちの多くは、新政府のもとで役職を求め、高給を取り、蓄財に走る、そんな人たちばかりでした。
国を良くしたいと思って行動してきた西郷隆盛の落胆ぶりが想像されますが、西郷隆盛の生き方を知ればこれほど説得力に満ちた言葉はないでしょう。
西郷隆盛のように徹底した生き方をするのは難しいかもしれません。
しかし自分にとって正しい道、譲れないもの、守らなければならないものが出来た時に、自分はどう行動するべきか、何を取捨選択するべきなのか、日ごろから考えておくことが大切でしょう。
「わたしは可能性に住んでいる」
エミリー・ディキンソン(アメリカの詩人)
有名で美しい詩ですが、可能性の中に住んでいても成功はしないですし、何も利益は得られません。
その先にきっと成功があるはずです。
“「退路を断つ」の脳科学”のまとめ
選択肢を絞って「退路を断つ」ことの意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 脳は「退路を断つ」を嫌い、「できるだけ多くの選択肢を残しておく」ようにプログラムされています。
- 選択肢を残しておくにはコストや時間がかかるばかりか、時には損失を負う可能性があることを脳は理解していません。
- 成功をつかみ取るためには、時に選択肢を捨て退路を断って生きてみましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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