あなたは忍耐力を鍛えて退屈な時間をしのぐことができますか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い手術、放射線治療を中心に勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきますね。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 退屈が脳に及ぼす影響について脳科学で説き明かします。
あなたは退屈の苦痛に耐えられる?
退屈の脳科学
- 退屈であることは脳にとって苦痛です。
- ヒトの脳はそもそも外界と繋がっていないことに耐えられないようにできています。
- しかし時には脳を退屈にさせて休息させてあげることも大切です。
- 退屈かどうかはあなたの脳の受け止め方次第です。
- どうしても退屈が耐えられない人は忍耐力を鍛えてみてください。
- 現状をしっかりと見据えて我慢することの理由と利点を理解できれば忍耐力は確実に身に付きます。
- 退屈を嫌うだけではなく退屈時間に自分自身の脳を見つめ直してみませんか。
仕事や勉強や家事や育児に忙殺されているとふと我に返った時に
なんて思うことありますよね。
それがもっとエスカレートすると
なんて自暴自棄になることだってありますよね。
そんなことを言っているときっとこんな忠告を受けるでしょう。
退屈に対する脳の反応を調べた研究をご紹介しましょう。
Wilson TD, et al, Science 345(6192):75-77. doi: 10.1126/science.1250830, 2014
研究はいたってシンプルなデザインです。
小部屋で何もせずにぼーっと過ごしてもらい反応を観察します。
部屋はがらんどうで飾り1つありません。
もちろん本やテレビや携帯電話もありません。
そんな部屋で約15分程度過ごした後に「何もしない経験」がどうであったか感想を聞きます。
仕事も勉強も家事も育児も何もせずにすごすなんてなんとも幸せそうに感じますよね。
しかし実際には
という回答がほとんどでした。
あれこれと思考が散乱し考える内容はもちろんのこと考えるという行為自体に集中できなかったようです。
部屋の中には集中力を落とすような刺激や誘惑が一切なかったにもかかわらず集中できないのですからヒトの心は何とも不思議なものです。
ちなみにこの傾向は年齢や性別に関係なく見られる現象です。
退屈の脳科学-その1
ほとんどのヒトの脳は退屈の苦痛に耐えられないのです。
退屈であることはどのくらい苦痛なのか?
退屈であることは脳にとって苦痛である。
そのことはわかりました。
では退屈は脳にとってどのくらい苦痛なのでしょうか?
なんと部屋に電気ショックの装置を設置します。
この装置はボタンを押すと体に電気がびりびりと流れる仕組みになっています。
とても痛いですし不快です。
この電気ショックによる不快感と退屈による不快感を比べようというのです。
実験を行う前に実際に参加者に電気ショックを体験してもらいます。
参加者は全員電気ショックを「とても不快な刺激だった」と答えます。
しかも75%の人は「二度と電気ショックを受けたくない。もう一度電気ショックを受けるくらいならお金を払った方がマシ」とまで言い切りました。
部屋に15分滞在してもらったところ約40%の人が自ら進んで電気ショックのボタンを押したのです。
つまり退屈の苦痛は電気ショックの不快感を凌駕するほどだったのです。
何もすることがないくらいなら苦痛を受けるイベントでもあった方がまだマシというのです。
この傾向は男性の方が強く男性の約70%が電気ショックのボタンを押しました。
しかもボタンを2回以上押した人もいて平均1.5回という結果でした。
退屈の脳科学-その2
ヒトの脳はなにか外界と繋がるようにそもそもデザインされています。
たとえ一人でいる時でも脳の焦点は現実社会に向けられていて自分の殻だけに閉じこもっていることに耐えきれません。
ヒトは部屋に閉じこもって退屈な時間を過ごすよりも外に飛び出して世界を散策し外界からの刺激を常に求めているのです。
退屈は脳にとって大切な時間?
