「仲間」ってなんだろう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い手術、放射線治療を中心に勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきますね。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 「仲間」を脳科学で探ることで島宇宙が序列化されて形成されるスクールカーストの脳科学的な意味がわかります。
島宇宙が序列化されて形成されるスクールカースト
「仲間」の脳科学
- 気の合う仲間で形成された島宇宙がねじ曲がったコミュニケーション能力で序列化されたものがスクールカーストです。
- 「仲間」にコミュニケーション能力は必要なく共感する人が集まるだけで脳には充分な刺激となります。
- 「仲間」ができると必然的に「仲間はずれ」が生まれます。
- 「仲間」と「仲間はずれ」をどうとらえて生きていくかはあなたの脳にゆだねられています。
しかし現代の教室内にはスクールカーストというヒエラルキー(階級制度)が存在します。
辞書でスクールカーストを調べると
学校のクラス内で勉強以外の能力や容姿などにより各人が格付けされ階層が形成された状態。階層間の交流が分断され上位の者が下位の者を軽んじる傾向があることからいじめの背景の一つともみなされている。インドのカースト制になぞらえた語。学級階層
「生け花」を題材にしてその魅力を伝える番組内容でした。
生け花の強豪校として知られる高校から男子高校生がスタジオに招かれていました。
彼らの悩みは女子にモテないこと。
自分たちはスクールカーストの下層にいるからモテないし注目もされていない…
そんな男子高校生たちの言葉に司会のタレントが言葉をかけます。
あなた達はスクールカーストの下層じゃなくてカースト外にいる。
そもそもカーストに組み込まれていない。
そんな言葉に男子高校生たちは苦笑い…
自分達はそもそもカーストの圏外なんだ…
そんな落胆ムードが漂います。
しかしここから司会のタレントが意外な言葉を発します。
でもカーストの下層なんかよりも圏外の方がよっぽど良い。
カーストの上位にいた人たちがそのあとどうなってるか知ってる?
大人になってことごとくしょぼくなってる。
学生時代は目立たなかったような人たちが社会に出て成功している例なんてたくさんある。
だから学生時代のカーストなんて今後の人生において何の役にも立たない。
カーストに縛られて下層で生きているくらいなら圏外で生きてた方がよっぽどかっこいいし後の人生にいかされる。
今はカーストの外からカーストを冷ややかに眺めて自分たちの楽しいことをして生きてるっていうのは本当に意味のあること。
そもそも自分だってカーストからずっと離れた圏外で生きてきたんだからね。
しかし司会のタレントの言葉はこれにとどまりません。
男子高校生たちから
カースト圏外っていい意味でとらえていいんですか?
とたずねられると
いい意味でとらえていいんだよ。
でも悪い意味もある。
それが人生。
持ち上げるだけでなくちゃんと最後は締める。
自分は正直スクールカーストの実態はわかりません。
なにせ経験していないのだから仕方ありません。
しかしどうしてそのような制度ができて学生たちがそれに縛られるようになったのかを知りたくなりました。
これはただの興味本位の一時の感情では決してありません。
学生時代のスクールカーストまではいかないにしても社会人になってもカースト制度まがいのものは存在します。
現代社会では「島宇宙」という仲のいいグループが形成されその内部だけで交流が行われています。
それぞれの島宇宙どうしでは交流はなく分断された状態でさまよっています。
島宇宙は誰かが格付けをしてそこに属する人たちは総じて序列化されています。
序列化を決める要素は主にコミュニケーション能力にあるとされています。
コミュニケーション能力とは自己主張力、共感力、同調力など一見するとどれも生きていく上では大切な能力に感じます。
仲間の脳科学-その1
しかしスクールカーストでは一般の社会で通用するようなコミュニケーション能力ではなくひどく偏重しねじ曲がった支配的な能力が優先されます。
したがって通常のコミュニケーション能力が高いからと言って上位に格付けされるとは限りません。
これがスクールカーストの実態です。
心理学や社会学などの分野ではスクールカーストについて多くの分析がされています。
しかしスクールカーストを生み出すのは人の脳です。
今回は脳科学の視点からスクールカーストそして「仲間」について探ります。
「仲間」の意味を脳科学で探る
スクールカーストを形成しているのはいくつもの島宇宙です。
島宇宙はそれなりに仲の良い仲間が集まって形成されています。
