大食いのフードファイターはなぜたくさん食べられるのでしょう?
なぜたくさん食べても太らないのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 大食いのフードファイターはなぜたくさん食べられるのに太らないのかがわかります。
大食い選手権とデカ盛りハンター
大食いの脳科学
- フードファイターがたくさん食べられるのに太らない理由は胃や腸などの消化管の働きだけではありません。
- 脳と消化管はホルモンが情報の伝達役となって密につながっています。
- フードファイターは脳の中の満腹中枢に消化管からの情報が正確に伝わらないためたくさん食べることができてしかも太らないのです。
- フードファイターは生まれながらにしての戦士なので決してまねしないようにしましょう。
自分は決して大食いではありません。
でも食べることは大好きです。
そんな自分が好きなジャンルに『フードファイト』があります。
制限時間内にひたすら食べまくる…そんなフードファイターの姿を眺めているのがたまらなく好きです。
フードファイトには賛否両論あります。
賛同的な意見もあれば、当然批判的な意見も多数あります。
食べ物を粗末にしている…などなど。
しかしこれもフードファイトが世の中に認知されている証拠の1つかもしれません。
数々のフォードファイターたちが一躍有名となった大食い選手権が始まったのは1989年。
それから途中紆余曲折はあったものの大食い選手権は現在まで不定期で続いています。
2020年4月からは『デカ盛りハンター』がレギュラー番組として放送を開始しました。
フードファイターとして今テレビでもっとも人気なのはおそらくギャル曽根でしょう。
ギャル曽根は2005年秋の大食い選手権に19歳でデビューしました。
ギャル曽根はその大会では優勝はしていません。
しかしその大会で強烈なインパクトを残しギャル曽根としての地位を確立していきます。
それはいまやフードファイトの世界では伝説となっている食パン大食い対決です。
食パンを制限時間内にどれだけ食べられるかの勝負だったのですが、食パンにつけるためのジャムやバターも準備されていました。
しかしジャムやバターはいくら食べても記録には残りません。
ギャル曽根以外の参加者はひたすら食パンのみをほおばっていました。
しかしそんな中ギャル曽根だけは大量のジャムやバターをたっぷりと食パンにつけて「美味しい」と食べまくっていたのです。
その結果勝負には負けてしまいました。
しかし勝負にこだわりすぎず食の原点である「美味しい」にこだわったギャル曽根のこの行動は多くの人に衝撃的なインパクトを与えました。
ギャル曽根の美味しくたくさん食べるという姿勢はいまだ健在です。
MAX鈴木は2015年の大食い選手権に初出場し初優勝を飾りました。
予選から出場したMAX鈴木は回転ずしでお寿司を2カン丸ごと一気に食べる"2カン食い"を披露。
驚異的なペースで食べ進め制限時間30分で100皿200カン超えを果たし楽々予選突破。
そのままの勢いで決勝も勝ち上がっていき圧倒的な強さで優勝を飾りました。
それ以降も数々の大会で優勝し現在も変わらない大食いっぷりで大活躍しています。
ちなみに大食い早食いで多くの方が最初に思いつくのは”盛岡のわんこそば”ではないでしょうか。
この大会は制限時間があったりなかったりとその年によってさまざまです。
2018年に制限時間15分で記録した632杯が過去最高記録となっています。
いかにこの記録がすごいかということかがわかります。
ちなみに2019年は制限時間が10分に短縮されましたが451杯でMAX鈴木が優勝しています。
あ、すいません。
ついつい止まらなくなってしまいました。
それではここから本題に入りたいと思います。
大食い早食いのフードファイターたちの多くはどちらかと言うと痩せています。
フードファイターの謎-その1
なぜフードファイターたちは短時間にあんなに大量に食べることができてしかも太らないのでしょうか?
