なぜフェイクニュースを見極め見分けることができずにだまされてしまうのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- フェイクニュースにひそむ「スリーパー効果」についてわかりやすく脳科学で説き明かします。
フェイクニュースがオルタナティブ・ファクトに変わるワケ
スリーパー効果の脳科学
- フェイクニュースであっても時間が経つにつれて信憑性が生まれ最終的には無意識のうちに信じ込んでしまう現象を「スリーパー効果」と言います。
- 「スリーパー効果」が働くとフェイクニュースでも新たな事実…オルタナティブ・ファクトを作り出すことがあります。
- 「スリーパー効果」が脳の中の記憶に作用すると過去の記憶が塗り替えられて新しい記憶が作られる「フォルス・メモリ」が起こります。
- 情報があふれかえる現代社会では多くのフェイクニュースが存在しまた自分も知らぬ間にフェイクニュースを作り上げています。
- 何ごともすぐに信じ込まず「スリーパー効果」を意識してしっかりと情報の信憑性を見極めましょう。
現代社会では日々テレビ、雑誌、ネット、人のうわさ話などさまざまなルートを通じて多くの情報が渦巻いています。
時には不確実な情報が独り歩きしてしまいデマの拡散や特定の個人のバッシングにつながり最終的には炎上騒ぎなんてことも珍しい話ではありません。
話の出どころは何の根拠もないSNSの投稿だったとしても繰り返して触れていくうちに事実に基づいていないこともいつの間にか「もう一つの事実」になってしまうこともあります。
このような現象を「オルタナティブ・ファクト」と言います。
2017年1月20日のトランプ氏のアメリカ大統領就任式。
観客数について米メディアが「過去最少だった」と報じたところトランプ政権が猛反発しました。
ホワイトハウスの情報を一手に発信するスパイサー報道官はなんの根拠も示さぬまま「観客は過去最多だった」と述べました。
その後アメリカのテレビ討論番組に出演したコンウェイ大統領顧問に司会者が「なぜウソだとすぐにバレるような発言をしたのですか?」と問うとコンウェイ氏は「ウソではなく彼はオルタナティブ・ファクトを示したのです」と発言しました。
すると司会者は「『替わりの事実』と言うけれど『替わりの事実』は『事実』ではない。それはウソじゃないか。」と反論しました。
番組後アメリカを代表する英語辞書「メリアム・ウェブスター」のツイッターアカウントが「事実とは実際に存在するもの、あるいは客観的に本当であるもの」とツイートし「オルタナティブ・ファクト」という言葉を否定するものとして4日間で4万8千回以上のリツイートを集めて一躍有名になりました。
なんだか他人事の話のように聞こえるかもしれませんがフェイクニュースであっても時間が経過するとオルタナティブ・ファクトに変わることはよくある話です。
フェイスニュースは虚言です。
“虚言の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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虚言とはウソであり事実ではないことを事実のように故意に語ることです。
ですからとても危険です。
サンタクロースはある意味フェイクニュースがオルタナティブ・ファクトに変わって多くの人に夢を与えています。
ですからフェイクニュースも決して悪いことばかりではないのです。
フェイスニュースをどう扱うかは自分自身のリテラシーに委ねられていると言ってもいいでしょう。
“ネットリテラシーの脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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フェイクニュースにひそむ「スリーパー効果」
フェイクニュースは信頼性の低い情報源から発信されることがほとんどです。
ですから本来はフェイクニュースによって自分の意見が左右されることはないはずです。
スリーパー効果の脳科学
しかし時間の経過とともにフェイスニュースの影響を受けて自分の意見や態度がゆらいで変容していくことがあります。
このような脳の現象を「スリーパー効果」と言います。
ではスリーパー効果とは実際どのような現象なのでしょうか?
スリーパー効果をわかりやすく説明した実験をご紹介しましょう。
詳細はこちらをご参照ください。
実験の参加者にまず世間から注目されている4つの話題についての記事を読んでもらいます。
参加者には記事とともにその記事の情報源も明示しますが記事の内容と情報源に意図的に操作を加えます。
記事の内容に関して本文は同じでも最後の結論が肯定的なものと否定的なものの2通りを準備します。
情報源に関しては名の知れた有名な科学雑誌に掲載された場合と大衆週刊誌の記事の場合と2通りを準備します。
以上の4つのパターンでそれぞれ別々の内容の4つの記事を読んでもらいます。
参加者には一般的な世論調査であると伝えたうえで4つの記事を読む前、読んだ直後、読んでから4週間後の計3回質問をします。
質問では読んだ記事が提唱する立場の方向に自分の意見がどの程度変容したかについて聞き取りをします。
つまりどのくらい記事に影響を受けたのかを調べるわけです。
結果はどうだったでしょうか?
「記事を読んだ直後は情報源の信頼性が高いほど意見変容が起きやすく信頼性が低いほど起きにくい」
つまり脳は信頼できる情報を入手するとその影響をすぐに受けて自分の意見が左右され変容しやすいのです。
逆に信頼しづらい情報では脳は影響を受けず自分の意見も左右されないのです。
4週間後では情報源の信頼性による差がほぼ消失しています。
言い換えれば最初は信頼できずたいしてなんとも感じていない情報であっても時間が経過するとその情報を信じて影響を受けるようになり説得されてしまうのです。
時間が経つにつれてフェイクニュースであっても信憑性(しんぴょうせい)が生まれオルタナティブ・ファクトを生み出すということです。
「スリーパー効果」のメカニズム
一見すると説得力のありそうな情報であってもその出どころが信頼性に欠けるものであれば情報の説得力は極めて低いものになります。
しかし時間が経過するとともに脳の中では「スリーパー効果」が働きその説得力はどんどん増していきます。
ではなぜ脳は「スリーパー効果」などという厄介な現象を起こすのでしょうか?
