音楽を学ぶとどんな効果と影響があるの?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い、勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきますね。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 音楽がもたらす効果と影響を脳科学で説き明かします。
音楽ってなんなんだ?
音楽の脳科学
- 音楽は「リズム」と「メロディ」と「和音」の3つの要素が織りなす音の芸術です。
- 音楽にとってもっとも大切なものはリズムであり、リズムの認識はヒトが持って生まれた貴重な能力です。
- 音楽のリズムに乗ることができるのは人間だけです。
- 音楽のリズムに乗って音楽を学ぶ意味のひとつは情操教育です。
- 脳科学的に音楽を学ぶ意味は、耳と脳を鍛えることで音韻を聞き分け語学力を高めることにあります。
ヒトと音楽は切っても切り離せない関係です。
古来どんな文明にも音楽は存在しました。
人類最古の絵画は3万年前の洞窟の壁画とされています。
しかし人類最古の楽器とされているフルートはさらに古く、4万年前のものが発見されています。
音楽は芸術の中ではもっとも歴史が古いとされています。
音楽の脳科学-その1
音楽は「リズム」と「メロディ」と「和音」の3つの要素が織りなす音の芸術です。
しかしこれは西洋音楽が誘導する一方的な定義です。
世界の音楽に目を向けると、この3つの要素がそろっていない音楽はいくらでもあります。
和音がない単音だけの民族音楽はいくらでも存在ます。
メロディすらなくリズムだけで構成されている音楽もあります。
一方リズムのない音楽はどこを見渡しても存在しません。
つまりリズムこそが音楽の真髄なのです。
子供の成長を見ていても、リズムの大切さはよく分かります。
リズムの認識は生後間もない新生児でもできます。
しかしメロディの識別がはっきりとできるようになるるのは生後4か月くらいからです。
リズムは心臓の鼓動や歩行など生きていくうえで普遍的に見られます。
つまりリズムの認識は持って生まれた貴重な能力なのです。
“赤ちゃんの音楽の効果に対する脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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大人になってもリズムは自然と人の体や心を動かします。
ふと我に返り、そこが公衆の場であったことを思い出したのか、恥ずかしがっている姿を見かけます。
音楽はもともとリズムがあって、そこにメロディや和音によって装飾されて出来上がった芸術なのです。
ところでヒト以外の動物もリズムを認識することができるのでしょうか?
音楽のリズムはヒトの脳だけのもの
音楽の脳科学-その2
リズムへの同調はヒトの脳だけが感じられるものであり、ヒト以外の動物には難しい能力です。
動物はリズムに乗って音楽に同調することはできません。
よくテレビでリズムに合わせて踊る犬や猫を見かけますが、これは相当な訓練を行わないとそう簡単にできるものではないのです。
『「リズムの乗る」ことはヒトに特有な現象である。』
Patel AD, PLoS Biol 12(3):e1001821. doi: 10.1371/journal.pbio.1001821, 2014
ヒトはリズムに合わせて手拍子をしたり足を踏み鳴らしたり体を揺らしたりダンスをしたりと、音楽に簡単に同調することができます。
しかも突然リズムが変わっても、すぐに新しいリズムに合わせなおすことができます。
これは動物の世界においてはヒトだけの特有な能力であり、すごいことなのです。
動物が「リズムに乗る」ことが難しいことを調べた研究があります。
Zarco W, et al, J Neurophysiol 102(6):3191-3202. doi: 10.1152/jn.00066, 2009
サルにメトロノームに合わせてリズムを刻むことを根気よく1年間教え続けます。
さすがに1年間続けると、サルもメトロノームに合わせてリズムを刻むことができるようになります。
しかしヒトと同じようにはいきません。
ヒトの状況とは異なり、サルはメトロノームの音からわずかに遅れてリズムを刻みます。
人は正確にリズムを刻んで次の拍がいつ来るかを予測し、メトロノームと同時かあるいはわずかに早くリズムを刻みます。
サルの場合は、メトロノームの音を追いかけるようにリズムを刻んでいるにすぎません。
普通のサルよりももっと高等なサルであるチンパンジーではどうでしょうか?
たとえリズムを刻むことができたとしても、それは訓練した特定のリズムのみで、テンポを変えるとついていくことができません。
動物はヒトが教えない限り、リズムを刻むことができないという事実が何よりも重要です。
ヒトは教えられずとも1歳になるころには自然とリズムに乗ることができるのです。
音楽のリズムはヒトの脳だけのものなのです。
ですからイヤホンで音楽を聴きながら、ついリズムに乗ってしまうのは恥ずかしいことではなく、ヒトであることの立派な証(あかし)なのです。
では、音楽はわたしたち人間にどんな効果と影響をもたらしてくれるのでしょうか?
