ダメと言われるとやりたくなるのはなぜなのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- ダメと言われるとやりたくなってしまう「心理的リアクタンス」についてわかりやすく脳科学で説き明かします。
浦島太郎の“謎”
心理的リアクタンスの脳科学
- 浦島太郎が「絶対に開けてはいけない」と言われた玉手箱を開けてしまったのは「心理的リアクタンス」が原因です。
- 「心理的リアクタンス」とは“ダメと言われれば言われるほどやりたくなる”そんな反抗心です。
- 「心理的リアクタンス」に飲み込まれないためには反抗心だけで感情が動かされていないかを冷静に考えることが大切です。
- 「絶対に開けてはいけない」玉手箱を開けてしまわないように「心理的リアクタンス」をしっかり意識しましょう。
多くの人は「浦島太郎」を読んだことがあるでしょう。
「浦島太郎」の原作は鎌倉時代から江戸時代にかけて作成された短編集「御伽草子」に収録されているとされています。
そして現在世間に広まっている話は明治時代に童話作家の巌谷小波(いわやさざなみ)が発表した「日本昔噺」がもとになっているとされています。
いじめられている亀を助けた浦島太郎はそのお礼に亀の背中に乗って海底にある竜宮城へ連れていかれます。
竜宮城では美しい乙姫がいて幸せな時間を過ごします。
しかし浦島太郎は元の世界へ戻る決断をします。
すると乙姫は玉手箱を手渡し「絶対に開けてはいけない」と告げます。
浦島太郎が地上へ戻ると世界は大きく変わっていました。
浦島太郎が竜宮城で過ごしている間に実はものすごい時間が経過していたのです。
そこで浦島太郎は禁断の玉手箱を開けてしまいます。
すると中から白い煙がわき上がり浦島太郎はおじいさんになってしまいます。
これが世に知られる「浦島太郎」です。
実は原作の「御伽草子」に収録されている「浦島太郎」には続きが記されています。
浦島太郎はおじいさんになったあと鶴になり漣菜山という仙人が住むという理想郷へ飛び立ちます。
竜宮城の乙姫は亀となり2人は結婚して漣菜山で幸せに暮らしました。
この話から鶴と亀は縁起物という風習が始まったとも言われています。
よく議論されている“謎”は亀を助けて良いことをした浦島太郎になぜ“年をとる”という悪いことが起きなければならなかったのかということです。
「因果応報」という言葉があります。
“良いことをすれば良いことが、悪いことをすれば悪いことがその人に返ってくる”そんな考え方です。
「浦島太郎」にはその因果応報が通用していません。
亀を助けたことで竜宮城で幸せな生活を送れたことは良いとしましょう。
しかしその後“老齢になる”という不幸がめぐってきます。
竜宮城で短絡的な快楽におぼれ毎日仕事もせずに楽な生活を送ったことを“悪いこと”とするならば因果応報で“老齢になる”という不幸がめぐってきたと説明できるかもしれません。
しかし微妙な釈然としない感覚が残りますよね。
また亀の背中に乗って海底の竜宮城に向かう場面ではなぜ水中を息もせずに進めたのか…という“謎”も多く議論されています。
そんな「浦島太郎」ですが最大の“謎”はなんといっても「絶対に開けてはいけない」と言われた玉手箱をなぜ開けてしまったのかということです。
そもそもなぜ乙姫は「絶対に開けてはいけない」玉手箱を浦島太郎に渡す必要があったのでしょうか?
おそらく「絶対に開けてはいけない」と言えば浦島太郎はきっと玉手箱を開けるだろうとわかっていたはずです。
浦島太郎と離れたくなかった乙姫は浦島太郎が玉手箱を開けることでおじいさんになって鶴になって最終的には亀になった乙姫と再会して幸せに暮らすという願いを玉手箱に込めたのでしょう。
言うならば浦島太郎は乙姫の策略にまんまとはまったわけです。
乙姫の執念と言っても良いかもしれません。
強い禁止は逆効果
「開けてはいけない」と言われれば普通は開けないはずです。
好奇心はかき立てられますががまんするしかありません。
しかし「絶対に開けてはいけない」と言われるとどうでしょう?
浦島太郎が「絶対に開けてはいけない」と言われた玉手箱を開けてしまったのは単純に好奇心に負けたせいだけではないはずです。
心理的リアクタンスの脳科学
脳は本来持っている選択や行動の自由を他人に脅(おびや)かされた時、その自由を回復しようとしてあえて妨(さまた)げられた行動をとろうとします。
これを「心理的リアクタンス」と言います。
「心理的リアクタンス」は1966年にアメリカの心理学者であるジャック・ブルーム氏が提唱した作用です。
Jack Brehm. A Theory of Psychological Reactance. Academic Press, 1966.
“リアクタンス”は日本語で”抵抗”を意味します。
したがって「心理的リアクタンス」とは簡単に言えば「人から何かを強制された時、反抗心を持ちやすくなる」ということです。
「心理的リアクタンス」が働くとたとえ自分にとってプラスになるとわかっていることであっても無意識的に抵抗してしまいます。
1つは「カリギュラ効果」です。
脳は自分にとってプラスになるポジティブな指示には従いやすく従順です。
しかし自分にとってマイナスになるネガティブな支持を受けると時にバグを起こして反発しようとします。
この現象のことを「カリギュラ効果」と呼びます。
“カリギュラ効果の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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もう1つは「ブーメラン効果」です。
人を説得するつもりがかえって相手の強い抵抗や反発をまねいたり逆効果に働いてしまったりすることを「ブーメラン効果」と呼びます。
言わば“説得の逆効果”です。
そろそろ宿題をしようと思っていたのに「早く宿題をしなさい!」と注意されるとかえってやる気が失せてしまった…なんて経験をしたことがあるのではないでしょうか。
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他にも「こちらの商品をぜひ買ってください」や「〇〇さんに投票してください」などとお願いや説得をされるとかえってやりたくなくなるものです。
「ブーメラン効果」が働くと「態度硬化」や「強い反発」を生み出してしまいます。
「心理的リアクタンス」が作用する原因
「ダメと言われれば言われるほどやりたくなる」そんな「心理的リアクタンス」はなぜ作用するのでしょうか?
