やる気を出してモチベーションを上げるにはどうしたらいいの?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- マズローの欲求の法則における内発的動機づけを脳科学で探ることでやる気を出してモチベーションを上げる脳科学的な方法がわかります。
あなたのやる気スイッチはどこにある?
やる気を出してモチベーションを上げる方法の脳科学
- 「やる気スイッチ」はマズローの欲求の法則の中に組み込まれています。
- 脳科学的な「やる気スイッチ」にはご褒美を求めた外発的動機付けと自分の理想を求める内発的動機付けがあります。
- 「好き」という自分の理想を求めた内発的動機付けこそが究極のやる気スイッチです。
あなたはなぜその職業を選んだのですか?
そのように質問されたらあなたならどう答えますか?
よくある質問ですがこの質問にどのように回答するかで将来その職業で成功するかをある程度予想できます。
どのような職業であっても行動を起こすためにはモチベーションが必要です。
モチベーションとはいわゆる「やる気スイッチ」です。
やる気スイッチは人によって様々ですが自分のやる気スイッチがどこにあるのかをしっかりと理解しておくことが大切です。
Wrzesniewski A, Proc Natl Acad Sci USA 111:10990-10995, 2014
やる気スイッチに関しては脳科学よりも心理学でしっかりとした理論で説明がなされています。
その中でもよく活用されているのが「マズローの欲求5段階説」です。
「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」という仮定のもと人間の欲求を5段階に理論化しています。
1つの欲求が満たされると次のステップの欲求を満たそうとする基本的な心理的行動を表しています。
ますは「マズローの欲求5段階説」を理解してそこから「やる気スイッチ」を脳科学で探っていきましょう。
マズローの欲求5段階説をおさえておこう
「マズローの欲求5段階説」はアメリカの心理学者であるアブラハム・マズローが考案した心理学理論です。
人の欲求を5段階のピラミッドに見立てて下から順に欲求の階段を上っていくイメージです。
第1段階 生理的欲求
人が生きていくために必要な基本的本能的な欲求です。
食欲、睡眠欲、性欲の3大欲求をはじめ排泄欲、呼吸欲などです。
第2段階 安全の欲求
生理的欲求が満たされると次に求めるものは「安全」です。
最低限の生活ではなく身体的に安全で経済的にも安定した環境での生活をしたいという欲求です。
第3段階 社会的欲求
生理的欲求と安全の欲求が満たされていたとしても話し相手がなく自分を受け入れてくれる人もいないような孤独な生活はとても寂しいものです。
社会的欲求とは家族や組織など何らかの社会集団に所属して安心感を得たいという欲求です。
自分を受け入れてくれる親密な他者の存在が不可欠なのです。
第4段階 承認欲求
社会的欲求が満たされると次は単に集団に所属するだけでなく所属する集団の中で「高く評価されたい」「自分の能力を認められたい」という承認欲求が湧き上がります。
承認欲求は「低位の承認欲求」と「高位の承認欲求」に分類されます。
低位の承認欲求は「誰かに褒められたい」という他人に注目されたり賞賛されたりすることを求める欲求です。
一方高位の承認欲求は他人にどうみられるかではなく自分で自分を承認できるかが問題となります。
第5段階 自己実現欲求
最後の欲求は自分にしかできないことを成し遂げたい、自分らしく生きていきたいという欲求です。
自分が本当にしたいこと「理想的自己イメージ=夢」に少しでも近づきたいと願いです。
実際には多くの人が現実と理想のギャップに悩んで生きています。
わたしたちの欲求が完全に満たされるには社会的に成功して他人に認められるだけでは不十分で、自分でイメージした理想を実現する必要があるのです。
高次元的な第6段階 自己超越の欲求
当初は第5段階まででしたがその後さらなる高次元の欲求が追加されました。
「社会生活をより良いものにしたい」という自分のエゴを超えたレベルでの理念を求めた欲求です。
しかし現実的にこの領域にまで達することができる人は全人類の2%程度でありこの欲求をそもそも満たしたいという発想が出てこないのが普通です。
ですから人によっては慈善活動や寄付を「偽善」と非難したりするのです。
外的欲求と内的欲求
マズローの欲求の法則では「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」を自分が関わる外部の環境を満たそうとする欲求であることから「外的欲求」と定義しています。
一方で「承認欲求」「自己実現欲求」は自分の内面を満たそうとする欲求であることから「内的欲求」と定義しています。
いずれの欲求も満たされるには理由付け=動機が必要です。
やる気の脳科学-その1
内的欲求を満たすための動機=「内発的動機付け」が脳科学的「やる気スイッチ」と深く関わってきます。
それでは次に脳科学的「やる気スイッチ」とは何なのかを探っていきましょう。
脳科学的「やる気スイッチ」
わたしたちの欲求はマズローの欲求のピラミッドに従って次の段階を求め続けます。
まずは外的欲求から始まります。
生きていくために仕事を選択して生活環境を整える必要があります。
安全で安心できる社会に属する必要があります。
そして他人に自分の存在を認めてもらう必要があります。
これらの欲求が満たされることによって自分の生きている価値が得られます。
先ほどマズローの欲求のピラミッドの「第3段階 社会的欲求」までが外的欲求と言いましたが正確には「第4段階 承認欲求」の「低位の承認欲求」までが外的欲求です。
そして外的欲求を満たすための動機=モチベーションが「外発的動機付け」になります。
そのような質問に対しては次のような解答が外発的動機付けです。
生きていくために必要だから。
お金を稼ぎたいから。
自分の仕事で名声を得たいから。