音楽を学ぶことの効果と影響を考える
国語、数学、理科、社会、英語の主要5教科は学校の授業では主流でありいわゆる受験科目です。
ですから生徒のみならず親もまた成績の良し悪しは気になるところです。
一方で音楽や体育や図画工作などの主要5教科以外の授業は、それらを専門にしていこうとする生徒以外から見ればどちらかと言うと息抜きの時間です。
授業としてはなおざりにされている感は否めません。
もっと言えば、目の前の受験に頭が精一杯の受験生にとっては時間の無駄かもしれません。
では音楽の授業はいったいなんのためのあるのでしょうか?
体育ならば体力をつけて身体のバランスを整えるというわかりやすい目的があります。
図画工作は機械の動作原理や道具の使い方を学ぶなどの、これまたわかりやすい目的があります。
いずれも日常生活への即戦力となりその効果が期待できます。
『ヒトとしての心や人間性や人間力を育てようとする情操教育の一環として音楽を学び豊かな心を育む』
そんな声が聞こえてきそうですね。
確かに日本では明治時代から音楽は一貫して学校教育において重要な一教科であり続けています。
『音楽経験を生かして生活を明るく潤いのあるものにしようとする態度を養う』
そのような記載が現在の文部科学省の小学校学習指導要綱にも見られます。
音楽は情操教育のひとつであることが建前上の音楽を学ぶことの効果と影響です。
音楽の脳科学-その3
脳の本音から言えば、音楽には情操教育よりももっと実利的な効用があります。
それは「音韻への反応性を高める」という効果です。
最後は音楽が脳にもたらす効果と影響を脳科学で探っていきましょう。
音楽を始めて耳と脳を鍛えよう
音楽の脳科学-その4
音楽で学んだ音韻への優れた脳反応は語学の習得にとても効果的です。
音を聴いた時の脳の反応を調べた研究をご紹介しましょう。
Tierney AT, et al, Proc Natl Acad Sci USA 11;112(32):10062-7. doi: 10.1073/pnas.1505114112, 2015
音を聴くと脳では聴覚皮質と言われる脳の部位で「N1」と呼ばれる特徴的な反応が起こります。
「N1」とは、音の開始から0.1秒という、とても短い時間で瞬間的に起こる神経の反応です。
N1の反応は成長に伴って徐々に大きくなります。
N1の大きさはいわゆる「耳の良さ」を反映します。
成長と共にさまざまな音を聞き分けられるようになることとN1は密に関連しています。
大きなN1を示す脳では音に対して通常よりも反応が早くなっています。
しかも騒音によって音がかき乱されにくく、音への反応のブレが小さくなります。
またちょっとした音の違いにも鋭敏に反応することができます。
実際プロの音楽家は音や声を識別する能力に優れていて、一般人に比べて大きな騒音の中でも上手に会話することができます。
“騒がしい中携帯電話で会話するための脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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N1の反応を大きくすることは、音楽のプロでなくてもわたしたちでも訓練によって鍛えることが可能です。
学校教育で音楽を選択した生徒と選択しなかった生徒を比較すると、N1の反応に明らかな差が認められます。
それは何も幼少期や小学生でなくても高校生になってからでも遅くはありません。
音楽を選択した生徒では音楽だけでなく音韻を聞き分ける能力が明らかに向上していました。
音楽で学んだ音韻への優れた脳反応は語学の習得にとても効果的に働きます。
当然大人になってからでも音楽を始めて、音に触れ合う時間を長くすることで、N1の反応を大きくすることは可能であり、十分な効果が期待できます。
今から始めても決して遅くはないのです。
“音楽の脳科学“のまとめ
音楽がもたらす効果と影響を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 音楽は「リズム」と「メロディ」と「和音」の3つの要素が織りなす音の芸術です。
- 音楽にとってもっとも大切なものはリズムであり、リズムの認識はヒトが持って生まれた貴重な能力です。
- 音楽のリズムに乗ることができるのは人間だけです。
- 音楽のリズムに乗って音楽を学ぶ意味のひとつは情操教育です。
- 脳科学的に音楽を学ぶ意味は、耳と脳を鍛えることで音韻を聞き分け語学力を高めることにあります。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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