サウナに行くときどんな期待をしていますか?
期待以上だった時、あるいは期待はずれだった時どのような気持ちになりますか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
「期待」がもたらす幸福を脳科学で説き明かします。
サウナに行くとき期待すること
期待の脳科学
- 脳は期待している時、そして期待通りあるいはそれ以上の欲望が満たされた時に、ドーパミンという快楽物質を分泌して快感を得ます。
- 自分で「期待」と感じているものの中には、時に「必然」や「願望」といった「期待」以外のものが混在していて失望や不幸を生み出します。
- 「期待」と「願望」と「必然」を見極めて、「期待」を0~10で数値化して脳に刻み込んでみてください。
- 実現可能なことだけをきちんと「期待」することができれば、サウナで最高のととのいが得られるはずです。
第3次サウナブームの日本ではどこのサウナも多くの人でにぎわっています。
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行き慣れたサウナは、湯船もサウナも水風呂も休憩スペースも自分の好みで、気持ちの良いととのいができることはわかっています。
いろいろと勝手がわかっているので、迷うこともなく安心してととのいの時間をすごすことができます。
ですから、すべてがわかりきっているので期待することはなにもありません。
しかしサウナに行ってみたら、たまたま告知なしのイベントをやっていた、飛び込みのアウフグースが始まった、休憩スペースが改装されていた…など予想外のことが起こると期待していなかったぶん特別な幸福感が得られるはずです。
一方で初めてのサウナに行く時は、SNSなどで情報を収集して期待に胸が膨らみます。
湯船もサウナも水風呂も休憩スペースもすべてが初めてで、SNSで高評価されていればワクワクが止まらないでしょう。
期待通り、あるいは期待以上のサウナであった場合は最高の幸福感が得られるはずです。
しかし期待外れであった場合は、期待が大きかったぶんだけがっかり感、残念感は大きくなります。
このようにわたしたちの脳は常に「期待」に振り回されています。
脳はとても退屈しやすく、飽きやすい性格です。
ですから変化のないものや、予想可能なものに対しては満足せず幸福感は生まれません。
しかし予測しがたい不確実なことに対してはどうでしょう?
決まりきった道の上を歩き続けるよりも、多少のリスクを背負ってでもより高い幸福度を期待して道を外れる方が、得られる快感はぐっとアップします。
ですからわたしたちはいろいろなものに「期待」をして、そして期待通りにいったり、期待に裏切られたりしながら生きているのです。
期待と快楽物質=ドーパミンの関係
先ほど説明したように、脳は常に何かを期待して、絶えず期待を生み出し続けています。
その原点は人類が現生まで生きのびてきた歴史にあります。
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大昔の人間の祖先は、天敵に襲われる身の危険を感じながら、食料を日々探し求めて生き延びる必要がありました。
ちょっとした気候の変化や疫病でもすぐに死んでしまう可能性のある中で、常に緊張感を持っていなければなりません。
当然そんなストレスのある状況では、知性の高い生物ほど精神的にまいってしまいます。
そこで快楽物質というご褒美を与えることで、リスクのある状況の中でも積極的に動けるモチベーションの源泉を手に入れました。
人間が今でも変化の激しいリスクのある状況であっても、ご褒美=報酬に大きな快楽を感じるのは、自然の中で生き延びてきた生物が環境に適応するために身につけた習性だと言えます。
脳は欲望が満たされた時に「報酬系回路」と言われる神経系が活性化して、ドーパミンなどの快楽物質を分泌します。
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この報酬系回路は、食欲・睡眠欲・性欲などの生理的欲求が満たされた場合はもちろん、他人に褒められたり、愛されたりなどの社会的な欲求が満たされた時にも活性化して快楽物質を分泌します。
この報酬系回路のおかげで、私たちの行動における動機付けがされるわけです。
脳はまさに報酬系回路の支配下にあり、快楽物質を分泌するために色々な行動に駆り立てられます。
報酬系回路の役割は、何かを学習したり、環境に適応したりする際に、非常に重要な役割を担っています。
親に褒められたいから勉強を頑張る、異性にモテたいから努力する、サウナで最高のととのいを得たいから仕事を頑張る…など、長期的な報酬が期待できる場合は、短期的な報酬をがまんしてでも努力したり学習したりすることができます。
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このように報酬系回路は人間のあらゆる行動のモチベーションを支えています。