一方で「第4段階 承認欲求」の「高位の承認欲求」そして「第5段階 自己実現欲求」の内的欲求を満たすための動機=モチベーションが「内発的動機付け」になります。
究極的な料理を作りたい。
生命の謎に触れたい。
宇宙の神秘を探りたい。
要するに「好き」だからやっているわけです。
外発的動機付けと内発的動機付けの決定的な違いは他に代替方法があるかないかです。
外的欲求を満たすためには他にもさまざまな手段があります。
お金を稼いだり自分の名声を得たりするためならいくらでも方法があります。
外発的動機付けは目的に至るためのモチベーションにすぎません。
しかし内発的動機付けには代わりがありません。
究極的な料理を作りたいのであれば料理の研究家や職人になるしかありません。
険しい山に登りたいのであれば登山愛好家になるしかありません。
美しい絵を描きたいのであれば画家になるしかありません。
いずれも自分の欲求を満たすには「欲求を満たすこと」をただするしか方法はありません。
なにも専門家になって職業にしなければいけないと言っているわけではありません。
デスクワークの仕事をしながら仕事終わりや休日に料理を極めようとしている人もいるでしょう。
しかし料理を極めたいのであれば料理を学び作るしか方法はないのです。
そしてそのモチベーションは「好き」から始まっているのです。
ご褒美のために脳を働かせるのは典型的な外発的動機付けです。
“ご褒美の脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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そもそも欲求を満たすためのモチベーションは何かしらの見返り=ご褒美を求めた外発的動機付けから始まることがほとんどなのです。
しかしわたしたちの脳はおかしなことにご褒美を求める外発的動機付けを自分の理想を求める内発的動機付けと比較して一段下に見る傾向があります。
やる気の脳科学-その2
外発的動機付けにしても内発的動機付けにしても脳科学的「やる気スイッチ」をいかにいれるかが大切です。
脳は不思議な領域で「やる気スイッチ」をいれるためのさらなる「やる気スイッチ」まで準備しているのです。
「好き」が究極のやる気スイッチ
最後は内的欲求を満たすための動機=「内発的動機付け」が脳科学的「やる気スイッチ」にどれほどの影響を与えているかを探っていきます。
しかし脳科学的にはこの発想は間違えています。
最初にご紹介した脳科学的「やる気スイッチ」の研究では「ご褒美を求める外発的動機付け」と「自分の理想を求める内発的動機付け」について詳しく調べています。
何ごともやる気を出す動機はさまざまで1つとは限らないでしょう。
料理が好きだから料理研究家になった。
これが究極の動機でしょう。
これは「自分の理想を求める内発的動機付け」です。
しかしそれ以外にもきっとさまざまな動機が存在するはずです。
実家が料理屋をしていたから。
たまたま料理学校に進学したから。
好きな人に美味しい料理を作ってあげたいから。
これらは「ご褒美を求める外発的動機付け」です。
ではこれらのさまざまな動機が混在している状況では脳科学的にやる気にどのような影響が出るのでしょう?
「自分の理想を求める内発的動機付け」の強い人、つまり「料理が好き」だからやる気がでる要素が強い人は「好き」が弱い人よりも1.5倍も将来的に成功する確率が高くなります。
そして自分の夢である料理研究家になった後も料理研究家を続けられる確率は2倍になります。
もともと「料理が好き」なのですから成功する確率が高くなることは容易に想定できます。
しかし意外なのはたとえ「料理が好き」という内発的動機付けが強い人であっても「ご褒美を求める外発的動機付け」を多く持っている人は将来的に成功する確率が20%も下がってしまうのです。
つまり「料理が好き」なのは確かなのですが料理が好きな理由が他にもたくさん存在すると案外とうまくいかないのです。
しかし自分のやる気を理論武装で正当化しようとすることはそこまで正当化しなくてはならない何らかの裏の心理が本人にも気づかないうちに存在しているのかもしれません。
自分は料理が好きなことは確かなこと。
しかし実家が料理屋で料理が好きになる状況であったことも影響している。
もともと料理が上手だったから料理学校に行って料理人になっただけなのかもしれない。
みんなに美味しい料理を食べてもらってお金を稼げるなら一番いいと思っている。
そのように料理に対してさまざまな交錯するのは当たり前のことです。
しかし動機付けがたくさん存在すると脳は混乱を起こしやすくなるのです。
やる気の脳科学-その3
理由はともあれ「単に好きだからやっているだけ」という想いが脳には最高の「やる気スイッチ」であり結果的に良い成果をあげることにつながることは脳科学的に確かなことです。
「夢や目標を持ちなさい」…そんな一方的な言葉は脳に対しては逆に悪影響なのかもしれません。
「好き」であることが究極のやる気スイッチであり「好き」かどうかが肝心なのです。
「好き」に理由など必要ないのです。
“やる気を出してモチベーションを上げる方法の脳科学“のまとめ
マズローの欲求の法則における内発的動機づけを脳科学で探ることでやる気を出してモチベーションを上げる方法を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 「やる気スイッチ」はマズローの欲求の法則の中に組み込まれています。
- 脳科学的な「やる気スイッチ」にはご褒美を求めた外発的動機付けと自分の理想を求める内発的動機付けがあります。
- 「好き」という自分の理想を求めた内発的動機付けこそが究極のやる気スイッチです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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