サイレントマジョリティーとノイジーマイノリティーとはどういう意味?
「うっせぇわ」の歌詞にはどんな意味がありなぜ流行るのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い手術、血管内治療、放射線治療を中心に勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- サイレントマジョリティーとノイジーマイノリティーを生み出す仕組みをわかりやすく脳科学で説き明かします。
サイレントマジョリティーとノイジーマイノリティーとは?
こんな方におすすめ
- サイレントマジョリティーは「静かなる多数派」、ノイジーマイノリティーは「声高な少数派」であり対峙する言葉です。
- サイレントマジョリティーとノイジーマイノリティーにとらわれずサイレントマイノリティーの若者から共感を得たのが「うっせぇわ」なのでしょう。
- 脳がサイレントマジョリティーとノイジーマイノリティーを生み出すには「確証バイアス」や「実験者効果」が関わっています。
みなさんは「サイレントマジョリティー」と「ノイジーマイノリティー」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
サイレントマジョリティーとノイジーマイノリティーは対義語として使われます。
サイレントマジョリティーは日本語に訳すると「静かなる多数派」という意味になります。
サイレントマジョリティーは1969年にアメリカのニクソン大統領が行った演説の中に登場し世間に広まったとされています。
ニクソン大統領はベトナム戦争に反対する学生らを「サイレントマジョリティー」であると表現し「声を上げない大多数派は同意している」と説きました。
この演説以降サイレントマジョリティーという言葉はさまざまな場面で使われるようになりました。
つまりサイレントマジョリティーとは「静かな多数派」や「声なき声」という意味であり「積極的に発言しない無言の多数派」として使われます。
このサイレントマジョリティーと対峙(たいじ)する言葉がノイジーマイノリティーです。
ノイジーマイノリティーは日本語に訳すると「声高な少数派」という意味になります。
ノイジーマイノリティーに似た言葉としてボーカルマイノリティーやラウドマイノリティーという言葉があります。
いずれも声を大きく自由にやかましく発言する少数派という意味でありノイジーマイノリティーよりも批判的な意味合いが強くなります。
ノイジーマイノリティーは時にSNSなどのネット上で炎上騒ぎを起こしたりクレームをつけて騒ぎ立てたりと悪役にされがちです。
また会議などでやたらと手を上げて質問してくる人がいますがこれもノイジーマイノリティーと言えるでしょう。
ノイジーマイノリティーは少数派であっても声高くさけばれる意見は時に人の心を動かし時にはサイレントマジョリティーを取り込んでいきます。
それによって商品の売れ行きが変わったり人気の流行が変わったりすることもあるのでうまく利用すればプラスに働くこともたくさんあります。
”プラス思考の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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会議もノイジーマイノリティーがいるからこそ有意義な議論ができることもあります。
サイレントマジョリティーとノイジーマイノリティーでは立場はまったく逆ですが物事がうまく運ぶためにはどちらも決して欠かせない存在なのです。
「うっせぇわ」から学ぶサイレントマジョリティーとノイジーマイノリティー
YouTubeで驚異的な再生回数を誇るAdoの「うっせぇわ」を知らない人は少ないでしょう。
「うっせぇわ」は2020年10月23日「17歳の最後の日」として2002年生まれの現役高校生AdoがYouTubeに投稿した楽曲で1億回以上再生されています。
多くの人が「うっせぇわ」の歌詞に共感しサビの「うっせぇうっせぇうっせぇわ」を口ずさんでいます。
「うっせぇわ」は2020年代の若者の本音そのものと言われています。
「うっせぇわ」がこれほどまでに多くの共感を生んだ背景については多くの解説がされています。
“共感の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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現代の日本社会では若者は圧倒的にマイノリティーです。
10代の人口は日本の総人口の10%にも届きません。
そして彼ら彼女らはサイレントを貫きます。
声を潜(ひそ)めマジョリティーである大人たちに見かけは屈しています。
そんな時にマジョリティーである大人たちに対して「うっせぇわ」と声高く叫ぶAdoの声にサイレントマイノリティーである多くの若者が共感をしたのです。
声に出して主張しないとすぐに「やる気がない」と見下し声に出して主張すると「何もわかってないくせに生意気だ」と批判する…そんな大人社会にはこりごりです。
しかし「うっせぇわ」ではそんな大人社会を批判するのではなく大人たちをあきらめ自分の本音を主張しています。
大人には期待せずスルーする…そうすれば問題なく生きていける。
自分は頭が良くて天才だと自分に自信を持つ。
声に出さなくてもマイノリティーである若者たちはちゃんとした意見を持っています。
サイレントマジョリティーとノイジーマイノリティーの脳科学
ここからはちょっと視点を変えてサイレントマジョリティーとノイジーマイノリティーを生み出す脳の仕組みを考えてみましょう。
「確証バイアス」のワナ
サイレントマジョリティーとは「静かなる多数派」ですが、ではなぜ多くの人は無言のまま多数派に流されていってしまうのでしょう?