「仲間」に関する脳科学の研究をいくつかご紹介しましょう。
集団で行ったことは1人で行ったことよりも記憶にとどまりやすい。
Eskenazi T, et al, Q J Exp Psychol (Hove) 66:1026-1034, 2013
仲間とつるんでいる時間も大切ですが人付き合いの苦手な人にとっては苦痛の時間でもあります。
自分だけの独自の空間の中で誰とも作用し合わない独特の雰囲気に陶酔している時間が好きな方も少なくはないでしょう。
しかし1人で過ごした時間は仲間と過ごした時間と異なり実はどんな風に過ごし何に思いをめぐらせ何をしていたか鮮明に思い出すことが難しいのではないでしょうか。
研究ではそんな脳の状態を説き明かしています。
目の前の画面に動物、食べもの、家具の3つのカテゴリーのいずれかに属する単語が次々と表示されていきます。
被験者には3つのカテゴリーのいずれかから1つを選んでもらいそれに関する単語が表示された時だけボタンを押してもらいます。
そして作業が終わった後に画面に表示された単語を思い出してもらいどれくらい覚えているかを確認します。
作業は1人かもしくは2人で行います。
2人で行う場合にはそれぞれ別のカテゴリーを選択してもらいます。
自分が担当した単語については1人で作業しても2人で作業しても思い出す単語数はほぼ同じでした。
ところが自分が担当したカテゴリー以外の単語については2人で作業した方が約2倍も思い出せたのです。
ちなみに思い出すことのできた単語の数に応じて賞金をだすようにしたところ自分の担当した単語についてはより多く思い出せるようになりました。
しかしそれ以外の単語については増えませんでした。
つまり集団で作業する効果は報酬や快楽といった脳がもっとも好む回路とは別の回路が働いていることもわかりました。
“報酬と快楽の脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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今回の研究では2人で作業を行った場合でも特にコミュニケーションをとってもらったりはしていません。
ただ隣に座って同じ画面を見て作業をしただけです。
会話はありません。
しかし1人よりも2人で作業を行った方が記憶として残りやすいのです。
日常生活で同じような場面はいくらでもあります。
コンサートで同じ舞台を見て音楽に夢中になる
映画館で同じスクリーンに釘付けになる
多くの人が集まって同じ体験をしていてもそこには特にコミュニケーションがあるわけではありません。
しかし見て聞いて感じるものを共感する「仲間」がいるというだけで脳は1人とは違った働きを活発に活動するのです。
言葉を交わさずとも同じ経験を共有するだけで仲間としての効果が示されることを証明した研究があります。
この研究では1人でチョコレートを食べる場合と見知らぬ人と2人で食べる場合を比較しています。
2人で食べる場合でも会話などのコミュニケーションは一切ありません。
ところが多くの人が「2人で食べた方が美味しい」と答えたのです。
そのチョコレートが強烈に苦かった場合でも「2人で食べた方がより苦いと感じた」という回答が圧倒的に多い結果でした。
会話を交わさなくとも同じ体験を共有するだけで正方向にも負方向にも感情が増幅されたのです。
スクールカーストを操るコミュニケーション能力は「仲間」の形成には決して必要とはされていないのです。
少なくとも脳は「仲間」に関してコミュニケーション能力をたいして重要とは感じていません。
仲間の脳科学-その2
「自分は1人」と心理的に感じていても同じように「自分は1人」と感じている人が同じ空間にいればたとえコミュニケーションがなくともそこには「仲間」としての意識が脳には芽生えているのです。
あなたも決して1人ぼっちの真の孤独ではないはずです。
無言の仲間でできた島宇宙を好んでいるだけなのです。
「仲間はずれ」の意味を脳科学で探る
仲間は意識しても生まれますが無意識でも人が集まればコミュニケーションがなくとも自然と生まれることを説明しました。
仲間の脳科学-その3
「仲間はずれ」も意識せずとも自然とそして必然的に生まれます。
そのことは文化や時代そして地域を超越して普遍的に「仲間はずれ」が発生していることを見ればわかります。
「仲間はずれ」を自ら望む人はいないでしょう。
そして「仲間はずれ」が起きないように多くの人が苦心して動き回っています。
このことは「仲間」が生じることで必然的な副次作用として「仲間はずれ」が生じてしまうことを暗示しています。
つまり「仲間」ができればそれにくっつく形でどうしても「仲間はずれ」ができてしまうのです。
「仲間はずれ」に関しても脳科学の研究はさかんに行われています。
