「悪いことをするとバチが当たる」って本当なのでしょうか?
そもそもどうして「悪いことをするとバチが当たる」と思うのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 「公正世界仮説」を探ることで「悪いことをするとバチが当たる」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
「悪いことをするとバチが当たる」を信じる?信じない?
公正世界仮説の脳科学
- 「悪いことをするとバチが当たる」を信じる人は以前よりもずっと増えています。
- 「バチが当たる」を心理学的に信じる理由は不公正な社会への不満と他人に対する処罰欲求です。
- 「バチが当たる」を脳科学的に信じる理由は「バチが当たったのは悪いことをしたからだ」という誤帰属が導き出す「公正世界仮説」です。
- 「公正世界仮説」によって「悪いことをしたのだからバチが当って当然」という発想が生み出されます。
- 「公正世界仮説」は「努力したのだから報われて当然」というプラス思考の発想も生み出します。
- このように「公正世界仮説」によって脳は世の中の理不尽さを軽減し不安をかき消して努力して前へ進む力を生み出しています。
- 結局「悪いことをするとバチが当たる」を信じるか信じないかはあなたの脳にかかっているのです。
大人になっても嫌いな人に向かって「バチが当たればいいのに」と思った経験がある人もきっといるでしょう。
そもそも「バチが当たる」とはどういう意味なのでしょう?
「バチが当たる」とはどういう意味?
「悪いことをするとバチが当たる」は①の意味です。
つまり「バチが当たる」とは悪いことをすると天罰が下り何かしらの形で自分に跳ね返ってくるということです。
ある意味スピリチュアルな世界の慣用表現とも言えるでしょう。
“スピリチュアルの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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ですから多くの人は悪いことをしたらバチが当たらないように神様に謝るのです。
「バチが当たる」は本当なのか?
『「悪いことをするとバチが当たる」を信じるか?信じないか?』について2020年に読売新聞が世論調査を実施しています。
人の迷惑も考えないで自分勝手なことをしたり残酷なことをしたりする人について「バチが当たる」ということが「ある」と思う人はなんと76%であり「ない」と思う人の23%を大きく上回りました。
1964年にも同様の調査が行われていますがその時は「ある」は41%、「ない」は40%でほぼ並んでいました。
約半世紀の間に「悪いことをするとバチが当たる」を信じる人は倍近く増加したわけです。
さらに驚くべきことに年代別に見ると70歳以上で「ある」と答えた人は63%であったのに対して18~29歳では81%だったのです。
ちなみにもっとも「悪いことをするとバチが当たる」を信じているのは50歳代で83%でした。
普段からバチ当たりな行動…たとえば道路にゴミをポイ捨てしたり他人のモノを盗んだり…そんな悪行を何気なく当たり前のようにしている人には後から必ずしっぺ返しが来ます。
ですからバチが当たって不幸になりたくないのであれば自分の行動を振り返り悪い行いは改善しましょう。
後悔しないようにバチ当たりな行動は控えましょう。
このような考えの人が増えているということです。
「バチが当たる」を他の言葉で言いかえれば「因果応報(いんがおうほう)」や「自業自得(じごうじとく)」と言ったところでしょうか。
自分のしたことが自分に返ってくるという「悪いことをするとバチが当たる」という考え方は現代の日本の文化に深く根づいているのです。
その人にとってふさわしい結果がその人に降りかかる「公正世界仮説」
ではなぜ多くの人は「悪いことをするとバチが当たる」を信じているのでしょう?
それには当然さまざまな理由があります。
心理学的な「バチが当たる」
心理学的に「悪いことをするとバチが当たる」を信じる心には現代社会の格差への不満、他人への処罰欲求といった意識があります。
「努力は必ず報われる」
「悪事は必ず罰せられる」
不正を認めない根底にはこんな考えが潜んでいます。
そのように多くの人は正義感を振りかざすわけです。
社会的経済的に報われない人は「世界は不公正だ」と考え不公正な社会を作り出した人に対しては罰が与えられるべきだと考えがちです。
「バチが当たる」が広く受け入れられているのは不公正な社会への不満なのでしょう。
しかしこれはあくまでも心理学的に「バチが当たる」を信じる理由にすぎません。
脳科学的な「バチが当たる」
では脳科学的に「悪いことをするとバチが当たる」を信じる理由とはどこにあるのでしょう?
脳科学的には「悪いことをするとバチが当たる」という考え方は脳の誤帰属によって引き起こされています。
「誤帰属」とは原因の取り違えです。
つまり物事の原因を誤って本来のものとは違う原因に帰属させてしまうことです。
“吊り橋効果の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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「悪いことをした」→「悪いことが起こる」
そう考えるのが普通の心理です。
しかしここで誤帰属が起こると
「悪いことが起きた」→「その原因はきっと悪いことをしたからだ」
このように因果関係を逆にとらえてしまうのです。
この誤帰属が脳にバグを引き起こし「悪いことをするとバチが当たる」という考えが導き出されるのです。
たとえば「子どもが見通しの悪い交差点で飛び出して車とぶつかった」という事故について考えてみましょう。
事故の原因はどこにあるのでしょう?
