第2言語をネイティブ・スピーカーのように自由にあやつれるようになるには何歳までに学習するのがおすすめですか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、主に一般の方に向けて脳の病気、治療から脳の科学まで幅広くわかりやすく解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 言語を学ぶための脳の働きを脳科学で説き明かします。
脳が言語を習得する仕組み
言葉の感受期の脳科学
- 脳には生まれつき言語を習得する仕組みがすでに備わっています。
- 言語の感受期までに第2言語を習得すれば母国語と同じように流暢に使いこなすことが可能です。
- 言語の感受期は10歳くらいで終わってしまいます。
- しかし大人になってからでも努力次第では第2言語の習得はそこそこまでは可能です。
大人になって英語やドイツ語やフランス語などの第2言語を学ぶのはとても大変です。
皆さんの中にも、
なんて嘆いている方も多いのではないでしょうか。
正直これにはちゃんとした答えは出ていません。
ですがだいたいのことはわかっています。
しかし答えをいきなり知ってもおもしろくありませんよね…
答えを知る前にまずは脳が言語を習得する仕組みについて考えてみましょう。
それには赤ちゃんの脳がまっさらな状態からいかにして言語を習得していくかについて知っておく必要があります。
日ごろから若い脳に勝るものはないことは皆さんよく感じているのではないでしょうか。
特に赤ちゃんの脳はすさまじい学習能力を備えています。
そうなふうに思ってないですか?
感受期の秘密-1
赤ちゃんの脳はある経験をすることで発達するような仕掛けを持ってこの世に生まれてきます。
ですから何も経験しなければ赤ちゃんの脳は発達していきません。
このようにある経験をしていくことが脳に永久的に続く強い影響をおよぼす時期を脳の“感受期”と呼びます。
大人になって新たな言語を学ぶと変なアクセントがついた独自のくせがつきやすいのは感受期を過ぎているからなのです。
もちろん年をとってからでも第2言語を身につけることは可能です。
しかし完墜にマスターするのは難しいでしょう。
その一方で一生にわたっていつの時期でも同じように簡単に学べることも数多くあります。
たとえば編み物を学ぼうとした場合は若いことに特別な強みはありません。
しかしネイティブのように外国の言葉を話したいと思ったら子供の感受期に学ぶのが一番なのです。
感受期の秘密-2
感受期を簡単に理解するならば家を建てる時のことを想像するのが一番わかりやすいです。
家を建てる時はまず部屋の間取りを決めます。
家具の配置換えなどで部屋のレイアウトは変えられてもよほどのことがない限り間取りまで変えることはないですよね。
子供の時はまだ脳の間取りが完成されていないので脳の中でどの部分でどのような役割をするかと細かい区分けはいくらでも変えられます。
しかし大人になると一度決まった脳の間取りはもう変更はできません。
感受期の秘密-3
子供の時の脳の間取りが完成されていない時期が脳の“感受期”なのです。
第2言語を感受期に学習すると第2言語は脳の中で母国語と同じ場所であやつるように区分けされます。
そのため脳の中で言語をあやつるための部屋の間取りは大きめの部屋に作り変えられていきます。
こうすることで第2言語を母国語と同じようにあやつることができるようになります。
第2言語には予備として空いていた部屋が使われるので母国語とは違う部屋であやつられることになります。
ですからたとえ第2言語を流暢(りゅうちょう)に話せるようになったとしても母国語と同じように…とはいかないのです。
そのように考えると、
という質問は、
という質問に置き換えられます。
言葉は持って生まれたもの
感受期の秘密-4
言語の感受期が終わる時期は正直なかなか難しくいまだにちゃんとした答えはでていません。
言語の感受期が終わる時期がなかなかわかりにくいのは、人は常に言語にさらされて生きているのでいつ言語をちゃんと習得できたのかを判断しづらいからです。
日本語に関してだって何歳の時にちゃんと話ができるようになって内容をしっかり理解できるようになったのかと聞かれてもよくわかりませんよね。
それでも現在も言語の感受期に関する研究は数多く行われています。
感受期の秘密-5
言語の感受期に関する研究は耳が聞こえない子供たちの研究を応用することで行われています。
生まれつき耳が聞こえない子供たちは言語のない生活をしながら遅い時期に手話で言語を学んでいくことがほとんどです。
そのため言語習得の年齢が比較的高くいつ言語を習得したのかがわかりやすいのです。
