誠意ある言葉で謝罪するってどういうことなの?
ピンチはチャンスって本当なの?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い手術、放射線治療を中心に勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきますね。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 「謝罪することの意味」、「ピンチはチャンス」を脳科学で説き明かします。
謝罪の心理学
謝罪の脳科学
- 謝罪の意味は心理学と脳科学で違ってきます。
- 心理学でも脳科学でもとことん誠意のある謝罪はピンチをチャンスに変える力を持っています。
- 自分の心をさらけ出して誠意ある謝罪をしてピンチを乗り越えてチャンスをつかみとりましょう。
謝罪の脳科学-その1
日本人は基本的に謝罪するのも謝罪されるのも大好きな人種とさています。
日常生活でもちょっとしたことでついつい「こめんなさい」「すいません」と言ってしまいます。
もはや謝ることが口癖のようになっています。
テレビでは頻繁に謝罪する姿が映し出されます。
そして謝罪する姿を見て共感や同情をする人もいれば批判する人もいます。
“共感と同情の脳科学”についてはこちらの記事をご参照ください。
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謝罪にはいろいろな種類があります。
その中でも日本人が特に好む謝罪は相手の心理を揺さぶるような誠意のある謝罪です。
相手に誠意が伝わる謝罪には「行為の不当性」「責任」「悔恨」の3つのキーワードが必須です。
「すべて私の不徳の致すところです」(行為の不当性)
「すべて私の責任です」(責任)
「本当に申し訳ございませんでした」(悔恨)
この3つのキーワードが1つでも欠けていると誠意は伝わりません。
しかしまだまだこれだけでは誠意は完全には伝わり切りません。
誠意ある謝罪にさらに必要なのは「労り(いたわり)」と「誓い」です。
「被害を受けた方の心中をお察しすると申し訳ない気持ちでいっぱいです」(労り)
「今後二度とこのようなことを起こさないと誓います」(誓い)
この2つの要素も必須です。
ここまでていねいに誠意ある謝罪をしても「否認」「正当化」「弁解」が加わるとちょっと雲行きが怪しくなってきます。
「確かに責任は自分にありますがすべてが自分の責任ではありません」(否認)
「いかんとも避けられない仕方のない状況でした」(正当化)
「自分としては精いっぱい頑張ったつもりです」(弁解)
いくら自分の非を認めても責任を回避しようとする要素が入ってくると場合によっては一瞬にしてそれまで築きあげてきた誠意は崩れ去ります。
また謝罪が自分に有利に働くと期待していることが相手に気づかれてしまうと誠意は失われます。
謝罪は心理的にはさまざまな必須の要素を取り込んだ高度な戦略でありながら非戦略的つまり謝罪の裏には何も策略的なことがないと思われることが求められるのです。
「ピンチはチャンス」と言いますが謝罪することはピンチをチャンスに変えるためのスタートラインと言えます。
しかし謝罪をチャンスと思っていることがバレてしまってはすべてが水の泡です。
では脳は謝罪をどのように感じているのでしょうか?
脳にとって誠意ある謝罪とはどのようなものなのでしょうか?
謝罪の脳科学
謝罪の脳科学は心理学とはかなり違った意味を持っています。
謝罪は自分が社会的に間違えたことをした時に行うものです。
ですから謝罪する時の感情としては
「申し訳ない」
「きまりが悪い」
「恥ずかしい」
といった心理が働きます。
謝罪の脳科学-その2
このような罪悪感や羞恥心は「社会的感情」と呼ばれます。
社会的感情は喜怒哀楽や恐怖や嫌悪といった脳にとって原始的な感情とは区別されます。
なぜなら社会的感情は対人関係の中ではじめて起きる高度な感情だからです。
社会的感情が湧き上がっている時の脳の活動を調べると内側前頭皮質や上側頭溝などの脳部位が活発に活動します。
これは「心の理論」に関与する脳部位です。
「心の心理」とは他人の心に気づく能力=人の心を読む能力のことです。
他人の心を読むことは動物が生きていく上では必須です。
相手が自分にとって敵なのか味方なのかを判断していかなければ動物として生き残っていくことはできません。
もし目の前の相手が自分にとって敵であれば逃げなくてはいけません。
謝罪をする時に罪悪感や羞恥心で満たされた脳は他人の心を読んでいかに謝罪すればいいかを必死に考えているのです。
ここで今一度立ち止まって考えてみると「心の心理」はそもそも他人に心があることを前提としています。
脳の進化的にみて自分自身に明確な心が生まれる前から他人の心を読み取って状況判断をすることは生きていくために必要で重要な能力でした。
自分が何を考えているかよりも他人が何を考えているかを理解することの方が生きていく上では大切なのです。
そうでなければ他人にあざむかれ滅ぼされてしまい生き残ることはできません。
しかし脳の進化の途中で大きな変換が起こります。
他人にばかり向けてきた「読心」の照準を今度は自分に向けてみたのです。
他人に心があるということはもしかして自分にも心があるのでは?