ここまでは「退屈であることは脳にとって苦痛である」ことを説明してきました。
脳を休ませてリフレッシュするには退屈であることが大切だ。
とする意見もあります。
脳を働かせるのではなく退屈することで逆にクリエイティビティが高まると言うのです。
退屈することは創造性を育むのに役立ちます。
多くの科学者や芸術家は考えるのをやめた時に刺激的なアイデアが浮かんだり複雑な問題を解決したりしています。
退屈な時間の脳の働きは「洞察」と呼ばれます。
洞察とはあれやこれや考えるのではなく冷静になって物事の本質を見抜くことです。
脳の中で問題を段階的に解決する場合と洞察によって問題を解決する場合では脳活動のパターンが異なります。
ですから時に退屈になることで脳が休まり逆にそれまで考えてもみなかった創造的なアイデアが浮かびやすくなるです。
テレビや携帯電話に目を奪われていては一向に脳は休めません。
脳を休めるために退屈しなければならないのです。
それは高い予測可能性と単調なパターンにあります。
つまりこれから経験する行動や体験が簡単に予測できてさらに毎回同じパターンであればあるほど脳は退屈するのです。
結果のわかった単純作業などはもってこいです。
そして退屈することで脳はしばしの間休むことができるのです。
脳が休憩するとそれまで固執してきた問題からいったん脳が解放されて自由になれます。
そして思考が柔軟になることで意識的に考えていたのでは得られない発想やアイデアが浮かんでくるのです。
ですから自分で退屈できる場所や時間を持つことはとても大切なのです。
それはきっと退屈をあなたの脳がどう受け止めているかに委ねられているのかもしれません。
脳は確かに時々リフレッシュしないと効果的な活動が続けられません。
しかし脳は同じ繰り返しよりは常に違うことをすることを求めています。
新しいことは脳にとってとても刺激的で快感です。
脳を刺激し続けると時には
なんて言う人がいます。
しかし脳科学的には脳が疲れることなどありません。
脳が疲労を感じるのであればそれは次から次へとやってくる課題に脳が取り組み続けている証拠です。
退屈の脳科学-その3
単純な同じ作業をすることに没頭して脳が退屈している状態にしてあげれば脳はしばしの休息を得ることができます。
退屈を脳の休息時間ととらえることができれば退屈も脳にとっては決して悪いものではないのかもしれません。
忍耐力を鍛えて退屈を克服せよ
では最後は退屈な時間に脳と体を休ませることができない人のために忍耐力の鍛え方を探ってみましょう。
退屈な時間を楽しむことができるのであればそれに越したしたことはありません。
しかし退屈な時間を苦痛と感じるのであれば退屈を耐えるしかありません。
それには忍耐力が必要です。
“忍耐の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
こちらもCHECK
調理することの意味を脳科学で探る~忍耐と逆算の思考が生み出す美学
ヒトが調理するのはなんでなの? そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。 このブログでは脳神経外科医として20年…多くの脳の病気と向き合い勤務医として働 ...
続きを見る
マシュマロテストとはマシュマロなどのお菓子を用意して「15分間食べるのを我慢したらもう1個もらえる」と言って1人で耐え忍ぶことができるかのテストです。
重要な点は何もない部屋に1人残すことです。
手持ち無沙汰で退屈な状況の中目の前のマシュマロを食べずにがまんできたら合格です。
なんて思う人もいるかもしれません。
4歳の時点で合格できる子供は30%程度と言われています。
その30%の合格者は大人になっても好ましい人生を送る傾向があることが証明されているのです。
実際に合格した子供をその後何十年にもわたって追跡調査すると
薬物や賭け事への依存が少ない…短絡的な誘惑に負けない
肥満が少ない…ここで食べたら後で大変なことになると将来を見通して我慢できる
学校の試験の点数が高い…遊びたい気持ちをおさえて自ら勉学に励むことができる
出世が早い…自制心の高い人は仕事ができ人間として信頼される
そんな特徴があることが示されています。
いずれも自分の衝動や欲望を適切に抑え込む忍耐力が根底にあります。
たかだか4歳の子供に行ったテストでここまで将来を予見できるなんて信じられないかもしれませんがマシュマロテストの信頼性は極めて高く発達心理学の分野ではとても有名なテストなのです。
このテストからわかることは幼少時に獲得する「自制心」は生涯にわたって利いてくるということです。
マシュマロテストでは「目の前の快楽」と「将来の利益」を比較して将来の利益が大きいと判断した場合に自制心を発揮できるかどうかが問われています。
たとえば将来が30秒先であったら今の1個のマシュマロを我慢して30秒後にもらえる2個のマシュマロの方が価値が高いと考える人が多いでしょう。
しかしその将来が20年先であったらどうでしょうか?