逆を言えば、快楽物質というご褒美なしに、人間は何かに繰り返し打ち込んだりすることはできません。
一方で最近の研究では、脳の報酬系は欲求が満たされた時だけではなく、報酬が「期待できる状態」でも快楽物質を分泌することがわかっています。
このような場合には、当然快楽物質であるドーパミンが分泌され最高のととのいができるでしょう。
このような予想外の良い出来事…これを「報酬予測の誤差」と呼びますが、このような期待への可能性に対してもドーパミンは分泌されますし、場合によっては通常以上のドーパミンが分泌されます。
つまり、脳は予測が難しいリスクのある不確実な環境で得た報酬により多くの快楽を感じやすく、逆に確実な報酬が予測されている状況下では、快楽を感じにくいという、なんともわがままな性格なわけです。
「期待」と「願望」と「必然」を見極めろ
脳は期待をすることで快楽が得られることを知っているので、常に何かを期待しています。
サウナで蒸されれば最高のととのいができるはず
水風呂は冷たいほど最高のととのいができるはず
休息エリアの環境が整っていれば最高のととのいができるはず
脳は無意識にこのような期待をしています。
期待が大きければ大きいほど、その後の落胆度は大きくなるはずです。
とはいえ次々と生み出される期待にいちいち一喜一憂していては身も心ももちません。
もっとも簡単な解決法は無意識に期待と思っていることを整理することです。
「このようになったらいいなあ…」と漠然(ばくぜん)と思っていることは、実はすべてが「期待」ではありません。
「このようになったらいいなあ…」はきちんと区別すれば次の3つに分類されます。
必然…「しなければならないこと」
願望…「したいこと」
期待…「できればいいなと思うこと」
この3つを混同して、すべてが「期待」と勘違いしていると、幸福と不幸をジェットコースターのように味わい精神が病んでしまいます。
ではそれぞれを詳しくみていきましょう。
「必然」なんてほとんどない
そのように思っている人は少なからずいるはずです。
忙しいなかせっかくサウナに来たのに、思ったよりもサウナの室温が低かった、水風呂がぬるかった、休憩スペースがざわついていた…さまざまな理由で最高のととのいができないと、
そのように思うでしょう。
しかし「サウナでととのう」はどうしても「しなければならないこと」ではありません。
息をしたり、食べたり飲んだりといったこと以外のことは、しなくても生きていくにはまったく支障はありません。
本当に必要なことは、願望とは関係なしに行われます。
ですから先ほどのセリフは、
と言うべきなのです。
「願望」を人生の必然事項のように考えてしまうと、人は気難しく不機嫌になります。
そうするとどんなに聡明な人でもバカげた行動をとるようになってしまいます。
サウナの室温ももっと上げろ、水風呂をもっと冷たくしろ、休憩エリアでは話をするな…このような発言をする人もいるかもしれません。
”マナーの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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銭湯やサウナでマナーを守らない人がいるのはなぜなのでしょう? そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。 このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの ...
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自分で「必然」事項だと思い込んでいるものは、ほとんどのことが「必然」ではありません。
ですからできるだけ早く「必然」の項目から除外すべきなのです。
「願望」なんて取るに足らないもの
「願望」のない人生はきっとつまらなく味気ないものでしょう。
しかしそれでも願望の実現を人生の至上目標にはしてはいけません。
世界には自分でコントロールできないことなどいくらでもあります。
どんなに頑張っても必ずしも試験に合格できるわけではありませんし、CEOになれるわけでもありません。
なぜならそこには自分ではどうにもできない数多くの要素が絡(から)んでいるからです。
古代ギリシャの哲学者は素晴らしい言葉を残しています。
人間が手に入れたいと願うものは、実は取るに足らない好みにしかすぎない
つまりほとんどの願望は所詮(しょせん)個人の好みであって、人生の幸福にとっては取るに足らない要素でしかないのです。
そのように思うことは自由です。
しかしそれはあくまでも個人の好みであって、ととのえなかったからといって不幸を感じる必要などないのです。
「期待」にあおられるな
もしみなさんが大きな失望を感じたとするならば、その原因の多くは期待をちゃんと管理できていないことにあります。
