時間と労力をかけたものを過大評価してしまうのはなぜなのでしょう?
そのような疑問に脳神経外科専門医であるへなおがお答えします。
このブログでは脳神経外科医として20年以上多くの脳の病気と向き合い勤務医として働いてきた視点から、日常の様々なことを脳科学で解き明かし解説していきます。
基本的な知識についてはネット検索すれば数多く見つかると思いますので、ここでは自分の実際の経験をもとになるべく簡単な言葉で説明していきます。
この記事を読んでわかることはコレ!
- 「努力の正当化」を生み出す「認知的不協和理論」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かします。
時間と労力をかけたものは正しいに決まってる
「認知的不協和理論」の脳科学
- 自分の思考と行動の矛盾から生じる不快感を解消するために、つじつま合わせをしようとする脳の働きを「認知的不協和理論」と呼びます。
- 特に時間と労力をかけて手に入れたものには、その価値を過大評価する「努力の正当化」が働きます。
- 時間と労力を費やした時には「認知的不協和理論」にはまり込んでいないか、客観的に「結果」を確認してみてください。
認知的不協和
『認知的不協和』 (にんちてきふきょうわ)
(英語表記)cognitive dissonance
個体がある事柄について矛盾した、相反する認知もしくは知識をもっている状態をさす。
一般にこのような認知的不協和にある個体では,不快や心的緊張が高まり、その結果この不一致を低減させるための行動を生じさせる傾向をもつとされる。
レオン・フェスティンガー氏により提出された用語で、彼は主としてこの概念を基礎に種々の社会行動を理解しようとして、認知的不協和理論を提唱した。
そのような人でも日常茶飯事、「認知不協和」に悩まされて生きているはずです。
「ダイエットをして痩せたい」という考えと、「ついつい食べてしまう」という状態は明らかに矛盾しています。
そのような状態を脳はとても不快に感じます。
脳はこの不快な状況を乗り切るために
「今日はいつも以上に動き回ってたくさん歩いてカロリーを消費したからから、いつもよりも多めに食べても大丈夫」
このような考えに切り替えるのです。
そうすれば先ほどの矛盾は解消されて不快感は薄らぎます。
こうした「認知不協和」の解消による行動の正当化は、日常頻繁起きています。
そのように考えると脳は不快な気持ちになります。
つまり認知不協和が生じています。
そこで脳は考えを切り替えます。
このように考えればきっとつらいダイエットもがんばれるでしょう。
自分の考えと行動が矛盾した時に感じる不安…つまり「認知不協和」を解消するために、自分の考えを変更することにより行動を「正当化」する現象を「認知不協和理論」と呼びます。
わたしたちの日常生活に起こる多くのことは「認知不協和理論」に縛(しば)られています。
無意識のうちに行われる「努力の正当化」
自分の思考と行動の矛盾から生じる不快感、つまり「認知不協和」を解消するため、「つじつま合わせ」をしようとする人間の心理的傾向が「認知的不協和理論」です。
どのような組織でもメンバーになるにはたいてい入会金が必要です。
入会金をわざわざ払うという「入会のための儀式」に労力をかけることで、グループに加われたという“ありがたみ”を感じるのです。
そのような人の脳では「タバコを吸うことでストレス解消になる」や「タバコを吸う人同士のコミュニケーションが大切」、だから「タバコはやめられない」という認知の変換が起きています。
こうして矛盾を解消するのです。
「認知不協和理論」は、時間と労力という自分にとってはある意味余計な努力をすることで手に入れたものです。
脳はそのように努力をしてわざわざ手に入れたものの価値を過大評価しようとします。
これを「努力の正当化」と呼びます。
たとえば錆(さび)ついたハーレーダビッドソンを持っていたとしましょう。
ハーレーダビッドソンは熱狂的な愛好者の多い人気のオートバイです。
かつては定期的に手入れしていましたが、今ではすっかり錆ついてしまったハーレーダビッドソンを、なんとかきれいに磨き上げて修復しようと考えました。
うまくいけば高値で売れるかもしれません。
休日は朝から晩までハーレーダビッドソンを修復することに専念しました。
さんざん苦労した挙句、ようやくハーレーダビッドソンはピカピカに輝き、重低音のエンジン音を響かせる本来の姿に戻りました。
さっそくバイク専門店に持っていき売ろうとしました。
しかし店から提示された金額は自分の予想していた金額をはるかに下回っていました。
