日常の脳科学 脳を科学する

「人生は素晴らしい物語」なのか?なんでも物語仕掛けにしようとする脳の不思議を探る

2021-10-07

人生は素晴らしい物語-A1

なんでも物語仕掛けにして「人生は素晴らしい物語」にしようとするのはなぜなのでしょう?

 

そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。

 

このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。

 

基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。

 

この記事を読んでわかることはコレ!

  • なんでも物語仕掛けにしようとする脳の不思議をわかりやすく脳科学で説き明かします。

 

筋書のないドラマなんて存在しない

物語-1-min

「人生は素晴らしい物語」の脳科学

  • 脳は自分の都合のよいようにすべての物事に物語を作り上げていきます。
  • 脳は物事を「筋書のないドラマ」と称して自己満足に浸っているだけにすぎません。
  • 世の中のニュースも広告も脳が作り上げた物語であふれかえっています。
  • 脳が勝手に作り上げた物語に浸るのもよいですが時にはその奥に隠された真実を探して出してみてください。

「身体の各サイズを計ってから服を縫い合わせていくように、人間は自分に合うように物語を作り上げていく」

 

マックス・フリッシュ(スイスの作家)

 

人生は混沌としています。

 

ですから人生はまさに「筋書のないドラマ」なのです。

 

このように表現すると格好よく聞こえるものです。

 

しかし物事はそんなに単純ではありません。

 

複雑にからまった毛糸のかたまりよりもさらに厄介です。

 

たとえば透明の宇宙人がいたとします。

 

宇宙人は透明のメモ帳を片手にあなたのそばにやって来て、あなたがしていること、考えていることなどをすべてメモします。

 

たとえばあなたの生活の観察記録はこんな感じでしょうか…

 

朝なかなか起きれずに何度も目覚まし時計をオフにしている

 

コーヒーを飲む、ちなみに砂糖は2杯

 

画鋲を踏む、世の中を呪う

 

意中の女性とデートする自分を妄想する

 

旅行を予約する、沖縄に行く予定でワクワクする

 

そんな具合にどんどん記録されていきます。

 

脳はこのようなごちゃごちゃと描写されたひとつひとつの出来事をより合わせて人生の物語を作り上げていきます。

 

そして自分の人生をなんとか1本の線でつなげてつじつまを合わせようとします。

 

多くの人はこの線のことを“意味”と呼びます。

 

そして1本の線でつながれた物語が何年にもわたって続いていくと今度はそれを“アイデンティティ”と呼び自慢げに話はじめます。

 

自分のことだけでなくさまざまな物事の歴史に対しても脳は矛盾のないようにつなぎ合わせて物語を作り上げようとします。

 

わたしたちは歴史を1つのつながりとして理解したいのです。

 

たとえば

 

どうして東京オリンピックは1年延期されなければならなかったのか?果たして1年延期して開催したことは成功だったのか?

 

どうして世界的なウイルスの感染拡大はここまで広がりいまだ終息しないのか?

 

どうして鬼滅の刃はここまで人気になったのか?

 

このようなさまざまな物事の原因や理由も“ストーリー”を作ることですんなりと理解できるようになります。

 

どんな物事にも歴史があります。

 

しかし歴史は不確かな事実です。

 

それでも脳は歴史を物語化せずにはいられません。

 

脳がその瞬間ごとに“理解した”ことはそのことが起こった当時は誰も理解していません。

 

なぜなら“意味”はあとからでっちあげられるからです。

 

なぜだかわかりませんが、はっきりしているのは脳は物事を科学的に考えるようになる以前から、世の中についてなんでも物語で説明しようとしていたということです。

 

神話学の歴史は哲学よりも古いとされています。

 

脳は物語を作り上げ、それを誰もが理解しやすいように真実を単純化してしまう癖があります。

 

そして物語にうまくおさまらないことはすべて排除するのです。

 

つまり脳は歴史を美化しようとしてドラマ仕立てにおもしろおかしくしているにすぎないのです。

 

実際には脳は自分の好みで勝手に筋書を作り上げて、あたかも筋書のないドラマのように見立てているだけにすぎません。

 

へなお
そのように考えるとそもそも筋書のないドラマなど世の中に存在しえないのです。

 

ニュースに物語があふれかえっている理由

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特にメディアの世界では脳が勝手に都合よく作り上げた物語が猛威を振るっています。

 

たとえば1台の車が橋を渡っていたところ突然橋が崩落したとします。

 

この事件をメディアはどのように伝えるでしょうか?

 

きっとわたしたちは車を運転していた運の悪い人の話を耳にすることになるでしょう。

 

その人はどこからやって来て、どこに向かっていたのか、さらにはその人がどんな人生を送ってきたのかまでも知ることになります。

 

どこで生まれ、どこで育ち、どんな仕事をしていたのか、どんな人柄だったのか…そんな具合にすべてが明らかにされていきます。

 

その人が九死に一生を得てインタビューに答えられれば、橋が崩落した時どんな気分だったのかを根掘り葉掘り聞かれるでしょう。

 

しかしよく考えてみればこのようなことはとてもばかげていることです。

 

なぜならこれらの話にはどれもまったく意味がないからです。

 

重要なのは運が悪かった「その人」ではなく崩落した「橋の構造」です。

 