期待と言っても自分自身ではなく、あなたのまわりにいる人たちへの期待です。
あなたのまわりにいる人たちがあなたの期待に応えてくれる確率は、天気があなたの期待に応えてくれる確率と同じくらいしなかいのです。
先ほど説明したように、期待はあなたの内側に対してはとてつもない力を発揮して快楽を届けてくれます。
しかしあなたの外側の世界に対しては自分ではどうにもできません。
ですから多くの人は期待に対して無頓着になりがちです。
その結果、あなたの期待はまわりにいる人たちにいいように利用されがちです。
他人に期待していると思っているのは自分だけで、実は他人に自分の期待をあやつられていることは決して少なくありません。
たとえば「最高の設備が整っているサウナ」といううたい文句で、さまざまな画像や数値を見せられるとあなたの期待は知らぬ間にどんどん膨らんでしまいます。
何の根拠もない砂の上に期待を作り上げているようなものです。
そのような期待はあっという間に崩れ去ります。
そして時にはまわりの人までその期待に巻き込んでしまいます。
自分自身で期待をちゃんと自覚して管理しなければ、それは期待ではなくただの妄想にすぎません。
サウナで蒸されれば最高のととのいができるはず
水風呂は冷たいほど最高のととのいができるはず
休息エリアの環境が整っていれば最高のととのいができるはず
「期待」を制してこそ最高のととのいが待っている
「期待」を制するということは、すなわち「実現可能なことだけをきちんと選別して期待する」ということです。
そして「現実に即(そく)して実現可能な期待」を持つには、前の項で説明したように「期待」と「願望」と「必然」をとにかく見極めることです。
特に「願望」を「期待」と勘違いすることは避けるべきでしょう。
「期待」を見極めるためには、自分が「期待」と思っていることを0から10で評価してみてください。
「0」は悲劇的な出来事を予想している場合
「10」は一生をかけた夢が叶うと期待している場合
そしてそのあいだを10段階に振り分けてみてください。
たとえば忙しいなかサウナに行った時に、思ったよりもサウナの室温が低かった、水風呂がぬるかった、休憩スペースがざわついていた…さまざまな理由で最高のととのいができないどころか、逆にストレスがたまってがっかりな残念な時間だった
これは「0」と評価します。
一方で、湯船もサウナも水風呂も休憩スペースも自分の好みで、気持ちの良い最高のととのいができると期待している場合には「10」と評価します。
そしてここからが重要ですが、自分が評価した点数から2点を差し引いて、その点数を脳に覚え込ませてください。
きっとこの作業は10秒とかからない単純で簡単なことのはずです。
しかし「期待」に数値をつけることで、何の根拠もない感覚だけで期待を作り上げる無意識で勝手な思考を阻止することができます。
またこの作業を行った後の脳に残る期待値は、ひかえ目というよりも、むしろ適正値を下回っているので、期待通りに行かなかった時の失望感を少しでも和らげることができるはずです。
そしてなにもサウナに行くようなイベント以外のささいな出来事に関してもこの作業を実践してみてください。
ドアの取っ手を握ればそのドアが開くのを期待する
蛇口をひねればそこから水が出ることを期待する
電車に乗れば目的地の駅まで時間通りに運んでくれることを期待する
朝には日が昇るのを期待して、夜には日が沈むのを期待する
このような無意識に期待していることに関しても、期待を数値化することを習慣づけすれば、期待がもたらしてくれる幸福感は維持され、無用な失望感や不幸感を抱く必要がなくなるはずです。
「期待」を無意識に、そして無計画にどんどん高いところまで上昇させてしまい、ついには“パンッ”とはじけて空からしなびた破片となって降ってくる…そんな感じでしょうか。
期待に胸を膨らませすぎず、とはいえちょっぴりは期待して、サウナで最高のととのいを感じてください。
“期待の脳科学”のまとめ
「期待」がもたらす幸福を勝手に脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 脳は期待している時、そして期待通りあるいはそれ以上の欲望が満たされた時に、ドーパミンという快楽物質を分泌して快感を得ます。
- 自分で「期待」と感じているものの中には、時に「必然」や「願望」といった「期待」以外のものが混在していて失望や不幸を生み出します。
- 「期待」と「願望」と「必然」を見極めて、「期待」を0~10で数値化して脳に刻み込んでみてください。
- 実現可能なことだけをきちんと「期待」することができれば、サウナで最高のととのいが得られるはずです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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