無言のままでいられるのは他人の意見に同意しているからです。
そして他人の意見が自分の意見と合わないと声を出して反対することなく無視してしまうからです。
このような脳の働きを「確証バイアス」と言います。
この実験は有名なので見たことがある人もいるかもしれません。
実験では上の図のような4枚のカードを使って問題を解いてもらいます。
この4枚のカードにはすべて片面にアルファベットが書かれその裏面には数字が書かれています。
この4枚のカードを見て「一方の面が母音ならばもう一方の面は偶数である」という仮説が正しいかを確かめてもらいます。
仮説を確かめるために裏返す必要のある最小限のカードはどれでしょう?
一見すると簡単そうですが正答率は10%程度で実はとても難しい問題です。
実験の結果では「表が母音のカード」あるいは「表が偶数のカード」を選ぶ人がほとんどでした。
表が母音か偶数のカードを裏返して仮説を確認するためです。
ですから「A」と「4」を多くの人が選びます。
正解は「A」と「7」を裏返すです。
もう一度先ほどの仮説を確認してみましょう。
「一方の面が母音ならばもう一方の面は偶数である」という仮説です。
多くの人はこの仮説を証明することをまずは考えるでしょう。
しかしそこが間違えているのです。
この仮説が否定されるのはどのような場合を考えなくては正解を導き出せません。
つまり「一方の面が母音」でありかつ「もう一方の面が奇数」というカードが存在することを示せば仮説は否定されます。
言い換えれば偶数のカードの裏面がどんなカードであろうと仮説は否定されません。
仮説では偶数のカードの裏面は母音でなければならないとは言っていません。
あくまでも母音のカードの裏側が偶数でなければならないと言っているのです。
やらなければならないのは「一方の面が母音」のカードの裏側が偶数か奇数かを確認することです。
偶数であれば仮説は証明されますし奇数であれば否定されます。
もう1つやるべきことは「一方の面が奇数」のカードの裏側が母音か子音かを確認することです。
母音であれば仮説は否定されます。
ですから裏側を確認すべきなのは「A」と「7」なのです。
この実験の肝は自分の考えや仮説が「正しいこと」を確認するためには何をすべきかということです。
確証バイアス
多くの人は仮説に合致するような情報を集めたがります。
裏を返せば仮説に反するような情報は集めようとせず時には無視しがちになります。
このような脳の働きが「確証バイアス」なのです。
「一方の面が母音ならばもう一方の面は偶数である」という仮説を証明するためには偶数のカードである「4」の裏側は母音だろうと子音だろうと関係ありません。
それでも多くの人は「4」のカードを選んでしまうのです。
否定をするための声は上げづらいものです。
100個の証明があっても1つでも否定が出ればすべてが否定されてしまいます。
ですからたとえ自分の意に沿わなかったとしても反対意見を叫ぶことを多くの人は避けるのです。
しかも確証バイアスは相乗効果を生み出します。
一度でも「この人はいちいち反対意見を出してくるノイジーマイノリティーだ」という印象を与えてしまうと他人はあなたに対してそれに沿うような情報だけを探し出してその仮説を覆すような情報は無視されてしまいます。
つまりそのあと声を潜めてひっそりと静かにしていても他人の脳はもうサイレントマジョリティーとは認識してくれないのです。
一度でも確証バイアスのワナにはまるとそう簡単には抜け出せません。
そうならないためには自分の意見だけに固執せず時には思いもよらないような違うカードをめくってみることも大切なのです。
実験者効果のワナ
みなさんは「ハンス」と呼ばれる天才の馬の話を聞いたことがあるでしょうか?
