赤ちゃんにモーツァルトを聴かせると頭が良くなるって本当なのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、主に一般の方に向けて脳の病気、治療から脳の科学まで幅広くわかりやすく解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 赤ちゃんの脳の発達のためにするべきことを脳科学で説き明かします。
赤ちゃんにモーツァルトを聴かせると頭が良くなる…はずがない
赤ちゃんの脳の発達の脳科学
- 赤ちゃんにモーツァルトを聴かせると頭が良くなる…という科学的根拠はありません。
- 赤ちゃんの脳の発達のためには知的刺激が大切です。
- 赤ちゃんが知的刺激を得るには特別なことはとくに必要ありません。
- 知的刺激を得るには普通に生活する中で普通に経験する感覚的な経験をちゃんと赤ちゃんに与えてあげればいいのです。
モーツァルトの効果-1
結論から言ってしまえばモーツァルトを聴くことで赤ちゃんの知能が向上すると主張するのはかなり疑問です。
モーツァルトに限らず“赤ちゃんにクラシック音楽を聴かせると知能が高くなる”という考えは、今日まで新聞、雑誌、書物などでたびたび取りあげられ、多くの人の知るところとなっています。
しかしこれは脳の神話であり科学的証拠はまったくありません。
しかしびっくりするほどこの考え方は広く浸透しています。
当然すべての現象を現在の科学で説明しきれるわけではありません。
モーツァルトの効果-2
ここで主張しているのはただ単に“赤ちゃんにモーツァルトを聴かせると頭が良くなるという科学的証拠はない”というだけのことです。
この神話の発端はなんと今から30年近く前の1993年に偉大な科学雑誌である“Nature”に掲載されたある報告です。
この報告ではモーツァルトのソナタを聴くことで大学生の複雑な空間推論能力が向上しIQが向上したという結果が要約されています。
この報告結果を赤ちゃんに結び付けたのは、1999年に出版された“モーツァルトで癒す~音と音楽による驚くべき療法のすべて” (ドン・キャンベル著、日野原重明監修、日本文芸社)です。
悪く言えばおおもとのNatureの報告結果を大ざっぱに解釈し科学的結果と迷信をくっつけたわけです。
しかしこの本はベストセラーになり社会的に大きな影響をあたえました。
それ以降長年の間この神話はさまざまな装飾をされながら受け継がれてきました。
一番問題なのはNatureの報告結果では対象は大学生でしかもこの効果は15分も続いていません。
この効果を赤ちゃんに無理やり当てはめて知能が一生向上すると主張することに疑問を抱いても仕方ないでしょう。
モーツァルトの効果-3
もっとも悲しむべきことはこの考えを信じるだけで誰一人として実際赤ちゃんにモーツァルトを聴かせてその効果を研究していないことです。
ですからもしちゃんとした研究が行われれば、”赤ちゃんにモーツァルトを聴かせると頭が良くなる”ということを科学的に証明することができるかもしれません。
しかしそれがいかに大変で難しい研究になるかを誰もがわかっているので行われないのです。
誰しも親であれば自分の子供の知能の発達には強い関心があり、そして子供の将来に期待と不安を抱いていることと思います。
子供向けのクラシック音楽を売る側もこれらのことを充分に分かったうえで売りつけてくるわけです。
モーツァルトの効果-4
科学的根拠をもって子供の知能を高めることが証明されていることは、音楽をただ単に聴くのではなく演奏することです。
楽器の演奏を学んだ子供は学んでいない子供よりも空間の認知能力が高いとされています。
これは音楽と空間の認知を処理する脳のシステムが似ているためです。
早い段階から赤ちゃんに楽器に触れさせて演奏させることで赤ちゃんの知能が向上することが充分に期待されます。
普通の生活を送るだけで赤ちゃんは頭が良くなる
赤ちゃんの頭を良くする方法をもう少し考えてみましょう。
突然ですが精神的に立ちなおるのが早い人がいますよね。
これってどうしてでしょう?