これは多くの人が疑問に思っていることではないでしょうか。
その謎について脳科学的に探ってみたいと思います。
脳と胃はつながっている
フードファイターの謎-その2
短時間に多くの物を食べられる、しかも太らないのにはさまざまな理由が挙げられています。
口から食べたものは胃に入り一定の時間胃の中で消化されて粉々にされてから腸管に流れていきます。
ですから胃が小さいとすぐに胃がパンパンに膨れて食べれなくなってしまいます。
フードファイターの謎-その3
フードファイターは通常の人と比べて胃が15倍も膨張できます。
そのためたくさん食べてもなかなか胃がいっぱいになりません。
フードファイターの謎-その4
フードファイターのお腹の中には普通の人よりも”ビフィズス菌”がたくさんいます。
そのため食べたものはあっという間に消化されて排泄されてしまいます。
一種の吸収障害が起きていると考えられます。
胃や腸など口から入った食べ物が通過していくの消化管は脳と密接に関係しています、
フードファイターの謎-その5
消化管が食べたものを消化するために出す多くのホルモンは血の流れに乗って脳にも到達し影響を与えます。
どのような影響かと言うと、脳に対して食欲のコントロールだけでなく、脳の覚醒状態や記憶力にいたるまで支配しています。
胃腸の具合は脳の状態とリンクしているんです。
たとえばうつ病の治療法に迷走神経刺激法(VNS)と言われるものがあります。
迷走神経とは自律神経の1つで消化管の動きを支配している神経です。
VNSは迷走神経が消化管から脳へ到達する途中の首の部分で神経を電気刺激してうつ病を治すという治療法です。
この治療法は記憶能力をアップしたりてんかんの治療に用いられたりもしています。
このように考えると短時間でたくさん食べられる、大食いなのに太らない原因は胃などの消化管だけではなくて当然脳にもあると考えられますよね。
満腹中枢を刺激するホルモンたち
人は”美味しいものはたくさん食べたいけど太りたくはない”、そんな矛盾のはざまで葛藤して生きています。
“美食生活は緩慢なる自殺行為である”なんて言葉もあります。
長生きしたければ美味しいものを食べるな!寿命を延ばす最良の方法は食を抑えること!
ここまで来ると極端ですが、実際肥満の原因はほぼ例外なく食べ過ぎにあります。
肥満は見てくれがどうのこうのという問題以上に生命にとって危険信号となっています。
中程度の肥満でも平均寿命が 2~5年短くなる、重度になると5~10年短くなるなんて言われています。
そのため脳は肥満にならないような働きをもっています。
フードファイターの謎-その6
脳の中で肥満をコントロールしているのは脳の真ん中にある視床下部と言われる部分で“満腹中枢”と呼ばれています。
脳の働きの半分近くは脂肪で構成されていて、脂肪は脳のパフォーマンスを向上させるもっとも大切な物質です。
満腹中枢は体内の脂肪をコントロールすることで肥満にならないような指示を出していきます。
胃や腸などの消化管からの情報はさまざまなホルモンによって脳の中の孤束核という部分にまず伝えられます。
孤束核では体内から集まった多くの情報を処理して最終的な情報を満腹中枢に伝えます。
ですから情報の伝達役であるホルモンの働きが重要となってきます。
フードファイターの謎-その7
肥満に大きく影響するホルモンの代表には”レプチン”と”インシュリン”があります。
この2つのホルモンが大食いができる理由、大食いなのに太らない理由に深く関係しているのです。
レプチン
フードファイターの謎-その8
レプチンは脂肪細胞で作られて血液中に放出されて体内に脂肪がどれくらいあるか、そのレベルがどう変化しているかを脳に伝えています。
体内の脂肪量が減ると血液中のレプチンの濃度は低下して体がエネルギーを必要としていることを脳に伝えます。
つまりレプチンの濃度の低下は空腹感と体重増加の引き金になっています。
逆にレプチンの濃度が上がると満腹感を感じ食欲をおさえます。
人間の本能には3つの基本欲が存在します。
それは“食欲”、“性欲”、“睡眠欲”です。
これらの欲に共通した性質は「満足を知る」という点です。
欲が満たされればそれ以上を欲しなくなります。
一方、金銭欲、権利欲、独占欲などの世俗的な欲望は満足を知らないので満たされてもさらに欲しくなります。