運転者(加害者)の不注意
子ども(被害者)の飛び出し
交差点の見通しの悪さ(状況)
それぞれの言い分がきっとあるでしょう。
しかし普通罰せられるのは運転者(加害者)です。
“刑罰の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考刑罰を重いと感じたり軽いと感じたりするのはなぜなのか?防衛的帰属仮説を脳科学で探る
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しかし中には被害者である子どもに対して
などと被害者であるにもかかわらず「子どもに落ち度がある」と批判する声もきっとあるはずです。
冷静に考えれば見通しの悪い交差点では運転手は細心の注意を払うべきであり悪いのは運転手あるいはそのような交差点に信号機をつけない行政ということになるはずです。
しかしこの例に限らず被害者であるにもかかわらず周囲から責められるという事例は数多く存在します。
そこで登場するのが先ほど説明した「誤帰属」です。
そのような「世界の理不尽さ」と「自分も理不尽に傷つけられるかもしれない」という不安から逃れるため脳は誤帰属を作動させるのです。
公正世界仮説の脳科学
これは「その人の行動にふさわしい結果がその人に降りかかる」という考え方です。
このような考え方を「公正世界仮説」と言います。
誤帰属は「公正世界仮説」を引き起こし「バチが当たったのは悪いことをしたからだ」と認識するのです。
たとえばいじめに関して言えば悪いのは当然いじめる側の人間です。
しかし「公正世界仮説」では「いじめわれる側の人間にも問題があっていじめられて当然だ」そのような考えが生じてしまうのです。
そして結果的に「悪いことをするとバチが当たる」を信じるようになるのです。
「努力は必ず報われる」は本当なのか?
ちなみに「公正世界仮説」はなにも悪いことをした時ばかりに生じる現象ではありません。
そもそも「公正世界仮説」は「何か事が生じるにはそれに見合うような原因となる物事があるという考え方」です。
ですから良い行いについても「公正世界仮説」は作用します。
典型的な考え方としては「努力は必ず報われる」という考え方です。
これに「公正世界仮説」が働くと
「成功した人は努力をした人なので逆に失敗した人は努力の足りなかった人」
そのような考えが生まれ「努力は必ず報われる」を信じるようになるのです。
しかし現実的には努力は必ず報われるとは限りません。
“「努力は必ず報われるとは限らない」の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考努力は必ず報われるとは限らない~努力できないことの意味を脳科学で探る
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そんな不安に対処するために脳は「公正世界仮説」を働かせて「努力は必ず報われる」と信じ込むのです。
「公正世界仮説」の光と闇
「悪いことをするとバチが当たる」には「公正世界仮説」が大きく影響していることをご理解いただけたでしょうか?
「公正世界仮説」はなんだか悪者のように思われたかもしれません。
しかし「公正世界仮説」には決して悪い面ばかりでなく当然良い面もあります。
「公正世界仮説」によって世の中の理不尽さを軽減することで精神的に安定を得ることができますし目標に向かって努力することを惜しまず前に進むことができるようになるでしょう。
そもそも何かしらの行動を起こさなければ目標を達成することはできないのですからたとえ結果に結びつかなかったとしてもその努力は無駄ではなく充分に意味のあることです。
しかし一方でその考え方が他人を蔑(さげす)み批判することにつながってしまうことには注意しなければなりません。
すべての人が同じ事情や環境で生きているわけではありません。
自分よがりの思考のみで「公正世界仮説」を働かせ相手の立場や状況に対して想像力を働かせることなしにあれこれと意見することはあってはならないことです。
「悪いことをするとバチが当たる」を信じることは自由ですがそれを他人に押しつけて自分だけが不安から逃れようとするような発想だけはしたくないものです。
“公正世界仮説の脳科学”のまとめ
「公正世界仮説」を探ることで「悪いことをするとバチが当たる」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 「悪いことをするとバチが当たる」を信じる人は以前よりもずっと増えています。
- 「バチが当たる」を心理学的に信じる理由は不公正な社会への不満と他人に対する処罰欲求です。
- 「バチが当たる」を脳科学的に信じる理由は「バチが当たったのは悪いことをしたからだ」という誤帰属が導き出す「公正世界仮説」です。
- 「公正世界仮説」によって「悪いことをしたのだからバチが当って当然」という発想が生み出されます。
- 「公正世界仮説」は「努力したのだから報われて当然」というプラス思考の発想も生み出します。
- このように「公正世界仮説」によって脳は世の中の理不尽さを軽減し不安をかき消して努力して前へ進む力を生み出しています。
- 結局「悪いことをするとバチが当たる」を信じるか信じないかはあなたの脳にかかっているのです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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