「スリーパー効果」は「ソース・モニタリング」というメカニズムの誤作動が招いた脳のバグがその正体です。
ソース・モニタリングとは自分の記憶にある情報…たとえば聞いた話や目で見た景色など…をどこから得たのかについて情報源をきちんと判別する機能です。
「スリーパー効果」では時間の経過によって「記事の内容は覚えているが情報源を忘れてしまう」あるいは「情報源を覚えていても記事の内容とうまく関連付けができない」といった状態に陥っています。
「スリーパー効果」はいつでも起きるわけではありません。
「スリーパー効果」が生じるためにはいくつかの条件が必要です。
情報(記事)そのものに説得力がある場合
先に情報が、その後に情報源が提示される場合
情報源の信頼性が情報に触れた直後の態度変化を抑制するのに十分なほど低い場合
情報に触れた後充分な時間が経過している場合
いずれの条件も先ほどの実験ではクリアしています。
これらの条件がそろわないと脳では「スリーパー効果」が起きないわけですがそれはそう難しいことではありません。
いつの間にか信頼していた情報の中に「スリーパー効果」が紛れていた…なんてことも決して珍しい話ではありません。
記憶が変化する「フォルス・メモリ」
「スリーパー効果」の中でわたしたちが最も経験するものが「フォルス・メモリ」です。
では「フォルス・メモリ」とはいったいどのようなものなのでしょうか?
「フォルス・メモリ」とは
日常で接するさまざまな情報やあるいは子どもの頃の出来事をすべて覚えていることは不可能です。
中にはうろ覚えだったりまったく思い出せなかったりすることも数多くあるでしょう。
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一方でかつての情景などがはっきりと思い出せるにも関わらずそれが実際には真実とは異なるという奇妙な現象もけっして珍しくはないはずです。
つまり実際には経験していない事柄をあたかも経験したかのように思い出す現象です。
これを「フォルス・メモリ」と言います。
「フォルス・メモリ」を日本語に訳すると「虚偽記憶」あるいは「過誤記憶」ということになります。
記憶はハードディスクに保存されたデータのように決して正確なものではなく新たに得た情報から絶えず干渉を受け補足され再構築されていきます。
ですから無意識的に「フォルス・メモリ」は発生するわけです。
目撃者の証言に「フォルス・メモリ」あり
わたしたちの身の回りでは日々さまざまな事故や事件が起きています。
そうした事故現場をたまたま目にしてしまった、あるいは自分が巻き込まれてしまったという場合に目撃した人の証言はとても重要な証拠となります。
しかし見聞きしたことの記憶がそのまま正確に保たれているとは限りません。
なぜなら後から与えられた情報によって過去の記憶は新たな記憶として塗り替えられてしまうからです。
たとえば目撃証言を求められて「あなたが見た青い車はどちらへ走っていきましたか?」と質問されたとします。
それがたとえ事実と違っていても「青い車を見た」という新たな情報が与えられると脳の中では「自分は確かに青い車を見た」という記憶が作り出されてしまうのです。
膨大な情報に触れる現代人にとって「記憶の汚染」の機会はますます増えています。
ですから自分では「はっきり覚えている」と思うことであっても事実とは異なる可能性を常に念頭に置いておく必要があります。
逆に誰かが語った体験が事実と異なっていたとしてもすぐに「ウソをついている」と断罪するのは控えた方がよいでしょう。
「スリーパー効果」がもたらす危険に注意せよ
「スリーパー効果」はフェイクニュースであっても時間が経つにつれて信憑性が生まれ最終的には無意識のうちに信じ込んでしまう現象です。
ですからあくまでも悪気があっての現象ではありません。
アメリカでは「swiftboading」という言葉あります。
これは選挙の際に対立候補に対して個人的で激しい攻撃をすることを意味しています。
このようなパフォーマンスは見ていて不快ですし情報に信頼がおけないと判断されることがほとんどです。
しかしこのようなやり口でも時間が経つと情報をだんだん信じ込むようになって最終的に選挙の得票数で差がでることもよくあります。
わたしたちは日々多くの情報にさらされながらも「それがフェイクニュースか否かを自分でちゃんと判断できている」と考えがちです。
しかし信頼してた情報の中にもたくさんのフェイクニュースは紛れ込んでいます。
それは知らぬ間に「スリーパー効果」が働いているからです。
素性のよくわからない人たちが「暴露」と称して真偽もわからない噂をSNSや動画サイトに垂れ流している現代では「スリーパー効果」を意識していないと簡単にだまされてしまいます。
また一方で「自分の発した何げないつぶやきがうわさ話やSNSを介して拡散して取り返しのつかないことを引き起こしてしまう…」なんてことも簡単に起きてしまいます。
“スリーパー効果の脳科学”のまとめ
フェイクニュースにひそむ「スリーパー効果」についてわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- フェイクニュースであっても時間が経つにつれて信憑性が生まれ最終的には無意識のうちに信じ込んでしまう現象を「スリーパー効果」と言います。
- 「スリーパー効果」が働くとフェイクニュースでも新たな事実…オルタナティブ・ファクトを作り出すことがあります。
- 「スリーパー効果」が脳の中の記憶に作用すると過去の記憶が塗り替えられて新しい記憶が作られる「フォルス・メモリ」が起こります。
- 情報があふれかえる現代社会では多くのフェイクニュースが存在しまた自分も知らぬ間にフェイクニュースを作り上げています。
- 何ごともすぐに信じ込まず「スリーパー効果」を意識してしっかりと情報の信憑性を見極めましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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