選択肢が多くなればなるほどなぜいいものを選べなくなるのでしょうか?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 選択肢のワナである「選択のパラドックス」の意味についてわかりやすく脳科学で説き明かします。
選択肢の落とし穴
選択のパラドックスの脳科学
- 「選択のパラドックス」とは選択肢が多くなればなるほどいいものを選べなくなり不幸を招くという現象です。
- 脳で「選択のパラドックス」が起こると選ぶことをやめてしまう、誤った決断をしてしまう、不満を感じてしまうといった現象が起こります。
- 「選択のパラドックス」から抜け出すには選択肢を3つに絞ってまずまずの選択で満足することが有効です。
なにかを選ぶ時に選択肢が多い方がいろいろ選べていいように感じてしまいますよね。
多くの人の希望を満たすなら選択肢はできる限り多い方が好ましいと考えるのが普通でしょう。
選択肢が多くなればなるほどいいものを選べなくなるのです。
それどころか選択肢が多すぎるとかえって不幸を招くことさえあります。
この現象を「選択のパラドックス」と呼びます。
たとえばマンションを購入したとしましょう。
そのマンションはまだ内装が完全には完成していない状態です。
自分で好きなようにアレンジをすることが可能です。
たとえば浴室の床の素材1つをとっても陶器、御影石、大理石、金属、模造石、木、ガラス…あらゆる素材がよりどりみどりです。
一見すると選択肢の幅が広くて自由に選べて良さそうに思えてしまいます。
しかし多くの中から1つだけを選ぶことはとても難しい作業です。
他人に相談すればするほどさまざまな意見が飛び交い言い争いにもつながりかねません。
近くのスーパーマーケットに出かけてみるともっとよくわかります。
あるスーパーマーケットにはヨーグルトが50種類、赤ワインが100種類、洗剤が60種類…などなど全部で3万種類もの商品が売られています。
通販サイトのAmazonでは200万種類もの商品が購入できます。
現代社会では何千種類もの異なる職業があり、何千種類もの休暇の行き先があり、計り知れない多彩なライフスタイルを好きなように選ぶことができます。
電話は通話のみの機能であったはずがいつの間にかスマホ1台あれば何百、何千もの作業ができるようになりました。
そもそもスマホを買いに行けばあまりの機種の多さ、機能の豊富さ、契約内容の複雑さに窒息しそうになります。
しかし選択肢の幅の広さは人類の発展のバロメーターでもあります。
自由な選択は石器時代には存在しなかったことです。
本来「選択肢が多いこと」はわたしたちの生活を幸せにしてくれるはずでした。
しかし現代社会では選択肢の多さが限界を超えています。
選択が限界に達すると余分なものがあることで生活の質が逆に落ちてきます。
それでは「選択のパラドックス」の意味を脳科学で探っていきましょう。
選択のパラドックスとは?
「選択のパラドックス」とは選択肢が多すぎるとかえって心理的な負担が増えて不幸になるという現象です。
選択のパラドックスはアメリカの心理学者でありバリー・シュワルツ氏が著書「なぜ選ぶたびに後悔するのか―オプション過剰時代の賢い選択術」の中で提唱しています。
わたしたちは毎日たくさんの選択をしています。
たくさんの選択肢があることはそれだけ自由があるということであり決して悪いことではありません。
しかし選択肢の多さは決して良いことばかりでなく悪い面も持ち合わせています。
それは膨大な選択肢を与えられると脳は選択できなくなることです。
選択が困難になると選択をすること自体を放棄してしまうことさえあります。
また膨大な選択肢の中から1つを選ぶよりも少ない選択肢から選んだ方が脳の満足度は高くなるとされています。
選択肢が多いと自分の選択に自信を持ちにくく、さらに結果的に選んだものがあまり満足のいくものでなかった場合には、
そのような後悔を抱きやすくなります。
また選択肢が膨大になると
そのような期待が生まれます。
この期待値の高さが逆に満足度を低下させる原因にもなります。
つまり膨大な選択肢の中から選択すると後悔しやすいということです。
選択のパラドックスはなぜ起こる?
「選択肢が多ければ多いほど脳は不幸を感じやすくなってしまう」という選択のパラドックスはなぜ起こるのでしょうか?
その理由は主に3つあるとされています。
選ぶことをやめてしまう(=選ぶのが大変)
誤った決断を下してしまう(=選択に後悔が生じる)
不満を感じてしまう(=選択に疑念が生じる)
それではそれぞれについて解き明かしていきましょう。
選ぶことをやめてしまう
選択肢が多ければ多いほど脳は不幸を感じやすくなる第1の理由は「選択肢が多すぎると選ぶことをやめてしまう」からです。
あるスーパーマーケットでジャムを24種類陳列して客に割引クーポン券を配り自由に試食してもらいます。
翌日同じスーパーマーケットで試食のジャムを6種類に減らして同じ実験を行いました。
どちらの場合も購入できるジャムは24種類です。
結果はどうだったでしょうか?
なんと6種類しか試食しなかった日の方が売り上げが10倍になったのです。
なぜこのようなことが起きたのでしょう?