あなたは知らず知らずのうちに「認知不協和」にはまり込み、時間と労力をかけて修復したハーレーダビッドソンの価値を過大評価するようになっていたのです。
つまりあなたの脳の中では。ありきたりのものを、あたかも神聖なものであるかのように仕立て上げていたのです。
“努力の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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この一連の「努力の正当化」はすべて無意識のうちに行われます。
時間と労力を費やした時はご注意を
「認知不協和理論」では、時間と労力を費やすことで生じた不快感が大きければ大きいほど、それが解消された時に得られる快感や自己満足感が大きくなる傾向があります。
たとえば希望する学校に入学するためには、難しい入学試験に合格する必要があります。
そのために休み返上で、睡眠時間をけずって勉強するわけです。
その勉強がたとえ将来自分の役にたとうがたたまいが関係ありません。
難しい数式を使いこなせるようになっても、それが将来自分の人生に必要なものかどうかはわかりません。
“数学”の脳科学についてはこちらの記事もご参照ください。
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しかしそんなことはどうでもよいことです。
とにかく入学試験という不快なものをなんとかクリアすればよいのです。
入学試験のために多大な労力を費やせば費やすほど、合格した時の喜びは大きくなるのです。
数学の難しい数式を「このようなものは勉強しても将来何の役にも立たない…」という人がいますが、このような人は「認知不協和」にはまり込むほどの勉強をしていない人と言えるでしょう。
試験のための勉強に時間と労力をかければかけるほど、希望する学校に合格することの価値は高まるのです。
店頭に並んだマフラーよりも手編みのマフラーの方が価値があるはずである。
高級なお弁当よりも手作りの料理の方が美味しいはずである。
組み上げられたどんな高価な家具よりも、自分で組み立てた家具の方が価値があるように感じてしまうのは「IKEA効果」と呼ばれますが、これも「認知不協和理論」による「努力の正当化」の影響です。
“IKEA効果の脳科学”についてはこちらの記事もご参照ください。
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たとえばインスタント製品は簡単に調理できすぎるとあまり売れません。
調理の仕方を意図的に少し複雑にして、卵を入れてかき混ぜなければならないとか、野菜をいためて加えなければならないなどの、多少の手間が加わってこそ価値が上がるとされています。
つまり、「すべておまかせで誰にでも調理できる」よりも「多少の時間と労力が必要」の方が、脳は自尊心を保つことができるようになり商品価値も上がるわけです。
客観的に見れば、インスタント製品に手間がかかっては、本来のインスタントの意味が薄れてしまいます。
ですから時間と労力を費やした時には「認知不協和理論」にはまり込んでいないか注意することが必要です。
時間と労力をかけたからといって、必ずしもそれが正しい結果を導き出すとは限りません。
脳が「認知不協和理論」にはまり込んでいないか確認するには、一歩引いて導き出された「結果」だけを確認してみてください。
そのような小説はひょっとしたらまったくの駄作なのかもしれません。
その人はあなたに好意を寄せてくれている別の人よりも、本当に素敵な人なのでしょうか?
“「認知的不協和理論」の脳科学”のまとめ
努力の正当化を生み出す「認知的不協和理論」の意味をわかりやすく脳科学で説き明かしてみました。
今回のまとめ
- 自分の思考と行動の矛盾から生じる不快感を解消するために、つじつま合わせをしようとする脳の働きを「認知的不協和理論」と呼びます。
- 特に時間と労力をかけて手に入れたものには、その価値を過大評価する「努力の正当化」が働きます。
- 時間と労力を費やした時には「認知的不協和理論」にはまり込んでいないか、客観的に「結果」を確認してみてください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今後も長年勤めてきた脳神経外科医の視点からあなたのまわりのありふれた日常を脳科学で探り皆さんに情報を提供していきます。
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