つまり橋のどこに問題があったのか、資材の老朽化か、すでに壊れかけていたのか、それともそもそもの建築方法に問題があったのか…

 

しかし本来重要な意味を持つこのような問いかけはすべてを集めても1つの物語にまとめられることはできません。

 

わたしたちの脳が求めているのは「物語」であり、筋書のないドラマです。

 

脳は物語には魅了されるのに「物事の本質」をとらえるような事実からは目を背けたがります。

 

“身元の分かる犠牲者効果の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。

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つまり真に重要なことはさほど重要でないことのせいでその価値を引き下げられてしまうのです。

 

そしてそれがいつの日か災いとなって降りかかってきます。

 

さらに言えばその災いさえも脳は筋書のないドラマとしてストーリー化したがるのです。

 

最後に付け加えておくと、脳が物語を好むことは何も悪いことばかりではありません。

 

逆に幸運なことでもあります。

 

なぜなら脳が本質的な事実だけにしか目を向けなければ世の中は実用書だけの世界になり小説のようなわくわくしたりドキドキしたりするストーリーは存在しなくなってしまうからです。

 

広告に物語があふれかえっている理由

物語-3-min

ある国の国王が亡くなり、そして王妃も亡くなったという事実があったとしましょう。

 

この事実を伝えるとしてあなたはどちらの話をより簡単に覚えることができるでしょうか?

 

国王が死去し、それから王妃も亡くなった。

 

国王が死去し、王妃も悲しみに暮れてこの世を去った。

 

きっと多くの人は後者の話の方を選ぶでしょう。

 

その理由はストーリー性にあります。

 

後者の場合は2つの死が単に続いたのではなく感情で結びつけられて物語になっています。

 

前者は事実の記録ですが、後者にはちゃんとした意味があります。

 

一見すると事実の記録の方が簡単に記憶できそうですが脳はそうは理解しないのです。

 

へなお
そう考えると広告に物語があふれかえっている理由もわかるはずです。

 

「商品の利点だけを合理的に並べただけ」の広告よりも「商品をからめたストーリー性のある」広告の方が脳にとってはインパクトがあり効果的なのです。

 

“広告の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。

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テレビのコマーシャルを見ていればよくわかるはずです。

 

多くのコマーシャルは物語仕立てになっていてストーリーがちゃんと存在します。

 

中にはストーリーが連続ものになっていてまるでドラマのようなコマーシャルさえあります。

 

冷静になって観察してみると広告やコマーシャルにおける物語はあくまでも付属的なものにすぎず決して重要ではないはずです。

 

しかしわたしたちの脳はそうは考えません。

 

脳は物語を欲しているのです。

 

へなお
このことを見事に証明したのがGoogleです。

 

2010年2月7日 アメリカのマイアミで開催されたアメリカンフットボールの全米チャンピオンを決めるスーパーボール中継で流されたGoogleのコマーシャル「Parisian Love(パリの恋人)」を見たことがあるでしょうか?

 

低予算と思われるコマーシャルですが「とても印象的で心が温まる」と大好評でした。

 

まずは見てみてください。

 

 

これを見ていただければなんでも物語仕掛けにしようとする脳の不思議さをご理解いただけるのではないでしょうか。

 

「人生は素晴らしい物語」に惑わされるな

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自分の人生の記録から世界的な大事件にいたるまで、すべては「意味のある」物語に仕立て上げられています。

 

その結果として真実はゆがめられてしまいます。

 

そしてそのことがわたしたちの判断力や決断力を鈍らせています。

 

“判断力の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。

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「人生は素晴らしい物語」なのかもしれません。

 

しかしそれは脳が勝手に作り上げた虚像でしかないのです。

 

へなお
ではどうしたら物語でゆがめられた真実を知ることができるのでしょうか?

 

それにはまずは物語をバラバラに解体してみることです。

 

「物語に隠されているものは何か?」を自分に問いかけてみてください。

 

ためしに自分自身の記録をひとつひとつ個別に観察してみてください。

 

すると自分がいかに別々の話を結びつけて無理やり物語を作ろうとしているかに驚くはずです。

 

へなお
「人生は素晴らしい物語」…そんな甘い言葉に惑わされないでくださいね。

 

 

“「人生は素晴らしい物語」の脳科学”のまとめ

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なんでも物語仕掛けにしようとする脳の不思議をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。

今回のまとめ

  • 脳は自分の都合のよいようにすべての物事に物語を作り上げていきます。
  • 脳は物事を「筋書のないドラマ」と称して自己満足に浸っているだけにすぎません。
  • 世の中のニュースも広告も脳が作り上げた物語であふれかえっています。
  • 脳が勝手に作り上げた物語に浸るのもよいですが時にはその奥に隠された真実を探して出してみてください。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

 

今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。

 

最後にポチっとよろしくお願いします。

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  • この記事を書いた人

へなお

▶脳神経外科専門医でアラフィフおじさんの「へなお」です。▶日々脳の手術、血管内治療、放射線治療を中心に某総合病院で勤務医をしています▶一般の方でも脳についてわかりやすく理解していただけるように、あなたのまわりのありふれた日常を長年の経験からつちかった情報をもとに脳科学で探っていきます▶多くの方に脳に興味をもっていただき、少しでもこれからの生活の役に立つ知識をつけていただければと思います!

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