つまり満腹感が得られれば食欲は低下します。
しかし満腹感が得られなければ食欲は増し続けるのです。
しかしその薬は”夢の薬”のままで終わりました。
なぜなら肥満の人はなぜか体内のレプチンが常に過剰になっているにもかかわらず脳は満腹感を感じないのです。
つまりレプチンが正常に脳に作用しなくなっているのです。
ですからレプチンを薬としてさらに摂取してもやせることはなかったのです。
フードファイターの謎-その9
フードファイターの脳内ではレプチンの反応が低下している、あるいはレプチン自体の分泌が減少しているのかもしれません。
そのため体内でいくら脂肪が生成されて濃度が上がっても満腹中枢にその情報が届かず食べ続けることが可能なのかもしれません。
インシュリン
フードファイターの謎-その10
インシュリンは体内に貯蔵されている脂肪量を脳に知らせる重要な働きをしています。
インシュリンは食事をして血糖値が上がるとお腹のなかのすい臓でつくられ、血液中に放出されます。
するとインシュリンは血液から糖分を取りだしてさまざまな細胞にエネルギーを蓄えるように伝えます。
たくわえられたエネルギーは脂肪となってどんどん蓄積していき太っていきます。
エネルギーが充分蓄えられると満腹中枢がストップをかけてお腹がいっぱいになったと感じるのです。
脳の神経回路は基本的に食べて体重を増やすほうに傾きやすいとされています。
なぜなら人間は進化の過程で餓死の危険に何度もさらされれたきたことで、脳は深刻な体重の減少から体を守るため脂肪を常にたくわえるように働くのです。
脳はたくわえた脂肪を日々必要とされるエネルギーのために使わず、いざというときのためにとっておこうとするのです。
その結果太っていくのです。
フードファイターの謎-その11
フードファイターはインシュリンに対する脳の反応が低下しているあるいはインシュリン自体の分泌が減少していることが考えられます。
いずれにしてもインシュリンがうまく働かないために血液から糖分が細胞に出ていかず、その結果大量に食べても糖分が脂肪に変化しづらく太りにくいのです。
このような状況は糖尿病の人にも多く見られます。
糖尿病と言うと太った人が多いというイメージがあるかもしれませんがやせている糖尿病の人も多くいます。
誰でも大食いになれる?
フードファイターの謎-その12
フードファイターの脳の中ではレプチンとインシュリンという2つのホルモンに対する反応が低下しているあるいはこれらのホルモンの分泌自体が少ない状況となっていることが考えられます。
そのため脳の中の満腹中枢に胃や腸などの消化管からの情報が正確に伝わらずたくさん食べることができてしかも太らないのです。
これはトレーニングなどによってできるようになるものではありません。
フードファイターは”子供のころから大食いなのにやせていた”という人が多いと言われています。
しかし中には”テレビで大食いの番組を見ていて自分もできるのではないかと思って食べてみたら大食いだった”なんて人もいます。
フードファイターの謎-その13
フードファイターは食に対する特殊な体質を生まれながらにして持っているのです。
このようなホルモン異常に関する遺伝子情報は遺伝する可能性が考えられています。
誰でも大食いになれるなんてことはありませんので無謀な大食いチャレンジなんてしないようにしてくださいね。
”大食いの脳科学”のまとめ
今回は大食いのフードファイターはなぜたくさん食べられるのに太らないのかについて脳科学的に解説しました。
今回のまとめ
- フードファイターがたくさん食べられるのに太らない理由は胃や腸などの消化管の働きだけではありません。
- 脳と消化管はホルモンが情報の伝達役となって密につながっています。
- フードファイターは脳の中の満腹中枢に消化管からの情報が正確に伝わらないためたくさん食べることができてしかも太らないのです。
- フードファイターは生まれながらにしての戦士なので決してまねしないようにしましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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