精神力が強いから?
それとも逆になにも感じていないから?
赤ちゃんの頭を良くする方法-1
精神的なダメージから回復するのが早い人は幼い時の経験が大人になってからのストレスホルモンの処理に良い影響をあたえているのです。
妊娠するとさまざまなストレスがかかりますよね。
このストレスによってグルココルチコイドというホルモンが体内に放出されます。
当然お腹の中の赤ちゃんもストレスホルモンにさらされます。
多少のストレスホルモンであれば大きな問題はありません。
しかし大量のストレスホルモンにさらされ続けると赤ちゃんにさまざまな問題が生じてきます。
たとえば通常より小さく生まれたり、成長してから高血圧や高血糖になりやすくなったりします。
成長してからは不安行動が多くなったり、学習能力が低下したり…なんてこともあります。
逆に生まれる前にストレスホルモンにあまりさらされていないとストレスホルモンを受け取る受容体が増えてストレスホルモンに対する感度が低下します。
ストレスホルモンは神経の興奮、抑制どちらにも作用していずれも脳や体に悪い影響をあたえます。
ですからストレスホルモンの感度が低下するとその影響を受けにくくなりさまざまなストレスに強くなるのです。
ですから精神的に立ちなおるのが早いのは生まれつきの個性なのです。
安心してください。
ストレスホルモンの感度は生まれた後にも変化します。
赤ちゃんの頭を良くする方法-2
たくさんの知的刺激を受けると成長過程でもストレスホルモンの感度は低下していきますのでストレスに対して強くなることは可能です。
ですから赤ちゃんに対する知的刺激は脳の発達にとってとても大切です。
知的刺激ってなんですか?
どうやったら赤ちゃんに知的刺激をあたえられるのですか?
感覚的ですからとてもあいまいで特別なことは必要ありません。
赤ちゃんの頭を良くする方法-3
感覚的な経験とは赤ちゃんが育っていく環境で普通に経験するべきことが普通に経験されていることです。
この感覚的な経験によって脳が受け取るさまざまな刺激が知的刺激です。
ちゃんとおむつを替えて、体を清潔に保って、ちゃんと食事をして、ちゃんと寝て…そんな経験です。
虐待、育児放棄、厳しい一貫性のないしつけ…そのようなものが排除されていればよいのです。
現代社会では普通の環境であれば必要な感覚的な経験のほとんどは間違いなく自然に簡単に得られているのです。
特別なことは何もありませんよね。
でもこんな普通のあたりまえのことこそ赤ちゃんの脳にとっては大切なんです。
その証拠に過去数十年のあいだに子供の知能指数(IQ)は年々上がっています。
現代生活の中のなにかが良い感覚的な経験として作用していることは間違いありません。
しかし具体的にどのような経験が良いのかは科学的には証明されていません。
なぜなら現在まで行われてきた多くの研究は社会的背景が相対的に恵まれていない子供たちに対するものです。
決して普通でない環境の中でどのような知的刺激を受ければ大きな効果が得られるかに研究者たちの注目は集まっています。
すでに豊かな暮らしをしている子供たちの人生をさらに豊かにしても、ほとんど…というかまったく意味はないのかもしれません。
赤ちゃんの頭を良くする方法-4
普通の生活が送れているのであれば、“自分の子供には何か特別な刺激が足りないのではないか”…なんて心配する必要はないのです。
”赤ちゃんの脳の発達の脳科学”のまとめ
赤ちゃんの脳の発達のためにするべきことを脳科学的に解明してみました。
今回のまとめ
- 赤ちゃんにモーツァルトを聴かせると頭が良くなる…という科学的根拠はありません。
- 赤ちゃんの脳の発達のためには知的刺激が大切です。
- 赤ちゃんが知的刺激を得るには特別なことはとくに必要ありません。
- 知的刺激を得るには普通に生活する中で普通に経験する感覚的な経験をちゃんと赤ちゃんに与えてあげればいいのです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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