親切心は大きなお世話
たとえば美味しそうなラーメンを目の前にして「しょっぱいものを食べすぎるのは良くない」とか楽しい雑誌のページをめくっている時に「マンガばかり読んでないで文学作品を読みなさい」などと言われて腹立たしく思った経験はないでしょうか。
常識的に考えて塩分はとりすぎない方がいいに決まってますし、文学作品を読んで見識を広げるのが良いことは誰もが同意することでしょう。
言われたことは正論であってもなぜかムッとしてしまいます。
脳はもともと自分のことは自分で決めたいという欲求を持っています。
ですから自分のことを他人に決めつけられると嫌悪感を覚えてしまいます。
これが「心理的リアクタンス」を引き起こすのです。
相手のことを思って言ったアドバイスが逆効果になってしまうのはまさに「心理的リアクタンス」が原因です。
手に入れにくいものほど欲しくなる
脳が「心理的リアクタンス」を引き起こすもう1つの原因は「希少性」です。
ある実験をご紹介しましょう。
消費者の好みを調査するとしてクッキーを実験参加者に試食してもらいその価値を評価してもらいます。
その結果から以下のことがわかりました。
同じクッキーであったにも関わらず瓶に2枚入れて出したものの方が10枚入りのモノよりも価値が高いと感じる。
最初から2枚入った瓶を見た人たちよりも最初に10枚入った瓶を見せられその後2枚入りの便に好感された人の方が2枚の瓶のクッキーを価値が高いと感じる。
Worchel, S, et al. Journal of Personality and Social Psychology 32(5), 906–914, 1975.
2枚の方が少ないため「他の人が選んだら自分はこちらを選べなくなるかもしれない」と選択の自由が脅かされます。
そのため価値が高いと感じるのです。
このように「希少性」に対して脳は敏感に反応してより高い価値観をあたえようとします。
「希少性」を利用したものとして“期間限定”や“先着〇名”などがあります。
このように表示することは脳を巧みに刺激します。
機会を逃した場合「入手する自由」を失うためわたしたちは購入することで自由を回復しようとするわけです。
不確実な状況下での意思決定をモデル化した「プロスペクト理論」では脳は利得よりも損失を重視するため「希少性」を逃すことで損をしたくないと考えます。
“プロスペクト理論の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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浦島太郎が「絶対に開けてはいけない」玉手箱を受け取ってしかも開けてしまったのはこの「希少性」を手に入れるためだったからかもしれません。
「心理的リアクタンス」に飲み込まれるな
“実現するための障害が多いほど魅力的に思える”という現象は昔から言われていることです。
「ロミオとジュリエット効果」とは“逆境にたたされると愛情が燃え上がる”という作用です。
“ロミオとジュリエット効果の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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代々対立する2つの家に生まれたロミオとジュリエットは恋に落ちます。
しかし家同士が反目し合っているためにそのことを周りに伝えることができません。
結局2人は駆け落ちを計画したものの行き違いからジュリエットが死んだと思い込んだロミオは自殺してしまいます。
それを知ったジュリエットはロミオの後を追ってしまいます。
これが戯曲「ロミオとジュリエット」です。
当然2人は深く愛し合っていたでしょう。
しかし2人が燃え上がるような恋をした理由はそれだけではないはずです。
“対立する両家”という大きな障害が立ちはだかったことも理由の1つでしょう。
家の事情から2人は相手を愛するという自由を脅かされてしまいます。
その脅威から解放されようとした結果相手を想う気持ちがいっそう強くなり極端な行動に走ってしまったのでしょう。
「ロミオとジュリエット効果」はまさに「心理的リアクタンス」が引き起こしている恋愛のバグなのです。
浦島太郎にしろロミオとジュリエットにしろ「心理的リアクタンス」が強く作用していることは間違いありません。
では「心理的リアクタンス」に飲み込まれて「絶対に開けてはいけない」玉手箱を開けないようにするにはどうすればよいのでしょう。
「心理的リアクタンス」は知らぬ間に無意識のうちに脳の中で発生してどんどん強くなっていきます。
ですから自分の感情が強く何かに向かっていると感じた時それは本当に対象が魅力的であるからか、それとも自由を脅かす障害のせいで魅力が高まっているように感じるだけなのかを冷静に考えることが「心理的リアクタンス」にとらわれないためには重要です。
“心理的リアクタンスの脳科学”のまとめ
ダメと言われるとやりたくなってしまう「心理的リアクタンス」についてわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 浦島太郎が「絶対に開けてはいけない」と言われた玉手箱を開けてしまったのは「心理的リアクタンス」が原因です。
- 「心理的リアクタンス」とは“ダメと言われれば言われるほどやりたくなる”そんな反抗心です。
- 「心理的リアクタンス」に飲み込まれないためには反抗心だけで感情が動かされていないかを冷静に考えることが大切です。
- 「絶対に開けてはいけない」玉手箱を開けてしまわないように「心理的リアクタンス」をしっかり意識しましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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