なぜ権威や名誉や地位に屈して服従してしまうのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 権威や名誉や地位に屈してしまう「権威のワナ」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
権威や名誉や地位に屈してしまう「権威のワナ」
「権威のワナ」の脳科学
- 脳は本能的に権威や名誉や地位に屈してしまう「権威のワナ」にはまり込んでしまいます。
- 権威や名誉や地位がある人が常に正しいとは限りませんし、信じすぎると自分自身を見失ってしまいます。
- 「クルー・リソース・マネジメント」から「権威のワナ」を取り除く訓練をすることがお勧めです。
- 権威や名誉や地位の前ではあえて自分を主張して、パーソナリティーを確立してみてください。
権威主義
『権威主義』
一般的には、さまざまな社会現象に対して特定の権力と威光とを有するものをよりどころとして、判断し行動をとる意識とパーソナリティーの結合を意味する。
社会科学的には、そのような意識とパーソナリティーとの結合が、「どのような社会に、なぜ」生成するのかという点こそが、この言葉の用いられる重要な根拠である。
「権威主義」の社会的意義は、政治的には民主主義に反対する意味において「非民主的」であり、心理的には合理主義に反対する意味において「非合理的」となります。
このように非民主的で非合理的な意識とパーソナリティーの結合体が典型的に生成してくるのは”ファシズム”の社会であり、あまり深く入り込むと社会思想の問題へと繋がってしまいます。
ですから今回は「権威主義」という言葉は用いずに、「権威のワナ」と表現していきます。
それは「旧約聖書」までさかのぼります。
旧約聖書の中のアダムとイブの逸話は、ざっくりと言えば「神への裏切りと傲慢(ごうまん)」…つまり「偉大な権力に背くとどうなるのか?」という話です。
結末は、皆さんご存じの通り、アダムとイブは楽園から追放されてしまいます。
このことを学者、医師、弁護士、教師、CEO、政治家、専門家などが自分の権威や名誉や地位を悪用して、わたしたちすべての人間に信じ込ませようとしているのです。
権威や名誉や地位に潜む「権威のワナ」の問題点
「旧約聖書」に記されているくらいなのですから、権威や名誉や地位には屈した方が良さそうですよね。
しかし権威がある人には大きな問題が2つあります。
「権威」の問題の1つ目は、「権威や名誉や地位があるからといって間違いをおかさないとは限らない」ことです。
地球上には政治や経済の専門家がざっと100万人はいるでしょう。
しかしそれでも金融危機が起こるタイミングを正確に言い当てる人はほとんどいません。
“専門家の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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医学の世界でも同じことが言えるでしょう。
医者だからといってどんな病気でも治せるわけではありません。
19世紀ころまでは今から考えればかなり怪しい医療がまかり通っていました。
病気になって医者にかかっても、悪化することはあっても治ることなどほとんどありませんでした。
それでも当時の人々は医者の言うことを鵜呑みにして治療を受けていました。
つまり、自分より権威や名誉や地位が“上位”の人間に対しては無条件的かつ被虐的に服従する一方で、自分より“下位”にある人間に対しては全面的かつ加虐的な支配と攻撃の態度をとるわけです。
「権威」の問題の2つ目は、「わたしたちは権威や名誉や地位を信じるがあまり、自分自身で考えなくなってしまう」ことです。
専門家ではない人の意見には慎重になる反面、専門家の意見はなんの躊躇(ちゅうちょ)もなく聞き入れてしまいます。
時には理性や道徳に反するようなことでさえも権威や名誉や地位の前では服従してしまいます。
つまり、自分のパーソナリティーが不在となり、すべての判断の根拠は権威や名誉や地位という自分の外部に存在するようになってしまうのです。
これは1つ目の問題よりもずっと深刻で危険な問題です。
「クルー・リソース・マネジメント」に学べ
脳が権威や名誉や地位に屈してしまうのは、いわば本能であり、ある意味避けがたいことです。
ですから黙っていれば簡単に「権威のワナ」にはまり込んでしまいます。
その見本を示してくれているのが、航空会社で行われている「クルー・リソース・マネジメント」です。
飛行機では機長がミスをおかし、副操縦士がそれに気づいても、権威には逆らえないと黙っていれば重大な事故につながって、多くの命が一瞬のうちに奪われます。
実際に多くの航空事故はこのことが原因で発生しています。
最近ではほぼすべての航空会社の操縦士は「クルー・リソース・マネジメント」と呼ばれる研修を受けるようになっています。
この研修では、矛盾点に気づいたら、率直に、しかも迅速にそれを指摘するような訓練が徹底的に行われます。
いわば権威や名誉や地位を強制的に排除する教育です。
そして現実的には「クルー・リソース・マネジメント」の効果により航空事故はぐんと減っています。
しかし航空会社以外の多くの企業ではこのような研修はあまり行われず、何十年も遅れをとっています。
特に支配的なCEOがいる企業では、ほとんどの従業員が「権威のワナ」にはまり込んで、CEOの言いなりです。
権威や名誉や地位に屈してはいけない
権威や名誉や地位にしがみついている人たちは、自分が何者かを誰からもわかってもらえるようにするために、何らかの方法でそれを知らせようとしています。
多くの専門家たちは“上等なスーツとネクタイ”で自分の権威や名誉や地位を知らせようとします。
本来ネクタイはただの飾りでしかありません。
しかし身につけ方によっては、それなりの仕事をしていることを知らせる効果が生まれます。
医師や研究者は“白衣”、国王は“王冠”、軍隊は“階級章”、スポーツの強豪チームは胸に優勝の数だけ“☆印”…これらは他人に自分の権威や名誉や地位を知らしめる象徴と言えるでしょう。
なにも身なりだけでなく、自分の肩書にやたら長く複雑な職種名を入れたり、テレビやラジオに出演したり著書が刊行されたことをアピールしたりするのも、権威や名誉や地位を知らしめる1つの方法と言えるでしょう。
また時代によって権威や名誉や地位には“流行り”というものが存在します。
ある時代には戦士、またある時代には詩人や作家、といったように時代時代によってミュージシャン、テレビの司会者、ベンチャー企業の創設者などさまざまな肩書の人が権威や名誉や地位を獲得しています。
そして社会はそうした権威や名誉や地位に従おうとします。
時にはある専門分野で優れた知識や技術を持っている人が、それだけの理由で、専門外の分野についてまで世間から信頼されてしまいます。
このような状況は“ハロー効果”と呼ばれます。
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先ほども言いましたが、黙っていれば脳は本能として権威や名誉や地位に屈して「権威のワナ」にはまり込んでしまいます。
ですから権威や名誉や地位の前では、あえて意識的に相手に遠慮せずにどんどん自分の意見をぶつけてみてください。
権威や名誉や地位に批判的であればあるほど、きっと他人の影響を受けにくくなり、自分のパーソナリティーを確立できるでしょう。
そしてより自分を信じられるようになるはずです。
“「権威のワナ」の脳科学”のまとめ
権威や名誉や地位に屈してしまう「権威のワナ」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 脳は本能的に権威や名誉や地位に屈してしまう「権威のワナ」にはまり込んでしまいます。
- 権威や名誉や地位がある人が常に正しいとは限りませんし、信じすぎると自分自身を見失ってしまいます。
- 「クルー・リソース・マネジメント」から「権威のワナ」を取り除く訓練をすることがお勧めです。
- 権威や名誉や地位の前ではあえて自分を主張して、パーソナリティーを確立してみてください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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