そして自己の存在を自覚するようになります。
これこそがわたしたちが普段「心」と呼んでいるものです。
心の中で自分を振り返って自分を見つめる「自省力」は源流をたどればそもそもは他人の心を読む能力から発生しているのです。
ここに罪悪感や羞恥心といった「社会的感情」が芽生える要素があります。
動物は他人の心を読む能力はずっと昔から持っているので優れています。
しかしその後獲得した自分の心を読む能力は他人の心を読む能力に比べると格段に低い状態です。
そのため自分でもよく理解していない心の中を他人に読まれることをひどく嫌います。
他人の心を読んで敵から逃げる必要はありますが逆に考えれば他人に自分が敵であることが読まれてしまったら逃げられてしまいます。
自分の心をうまく隠すことのできる動物がうまくだまし合いを続けることで共存して生き残ってきたのです。
わたしたち人間はこのような進化を遂げてきた動物たちの末裔(まつえい)です。
ですから自分の心を理解するのが下手であり自分の心を読まれることが大嫌いです。
謝罪の脳科学-その3
自分の心の中の真の姿を赤裸々に知られたくない、見られたくない、恥ずかしい…これが「社会的感情」です。
社会的感情は脳にとって不快な感情です。
自分にとって不快な感情は他人にとっても不快な感情です。
そのため社会的感情がそもそも発生しないように社会にモラルが生まれました。
マナーを守ったり治安や衛生を高めたり社会的貢献を求めたりしてして道徳観を高めて知られて困るようなことを取り締まって社会的感情が起こらないようにするのです。
しかしヒトは時にモラルに反するようなことをしてしまいます。
すると自分の中に罪悪感や羞恥心といった社会的感情が生まれ他人に知られないように必死に隠そうとします。
一方他人は自分以外の他人の心の中を探ろうと興味津々です。
モラルに反してしまったことが他人に知られてしまうと他人は心の中をずかずかとのぞき込みに来て謝罪を求めます。
もうこうなると誰も止めることはできません。
ひたすら自分の心の中を暴露して謝罪するのみです。
謝罪の脳科学-その4
脳にとって誠意のある謝罪とは自分の心の中にある社会的感情をすべて暴露することです。
謝罪の言葉や態度は脳にとってどうでもいいことです。
ただひたすら自分の心の中の他人に知られたくない感情を表に出すことが誠意のある謝罪ということになるのです。
謝罪する人が不快を感じ謝罪される側が快感を得ることができれば良いのです。
“理想的な謝罪の仕方の脳科学”についてこちらの記事を参照してみてください。
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脳にとっては謝罪する人が罪悪感や羞恥心といった不快な感情で苦しんでいる姿を見て快感を得られれば満足なのです。
では次に脳にとっての快感と不快とはどういうことなのかを探ってみましょう。
脳にとって快感と不快は紙一重
しかし実は快感と不快は紙一重の違いしかありません。
顔写真から相手の心理状態を探った実験があります。
「音楽に陶酔している」
「試合に負けて悔しがっている」
快感と不快の状況での顔写真を見てもらいどちらの感情を持っているかを当ててもらいます。
実験の結果では顔写真から脳が感じている快感と不快は区別できませんでした。
つまり快感と不快は極限状態では同じ表情になるのです。
赤ちゃんはおしっこをした時に泣きます。
この泣き声を「おむつを替えて欲しい」という要求と勘違いしがちです。
しかし赤ちゃんにそんな高度な要求はそもそもできません。
単に不快だから泣いているのです。
これはおしっこをするタイミングと泣き声をあげるタイミングを調べればわかります。
泣くのはおしっこをする直前かおしっこをし始めた直後です。
つまり濡れたおむつが気持ち悪いから泣いているのではありません。
尿意や排尿すること自体が不快なのです。
しかし大人はこの不快感をなかなか理解できません。
なぜならわたしたちは経験的におしっこをすると気分的にすっきりして快感が得られることを知っているからです。
つまりもともとは不快であるはずの「おしっこがしたい」という生理感覚であっても経験や学習によっておしっこをして得られる解放感の前兆という信号に読みかえて官能的快感として味わっているのです。
この心理構造はアクセルとブレーキのバランスに例えて考えてみるとよりよく分かります。
わたしたちの体はアクセルを全開にすることはほとんどありません。
アクセルを踏むときにはたいていの場合ブレーキも同時に踏んでいます。
例えば「痛い」と感じる時には同時に「痛くない」という脳内信号が走ります。