きっと多くの人は今の1個を選ぶはずです。
このように待つ時間が長くなればなるほど将来の価値が変わっていく関数を「双極割引」と言います。
双極割引の率が低いほど…つまり未来の自分に投資できるヒトほど「忍耐力が高い」ということになります。
ではどうしたら目の前のマシュマロを食べずに我慢できるようになるのでしょうか?
生まれながらにして忍耐強い人もいるでしょう。
しかし大多数の人にとっては自制心を適切に働かせるためには訓練が必要です。
言い換えれば忍耐力は学習できるのです。
とお思いでしょう。
しかしこれがなかなか難しいのです。
マシュマロから目をそらすあるいは机の下に隠すなどちょっとした工夫をするだけでマシュマロを見ないようにすることは可能です。
しかしなかなか1人では気づきません。
こんな単純なことでも人は欲望の前では無力になるのです。
本人が気付けないのであれば周りの人が教えてあげればよいのです。
この一言がどれだけの救いになるでしょうか。
わたしたちが教わるべきものはこうした知恵です。
このような生活の知恵は自分自身の経験や他人の経験や教育やメディアなどを通じて学び取ることができます。
退屈の脳科学-その4
忍耐力は持って生まれた正確というよりも周囲が直接的であれ間接的でありていねいに知恵を授けてきたかどうかにかかっているのです。
では忍耐力を鍛えると退屈を克服できるのでしょうか?
忍耐力を支える基礎力は現状を察して考える能力です。
退屈の脳科学-その5
簡単に言えば忍耐力とは現在の状況をしっかり理解してそこから繋がる未来を見据えたしっかりとした考察を行うことに他なりません。
忍耐とはただやみくもに我慢することではありません。
我慢することのそれなりの理由と利点をしっかりと理解することが何よりも大切です。
そしてその理由と利点を自分で他人に説明できるようにならなければ忍耐力がついたとは言えません。
目の前のマシュマロに飛びつくのではなくここでマシュマロを我慢することで未来にはマシュマロが増えて美味しい思いをすることができることを自分で理解するだけでなく他人にも伝えてあげるのです。
そのためには自分にも他人にも常に「オープン・クエスチョン」のスタイルでいることが大切です。
オープン・クエスチョンとは「はい」や「いいえ」では答えられない質問のことです。
これはクローズド・クエスチョンで「はい」や「いいえ」でしか答えられない質問です。
オープン・クエスチョンでは
そんな単純な質問でも答えるためにはそれなりの理由と利点が求められます。
この単純な作業をひたすら繰り返すことで忍耐力は確実に身に付きます。
そのようなクローズド・クエスチョンではなく
オープン・クエスチョンで自分自身や他人に問いかけてみてください。
あなたの脳には確実に忍耐力のみならず理解力や対処力が身についているに違いありません。
なにも特別な訓練など必要ないのです。
ちょっとした心がけを続けることさえできれば退屈な時間もきっと輝いて見えてくるかもしれません。
“退屈の脳科学“のまとめ
退屈が脳に及ぼす影響について脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 退屈であることは脳にとって苦痛です。
- ヒトの脳はそもそも外界と繋がっていないことに耐えられないようにできています。
- しかし時には脳を退屈にさせて休息させてあげることも大切です。
- 退屈かどうかはあなたの脳の受け止め方次第です。
- どうしても退屈が耐えられない人は忍耐力を鍛えてみてください。
- 現状をしっかりと見据えて我慢することの理由と利点を理解できれば忍耐力は確実に身に付きます。
- 退屈を嫌うだけではなく退屈時間に自分自身の脳を見つめ直してみませんか。
今回の記事がみなさんに少しでもお役に立てれば幸いです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も『脳の病気』、『脳の治療』、『脳の科学』について現場に長年勤めた脳神経外科医の視点で皆さんに情報を提供していきます。
最後にポチっとよろしくお願いします。