1つ目の研究はコンピュータで仮想世界を作りその中で情報ネットワークから漏れてします「仲間はずれ」について研究を行っています。
Zhang ZK, et al, PLoS One 9(4):e95785. doi: 10.1371/journal.pone.0095785, 2014
なるべく現実世界に近づけるように仮想世界を作製します。
仮想世界に住む人々は現実世界と同様に全員がお互いを知ってつながっているわけではありません。
部分的に人同士がつながり強い絆と弱い絆がありそれらは情報網で複雑につながっています。
この仮想世界内の情報ネットワークによってある情報がどのように伝わるかを調べます。
するといかなるネットワーク構造を試してもどうしても情報が行きつかない“情報盲”の地域や人が必ず生じることがわかりました。
つまり情報が完全にすみずみまで行き渡らないのはなにも意地悪をしている人がいるからだけではありません。
人と人とのつながりには限界がありどうしても仲間に入れない「仲間はずれ」が自然と生じてしまうことが証明されたのです。
2つ目の研究もコンピュータで仮想世界を作り「仲間はずれ」が発生する原理を説き明かしています。
Kim P, PLoS One 9(4):e94333. doi: 10.1371/journal.pone.0094333, 2014
この研究における仮想世界では自分と好みが似ている仲間が集まって作られる集団に属していたいという欲求にしたがって人々が行動するように設定されています。
さらに現実世界により近づけるため似た者同士が集まった仲間で構成された島宇宙は人が集まれば集まるほどその魅力を増すようにも設定されています。
実際に研究を始めてみるとそれぞれで小グループを作りはじめ次第に集団サイズが膨らんでいきます。
島宇宙がいたるところで発生していきます。
しかしその一方でどの集団にも属さない少数派が生まれ社会全体から孤立していく人も発生してきます。
孤立者の発生に理由はありません。
明確な根拠がなくとも“誰か”が自然と選定され孤立していくのです。
そして一度孤立するとどのように設定を変えても修復困難でなかなか集団に属することは困難な状況に陥っていきます。
このように「仲間」ができると同時に「仲間はずれ」は自然とそして必然的に発生してしまうのです。
この研究ではもう1つ重要な事実を示しています。
集団をけん引するようないわゆる“リーダー”的な存在がいるとその集団の結束はより強固になり大きく成長します。
これはよくある状況です。
しかし“影のリーダー”とでも言うのでしょうか…自分の好みをはっきりと示さず集団の構成員たちの結束を強めるために利他的に活動する人がいてもその集団は大きく膨れ上がります。
しかし“影のリーダー”は意外なことに最終的にはその集団の中で「仲間はずれ」の標的となり集団から追い出されてしまうのです。
注意していただきたい点はこの仮想世界では「仲間はずれ」を作ろうという“悪意”が完全に除外されていることです。
自分と似た人と一緒に過ごしたいという各人の“温かい心”が社会の中で相互作用するだけでその裏では「仲間はずれ」が必然的に生まれてしまうのです。
仲間の脳科学-その4
しかしたとえ「仲間はずれ」が集団生活に必然的な結果であったとしても無条件に肯定されるべきではありません。
むしろコンピュータで計算しつくされた「仲間はずれ」という宿命をわたしたちがどう懸命に乗り越えていくかが試されているのです。
最初の話で司会のタレントが最後に残した言葉がとても印象的です。
カースト圏外はいい意味も悪い意味もある。
それが人生。
脳科学はコンピュータですべて明かされているわけではありません。
仮想正解はあくまでも仮想です。
どのように生きていくかは結局自分の脳にゆだねられていることを忘れないで生きていきてたいものです。
“「仲間」の脳科学“のまとめ
「仲間」を脳科学で探ることで島宇宙が序列化されて形成されるスクールカーストを脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 気の合う仲間で形成された島宇宙がねじ曲がったコミュニケーション能力で序列化されたものがスクールカーストです。
- 「仲間」にコミュニケーション能力は必要なく共感する人が集まるだけで脳には充分な刺激となります。
- 「仲間」ができると必然的に「仲間はずれ」が生まれます。
- 「仲間」と「仲間はずれ」をどうとらえて生きていくかはあなたの脳にゆだねられています。
今回の記事がみなさんに少しでもお役に立てれば幸いです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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