つまり「痛い」=アクセル、「痛くない」=ブレーキです。
痛みを消す神経物質はエンドルフィンなどのいわゆる「脳内麻薬」と呼ばれる物質です。
脳内麻薬は同時に最高の快感をもたらす効果も持ち合わせています。
このような人はアクセルとブレーキのバランスがブレーキ側にかたよっていて痛みを感じる時に脳内麻薬がより多く出るために痛みに伴う快感の方が強くなっているのです。
辛い物を食べた時のことを想像してみてください。
辛味を感じる神経は舌に存在する「痛み」の神経です。
ですから辛味は味覚には分類されていません。
辛さは痛みであり脳にとって本来は不快です。
ところが人は料理に香辛料を好んで使います。
中には異常なほどに辛さに愛着を示す人もいます。
これは痛みを快楽が克服している状態…アクセルとブレーキのバランスが崩壊した状態です。
このような状況は決して珍しくなくさまざまな状況で起こります。
「長距離ランニングに快感を覚えるランナーズハイ」
「仕事をしないと気が済まないワーカーホリック」
謝罪の脳科学-その5
謝罪して自分の心の罪悪感や羞恥心といった「社会的感情」を他人にさらけ出すことは脳にとってとても不快なことです。
不快なことに対しては脳内麻薬が働いて不快を無効化するだけでなく快感をもたらそうとします。
ですから謝罪をするとなんだかすっきりして快感さえ覚える人もいます。
謝罪でアクセルとブレーキのバランスが崩壊した状態になるとピンチが一転してチャンスになるなんてことも起こり得るのです。
では最後に謝罪でピンチをチャンスに変えるための脳科学を探ってみましょう。
誠意ある謝罪でピンチをチャンスに変える
脳は快感が大好きで常に快感を求めて働いています。
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一方で不快は大嫌いです。
脳は不快な感情が発生すると気力を低下させ活動量が減少します。
これは不快な状態から早く脳を回復させるために体力を温存するための休養の指令です。
しかしいつまでも不快なことから逃げていているわけにもいきません。
ピンチに立たされたら落ち込んでいるだけではなくその状況から脱出しなければなりません。
そのため脳は不快に対する感覚を麻痺させる脳内麻薬を放出して身に迫る危険を回避しようとします。
脳内麻薬は先ほども言いましたが不快な感情を低下させるだけでなく快感を引き出します。
ですからこれがクセになりあえて脳に不快を与えることで快感を得ようとする人もいます。
肉体的精神的につらかったり痛かったり苦しかったりさんざん脳に不快な感情を与えることで逆に快感を得るのです。
謝罪の脳科学-その6
ピンチは脳内麻薬によって快感となりそしてチャンスへと繋がっていくのです。
謝罪をすることは脳にとって不快です。
しかし脳内麻薬が放出されると不快な感情は一時的にでも麻痺して快感が漂ってきます。
謝罪の脳科学-その7
ですから誠意ある謝罪をして脳をとことん不快にすることで逆に脳内麻薬が大量に放出されて快感度が上がりピンチを乗り越えてチャンスに切り替える意欲が湧いてくるのです。
謝罪しなければ不快な感情はいつまでも解消されずピンチはピンチのままです。
また誠意のない中途半端な謝罪では不快な感情も中途半端であり脳内麻薬はあまり放出されずチャンスは訪れません。
いかなる方法であってもとことん謝罪をして脳を不快にすることでピンチはチャンスとなり得るのです。
ヒトは脳の指令だけで本能だけで生きているわけではありません。
心理的な謝罪の意味も充分に理解することが大切です。
どちらに偏(かたよ)った謝罪でも相手には決して誠意は伝わりません。
中途半端な誠意は自分にとっても他人にとっても中途半端な謝罪となりその先の未来は途絶えてしまいます。
謝罪とはちょっと関係ありませんが「ピンチはチャンス」を実践した『ビリギャル』の話はきっと皆さんの脳を刺激すること間違いなしです。
“謝罪の脳科学“のまとめ
誠意ある言葉で謝罪することの意味を脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 謝罪の意味は心理学と脳科学で違ってきます。
- 心理学でも脳科学でもとことん誠意のある謝罪はピンチをチャンスに変える力を持っています。
- 自分の心をさらけ出して誠意ある謝罪をしてピンチを乗り越えてチャンスをつかみとりましょう。
今回の記事がみなさんに少しでもお役に立てれば幸いです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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