ハンスは飼い主が出す問題に対して「蹄(ひづめ)で地面をたたく回数」で解答するというなんとも賢い馬の話です。
ハンスは計算問題や音楽の和音の問題を解いて多くの人を驚かせました。
多くの人がそのように疑いましたが詳しい調査が行われハンスは問題の内容をちゃんと理解して問題を解く高い知能を持っているということが証明されました。
しかしやはり疑い深い人はいるものでその後再度調査が行われました。
2回目の調査ではちょっといじわるな仕掛けがなされました。
ハンスを取り巻く聴衆や出題者さえも直前まで問題を知らいない状態で抜き打ちで出された問題を解くという形式で調査は行われました。
たとえば計算問題では複数人がそれぞれ任意の数字をハンスだけに聞こえるようにささやきそれらを足して答えを出すようにハンスに銘じました。
すると9割ほどあった計算問題の正答率は1割程度に落ちてしまいました。
ではなぜハンスは問題の内容を知っている人が周りにいる状況においてのみ高い正答率を出すことができたのでしょう?
実はハンスが問題に答えている時に蹄(ひづめ)を打つ回数が正解に近づくにつれて周りにいる人の表情や顔の動きは本人も気づかないくらいの無自覚さでわずかに変化していたのです。
ところがハンスだけはその変化に気づいていました。
正解してごほうびの野菜をもらうために必死になってその変化を手掛かりに答えを出していたのです。
ハンスの賢さの裏には人間の不正こそなかったもののこのようなカラクリがあったのです。
実験者効果
このようにある人の言動や行動が別の誰かの言動や行動に影響を与え結果をゆがめてしまうような現象を「実験者効果」と言います。
ハンスの場合は人の表情などから適切と思われる解答をするという現象が起きていたわけです。
実験者効果として有名なのが「ピグマリオン効果(教師期待効果)」です。
“ピグマリオン効果の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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子どもたちに学習能力予測テストの銘打ったテストを受けてもらいます。
しかし実際には普通のテストです。
教師はそのテストの成績の分析結果として「今後成績が伸びる可能性がある子ども」を選び出して子どもに伝えます。
実際にその子どもたちの成績はその後ぐんぐんと伸びていきました。
しかし実際には子どもを選んだ基準はランダムでありテストの成績は何も関係ありません。
これはすべての子どもを平等に扱うべき教師が「今後成績が伸びる」と期待をかけた子どもに対しては無意識的な助力や特別な働きかけをしてしまう結果です。
たとえ期待が根拠のない情報に基づいたものであっても結果がゆがめられて実際に学力は伸びるのです。
しかし実験者効果はちゃんとした脳の働きによるものです。
脳は相手の行動から期待をくみ取りそれに沿うように自分の行動を変えてしまうことがあるのです。
たとえば自分に部下がいて指導する立場にあったとします。
何かしらのきっかけによってある部下のことを「優秀だ」と思ったとしましょう。
きっかけはなんだっていいわけです。
根拠はどうであれ一度「優秀だ」という印象をもったならばきっと他の部下よりも時間をかけてていねいに指導してその部下はますます優秀になっていくでしょう。
しかしその反面当然そこで生まれたゆがみは他の人にも影響を与えます。
本来であれば優秀であった人もあなたに気に入られなかったばかりに「その他大勢」の1人としてぞんざいに扱われ不平不満が噴出するでしょう。
そしてそのゆがみは最終的にはあなたにも襲いかかってきます。
偏見を持った人間としてあなたの評判をおとしめたり集団内の不和を引き起こしたりするかもしれません。
ですから脳はサイレントでいることを好みそれがマジョリティーとなるのです。
何かしらの主張をすればノイジーと思われ孤立してマイノリティーになってしまう。
それよりは目立たないように群衆の中にまぎれてサイレントマジョリティーでいる方がずっと楽なのです。
“サイレントマジョリティーとノイジーマイノリティーの脳科学”のまとめ
サイレントマジョリティーとノイジーマイノリティーを生み出す仕組みをわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- サイレントマジョリティーは「静かなる多数派」、ノイジーマイノリティーは「声高な少数派」であり対峙する言葉です。
- サイレントマジョリティーとノイジーマイノリティーにとらわれずサイレントマイノリティーの若者から共感を得たのが「うっせぇわ」なのでしょう。
- 脳がサイレントマジョリティーとノイジーマイノリティーを生み出すには「確証バイアス」や「実験者効果」が関わっています。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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