手話と話し言葉は表現方法は違っても脳の中では同じ言語として扱われます。
そのためどちらも脳の中の言語専用の部屋を使用しているので言語の感受期の終わりもほぼ同じです。
手話は音ではなく身振り手振りで言語を表現します。
しかし手話は話し言葉との共通点がとても多く文法もちゃんとあります。
また手話は話し言葉と同じようにひとつの言語ではなくまったく違う言語も存在します。
アメリカの手話と日本の手話は当然違うのでそれぞれの手話を学ばないと会話はできません。
一見すると全然違うように感じられる手話と話し言葉ですが共通していることはともに言語を表現しているということです。
この言語を表現する能力はもともと脳が持って生まれた能力と考えられています。
手話でも話し言葉でも世界中にさまざまな言語が存在します。
しかし全く違う言語でも文章を作る一連の基本ルールはおおよそ決まっています。
それを“普遍文法”といいます。
日本語でも英語でも表現に違いはあってもおおもとの言語としてのルールは同じなのです。
脳はこの普遍文法に準じて時には手話、時には話し言葉を使って言語をあやつっています。
ですから脳は普遍文法に準じていないような人工的な異質な言葉は言語として認識することができません。
新たな言語を作り出そうとしても普遍文法に準じていない言語を脳は受け入れられないのです。
ですからちゃんと普遍文法に準じて作られた手話を研究すればその研究結果を応用することで話し言葉についても研究することができると考えられているのです。
やっと第2言語は何歳までに学習するのがおすすめかがわかります
感受期の秘密-6
耳が聞こえない子供たちの手話に関する研究では幼い時期に手話を学んだ子供はもっとあとで手話を学んだ子供よりも流暢に手話を使いこなすことができるとしています。
このことを話し言葉に応用するとだいたい7~8歳くらいまでの子供は母国語でも第2言語でも難なく習得していきます。
小学校のある程度の学年(ここがあいまいなんですが…)まではネイティブ・スピーカーのように発音する能力が保たれています。
しかし12歳をすぎるころからそれまでのようにはうまくいかなくなることが増えてきます。
まず発音やアクセントのつけ方がうまくいかなくなります。
母国語のくせが影響して第2言語の特有の発音やアクセントがおかしくなります。
中学生くらいになると文法を学習する能力も明らかに低下していきます。
高校生にもなると新しい言葉は完全に第2言語となって脳の別の部屋に回されることになります。
このように発音と文法の感受期の終わりのタイミングは明らかにズレています。
感受期の秘密-7
言語を学習して習得するというのは発音も文法もすべてを習得するということになるのですが、言語の何を習得するかによってズレが生じるのです。
ですから感受期の終わりがいつなのかは一概にはなかなか言い切れないのです。
んんん~じれったい!
これらのことをすべてひっくるめて早く答えを出せえええ!
となると感受期の終わりは10歳前後ではないでしょうか。
感受期の秘密-8
第2言語は10歳までに学習するのがおすすめ…これが一応の答えになります。
大人になってからでも遅くない
現代の情報社会を生き抜くのはとても大変です。
なんて思っていても急に第2言語の習得をせまられる時があなたにも来るかもしれません。
なにもネイティブ・スピーカーのように流暢にしゃべれなくても構わないではないですか。
言葉が通じ合っていればコミュニケーションが取れていればいいではないですか。
何もわからない中で意味のある刺激のある言葉を数ある意味を持たない音声…例えば鳥のさえずりや洗濯機の音や掃除機の音などの中から聞き分けて習得していかなければならないのです。
たとえ脳が言語を習得する部屋を大きくして準備してくれていたとしてもそれは大変な労力を伴うことでしょう。
それに比べればわれわれが第2言語を学ぶ努力なんてとても小さなものかもしれません。
とりあえず中学生で学んだであろう英語をまずは復習!
そこから始めてみませんか?
”言葉の感受期の脳科学”のまとめ
言語を学ぶための脳の働きを脳科学的に解明してみました。
今回のまとめ
- 脳には生まれつき言語を習得する仕組みがすでに備わっています。
- 言語の感受期までに第2言語を習得すれば母国語と同じように流暢に使いこなすことが可能です。
- 言語の感受期は10歳くらいで終わってしまいます。
- しかし大人になってからでも努力次第では第2言語の習得はそこそこまでは可能です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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