客は品数が多くなると決断できなくなり、その結果何も買わなくなるのです。
実験の詳しい内容についてはこちらを読んでみてください。
選択肢が多いと良さそうに思えてしまいますが、実際はその逆で選択肢が多いと脳は「選ぶのが大変」と感じ無力感から選ぶことをやめてしまうのです。
誤った決断を下してしまう
選択肢が多ければ多いほど脳は不幸を感じやすくなる第2の理由は「選択肢が多すぎると誤った決断を下してしまう」からです。
そんな質問をすると誰もがきっと立派な性格を並べたてるでしょう。
賢い、礼儀正しい、優しい、心が温かい、聞き上手、楽しい、面白い…
中には肉体的な魅力をあげる人もいるでしょう。
しかし実際にパートナーを選ぶ際にこれらの条件はちゃんと考慮されているでしょうか?
昔は男性と女性はそれぞれ同じ程度の人数がいて子どものころからお互いのことをよく知っていたので相手がどういう人物かをそれなりに判断できていました。
しかしインターネットの出会い系サイトを利用してパートナーを見つけるような現代社会においては候補となる異性は何百、何千、何万人といます。
選択肢の多さを自慢げにうたっているサイトも少なくはありません。
しかし逆に脳は選択肢の多さに大きなストレスを感じそれまでにたくさん挙げていた条件をあっさり忘れてしまいたった1つの条件に絞り込んでしまいます。
“見た目の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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これは脳科学の実験でも証明されています。
このような選び方をするとどうなるか…結末はおわかりでしょう。
選択肢が多すぎるがゆえに自分の決断に対して後悔が生まれてしまいます。
そして結果として自分の選択に対する満足度は下がってしまうのです。
不満を感じてしまう
選択肢が多ければ多いほど脳は不幸を感じやすくなる第3の理由は「選択肢が多すぎると不満を感じてしまう」からです。
たとえば靴を買いに行ったとしましょう。
何百種類もある商品の中から自分に合った完璧なものを選ぶことは至難の業です。
きっと答えは「確信などもてるはずがない…」となるでしょう。
選択肢が多ければ多いほど正しいものを選んだかどうかに自信がもてなくなり不満を覚えるようになります。
このような状況に対して脳はどのように反応するでしょう?
選択肢が多すぎるがゆえに自分の決断に対して疑念が生まれます。
そして自分自身が満足していない理由を考え誰の責任かを問い始めます。
その答えは
となります。
目の前にある選択肢をあれこれ吟味する前にまず自分が望んでいることをよく考えることです。
そして選ぶポイントを書き出してその条件を満たしたものを手に入れるようにすることです。
それから忘れてはならないのは「完璧なものなど選ぶことはできない」と考えることです。
最高のものを追求するのは大量の選択肢を前にしては理屈に合わない完璧主義でしかありません。
究極の選択肢である松竹梅の法則
最後は「選択のパラドックス」から抜け出す方法をご紹介しましょう。
それは選択肢を3つに絞ることです。
脳は3つまでであれば数をしっかりと認識することができます。
しかし4つ以上になるととたんに反応が鈍くなります。
“購買心理の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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みなさんも松竹梅は聞いたことがあると思います。
たとえば鰻(うなぎ)を食べに行った際に
松 5000円
竹 3000円
梅 1500円
このようなお品書きを見たことがあるでしょう。
多くの人はきっと真ん中の「竹」を選ぶのではないでしょうか?
このように「3段階の選択肢があった場合多くの人は真ん中のモノを選ぶ」という現象を「松竹梅の法則」といいます。
ある実験では「松=2、竹=5、梅=3」の割合で選択すると示しています。
この現象は行動経済学では「妥協効果」や「極端の回避性」と呼ばれています。
脳では「安いモノよりは高いモノの方が良いはず」という思い込みが働きます。
しかし最も高いモノに対しては「ちょっと贅沢だしもし失敗したら損失が大きい」と敬遠しがちになります。
一方で一番安いモノに対しては「ケチだと思われたくない」という見栄が働きます。
ですから売る方ももっとも多く売りたい商品を真ん中の価格に設定することが多いとされています。
そのような意味でも真ん中の「竹」を選ぶのがベストな選択と言えるでしょう。
4つになると途端に「選択のパラドックス」が働き多くの人は「買わない」という選択をする可能性が高くなると言われています。
目の前に多くの選択肢があった場合はとにかく選択肢を3つまで絞り込むことです。
そして「松竹梅」の中から真ん中のモノを選択をすればきっと満足できる選択ができるはずです。
それでも後から振り返ってみると決して完璧な選択とは思えないかもしれません。
しかし完璧な選択でなくてもよいのです。
そもそも無制限に選べる現代社会において完璧な選択などあり得ないでしょう。
“選択のパラドックスの脳科学”のまとめ
選択肢のワナである「選択のパラドックス」の意味についてわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 「選択のパラドックス」とは選択肢が多くなればなるほどいいものを選べなくなり不幸を招くという現象です。
- 脳で「選択のパラドックス」が起こると選ぶことをやめてしまう、誤った決断をしてしまう、不満を感じてしまうといった現象が起こります。
- 「選択のパラドックス」から抜け出すには選択肢を3つに絞ってまずまずの選択で満足することが有効です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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