あなたは「倍々に増加していく」を理解して計算できるでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 巧妙なワナである「倍々ゲーム」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
豊臣秀吉もだまされた「倍々ゲーム」
「倍々ゲーム」の脳科
- 2倍ずつ増加する指数関数の増加や、100分率(%)で表された増加を巧みに利用するのが「倍々ゲーム」です。
- 脳は「倍々ゲーム」を直感的に理解することができません。
- 「倍々ゲーム」に騙(だま)されないようにするには、計算機を使うことをお勧めします。
倍倍ゲーム
豊臣秀吉の部下に曽呂利新左衛門という人がいました。
豊臣秀吉から「褒美として何が欲しい?」と言われ、
1日目に米粒を1粒。
2日目にはその倍の2粒。
3日目にはその倍の4粒。
4日目にはその倍の8粒。
それを30日間欲しい。
彼はそのように答えました。
それに対して豊臣秀吉は「そんな程度でいいのか」とすぐさま承諾します。
1日目はたったの1粒であったのが、10日目では512粒、20日目には524,288粒…そして30日目には536,870,912粒になります。
米粒が5億3,600万粒と言われてもピンこないかもしれません。
1日目から30日目までもらえる米粒を合計すると…米俵にしたら450俵になります。
そのように思っている人は少なくないでしょう。
しかし似たような現象は現代社会でも数多く見られます。
巧妙なワナである「倍々ゲーム」
1枚の紙を半分に折ります。
さらに半分に折り、それをさらに半分に折ります。
このようにしてどんどん半分に折り続けます。
この作業を50回続けると、紙の厚さはどれくらいになるでしょうか?
① これから30日間、毎日10万円もらえる。
② これから30日間、次のような割合でお金をもらえます。
1日目は1円、2日目は2円、3日目は4円、4日目は8円…
毎日2倍に増加していきます。
どちらの方がお得でしょうか?
2問目の問題はまさに豊臣秀吉がひっかかった問題です。
最初の問題で用いる紙の厚さは0.1mmとしましょう。
これを50回半分に折り続けると…厚さは1億kmになります。
なんと地球から太陽までの距離の3分の2の長さです。
2番目の問題です。
一見すると①の方が良さそうに思えるかもしれません。
しかし①では300万円しかもらえませんが、②では10億円以上のお金をもらえます。
計算機を使えばこれらの問題は簡単に計算できますし、なんとなく直感でも想像がつくかもしれません。
警察が交通事故についてある発表をしたとしましょう。
「交通事故の件数は毎年7%ずつ増えている」
交通事故はものすごい勢いで増えているのでしょうか?
それともゆるやかに増えているのでしょうか?
それは交通事故が2倍になるまでに要する時間(倍加時間)を計算する方法です。
1%の増加率であった場合は、2倍になるまでの時間を倍加時間の計算式に当てはめて計算するとおよそ70年という数字が算出されます。
これを100分率で表された成長率で割ります。
70年÷7=10年
「交通事故は10年で2倍に増える」
このように言われれば「毎年7%ずつ増える」と言われるよりも理解しやすいのではないでしょうか?
脳は一定の数量で増加する関数を感覚的に理解しています。
つまり「10年で2倍になる」と言われると「結構なスピードで増えているなあ…」と想像できます。
しかし2倍ずつ増加する指数関数と呼ばれるタイプの増加や、100分率(%)で表された増加に対しては感覚的に理解できません。
ではなぜ脳は「倍々ゲーム」を理解できないのでしょうか?
脳はなぜ「倍々ゲーム」を理解できないのか?
脳が「倍々ゲーム」を理解できない理由には人類史が大きく関わっています。
“人類史の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
参考人類の誕生を探る~人類史から偏見と差別の意味を脳科学で探る
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人間の進化の過程において、生活の中で倍々に増加するような状況はありませんでした。
人間の祖先の生活では、大部分が直線的でした。
つまり食糧の採集に2倍時間を費やした人は、2倍の食糧を収穫しました。
動物を1度に2頭仕留めれば、1頭しか仕留められなかった時より2倍の期間食糧を確保できました。
石器時代の人間には、飛躍的な数字に膨れ上がるような場面に出くわす機会がほとんどありませんでした。
そのため脳は「倍々ゲーム」で指数関数的に変動する数字を前にすると思考停止状態となってしまうのです。
「倍々ゲーム」にいかに対処すればよいのか?
ある神話をご紹介しましょう。
あるところに賢(かしこ)い延臣がいました。
延臣は王様にチェス盤を献上しました。
そこで王様は延臣にたずねました。
「褒美をやろう。望みを言いなさい。」
「チェス盤に米粒を盛っていただきたいです。1マス目には米を1粒。2マス目には2粒。3マス目には4粒。順番に2倍の量の米粒を置いていってください。」
王様は驚きました。
「延臣はなんて控(ひか)えめなのだ。その程度の褒美でよいのであればたやすいことだ。」
王様は最終的に延臣にあたえる米粒は1袋程度と考えていました。
しかし実際には世界中で収穫されるよりもたくさんの米が必要だったのです。
たとえば「インフレ率は5%に達する」と聞いて、あなたはどう思うでしょうか?
そのように思うのではないでしょうか?
実際に倍加年数を計算してみましょう。
すると驚くべき結果が算出されます。
なんと14年後には100円の価値が50円になるのです。
預金をしている人にとってはとんでもない数字です。
ある街で登録されている犬の数が毎年10%増加しているとしましょう。
そのように思うのではないでしょうか?
実際には7年後に犬の数は2倍に増加します。
「登録犬数は毎年10%増加」
そのように言われるよりも
「登録犬数は7年後には2倍に増加」
このように言われた方がピンとくるのではないでしょうか?
「倍々ゲーム」を脳で理解することは不可能です。
ですから「倍々ゲーム」で増加の割合を予測する時は、自分の感覚を信じずに計算機を使ってちゃんと計算しましょう。
脳には「倍々ゲーム」を理解する直感力は備わっていません。
“直感の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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「倍々ゲーム」を安易に考えすぎると痛い目に合います。
現代社会にはどのような複雑な計算でも瞬時に計算してくれる優秀な計算機があります。
“「倍々ゲーム」の脳科学”のまとめ
巧妙なワナである「倍々ゲーム」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 2倍ずつ増加する指数関数の増加や、100分率(%)で表された増加を巧みに利用するのが「倍々ゲーム」です。
- 脳は「倍々ゲーム」を直感的に理解することができません。
- 「倍々ゲーム」に騙(だま)されないようにするには、計算機を使うことをお勧めします。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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